コンコン
僕とシャルル君のシリアスな会話がひと段落したとき、まるで待っていましたかというタイミングでノックされる。
「おーいモモンガー、シャルルー、飯行こうぜー」
それは一夏だった。
ドア越しから聴こえてきた声に僕らは焦った。
今のシャルル君は男装するためのコルセットをしていないため、鈍い一夏でも女性とばれてしまう。
「ま、まずい!」
「えっと、えっと」
そしてシャルル君は、なにを考えているのか何故かクローゼットに入ろうとする。
「なぜクローゼットに入る!?布団、寝床に入れ!ガイはシャルルに布団をかけてやれ!」
「あ、そうか!」
「う、うん!」
僕とシャルル君はイヅナちゃんの指示に従い、シャルル君は布団にもぐりこみ僕は掛け布団をかけてやる。
そして、間一髪、一夏がドアを開ける。
「おーい、寝てるのかーって…どうかしたのか?」
一夏は布団にもぐってるシャルル君と、それに覆いかぶさるような体勢の僕を見て首を傾げる。
「おお一夏か。実はなシャルルが少々体調が優れないそうでな、我とガイで看病していたのだぞ」
おお、ナイスイヅナちゃん!!
「う、うん、ごほっ、ごほっ」
シャルル君がそれに合わせて咳をしれくれた。
ナイスアドリブ。
けどダイコンだね、シャルル君。
「そうなのか、大丈夫かシャルル?」
一夏は心配そうな顔をしてシャルル君に近付こうとする。
「心配するな一夏。おお、そういえば夕餉の誘いではなかったのか?ガイよ、シャルルは我が看病しておく故、一夏と行って来るがいい」
「うん、僕のことは気にしないで、どうぞ…」
イヅナちゃんはこういうアクシデントに強いなー。
こうも冷静に対応できるとは。
まあ実際はシャルル君は元気なわけだし、イヅナちゃんとシャルル君には悪いけど行かせてもらうとしよう。
「それじゃあ悪いけど行かせてもらうよ。シャルル君、イヅナちゃん、食事もらってくるから、後でね」
「あ、う、うん」
そしてそう言って僕と一夏は廊下に出た。
すると、そこには何故かセシリアさんがいた。
本当はセシリアさんが僕を夕食の誘いに行こうとしてたらしいが、一夏が自分が呼んでくるとと言って今に至るわけだ。
セシリアさんはニコニコしてる。
そんなにお腹が空いてたのだろうか?
僕は空気を読める人間なのであえてそこには触れないが。
「さあ凱さん、行きましょうか」
そう言って僕の腕に抱き付くセシリアさん。。
おおう、僕の腕にあのご立派なおっぱいが当たってるよ!
身長が違うから、若干僕の肩付近にのしかかる形だけど、僕は神経を肩に集中してセシリアさんのおっぱいの感触を堪能する!!
ふふふ、これでしばらくオカズには困らないな!
え?何のおかずかって?そんなもの秘密に決まってるだろ!!
そうして、嬉しそうなセシリアさんとなぜか悔しそうな顔の一夏の三人で食堂を目指していると、そこに箒さんが登場。
「遅いな一夏。私はもう食べてしまって…ん、何をしている?」
「あら、箒さんではありませんか、私達は今から一緒に夕食を取るつもりでしてよ」
なぜか一緒にと言うところを強調して言っているように聴こえるがここはスルーで行こう。
「モ、モモンガーと腕を組みをしてか?…大胆だな…」
「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然の礼儀ではありませんこと?」
そうなのか。
僕は腕を組んでエスコートするなんて、そんな礼儀など知らないけど。
あ、一夏も知らんかった…とか呟いてる。
「………!!一夏!私が食堂で待っていたと言うのにどういうことだ!」
僕と腕を組んでいるセシリアさんを羨ましそうに見ていた箒さんは、何か思いついたのか、なんかアピールし始めた。
セシリアさんみたいに約束するとかすればその言い分は通るけど、なんか理不尽だなー。
「それでは箒さん、私たちはこれで」
軽く目を伏せ優雅に微笑むセシリアさん。
そんな余裕な態度に、箒さんの何かが刺激されたのだろうか、悔しそうな顔をしている。
まあ、コレは仕方ない。
箒さんはもう食事を済ませたみたいだし、無理に誘うのも良くないしね。
「ま、待て。ちょ、丁度いい、私もこれから夕食にしようと思っていたのだ。」
あれ、食べたんじゃないの?
「…箒さん。さすがに四食は体重の増大を加速させますわよ?」
「ふん、その分運動すれば良いことだろうが。それに丁度よく実家のからこれが送られてきたからな」
そう言い袋から出すのは、普段ならそこに竹刀やら木刀が入っているのだけど今回は刀、真剣だった。
「へえ、真剣かー。…それもしかして
「あ、ああ、よくわかったなモモンガー。そうこれこそが名匠、明動陽晩年の作、
うん自慢したくなるのもわかるよ。
その剣から発せられる空気は明らかに
「うん、イヅナちゃんも持ってるからね明動陽の刀。鍔の拵えがね似てるから、もしかしたらって思って」
「本当か!?こ、今度イヅナに見せてもらえるよう頼んでくれないか?」
「いいよー」
箒さんは目をキラキラさせる。
刀マニアだったのか箒さん。
なんとも危ない趣味だ。
確か明動陽は奥さんが女剣士であったため、結婚以降はそれまでの刀剣作りの一切を捨て、飛騨山中に移り住み、『女のための刀』を作り続けたとか。
『女が男を倒す』
それは柔よく剛を制すの精神に近く、刀匠としての生涯をかけてのテーマだったらしい。
もちろん、その発端は奥さんとの出会いなのだろう。
そんな明動陽が最後に至った結論は二つ。
『けして受けることなく剣戟を流し、また己が身に密着して放つ必殺の閃き』
『相手より速く抜き放ち、その一太刀を以て必殺とする最速の瞬き』
箒さんが持っているのは後者―――つまり、刀身が細く長くされた日本刀で、その鞘もまた通常のものより長い。
しかし、これが不思議なことに短い刀より速く抜けるのだ。
たしか、理屈は鞘のすべりと身体の円運動、そして踏み込みだったかな?
しかし真剣…いいのかな法治国家日本。
ああそうか、このIS学園は法律上でも国際上でも『どこの国でもない土地』だった。
怖いよ、IS学園。
「で、では、それでは行くとしようか?」
そして真剣を袋に納めると一夏の横に来て腕を組む。
そしてセシリアさんに対抗するように密着する。
ああ、いいなあ…あのおっぱい…
そう思って見ていると、セシリアさんから鋭い視線が飛んできた。
「凱さん?どうして羨ましそうな顔をしていますの?」
そういいつつギューッと組む腕に力を入れるセシリアさん。
おおう、そんなに密着したら、おっぱいがお餅のように…!
「…ああ…い、いやぁ…ごめんなさい…」
僕の鼻の下が伸びまくる!!
「…まったく、殿方はチョロイですわね」
そんなつぶやきが聞こえたが、おっぱいに抗える男はそうはいないぞ!!
いるとしたらそいつは別属性だ!!
尻とか、太腿とか、うなじとか!!
「なにあのダブルデート的な空気」
「幼馴染ってずるい」
「専用機持ちってずるい」
ほら、遠巻きに見てる人もあれこれ言ってるし。
まあ、皆さん箒さんとセシリアさんにあこがれの眼差しを向けているのけど。
すると、一夏はため息をついた。
ああ、こういうときの一夏はろくなことを言わないぞ。
「あのだな」
「なんだ?」
「歩きにくい」
一夏がそう言うと、箒さんはギューっと一夏の腕を捻り上げた。
「この状況で他に言うことがないのか…」
「自らの幸福を自覚しないものは犬にも劣りますわよ?ね、凱さん?」
うん、全く以てその通り。
だから、僕はセシリアさんを無言でエスコートするのだ!!
さて、ご飯も食べ終わったんだけど、一夏が疲れたような顔で部屋に入っていった。
一夏からすると箒さんのあの態度は食事の邪魔以外の何物でもないと思っていただろうから。
早く箒さんの気持ちに気付いてほしいもんだ。
僕は普通に食べた。
セシリアさんは基本食事中会話をしない。
なんでもマナーに反するそうだ。
いいとこのお嬢様は色々大変そうだ。
まあそれよりも早くシャルル君とイヅナちゃんにご飯を届けないとね。
「ただいまー」
「あ、おかえりー」
シャルル君は既にベットから降りている状態で俺のことを待ってくれていた。
どうやらイヅナちゃんと話をしていたようだ。
「ごめんねー、遅くなって。はいこれ、シャルル君とイヅナちゃんのご飯。和食大丈夫だよね?」
「あ、ありがとう。大丈夫、僕好き嫌いは無いから」
「うむ、お腹ぺこぺこだぞ!」
そう言うと、シャルル君とイヅナちゃんは椅子に座る。
すると、シャルル君が机の上に置いた料理の、あるものを見て固まった。
「うん、どうかしたか?」
「う、ううん、なんでもないよ、い、いただきます」
イヅナちゃんの言葉に少しあせりながら、シャルル君は椅子に座って僕の持ってきたトレイに目を向けてお箸を取った。
そしてお魚に手をつけて…
「あっ」
ぽろっ
「あっ、あっ…」
ぽろぽろ
おかずを落として情けない声を出すシャルル君。
お魚の身をほぐすのはいいけど、掴むのがどうも上手くいかないようで、ぽろぽろ落とす。
そういえばお箸使ってるの初めて見たな。
「もしかしてシャルル君、お箸苦手?」
「う、うん、練習してはいるんだけどね…あっ」
練習してるのか…努力家だね、シャルル君。
「ごめんね、気付かなくて。スプーンもらって来るよ」
そう言って、ドアのほうに行こうとすると、シャルル君は拒否する。
「あ、い、いいよ、そんな。なんとかこれで食べてみるから」
うーん、どうもシャルル君は自分で何とかしようと意固地になる傾向があるなあ。
「シャルル君、少し人に頼る事を覚えたほうがいいよ。そんな遠慮ばかりしてたら損するよ」
「…友達…そ、そうかな…」
「まあ、いきなりは難しいと思うから、最初は僕に頼ることからはじめたらどうかな?僕はさっきの話のことも含めて、シャルル君の味方だから。だから、存分に頼ってよ」
「凱…」
ドンと胸を叩き、頼って大丈夫とアピールする。
そんな僕に、シャルル君はなんか頬を染めて僕を見てる。
少しキザだったかな?
まあいいや、せっかくの料理、冷めてしまってはおいしさも半減してしまう。
となれば、僕の取る行動はひとつ!
「じゃあ、はい、あーん」
「…え?」
「ほら、頼っていいよー、あーん」
僕がお箸で魚の身をほぐし、シャルル君に差し出す。
それを見たシャルル君は目をキョロキョロさせ、あーとかうーとか唸り、そして決心がついたのか、ゆっくりと口を開けた。
「あ、あーん」
シャルル君は料理を口にふくみ、何故かにやにや笑い出した。
恥ずかしいのかな?
こんなあーん程度で恥ずかしいの?
なんで?
「つ、次は和え物がいいな」
「あ、はいはい。それじゃあ、あーん」
「あーん」
「ガイー!我にもあーんしてくれー!!」
僕とシャルル君が仲良くしてるのが面白くないのか、イヅナちゃんがぷりぷり怒ってる。
やきもち焼きだなあ。
「あー、はいはいイヅナちゃんもだねー。はい、あーん」
「あーん」
「おいしい?」
「うむ!ガイのあーんで食べる料理はおいしさ五割増しだぞ!!」
「あ、それわかるよ」
何を言ってるのやら?
料理は料理でしょうに。
口をパクパクと開き、僕からのあーんを待つ雛鳥二人がかわいくて、僕はクスリと笑ってしまった。
そして、この行為は料理を食べ終わるまで続いたのだった。