「一夏、彼は百瀬凱くん、お前と同じくIS学園に入学することになった。入学まで彼をこの家に下宿させる、仲良くしろよ。ああ、しばらくはまた外がやかましくなるだろう。百瀬を助けてやれよ。ではな」
「……え?ち、千冬姉!?」
千冬姉は家の玄関でそう言うと、俺の返答を聞かず、すぐにまたどこかへ出かけた。
取り残されたのは我が家の玄関には俺、織斑一夏と千冬姉が連れてきた百瀬凱という子だけになった。
「織斑一夏君、しばらくの間よろしくお願いしますー。僕は百瀬凱、あだ名はモモンガーですー」
「……モ、モモンガー?あ、いや、こちらこそ!」
百瀬凱改めモモンガーは、ニコニコしながらペコリと頭を下げる。
慌てて俺も頭を下げた。
そしてモモンガーを見る。
身長は俺より小さい。
つーか、かなり小さい。
150あるのか?
それに華奢だ。
服の上から見ても筋肉があるようには見えない
色白で、顔も童顔、というかもう子供だ。
大きな目がクリッとしていてキラキラ輝いている。
モモンガーは美少年という部類に間違いなく入るだろうな。
雰囲気もぽわぽわとしたゆるい印象を受ける。
しかし、IS学園に入学と言っていたからおそらく俺と同い年なんだろうが、モモンガーは小学生にしか見えないぞ。
まさか飛び級か?
髪は名前の通り日本人らしく黒髪だが、くせっ毛なのか寝癖なのか所々髪がはねている。
うーむ、わからん……
俺のモモンガーに対する第一印象は『よくわからない奴』だった。
俺の品定めするような視線に気付いたのか気付いていないのか、モモンガーはにぱーっと笑顔を俺に向けてきた。
うっ!?
な、なんだそのひまわりのような無垢な笑顔は!?
ド、ドキドキするじゃないか!
「と、とりあえず上がってくれ。何か飲み物をだすから」
「おかまいなくー」
俺はごまかすようにモモンガーをリビングに案内したが・・・今の返事で感じたが、なんというか、のんびりした奴だな、モモンガー。
さて、俺とモモンガーはリビングのソファに座りイロイロ話をした。
まず俺はモモンガーという男を知ろうと質問したが、申し訳ない事をしてしまった。
なんでもモモンガーは記憶喪失で、一ヶ月以前の記憶がないらしい。
覚えていたのは自分の名前、そして手元には自分専用のISのみ。
「……その……すまん」
「いえいえ、お気になさらずー」
俺が何と言っていいかわからず、とにかく謝ると、モモンガーは相変わらずのぽわぽわした笑顔で許してくれた。
癒されるぜ。
そしてモモンガーは行き倒れているところを束さんに保護されたそうだ。
あの人行方不明のはずだろ?
なんつー偶然だ。
で、その後束さんが千冬姉に連絡してモモンガーを引き取り、IS学園に入学することになったとか。
何故千冬姉が引き取ったからといって、IS学園に入学できるのかは謎だが。
「波瀾万丈だな、モモンガー」
「そうかなー?」
あまり自分の重要な立ち位置を理解していないのかニコニコ笑っているモモンガー。
俺はモモンガーのマイナスイオンに癒されながら、なんとなくテレビのリモコンを持ち、テレビを点けた。
そして、絶句した。
何故って?
テレビでは緊急特番がやっていた。
しかもその内容に目を疑った。
”世界で二番目にISを起動させた男『百瀬凱』!”
”現在行方不明のIS開発者篠ノ之束の助手をしていた!!”
”篠ノ之束本人から太鼓判!”
”「がーくんはね、すごいよ!いっくんよりずっとすごいよ!あの子は天才だね!」”
「……なんだこれ……」
俺の時より報道が加熱してないか?
いや、俺の時も大概だったけど……
あれはもう少しで人間不信に陥るところだったぞ。
「いやー、束さんの助手っていう肩書は効果抜群だねー。実際やってたのは雑用だけど」
……なんでこいつはそんなにのほほんとしてるんだ?
……あっ!
俺は千冬姉のさっきの言葉を思い出した。
”しばらくはまた外がやかましくなるだろう”
そうか、こういうことか……
つまり、またどこぞのマスコミやら研究機関やら、いろいろな国からのスカウトが押し寄せて来るということだ。
でも、なんでこいつは……
「お前、自分の事だろう!?こんなに大々的に発表されたら世界中から注目されて何されるかわからないんだぞ!?」
俺は思わず声を荒げてしまった。
それに驚いたのか、モモンガーは目をぱちくりと見開いていたが、すぐにまたニコニコしだす。
「それが僕がここにいる理由なんだよ、織斑一夏君」
「なに……?」
「僕は君を助けるために来たんだよ。それに君よりインパクトあれば君への注目も減って変な抑制もなくなるだろう?」
「そ、それは……でも、それじゃあ……」
お前はどうなるんだ?
俺はそう言おうとしたがモモンガーに手で遮られた。
「僕は君の役に立てるなら何でもやるさ。だって僕は君と友達になりにきたんだから。友達は損得関係なく助け合うものでしょ?」
俺はモモンガーの言葉に胸をうたれた。
友達……
そうか……
じゃあ、俺はこう言うしかないじゃないか。
「……そうだな、友達だもんな。お前が俺を助けてくれるなら、俺はお前を助けるよ」
俺は手を差し出した。
「よろしくな、モモンガー。俺の事は一夏でいいぜ!」
「うん、よろしく、一夏」
モモンガーは俺の手を取り握手した。
モモンガーの手が小さくて柔らかくてスベスベで、思わずドキドキしたのは内緒だぜ!
俺はモモンガーと家での役割分担を決めていた。
モモンガーは家事全般をこなせるそうだ。
そのスキルを活用して束さんの世話をしていたとか。
俺も千冬姉が家ではだらしないから、なんか親近感が湧くなあ。
一応お客様だから、いいと言ったんだが、モモンガーはそれは申し訳ないからと頑として拒否したのだ。
なんだ、モモンガーは意外と頑固だな。
そして炊事、洗濯、掃除なんかの役割を決めていたら、突如そいつは現れた。
「ガイー、結界の展開が終わったぞー」
いきなり現れたのはぬいぐるみのような小さな女の子。
金髪に頭には長い尖った耳、巫女のような服に、尻尾が5…6…7…8…9、9本ある。
「ご苦労様イヅナちゃん。いつもありがとうねー」
「わ、我はガイのためなら、何でもするぞ!」
金髪の女の子は顔を赤くしてモジモジしだした。
うお、9本の尻尾をブンブン振ってる。
なんだ、トイレかな?
いや、そんなことよりだ!
「モ、モモンガーさん?その、そちらの方は……?」
俺がテンパり気味にモモンガーに説明を求めると、モモンガーは「ああ、紹介してなかったねー」とのほほんと言った。
「彼女は『白面金剛九尾イヅナ』ちゃん。僕のISで、パートナーだよー」
「おお!お前が織斑一夏か?我は白面金剛九尾イヅナだ。よろしく頼むぞ!」
元気よく手を挙げて自己紹介するイヅナさん。
「……ISって皆そんななのか?」
俺はISに関してはてんで素人だ。
家でも千冬姉とはISの話題は出なかったし、男ということでISの知識は必要なかったからな。
それでもモモンガーのIS、白面なんたらイヅナさんはおかしいとわかる。
俺が入学試験会場を間違えて、誤って触ってしまったISはもっとゴツゴツした、まさに『機械』だったから。
でも、イヅナさんはロボットとかそんな次元の話じゃない。
もう生き物だ。
「ああ、イヅナちゃんは特別だからねー。気にしないでいいよー。まあ一人の女の子と思って仲良くしてねー」
「そうだぞ織斑一夏。男は細かい事を気にしないものだぞ」
すげーポジティブシンキンな二人だな。
「……わかったよ。よろしくイヅナさん。俺の事は一夏でいいよ。ところで、さっき結界とか言ってたけど……」
俺は頭を切り替えるつもりで気になったことを聞いた。
すると、とんでもない答えが返ってきた。
「我もイヅナ”ちゃん”でよいぞ。結界はガイの指示でな、この家の四方に人払いの術を施した結界を貼った。これで”邪(よこしま)な気持ちを抱いている人間”はこの家に近付くことはできん」
「いやー、イヅナちゃんはすごいねー、ごいすーだよねー。よっ、狐っ娘美少女イヅナちゃん!かわいいよー!」
「ガ、ガイよ、そんなに褒めるな。照れるではないかー!」
モモンガーに褒められて、すげー尻尾をブンブン振って喜んでいるイヅナちゃん。
あれ本当にISか?
……うん、なんかいろいろ考えるのがバカバカしくなってきたよ。
モモンガーとイヅナちゃんが発するマイナスイオンはハンパない。
まったくおそろしいぜ!