仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

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十之巻『流れる夜叉』

○たちばな

 端の方のテーブルに固まって談笑しているヒビキ、明日夢、イブキ、あきら。

 少し離れたテーブルでは、フブキが湯飲みを傾けている。

 レジでは、日菜佳が精算作業中。

ヒビキ「……でさあ、そん時のミカヅキさんの顔ったら! なあ、明日夢!」

明日夢「いや、僕は……」

ヒビキ「あ! 何だコイツ~」

 笑い合う四人。

イブキ「……僕も会いたかったなあ。もう一日いてくれれば良かったのに」

ヒビキ「お、そういや明日夢。ホウキになんか貰ってなかったか?」

明日夢「ああ!」

 明日夢、ポケットをまさぐり、二枚のチケットを出す。

イブキ「何だい? それ」

明日夢「……えっと、今、新宿の胡麻劇場でやってる『滝夜叉姫』のチケットです。ホウキさん、買ったはいいけど全然行く間がなかったからって、いただたんです」

ヒビキ「へぇ~。いいじゃん。ひとみちゃんと行ってこいよ」

明日夢「え!? いいんですか!?」

ヒビキ「ゴールデンウィークだしな。ここらで息抜きしてこい」

明日夢「ありがとうございます!」

 目を輝かせて、チケットを見つめる明日夢。

 と、入口の扉が開いて、ひとみが入ってくる。

ひとみ「おはようございま~す!」

日菜佳「(レジ精算を済ませて)あ、ひとみちゃん、おっはよ~!」

 ひとみ、ヒビキらのいるテーブルへ近付いていく。

 ヒビキ、明日夢、イブキ、あきらもそれぞれひとみに挨拶。

 フブキもニコッと笑って会釈。

ひとみ「ねぇねぇ安達君! これ、一緒に行かない?」

 そう言って、『滝夜叉姫』のチケットを二枚ヒラヒラと見せるひとみ。

明日夢「あ、それ……」

ひとみ「え?」

 明日夢、自分の持っていたチケットをひとみに見せる。

ひとみ「あれぇ? 安達君も持ってたの~? 何で何で~!?」

明日夢「いや、ちょっと人から貰って……。持田こそどうしたんだよ」

ひとみ「ああ、私は当たったの。ホラ、駅前のスーパーで福引やってたでしょ?」

ヒビキ「へぇ、こいつぁ偶然だなあ。今、丁度明日夢にひとみちゃんと行ってこいって言ってたとこなんだよ」

ひとみ「あ、ありがとうございます! ……う~ん、じゃ、どうしよっかあ、もう二枚……。そうだ! 天美さんも行こうよ!」

あきら「え? 私ですか?」

ヒビキ「おお! そりゃいいや。あきらも息抜きしないとな。イブキとでも行ってこいよ」

 皆の視線がイブキに集まる。

イブキ「あ……、僕は、こういうのはちょっと……」

ヒビキ「なんだ、興味ないのか? ……なんてね。俺も全然ダメだったりして」

ひとみ「え~、じゃ、どうしよっか……」

あきら「(ふと思いついたようにフブキの方を振り返り)フブキさん、一緒に行きませんか?」

フブキ「え?」

あきら「私、フブキさんと一緒に行ってみたいです」

 そう言って、フブキの目をジッと見つめるあきら……。

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 十之巻『流れる夜叉』

 

○たちばな

 明日夢とひとみ、そしてあきらとフブキが、観劇に出掛けようとしている。

ひとみ「じゃ、すみませんが、よろしくお願いします」

 ひとみ、そう言いながら香須実と日菜佳にペコリと頭を下げる。

香須実「大丈夫大丈夫! その分、ヒビキさんにたっぷり手伝ってもらっておくから」

ヒビキ「ええ!?」

 たじろぐヒビキ。

フブキ「それじゃイブキ君、天美さんをお借りするわね」

イブキ「あ……、はい! その……、よろしくお願いします!」

 いつになく緊張した様子のイブキ。

あきら「イブキさん、行ってきます」

イブキ「あ、行ってらっしゃい! あきら」

 四人が店から出ていく。

 イブキ、その後ろ姿を追うように、中腰のまま固まる。

香須実「何やってんの? イブキ君」

イブキ「あ……、いえ。大丈夫かなあ、と思いまして……」

香須実「何が?」

イブキ「いや……、フブキさんって、やっぱりちょっとおっかないかな、と……」

日菜佳「な~に言ってんスかもう! フブキさんだってオニじゃないんだし、取って食べちゃったりはしませんって!」

ヒビキ「鬼だぜ? フブキは」

日菜佳「あ、そっか」

 笑いに包まれる店内。

 その中で、イブキだけがちょっぴり引きつった苦笑い。

 

○新宿の胡麻劇場

 開演前の館内、座席を探すひとみ、明日夢、あきら、そしてフブキ。

ひとみ「Hの二十五番……、と。あ、ここだここだ!」

 座席を確認するひとみ。

 と、その二列ほど後方にあきらとフブキの席もあった。

あきら「私たちはここですね」

ひとみ「(後ろを振り向いて)あ、すっご~い! 結構近いね! ……座ろ、安達君」

明日夢「うん」

 席に着くひとみと明日夢。

 そして、あきらとフブキもゆっくりと座席に座る。

ひとみ「私、こういうの初めてなんだあ」

明日夢「俺もだよ」

 期待感でニコニコ顔のひとみと明日夢。

 一方、静かにパンフレットを眺めているフブキ。

 と、あきらがそっと話しかける。

あきら「フブキさんとは、一度ゆっくりお話してみたかったんです」

フブキ「あら、どうして?」

あきら「女性の鬼って、少ないじゃないですか。やっぱり、特別な心構えとか、あるんじゃないかなあって……」

フブキ「そうねぇ……。昔は、やっぱり偏見もあったので苦労してたみたいよ。でも、最近はそんなことはないわね」

あきら「不利な部分とかは、ないんでしょうか?」

フブキ「そうねぇ……。もちろん、体力的にハンデはあるけど、それは自分の努力で補えるものよね。……ネックなのは、男の人と違って、着替えが面倒ってことかしら」

あきら「あ……。それ、私もちょっと心配なんです」

 微笑み合う二人。

 と、館内にブザーが鳴り、暗転。

フブキ「……始まるみたいね。じゃあ、続きは後で」

あきら「はい」

 舞台の幕が上がり、『滝夜叉姫』の芝居 が始まった。

   ×   ×   ×

 壇上で演技する主役の五月姫を、うっとりとした目で追い続ける明日夢。

明日夢「五月姫か……。きれいな人だね」

ひとみ「そうねぇ。(と言いながらふと明日夢の横顔を見て)あ、明日……」

 ひとみ、言いかけてプイッと前に向き直り、少しふくれた表情になる。

 

○たちばな

 入口の扉が開き、すずめが入ってくる。

香須実「いらっしゃいませ! ……あ、こんにちわ~」

すずめ「どうも」

日菜佳「どうぞこちらへ~。今日はデスネ、この時期オススメの一品がありますよ~」

 そう言いながら、すずめを席へと案内する日菜佳。

すずめ「ホントですか!? じゃ、それ大盛りでガンガン持ってきちゃってください!」

日菜佳「アレ? 何かありましたあ?」

すずめ「もう! ひどいんですよ、右京のヤツったら!」

日菜佳「エ……!?」

 すずめの言葉に、思わず香須実もテーブルに近付いてくる。

香須実「あの……、彼氏と、何かあったんですか?」

すずめ「聞いてくれますぅ!? アイツ、音楽辞めて、何か他のことするって言うんですよ!」

 ちょっと冷や汗の香須実と日菜佳。

すずめ「……ま、それはいいんですけどね。個人の自由だし。でも、何やりたいんだか私に何も言ってくれないんですよ! 結構長いこと付き合ってるんですよ? 私たち……」

香須実「ははあ……。それはちょっと……、ねぇ……」

 なんとも歯切れの悪い香須実。

 と、そこでまた入口の扉が開く音。

日菜佳「……い、いらっしゃいませ!」

 入ってきたのは、なんと右京。

右京「こんにちは」

 驚く三人。

すずめ「(立ち上がって)右京君!!」

右京「な……、何だすずめ! なんでお前こんなところに!」

すずめ「それはこっちのセリフよ! アンタ甘いもん嫌いじゃなかったの!?」

右京「いーじゃねーか。俺の勝手だろ」

 言い争う二人に戸惑う香須実と日菜佳。

香須実「あの、二人とも……、落ち着いて、ね?」

すずめ「(香須実をチラッと見て)……はは~ん、さては、この美人店員さんが目当てね?」

右京「ち、違うよ!!」

 美人と言われて、一瞬いい気分になる香須実

すずめ「じゃ、何なのよ!?」

 ますます表情が紅潮していくすずめ。

右京「……あ、すみません、その、うるさくしちゃって。あの、また来ます!」

 そう言って頭を下げた右京、そそくさと店を出ていく。

すずめ「ちょっ……、右京君!!」

 閉まる扉、そして静まる店内。

 すずめ、憤慨した表情のままドカッと椅子に座る。

日菜佳「あの……」

すずめ「……もう! メニューにあるお団子、全部持ってきてください!!」

日菜佳「ええっ!?」

 

○新宿の胡麻劇場

 舞台は、芝居の後半部に入っている。

 父への復讐心から山奥で妖術を得た五月姫、都へと降り立ち、天を仰いで念じる!

 黒子が数人出てきて五月姫を黒い布で覆い、パッと広げると、身の丈二メートルほどの世にも醜い蛙型人間のような妖怪が現れた!

 悲鳴を上げる都の民達。

 そして、思わず尻餅をつく黒子たち。

明日夢「うわっスゴい!! リアルじゃん!」

ひとみ「気持ち悪いくらいね……」

明日夢「でも、なんかボーッとした感じに見えるね。……ホログラフィかな?」

 舞台の上の俳優たちは、それぞれ周りをキョロキョロとしながら声も出ない。

 芝居が止まってしまった感じだ。

明日夢「あれ? どうしたんだろ」

 ザワつく館内、そして、目を見張るフブキ。

男の声「幕!! 幕!!」

 舞台の袖から、スタッフの男の声が聞こえる。

 そして、突如舞台に幕が下りて中断。

 さらにザワつく館内。

場内アナウンス「恐れ入りますが、しばらく中断させていただきます」

ひとみ「なんだろうねぇ?」

明日夢「ウン……」

 明日夢、ひとみに応えながら、チラッとフブキとあきらの方を振り返る。

フブキ「妙ね……」

あきら「ちょっと、飛ばしてみます」

 あきら、ポシェットから音笛と赤いディスクを一枚出す。

 そして、クルクルッと音笛でディスクを回す。

 次第に透明になっていくディスク。

 そしてディスクは、透明の茜鷹となって舞台の方へと飛んでいく。

 一連のあきらの動作を見て、少し悔しげに唇を噛み締める明日夢。

 フブキ、そんな明日夢を見てわずかに微笑む。

   ×   ×   ×

 黒い幕の隙間から、舞台の上へと入り込む透明の茜鷹。

 舞台の上では、俳優たちが口々に「さっきのは何だ!?」と言い合っている。

 うなだれたままの五月姫役の女優の横には、その五月姫が妖怪変化した姿である滝夜叉姫のメイクと衣裳を纏った女優がへたり込んでいる。

 そして、先程の蛙のような怪女の姿は、もうどこにも見えない……。

 

○同・ロビーへと続く通路

 口々に文句を言いながら歩く観客たち。

 その中に、フブキら四人の姿も。

ひとみ「結局中止かあ……。どうしちゃったのかなあ? 女優さん、倒れちゃったのかなあ?」

明日夢「うん……」

 深刻な表情の明日夢。

 と、透明の茜鷹があきらのもとへ戻ってくる。

 あきら、茜鷹の気配に気付いて、人気のない廊下の方へと走っていく。

 フブキ、明日夢、ひとみもそれに続く。

 あきら、音笛にディスク状に変化した茜鷹をセットしてクルッと回す。

あきら「……もういないみたいですね。……でも、僅かに魔化魍の音波が」

ひとみ「ええっ!?」

 一人驚くひとみをよそに、明日夢とあきらは既に鬼の弟子の表情に。

 そして、フブキが携帯電話を取り出し、たちばなへと電話をかけ始める。

 

《CM》

 

○たちばな地下作戦室 & 胡麻劇場廊下

 受話器を持って立つ勢地郎。

勢地郎「……う~ん、そりゃ、まさにタキヤシャだよ」

   ×   ×   ×

 画面、ここから交互にフブキ、勢地郎。

フブキ「そんな魔化魍がいたんですね」

   ×   ×   ×

勢地郎「ああ……。(オープン通話に切り替えて受話器を置き)例の、キュウビとタマモの事件があってから、このテの魔化魍の研究がだいぶ進んだんだ」

 そう言いながら、傍らにいた日菜佳にヒビキを呼んでくるよう合図する勢地郎。

 日菜佳、一瞬キョトンとするもすぐに察知して、階段を駆け上がっていく。

フブキ「(電話のスピーカーから)……ということは、また怨念の魔化魍だと?」

勢地郎「そのようだねぇ……。ただ、キュウビとタマモが土地そのものに巣食う地縛的な怨念魔化魍だったのに対し、このタキヤシャってやつは、強い怨みのパルスに同調して現れる浮遊的な怨念魔化魍のようなんだ。どこから生まれたのかは分からないが、状況からして、その五月姫役の女優さんの怨みの演技があまりにも強烈だったために、そのパルスに同調して出現したんだろう」

 勢地郎が話しているところへ、ヒビキがゆっくりと入ってくる。

フブキ「(電話のスピーカーから)とにかく、この辺りをよく調べてみます」

勢地郎「ああ。すぐに消えたってことは、まだ育ち切っていないってことだろうから、被害が出ない内になんとか見つけ出してくれ。……あ、ヒビキにもすぐ行ってもらうんで、よろしく頼みます」

フブキ「(電話のスピーカーから)分かりました」

 電話のスイッチを切る勢地郎。

ヒビキ「あのタイプの魔化魍が現れる条件って、何ですか?」

勢地郎「詳しくはまだ分かってないんだが、どうも自然現象だけでは片付けられないフシがあるんだよねぇ……」

ヒビキ「……ふーん。とにかく行ってきます!」

 そう言って立ち上がるヒビキ。

勢地郎「あ、そうそう。(奥の棚から何やら取り出して)きっと、これが必要になるぞ」

 勢地郎、キュウビとタマモを退治した時に使った、ヘッドセットマイク型の音撃転換装置を二つ、ヒビキに差し出す。

ヒビキ「なるほど」

 ヒビキ、装置を受け取って、

ヒビキ「じゃ、行ってきます! シュッ」

 ポーズとともに、階段を駆け上がっていくヒビキ。

 

○新宿の胡麻劇場前

 劇場から出てくるフブキ、あきら、明日夢、ひとみの四人。

フブキ「浮遊して怨念に同調していくってことは、そういう怨みの念が集まりやすいところへ行った可能性が高いわね」

あきら「ということは……、墓地?」

フブキ「(頷いて)そんなところね。……ここから近い墓地と言えば……、宗元寺と神楽台霊園ね。二手に分かれましょう。

 天美さんは私と一緒に宗元寺へ、明日夢君は途中でヒビキ君と合流して神楽台霊園へ向かってちょうだい」

あきら「はい」

明日夢「分かりました!」

フブキ「ひとみちゃんは、ヒビキ君の代わりに急いでたちばなに戻って。この時期、店の方も大変でしょうから、来てくれるお客さんに迷惑かけてもいけないわ」

ひとみ「はい! 分かりました!!」

 ひとみ、にこやかに敬礼すると一目散に駅へと走っていく。

フブキ「ディスクアニマルに先行しておいてもらいましょう」

 フブキ、路地に入ってウエストポーチからディスクを一枚取り出し、音笛にセットして回す。

 あきらも同様にディスクを音笛にセットして回すと、明日夢も慌ててバッグからディスクを取り出して音角にセット、

 慎重に設定を確認してクルッと回す。

 フブキ、あきらが透明化した浅葱鷲をそれぞれ飛ばす。

 しかし、明日夢のディスクだけがうまく透明にならない。

明日夢「あれぇ? くっそ!」

 やっきになってディスクを回す明日夢。

あきら「(そっと明日夢に近寄って)……安達君、ここの角度を変えて……」

 あきら、明日夢の音角に手を添え、調整を施す。

 再びディスクを回す明日夢。

 と、うまく透明化したディスクは、パッと飛び出して浅葱鷲に変化し、空高くはばたいていく。

明日夢「あ……。(浅葱鷲を見送って)ありがとう」

 ニコッと笑うあきら。

フブキ「(少し微笑んだ後、キリッとした表情となり)よし! 行くわよ天美さん。明日夢君、よろしくね!」

明日夢「はい!」

 フブキとあきら、そして明日夢の二手に分かれて走っていく三人。

 

○街中

 原付を走らせる右京。

 ハンバーガーショップの前で原付を止めて降りる。

 そして店に入っていく右京。

 

○ハンバーガーショップ

 カウンターで注文している右京。

 右京の脳裏に、先日のみどりの言葉がよぎる。

みどり「あのね右京君。これはね、そう簡単にできる仕事じゃないわよ?」

右京「(……分かってるよ、ンな事は!)」

 俯いてカリカリする右京。

店員「お待たせしました!」

 右京、ハンバーガーの袋を受け取り、外へ出ていく。

 

○ハンバーガーショップの前

 自分の原付に軽くもたれかかる右京。

右京「ハァ~……」

 右京、大きく溜め息をついて、紙袋からハンバーガーを出して食べ始める。

 

○宗元寺

 墓地の入口、石の階段を駆け上がるフブキとあきら。

 階段を上り切ると、閑散とした墓地の風景が広がる。

 空中を旋回していた二匹の浅葱鷲が、フブキ、あきらそれぞれのもとへ降りてくる。

 ディスク化した浅葱鷲を、それぞれ音笛で再生するフブキとあきら。

フブキ「……異常なし、か。そっちは?」

あきら「はずれです」

 周りを見回しながら、墓地の敷地内を歩くフブキとあきら。

フブキ「向こうか……」

 

○街道

 専用バイク・凱火で疾走するヒビキ、後部座席には明日夢。

 

○神楽台霊園

 墓地の入口近くに凱火を止め、墓地へと入っていくヒビキと明日夢。

 辺りの様子を窺うヒビキ。

ヒビキ「魔化魍の気配はないなあ」

 明日夢、音角を手にキョロキョロと空を見回す。

ヒビキ「おお明日夢、お前の浅葱鷲はどうなんだ?」

明日夢「それが……、いないんですよ」

 自信なさげな表情になる明日夢。

ヒビキ「ちょっと、貸してみろ」

 ヒビキ、明日夢の音角を手に持ち、額の前にかざして目を瞑る。

ヒビキ「……この信号は、どうも別の場所へ行ってるんじゃないのかなあ」

明日夢「え? そうなんですか!?」

ヒビキ「うん。(音角に神経を集中して)……もう少し、北の方かな。……ってことは、山の方か」

明日夢「山の方……」

ヒビキ「他に怨みの念が集まりそうなところと言えば……」

 しばし考える二人。

明日夢「(何か思いついたように)ヒビキさん!」

ヒビキ「そうか!」

ヒビキ・明日夢「(同時にお互いを指差しながら)火葬場!!」

 凱火のもとへ急いで走っていくヒビキと明日夢。

 明日夢、ヘルメットを被って後部座席に跨る。

 ヒビキは携帯電話を取り出し、フブキに連絡を取る。

ヒビキ「……あ、もしもしフブキさん!?」

 

○宗元寺

 携帯電話で話しているフブキ。

フブキ「……ハハ~ン、なるほどね。分かったわ。こちらも向かいます」

 電話を切るフブキ。

あきら「何ですか?」

フブキ「墓地じゃなくて、火葬場だったようね。明日夢君の浅葱鷲が感知したみたい」

あきら「……やるなあ、安達君」

フブキ「さ、私たちも急ぐわよ!」

あきら「はい!!」

 墓地を出て、大通りに出ていくフブキとあきら。

 

○大通り

 フブキとあきら、タクシーを捕まえ、乗り込んでいく。

 と、通りの反対側に原付を走らせる右京の姿が。

 右京、フブキの姿に気付いて思わず原付を停車させる。

右京「フブキさん……!!」

 走り去るタクシー。

 右京、Uターンしてそのタクシーを追っていく。

 

○たちばな・地下作戦室

 電話で話している勢地郎。

勢地郎「……なるほど火葬場かあ。……うん。じゃあ、念のためザンキ君にもそっちへ向かってもらうよ。……はい。じゃ、よろしく」

 電話を切る勢地郎。

勢地郎「おい、日菜佳ぁ。ザンキ君に……」

 思わず日菜佳の名を口にした勢地郎だが、作戦室には勢地郎一人。

勢地郎「あ……、そうか」

 

○同・店頭

 店内はお客で埋まり、香須実、日菜佳、そしてひとみが、大忙しで動き回っている。

 

○同・地下作戦室

勢地郎「仕方ない。自分でやるか」

 勢地郎、PCの前にドカッと座り込み、一枚のCDをドライブにセットする。

勢地郎「ええっと、火葬場の位置は……」

 勢地郎、右手でPCにマップを読み込みながら、左手で電話のスピーカボタンを押して、ザンキの携帯電話にかけ始める。

 

○山奥の火葬場

 人っ子一人いない、山奥の火葬場。

 今日は一件も予定も入っていないらしく、シーンと静まり返っている。

 到着したヒビキと明日夢、凱火を山道に停車させる。

 と、そこへ明日夢の浅葱鷲が鳴き声とともに近付いてきた。

明日夢「あっ!」

 明日夢、腰から音角を取り出し、もう片方の腕に当てて軽く鳴らす。

 緑の色彩を取り戻す浅葱鷲、空中をひと回り旋回すると、奥の倉庫の方を羽先で差す。

 感心した様子で頷きながら明日夢を見ていたヒビキ、ふと本館から出てきた係員の男に気付く。

ヒビキ「明日夢、スマンがあっちを頼む!」

 ヒビキ、明日夢に本館から出てきた係員の男を足止めするよう合図して、倉庫の方へと走っていく。

 明日夢、少し戸惑いながらもヒビキの指示を理解し、係員の男の方へと走る。

 

○同・奥の倉庫

 ヒビキ、倉庫の扉にソッと背を預けて中の音を窺う。

 と、倉庫の中でパキッ!パキッ!と激しいラップ音が鳴り響く。

 ヒビキ、バッと扉を開いて中へ入る。

 すると、長髪で肥えた蛙のような容姿を持つタキヤシャが、ボンヤリとした色彩で宙に浮いている。

 ヒビキ、無言で音角を扉の縁で鳴らして額へ持っていく。

 鬼の紋章が額に浮かび上がり、全身が炎に包まれる!

響鬼「タァーーー!!」

 炎を断ち切り、響鬼参上!

 

○同・敷地前の沿道

 タクシーで駆けつけたフブキとあきら、素早く降車して建物の方へと走る。

 タクシーが走り去ると、その後ろから右京の原付が。

 右京、道の端に原付を止めて降り立ち、フブキを追って火葬場の敷地内へと入っていく。

 

○同・本館前

 明日夢が係員の男を必死で引き止めている。

係員「何なんだい? 君。私は向こうに用事があるんだよ!」

明日夢「あの、今は……、じゃなくって、聞きたいことがありまして……」

 と、フブキとあきらがそこへ現れる。

 あきら、フブキに目で合図して明日夢の方へと歩を進める。

 一方、フブキはヒビキの凱火に積まれていた自分のフルート型音撃管・烈雪を取り出し、何かを感じ取ったのか、奥の倉庫の方へと視線を移す。

あきら「(明日夢と係員の間に割って入り)すみません! お忙しいのに引き止めてしまいまして……」

明日夢「あ、天美さん!」

あきら「ちょっと、学校のレポートでお棺の仕組みを調べないといけなくって……。少しでいいので、見学させてもらえないでしょうか?」

係員「へぇ~。変わったレポートもあるもんだねぇ。ま、少しならいいよ。おいで」

 振り返り、本館の方へと戻ろうとする係員の男。

 あきら、明日夢に笑顔でウィンクして係員の後に続く。

 明日夢、複雑な表情で溜め息をつき、その後へと続く。

 

○同・奥の倉庫

 響鬼がタキヤシャと対峙している。

 音撃棒・烈火をタキヤシャに打ちつけていく響鬼だが、やはり通り抜けてしまって手応えが全くない。

響鬼「やっぱ、そういうことね」

 と、タキヤシャが口から緑色の泡のようなものを響鬼に向かって吐きつける!

響鬼「おっと!」

 避ける響鬼。、しかし次々に緑の泡が襲いかかってくる。

 と、そこに一つの影が。

 フブキだ!

 フブキ、走りながら音笛を吹いて鬼に変化!

 扉の外では、つけてきた右京が中の様子を窺う。

響鬼「(跪いたまま)吹雪鬼さん! やっぱりコイツ、例のタイプですよ」

吹雪鬼「……持ってきた?」

響鬼「もっちろん」

 響鬼、腰の後ろからヘッドセットマイク型の音撃転換装置を二つ取り出す。

 と、タキヤシャがスゥーッと入口の扉のところへと飛び、パキッ!!と大きなラップ音が!

 驚いて振り返る吹雪鬼と響鬼。

 そこには、タキヤシャが乗り移り、肌が緑色に変化して異様なオーラを放つ右京の姿があった……!!

吹雪鬼「……右京君!!」

 

○十之巻 完

 

○エンディング曲

 

○次回予告

 タキヤシャが憑いた右京に戸惑う吹雪鬼たち。

ザンキ「ダメだ! 猛鬼声魂を放てば彼の体が壊れるぞ!!」

 たちばなで、傷付いた右京を気遣う香須実や日菜佳。

日菜佳「彼女さんには、知らせなくていいんですかね?」

 夜道を歩きながら話すフブキと右京。

フブキ「ひと口に鍛えると言ってもね、体を鍛えることばかりじゃないのよ」

 十一之巻『顧みる地表』

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