IS - M・od   作:阪本葵

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第57話 真の優しさとは、過ちを赦し、相手を信じて待つ事

 

 

「シャルル・デュノアよ、貴様の父親は本当に貴様を道具としか思っておらんのか?」

 

今まで黙っていたイヅナちゃんがシャルル君に話しかける。

 

「…どういうこと?」

 

シャルル君はイヅナちゃんの言いたい事がわからないのか、首をかしげる。

イヅナちゃんはたぶん僕と同じ考えのはずだ。

僕の変わりに代弁してくれてるんだ。

だから、僕は黙って聞いている。

 

「人間は親がいなければ子供は生まれない。それは自然の摂理であり絶対だ。しかし、親が子供に何をしてもいいということはない。逆もまた然り、生き方を選ぶ権利は誰にでもある。貴様の父が野心を抱くのもよかろう。だが、果たしてその野心で貴様を道具として思っているのか?」

 

「…何が言いたいの?」

 

シャルル君は眉をひそめる。

でもイヅナちゃんはそれを無視して話し続ける。

 

「自社宣伝の広告塔、たしかにその側面はあるだろうが、だがそれでも我は貴様の父が貴様を完全に道具扱いしているとは思えん」

 

うん、そうだ。

僕もそう思うよ。

その、確証はないんだけど…

 

「そもそも、貴様は世界で三番目に”あいえす適正”がある男だというふれこみだが、貴様が”あいえす学園”に転入する前、世間では貴様の存在なぞ一言も取り沙汰されていなかったぞ」

 

「そ、それは、3番目だから、もう話題にならなかったんじゃ…」

 

「いいや、地球の全人口六十億の中の三人目だ。単純計算で二十億分の一だぞ。騒がない方がおかしいだろう。一夏やガイのときはお祭り騒ぎのように喧しかったぞ」

 

「あーそうだったねー」

 

IS学園は外界から遮断されており、外からの情報が入りにくい。

テレビや新聞はあるが、つまりIS学園に入る情報とはそういう”世間で公表されている情報のみ”だ。

それ以外の、自国や自社と連絡や報告を取りより密な情報を得ることも可能だが、それにもいろいろ制限がある。

 

そういえば休日に家に帰っていた一夏も、外から”3人目の男のIS適正者”という、そんな情報を取得していなかった。

クラスの女の子達も知らなかった。

つまり、世間では公表していなかったのだ。

だから、シャルル君が転入してきたときは驚いたのだ。

 

「そこで矛盾が出てくる。自社宣伝の広告塔として祭り上げられたのに、この学園に来るまで何故貴様の存在が世間で公表されていない?」

 

「…そ、それは…」

 

シャルル君はそこまで深く考えていなかったのだろう、矛盾に何も言えず俯く。

そして、ここでイヅナちゃんがとんでもないことを言い出した。

 

「それに、先ほど貴様はデュノア社にガイを引き抜くためだとも言ったな?もし貴様の父がガイを本気で自社に引き抜こうとするなら、男装させて近付くなどという回りくどいやり方などせず、直接的に肉体関係にでも持ち込み既成事実を作ればいいのだ」

 

「に、肉体…!?」

 

少し、というか大分刺激の強い言い方に、シャルル君は顔を赤くする。

…シャルル君があのボディで僕に迫ってくる…

 

…ありだな!!

たぶん僕はすんなり受け入れるぞ!

それが思春期真っ盛りの青少年のあるべき姿じゃないかな!!

 

「何を驚く?実際どことは言わないが、ガイと既成事実に持ち込み、自社もしくは自国に引き込もうとする動きはあった。まあ、我と千冬で未然に防いでいたがな」

 

「う…うそ…」

 

「世界を動かす人間と言うのは、自分の利益になる使える駒は容赦なく使う。例えそれが肉親であってもな」

 

それは知らんかった…

僕はそんな危険な立場にいたとは…

イヅナちゃんと千冬さんは僕に悟られないように動いてくれていたのだ。

 

…ありがとう、イヅナちゃん、千冬さん。

 

「貴様は器量良しだ。それに加えお淑やかだし男受けはいいだろう。貴様が女の姿で自然に近付けば一夏なんぞはイチコロだろうて。あやつの周囲の女は我が強い女しかおらんし、貴様のような大和撫子を体現したような女子は男にとって理想像だからな」

 

「…そ、そう?」

 

イヅナちゃんがシャルル君の容姿を褒め、それが嬉しいのか照れるシャルル君。

うん、シャルル君はかわいいよ。

可憐だね!

 

「あ、ガイには我が指一本触れさせんがな!」

 

「あ…うん…」

 

うーん、イヅナちゃんには敵わないなあ。

イヅナちゃんと結婚したら、たぶん浮気とか出来ないな。

 

「それはそれとしてだ、そういう女の武器を使わせないというのは、親の愛だと思わんか?」

 

「そ、そんなこと…」

 

「貴様と会話や接触が少なかったのも、お互いに変な情がうつらないように、とは考えられんか?」

 

「…良いように考えすぎだよ」

 

うーん、シャルル君はどうもマイナス思考に考えすぎなようだ。

そんな人を悪く考えたら人生楽しくないだろうに。

 

「シャルル君のお父さんは、シャルル君のお母さんを愛したからシャルル君が生まれたんだよね?」

 

「…」

 

「そんな愛してた女性との間に生まれたシャルル君を愛してないはずがないよ。それに人は間違いを起こすのが当たり前だし、それですれ違い争いが起こることもある。でも、それをどう赦すか、それが大切なんだよ。」

 

僕には親がいない。

いや、知らないと言ったほうが正しいか。

親子がどうあるべきなのかわからないし、知らない。

だから、シャルル君のお父さんが実際どう思っているのか、推測しかできない。

 

でも…

人間の在り方はわかるつもりだ。

すれ違いや勘違いなんかで争い、憎みあうなんて悲しすぎる。

それをお互い歩み寄り、理解しあい、赦すのが大切なんだ。

そうすれば―――

 

「悪いこと考えているより、良いこと考えて生きてるほうが世界は輝いて見えるよー!」

 

僕は両手を広げてにぱーっと笑う。

 

そう、世界は理不尽なのかもしれない。

残酷なのかもしれない。

でも、そんな酷いことばかりじゃないのが世界だ。

だから、人は幸せのために生きるんだ。

 

「『真の優しさとは、過ちを赦し、相手を信じて待つ事』…か。ふふ、ガイよ本当にお前は大きな男だな」

 

「?何その言葉?」

 

「我の世界の有名な言葉だ」

 

イヅナちゃんはふふふと笑い、なんかお母さんが子供を見るような目で僕を見る。

ああ、これがお母さんか…

…そうなのか?

 

「…凱は強いね…」

 

シャルル君は笑っていた。

先ほどまでの自虐的なものではなく、いつものさわやかな、癒しを感じる笑顔で。

 

うん、それでこそシャルル君だよ!

 

 

「それで、シャルル君はこれからどうするの?」

 

「どうするもなにも…僕には選ぶ権利がないから、さっき言ったとおり牢屋行きかな。仕方がないよ」

 

そう言って見せたシャルルの微笑みは、先ほどとは打って変わって痛々しいものだった。

選ぶ権利、か。

シャルル君は控えめな性格だからそういう風に悲観しがちだ。

なら、僕が道を示そう。

 

「大丈夫じゃないかな」

 

「え?」

 

「IS学園特記事項”本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする”」

 

まさか、たまたま暇で生徒手帳に乗っていた規則を読んでいたのがここで役立つとは。

 

「―――つまり、この学園にいれば、少なくとも三年間は大丈夫だよ。その間になにか良い案が出るかもしれないし、情勢が変わってるかもしれない。それに、シャルル君ほどの優秀なIS操縦者を簡単に手放すなんて政府がしないよ」

 

最終手段として、僕がデュノア社に行けばなんとかできるだろう。

僕がそこまで一気に言うと、シャルル君はパチクリと目を開き僕を見ていた。

 

「凱」

 

「なに?」

 

「よく覚えられたね。特記事項って55個もあるのに」

 

「暇なときに生徒手帳見てたからね。僕記憶力だけはいいんだー」

 

えっへんと胸を張る僕を見て、シャルル君はくすくす笑う。

 

「ふふっ、そうなんだ」

 

シャルル君が笑ってる。

その表情には屈託が無くて、とても綺麗で、年相応の十五歳の女の子そのものだった。

 

(ああ、シャルル君…改めて女の子だと意識すると…綺麗な子だよなあ…)

 

改めて見ると、シャルル君はイヅナちゃんが言ったとおり顔立ちが良く、何よりふんわりとした優しい雰囲気がある。

そのせいなのか余計可愛く見えて、その無防備さに僕の心臓の鼓動が早くなってドキドキと聞こえるかと思うくらいだ。

 

「最終的に決めるのはシャルル君だから、僕はこれ以上言わない。でも、僕は君の味方だから。もし、シャルル君の邪魔をしてくる人がいたら、僕とイヅナちゃんが追っ払うからね!シャルル君は僕が護るよ!!」

 

「うむ、乗りかかった船だ、仕方あるまい」

 

「…うん。そうするよ。…ねえ凱」

 

僕は胸のドキドキを誤魔化すように目を逸らしていたんだけど、いつの間にかシャルル君が僕と距離を詰めて顔をのぞきこんでいた。

 

「な、なに?」

 

「ありがとう、凱」

 

おおう、その天使のような笑顔は反則ですよー!

僕、もう辛抱たまらんですばーい!!

そ、それに、その…覗き込むような体勢だから、ジャージの襟元から胸の谷間が見えて…

セシリアさんほどではないけど、なかなか大きい…

やわらかそう…

揉んだら気持ちよさそう…

 

…はっ!?

いかんいかん!

そんないやらしい目でルームメイトを見てはいかん!!

 

それに気のせいかイヅナちゃんからの圧力がだんだんきつくなってきたし…

 

「シャ、シャルル君?と、とりあえず、離れてくれないかなー?」

 

「?」

 

「そのー、胸元が…ね」

 

僕に指摘されて、シャルル君はかぁっと頬を赤らめ隠すよう腕を組む。

 

「が、凱、もしかして僕の胸…見たいの?」

 

それはシャルル君のちょっとした悪戯のつもりだったのかもしれない。

そんな大胆な質問されたら、正直に答えるしかないじゃないか!

 

「え!?見ていいの!?」

 

「………」

 

僕の返答がまたまた予想外だったのか、シャルル君はポカーンとして、変な沈黙が流れた。

 

やがてシャルル君は頬を赤く染めながら悪戯っぽく笑っていた。

 

「…凱のえっち」

 

「そうですけどなにか?」

 

「うわ、開き直った!?」

 

そりゃ、僕も思春期真っ盛りの青少年男子!

見たくないと言えば嘘だ。

というか土下座しておっぱい見せてくれるなら喜んでするね!!

 

たとえシャルル君がいま白い目で僕を見ていたとしても、その信念は曲げられない!!

 

 

…あ、そうだ。

 

「ごめんね。シャルル君」

 

「え、何が?」

 

僕はこの数日間の出来事を思い出してしまい、シャルル君に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

その理由がわからないのか、シャルル君は首を傾げる。

 

「…女の子なのに…スモールとか言っちゃって…」

 

「………っ!?」

 

途端、シャルル君の顔がぼっと音がするくらい赤くなった。

 

「僕、てっきり前居た学校でスモールだから虐められてトラウマになってると思ってたんだ。だから、僕と一夏で少しでも心の傷を癒してあげようと自信を持てるようにいろいろしてきたんだー」

 

「な、なにそのくだらない設定!?」

 

馬鹿を見るような目をしながらも、顔は真っ赤なシャルル君。

いやいや、高校男子にとって死活問題ですよ!

 

「一夏と一緒にエッチな本とかビデオを無理やり見せたり…」

 

「………はぅぅっ!」

 

思い出したのか、顔を手で隠し俯くシャルル君。

 

「イロイロ男のロマン妄想談義を目の前で繰り広げて…」

 

「言わないでー!も、もういいから!!思い出したくないの!!」

 

きゃーきゃーと喚きながら僕の肩を掴みぐわんぐわん揺らされる。

ああ、また脳がシェイクされる~~

 

「…ご、ごめんね…」

 

「言わないでーーーっ!!」

 

シャルル君は目に涙を浮かべながらすごい力で僕を揺する。

 

ああ、気持ち悪くなってきた…

 

 

吐く…

 

 

「…はあ…」

 

混沌とした空間で、大人の女であるイヅナちゃんの呆れたようなため息が聞こえた。

 

 

うぷ、吐く…

 

 

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