IS - M・od   作:阪本葵

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第55話 僕たちも結構忙しいんですよ

 

 

「ゼクスファクターってすごいんだね…ハイパーセンサーですら全然見えなかったよ…まさか遅れて認識するなんて…」

 

シャルル君は先ほどの風神槍をみて唖然としていた。

実際風神槍は肉眼では捕らえることはできないほど速い。

シャルル君の言うとおり、ISのハイパーセンサーですら認識が遅れるほどだ。

だからこそ僕はリミッターを付けているんだけど、最近そのリミッターが甘くなっている気がする。

なんというか、リミッターを付けていてもその力が抑えきれていない感じだ。

 

『それは、ガイが確実に終極因使の力を使いこなせてきているという証だ。完璧に力を使いこなした状態で枷

リミッター

を解除し風神槍を使ってみろ、空気を突き破った衝撃波で相手”あいえす”は攻撃を受ける前に粉微塵だ』

 

イヅナちゃんが僕の考えていることに答えてくれた…けど…

…まじっすか?

 

「…僕はまだまだ終極因使の力を使いこなしていないからねー」

 

「あ…あれで不完全なの!?」

 

「うん、イヅナちゃんがそう言ってる」

 

「……」

 

シャルル君は目を点にポカーンとしてる。

うん、わかるよ。

僕もこの非常識に呆れるよ。

 

「…き、今日はもうあがろっか。そろそろアリーナの閉館時間だしね」

 

シャルル君は気を取り直してそう言った。

ああ、もうそんな時間か。

 

「おう、銃ありがとな。参考になった」

 

「いいよ。じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

シャルル君はいつも僕達と一緒に着替えようとはしない。

今のところ誘っても全て断られている。

 

部屋でもそうだ。

僕がシャワーを浴び終えてバスルームから出ると、シャルル君はいつも注意してくる。

 

「な、なんでパンツ一丁なの!?ちゃんと服着てよ!」

 

「え?だって暑いし。男同士だし気にしなくてもいいじゃない」

 

「気にするよ!イヅナちゃんがいるんだよ!」

 

「我は一向にかまわん。そんなガイの下着ごときで目くじら立てるな」

 

「…で、でも…」

 

「さあイヅナちゃん、髪と尻尾を乾かそうかー」

 

「うむ!」

 

「…はあ…もう!」

 

とまあ、こんな感じでシャルル君は僕の下着姿やパン一(パンツ一丁)を見るとすごく慌てて顔を逸らす。

なんであんなに怒るかなあ?

なんかお母さんみたいだよ、シャルル君。

お母さん知らないけど。

ちなみにシャルル君はシャワーを浴び終えると脱衣所で全て着て出てくる。

そういう几帳面な性格だから、僕みたいなずぼらは気に入らないのだろうか?

まあ、親しき仲にも礼儀ありだよね。

とにかく、これからは気をつけよう。

 

「たまには一緒に着替えようぜ」

 

「い、イヤ」

 

一夏がシャルル君にそんな提案をする。

まあ一夏の気持ちもわからなくはない。

コレはいわゆるスキンシップ、裸の付きあいというものだ。

男は3人しかいないから、絆を深めたいという願いからなんだけど、シャルル君は頑なに拒む。

その嫌がり方は柄の悪い男に絡まれる女の子みたいだ。

 

「つれないことを言うなよ」

 

「な、なんで一夏はそんなに僕と着替えたがるの?」

 

シャルル君はそんなことを言う。

理由は親睦を深めるためなんだけど…

 

「シャルルはなんで俺達と着替えるのを嫌がるんだ?」

 

質問に質問で返す一夏。

ほら、シャルル君が困ってるじゃないか。

 

「一夏、本人が嫌がることを強制しちゃだめだよー」

 

「でもよ…」

 

僕は一夏の腕を引っ張り小声で言う。

 

「シャルル君はスモールなんだよ。心に深い傷を負ってるんだよ。見られるのが嫌なんだよ、わかるでしょ?」

 

「…あ、そうか」

 

一夏はシャルル君を憐憫の眼差しを向けた。

 

「ご、ごめんシャルル、俺、デリカシーがなかったな」

 

「…すごく不本意で理不尽な納得のされ方した気がするけど…うん、わかってくれたなら…でも…納得できないなあ…」

 

シャルル君は納得できないという顔で、そして一夏と僕を白い目で見ていた。

 

「一夏って…まさかまさかとは思ってたけど、本当にソッチ系…!?」

 

「非生産的ですわね。でも、凱さんを巻き込んだら…!」

 

「モモンガー、一夏を元の健全な男に…いや、だめだ、モモンガーでは悪化する…!ど、どうすれば…」

 

三人が言いたい放題だけど、もう突っ込まないぞ。

ていうか、一夏の誤解ってもう解けないんじゃないか?

 

 

「はー、風呂に入りてー…」

 

更衣室で着替え終わるなり一夏が愚痴をこぼす。

学園では寮の部屋それぞれにシャワーがあるだけでなく大浴場があり、スケジュール調整を山田先生がしてくれたんだけど、男が入ることに女子から反発があった。

 

『男子が後に入るなんてどういう風に使ったらいいのか分かりません!』

 

とか言われたそうだ。

じゃあ先に入れば問題がないのかと言えば、そうでもない。

 

『男子が入った後なんてどういう風に使ったらいいんですか!』

 

とのことだ。

理不尽だ。

男の肩身は狭い…

 

女子の気持ちは分からないでもないけど、一夏はもとより、僕もイヅナちゃんも風呂は恋しい。

イヅナちゃんは女の子だから大浴場に行けばいいのに、僕に気を使って行こうとしないし、不満も漏らさない。

健気な子、イヅナちゃん!

 

でも、足を伸ばして湯船に浸かりたいなあ…

100まで数えたいなあ…

 

現在山田先生が男子三人ということでタイムテーブルを組んでくれているらしい。

本当、お手数おかけします。

 

「あのー、織斑君、百瀬君、デュノア君いますかー?」

 

扉の外から声が聞こえた。

これは山田先生だ。

 

「はい?えーと、織斑とモモンガーだけいます」

 

「入っても大丈夫ですかー?着替え中だったりしますー?」

 

なんか遠くに呼びかけるように語尾を延ばす山田先生。

そんなに遠く聞こえにくいと思ってるのかな?

 

「大丈夫です。着替えは済んでます」

 

「そうですかー。失礼しますねー」

 

プシュッと空気の抜ける音がして山田先生が入ってくる。

相変わらずこの扉の開く音はかっこいいな!

 

「どうしたんですか?」

 

「ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯別にすると問題が起こりそうなので、男子は週二回使用日を設けることになりました」

 

「本当ですか!やったぜモモンガー!嬉しいです。助かります。有難うございます、山田先生!!」

 

「い、いえ、仕事ですから…」

 

「いえいえ、それでもうれしいですよー。ありがとうございますー」

 

一夏が山田先生の手を握ってこれでもかと礼を言っている。

対して山田先生はいきなり異性に手を握られたのが驚いたのか顔が若干赤い。

僕は横でニコニコと笑い、一夏と山田先生を見ていた。

 

「はぅ…あ、あの百瀬君?お願いがあるんだけど…」

 

突然山田先生が目をきょろきょろとさせて言う。

何だろうか?

 

「…あ、頭、撫でていいですか?」

 

何故僕の頭を撫でたいのかわからないけど、別に断る理由もないから了承する。

すると、山田先生は一夏に握られていた手をものすごい速度で振り払い僕の頭に恐る恐る手を置く。

 

「ふわぁ…もふもふですぅ…」

 

ゆっくり撫でる感じで僕も気持ちいい。

思わず目を細めてしまう。

 

「はぅっ!そ、そんな気持ちよさそうな顔されると…ものすごくキュンキュンしちゃいます…お持ち帰りしたくなっちゃいます…で、でも百瀬君は私の生徒!ダメダメ!そんな禁断の関係…でも…いいかも…」

 

…山田先生はよくわからない言葉をぶつぶつつぶやくが、撫でるのをやめない。

 

「…凱、一夏、何してるの?先に戻っててって言ったよね?」

 

すると、シャルル君が更衣室に入って来た。

表情はそのままなんだけど、その言葉に刺を感じる。

山田先生は慌てて僕の頭をなでるのをやめた。

気持ちよかったのになー。

 

「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

 

「そう」

 

僕達の朗報に対してもそっけない返事のシャルル君。

なんか機嫌悪そうだな…

あんな態度のシャルル君はじめて見た。

一夏が山田先生と仲良くしてるのが気に入らないんだろうか?

 

「あっ、そうだ忘れるところでした。もう一つ要件があったんです。織斑君は職員室まで来てもらえますか?白式の―――」

 

「あー、モモ君やっほー!」

 

山田先生が一夏に何かを伝えているところに、山田先生の後ろからまた声がした。

モモ君…

このあだ名を言う人物と言えば…

 

「自主練ごくろうさまでーす!」

 

「あら、紅炎寺さん?」

 

山田先生が意外といった顔で後ろの人物を見ていた。

そこには、三年の紅炎寺カリン先輩が右手をあげ敬礼していた。

相変わらず人懐っこそうな、でも大人の色香を漂わせる雰囲気のカリン先輩。

…あれ、山田先生が子供に見えてきた…

 

「あー、カリン先輩ー。どうしたんですかー?」

 

僕はカリン先輩の突然の登場に首を傾げる。

カリン先輩と仲良くはなったけど、やはり一年と三年では何かと付き合いにくい。

食堂も違うし、教室も離れている。当然寮の部屋も離れてる。

それにお互いの都合なんかや、カリン先輩の立場を考えるとなかなか一緒にいられないのだ。

せっかくの因使仲間なんだからもっと一緒にいて、一緒に練習したいんだけどなー。

 

「あらあらー、相変わらずモコモコのくせっ毛ねー」

 

紅炎寺先輩はうれしそうに僕の頭を撫でる。

ああ、気持ち良いなあ。

カリン先輩の手はしっとりして冷たいからなー。

山田先生、そんな羨ましそうな顔しないで下さいよ。

さっきまで撫でてたじゃないですか。

 

「凱…その人誰?」

 

シャルル君がすごく不機嫌そうな顔でカリン先輩を見ている。

ああ、そんな失礼だよシャルル君。

 

「モモンガー、まさかその人…三年の紅炎寺先輩か?」

 

「あれ、一夏知ってるの?」

 

意外だ。

一夏がカリン先輩のことを知ってるなんて。

 

「知ってるも何も、紅炎寺先輩って日本の代表候補だろ?たしかクラスの女子が先輩の写真見ながらそう言ってた」

 

「…あ、もしかしてこの人が『お姉さま』?」

 

シャルル君も知ってる『お姉さま』ことカリン先輩。

そう、カリン先輩は下級生に慕われている。

 

それに敬意を評し、『お姉さま』『カリン様』と呼ばれている。

カリン様って呼び名はなんか高い塔に住む白い猫を想像させるな…

カリン先輩自身は今まで人との係わりを避けるように”一匹狼”のような学園生活を送っていたんだけど、その孤高なところが女子の人気を呼び、さらに織斑先生がなにかとカリン先輩に気をかけているところを何度か目撃され、

 

『カリン様と千冬お姉さまって仲いいのね』

 

『織斑先生に認められる人なんだ…』

 

『新しいお姉さま!?』

 

という経緯でお姉さまと呼ばれるようになったそうな。

 

「モモンガーって紅炎寺先輩と知り合いだったのか」

 

一夏が驚いている。

そういえば一夏達には言ってなかったっけ?

というか、人付き合いを拒むカリン先輩が僕に対しこれほど人懐っこくしていることに驚いているのだろう。

まあ、最近はそういう寄せ付けないオーラなんかは霧散してるんだけどね。

そして、カリン先輩は一夏を見つけるや、ジーっと一夏の顔を見つめていた。

 

「あ、あの、な、何か?」

 

品定めされるような視線に、居心地悪そうな感じの一夏。

若干顔が赤いぞ一夏。

まあ、カリン先輩みたいな美人さんに見つめられたらそりゃドキドキするよね!

すると、カリン先輩はニコッと笑い言った。

 

「ふーん、君が千冬さんの弟君かー」

 

「え?は、はい」

 

「うんうん、君はまだまだだねー。せいぜい男を磨けよ、青年!」

 

カリン先輩はそう言って一夏の頭をピンと軽くデコピンした。

そして今度はシャルル君を見るや、少し驚いた顔をするとすぐににんまりと笑った。

 

「君も”いろいろ大変”だろうけど、頑張りなさい」

 

「!!」

 

なんか含みのある言い方をするカリン先輩。

シャルル君はびっくりしている。

 

「ところで紅炎寺さん、ここになにか用があるんじゃないんですか?」

 

山田先生がカリン先輩に言う。

なんか山田先生カリン先輩を睨んでる?

ああ、カリン先輩は山田先生より大人っぽいもんなあ。

教師としての威厳が損なわれるとでも思っているのだろう。

 

「ああ、そうだった。ねえモモ君、新しいクラブを立ち上げるためにこれから会議をしよう。うんそれがいい。そうしよう!」

 

そう言って僕の手を引くカリン先輩。

強引だなあ…

 

「山田先生、俺の用件は?」

 

「あ、そうでした。これから職員室まで来てもらえますか?白式の登録に関する書類を書いてもらうので」

 

一夏も山田先生に言われた用件が途中だったのを思い出し、山田先生も用件を伝える。

 

「わかりました」

 

「さあモモ君、私達も行こう!」

 

ああ、そんなに腕を絡めないで!

カリン先輩のスイカが…!

ああ…極楽!

 

「こらー!だからガイに軽々しく触るなー!」

 

イヅナちゃんも怒ってるし、少し距離をおいてほしいな…

 

「わ、わかりました。じゃあシャルル君、ちょっと長くなりそうだから先にシャワーを浴びててくれていいよー」

 

「う、うん。わかった」

 

なんかポカーンと生返事をするシャルル君が印象的だった。

 

 

さて、カリン先輩と新しいクラブを立ち上げる話し合いをすることになったんだけど、その道すがら、カリン先輩のルームメイトさんが現れた。

そして、ぷんぷん怒り言った。

 

「もうカリン!いいかげんアンタの散らかしたあのガラクタ片付けてよ!」

 

「ガラクタじゃないわよ。選りすぐりの通販グッズよ」

 

「どうでもいいわよそんなこと!とにかく片付けて!!今日中に片付けないなら寮長に言うからね!!」

 

「げっ、それは勘弁」

 

というわけで、話し合いをする前に部屋を片付けることになった。

何故か僕も手伝わされそうになったんだけど、そこはカリン先輩のルームメイトさんが却下を出した。

 

「あんた一人で片付けなさい」

 

「志津香の鬼ー」

 

で、話し合いは中止になり、僕とイヅナちゃんは一年の寮へ向かう。

 

「はー、カリン先輩ってずぼらなんだねー」

 

「ふむ、どことなく千冬と似ているとは思っていたが、あんなダメなところも似るとはな」

 

「まあいいや。部屋でお茶でも飲もうかー」

 

「うむ!」

 

僕は部屋に戻り、緑茶の用意をしようと台所へ向かうとシャワールームから水の音がした。

ああ、シャルル君がシャワーを浴びてるのか。

 

…あ、そういえば。

 

「あー、そういや昨日シャルル君がボディーソープが切れてたって言ってたなー。新しいのを出しておかないと困ってるよねー」

 

普段は僕が先にシャワーを浴びるから、昨日シャルル君に言われても今日補充すればいいと思っていた。

だから今ボディーソープは昨日のままのハズだ。

僕はクローゼットから新品のボディーソープを出してシャワー室と隣接する洗面所に入っていく。

それを見たイヅナちゃんがあせり始めた。

 

「あ、おいガイ!待て!!」

 

イヅナちゃんが僕を止めようとする。

そんなにお茶が飲みたいのかな?

でも、困ってるシャルル君にボディーソープを渡すのが先だよ。

 

僕は洗面所からシャワールームに声をかける。

すると、シャワールームの扉が開いた。

 

「おーい、シャル…ル…君?」

 

シャルル君?

…なんか…

括ってる髪を下ろすと女の子みたいだね。

肌も白いし、細いし、胸もあるし…

 

 

………

 

………胸?

 

「が、が…い?」

 

僕はポカーンと口を開けてシャルル君を見ていた。

 

「………!?」

 

そしてこの状況をまずいと思ったシャルル君は体を手で隠す。

 

「きゃあっ!?」

 

バタンッ!

女の子みたいな声を出してシャワールームの扉を閉めるシャルル君。

…とりあえす…まあ…

 

「えーと、ボディーソープ…ここに置いとくからー…」

 

「う、うん…」

 

…なんか頭の中が整理できない…

 

「…はあ…」

 

僕の後ろではイヅナちゃんが頭を抱えてため息をついていた。

 

 

 

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