仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

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最終之巻『夢のはじまり』

○謎の洋館があった空地

 空地の端に集まった猛士の面々。

 と、皆の後方から澄んだ声が。

声「皆さん、揃いましたね」

 振り返る八人の鬼たち。

 そこには、サングラスをかけ、濃い紫のスーツに身を包んだ中性的な人物が。

ヒビキ「ヒュ~」

イブキ「この方が……」

フブキ「……シキさん」

 シキと呼ばれた人物、サングラスを外して、キリッとした表情で空地の中心部を見据える。

シキ「さあ、始めましょう。……音撃の時間です」

 シキの言葉を皮切りに、八人の鬼たちが厳しい顔つきに変わって一歩前に出る。

 音笛を吹くミカヅキ、イブキ、トウキ、そしてショウキ。

 音錠を鳴らすサバキ、トドロキ。

 音角を鳴らすヒビキ。

 音笛を吹くフブキ。

 そして、八人の戦士がそれぞれの変身動作に入る!

 光の輪に包まれるミカヅキ!

 疾風に包まれるイブキとショウキ!

 無数の木の葉に包まれるトウキ!

 漆黒の闇に包まれるサバキ!

 稲妻に包まれるトドロキ!

 真っ赤な炎に包まれるヒビキ!

 真っ白な吹雪に包まれるフブキ!

 そして、八人の鬼が気合を込めたかけ声とともに、それぞれ鬼に変化!!

 周囲の変身を見届けた後、シキが長細いケースをカチッと開け、中から銀色の指揮棒型音撃棒・変幻(へんげん)を取り出す。

 シキ、変幻を右手に持ち、肘を曲げたまま軽やかに顔の正面まで両腕を上げる。

 目を瞑るシキ。

 すると、ジワジワとシキの額に鬼の紋章が現れ、全身が陽炎のような靄に包まれていく!

紫鬼(しき)「……ハイ!」

 両腕を振り下ろして靄を断ち切り、紫鬼が颯爽登場!!

 紫鬼は、鬼の姿としては珍しく、太鼓、管、弦のいずれの身体的特徴もなく、銀色のフラットな体を持ち、金のリストバンドには鈴が、そして頭部からは腰の辺りまで紫色の長い髪が伸びている。

 紫鬼が変化し、九人の鬼が並び立ったその瞬間、空地中央の地面に次々と亀裂が入り、大きく割れた地中からラセツニョが姿を現した!

 下半身は巨大な蛇、そして上半身は怨念の塊のような恐怖形相の女性を象ったようなラセツニョ、身の丈は十メートルほどもあり、肩の辺りからは数本の触手がクネクネと中空に伸び、その内一本にダンキが捕らえられている!

勝鬼「ダ……、ダンキさん!!」

 思わず前に飛び出す勝鬼。

紫鬼「……行きます」

 紫鬼の合図とともに、九人の鬼たちはそれぞれの武器を携えて、ラセツニョに向かって走る!

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 最終之巻『夢のはじまり』

 

○とある神社

 境内を歩く右京。

 神社の敷地奥、石造りのベンチにゆっくりと腰掛け、拳をギュッと握り締める。

右京「人助け……、自分の、信じる道……」

 呟きながら、遠くを見つめる右京。

右京「……俺って、きっと今まで、自分のことばっかり考えてたんだな。そんなんで人助けだなんて……」

 右京、下を向き、カッと目を見開いて正面を向き直る。

右京「よく分かんないけど、二つだけはっきりしたことがある!今の俺はダメだってこと。それから、まだ取り戻せるってことだ!!」

 右京、スクッと立ち上がり、

右京「心を、鍛える……。そうか……。これって絶好のチャンスなんじゃないか」

 右京、吹っ切ったような表情に変わり、ダッシュしてその場を走り去る。

 

○謎の洋館のあった空地

 巨大なラセツニョに、九人の鬼たちが向かっていく!

 響鬼が、音撃棒・烈火を打ち込んでいく!

 裁鬼が音撃弦・閻魔で、轟鬼が音撃弦・烈雷で斬りかかっていく!

 甕月鬼が、頭部の刃角を外して投げつける!

 一方、威吹鬼と闘鬼、そして勝鬼は、それぞれの音撃管でラセツニョの上半身に鬼石を、吹雪鬼は鬼針を撃ち込んでいく!

 鬼たちの攻撃にグラグラとよろめくラセツニョ。

 と、勝鬼がジャンプ一番、ダンキを捕らえている触手を、鋭いカギ爪・風牙でスパッと切り裂く!

勝鬼「ハッ!!」

 切り離されるも触手に巻きつかれたまま吹っ飛ぶダンキ、ドスンと地面に転がり落ちる。

ダンキ「……ングッ!」

 と、狂気の表情と化したラセツニョの頭上に、フワッと小さな影がいくつも浮かび上がる。

 ミズチだ!

 ラセツニョの念によって生まれ出た数匹のミズチは、うねりを上げて鬼たちに襲いかかる!

響鬼「うわっと!」

 と、疾風の如く進み出た紫鬼が、銀色に光る変幻でミズチをひと突き!

 すると、ミズチはジワジワッとその色彩をなくしていき、粉状に砕け散った!

 変幻の剣撃モード、それは小さな怨念魔化魍ならば無効化させる能力があるようだ。

 目にも止まらぬスピードで駆ける紫鬼、変幻のフェンシング剣撃でミズチを全滅させる!

 そして、振り向き様に一言。

紫鬼「……甕月鬼さん!」

甕月鬼「了解!」

 甕月鬼、宙を舞っていた刃角を腕の動きで引き寄せて頭部に戻すと、背中から鍵盤ハモニカ型音撃管・明星を取り出して天高く構える。

 ズドン!!

 明星の先から発射された金色の光球が、上空でバッと弾けたかと思うと、金色の光のシャワーが辺り一面に降り注ぐ。

 そして、ラセツニョを中心に小さなドームのように音撃空間の囲いが出来あがった!

 甕月鬼、今度はベルトの音撃鳴・諸星を外して地面に埋め込む。

 大きく膨らむ諸星の上に明星をセット、眩い光とともにそれはグランドピアノ型に変形!

紫鬼「皆さん、配置に!!」

 紫鬼の声を受け、裁鬼と轟鬼が左右からラセツニョの胴体へとライドして音撃弦を突き刺す!

 そして、響鬼が正面から音撃鼓をラセツニョに埋め込む!

 互いに目で合図し合う九人の鬼たち。

 紫鬼、変幻を右手に、サッと両腕を上げる!

 その瞬間、甕月鬼がピアノを、そして威吹鬼、闘鬼、勝鬼がそれぞれの音撃管を奏でる!

 甕月鬼の力強いピアノの音色は、ドーム状に包まれた音撃空間の壁に反響し、その場を完全に密封する!

 両腕を振ってリズムを取る紫鬼、その長い髪は、リズムに合わせて白く発光している。

 その紫鬼のリズムに合わせて、今度は裁鬼と轟鬼がギターをかき鳴らす!

 さらにリズムを取る紫鬼。

 次に響鬼が、大きなモーションから烈火を音撃鼓に向けて打ち込む!

 そして、吹雪鬼がフルート型音撃管・烈雪を口元へ。

 各種の音撃が続けられる中、紫鬼のリズムに合わせて吹雪鬼のフルートが麗麗と奏でられる!

 闘鬼のバンの傍で見つめる明日夢とあきら、思わずゴクンと生唾を飲み込む。

 そして、真剣な表情で凝視する石割。

ダンキ「……チキショウ! 俺もやりたかったぜぃ」

 触手の切れ端に巻きつかれたまま倒れ込んでいるダンキが悔しがる。

 さらに続けられる協奏音撃、紫鬼のリズムに合わせて、弦が、管が、太鼓が強弱をつけて奏でられる!

 と、ラセツニョの大きな尻尾がグルンと揺れ、轟鬼が振り落とされそうになる。

轟鬼「うわっ!!」

 よろめく轟鬼。

裁鬼「轟鬼! ふんばれ!!」

轟鬼「……は、はい!!」

 轟鬼、なんとか持ちこたえて再び烈雷をかき鳴らす!

ラセツニョ「ガギャーーーーーッ!!」

 大きな悲鳴を上げるラセツニョ。

 紫鬼、リズムを速めて変幻を上下左右に振り回す!

 甕月鬼が、威吹鬼が、闘鬼が、勝鬼が、裁鬼が、轟鬼が、響鬼が、そして吹雪鬼が全力音撃!!

 そして、紫鬼の変幻を前に突き出す大きなアクションとともに、全員が止めのひと弾き、ひと叩き、ひと吹き!!

 ラセツニョの全身に協奏音撃の波紋が伝導!

 サッと飛び降りる裁鬼と轟鬼、そして後ろに転がり避ける響鬼。

 そしてついに……、ラセツニョ爆発!!

   ×   ×   ×

 甕月鬼が作り出したドーム状の音撃空間が、天空から徐々に薄らいでいく。

 そして、ラセツニョが砕け散った跡にはバックリと割れた地面が煙を上げながら姿を現した。

 顔の変身を解く九人の鬼たち。

 シキ、変幻を左腰のバックルに納めて、他の鬼たちに労いの握手を求めに行く。

シキ「ご苦労様です」

フブキ「そちらこそ、お疲れ様でした」

 シキが順々に他の鬼たちを労う間、ショウキがダンキの元へ駆け寄る。

ショウキ「ダンキさん!」

 ダンキに巻きついていたラセツニョの触手が、シューッと粉状に砕けていく。

ダンキ「(腕や腰を動かしながら)あ~あ! やっとこさ開放されたぜ!」

ショウキ「良かった……」

 ホッと胸をなでおろすショウキ。

 トウキのバンの傍では、明日夢とあきらが車の中にいるトウキの息子とともに、喜びを分かち合っている。

 と、隣に立っていた石割が携帯電話を取り出し、どこかへかけ始める。

 

○たちばな・地下作戦室

 無言で座り込んでいる勢地郎、みどり、香須実、そして日菜佳。

 電話のベルが鳴る。

 近くにいた勢地郎が受話器を取る。

勢地郎「はい、たちばな……、おお、石割君かあ」

 勢地郎の声に、一斉に視線を向ける、みどり、香須実、日菜佳。

 

○謎の洋館があった空地

 勢地郎と通話中の石割。

石割「終わりました。……はい、ダンキさんも無事です」

 

○たちばな・地下作戦室

勢地郎「そうか、良かった良かった。……それじゃあ、キチンと後片付けして戻ってきてください。……あ、そうそう、今夜はね……、(日菜佳の方を振り返り)日菜佳、予約の方は大丈夫かい?」

日菜佳「(指でOKマークを作って)バッチリでござんす!」

 

○謎の洋館があった空地

石割「……あ、そうですか。分かりました。皆さんに伝えます。……はい、お疲れ様でした」

 ニコッと笑いながら、携帯電話を閉じる石割。

石割「(前へ歩きながら)……皆さん、お疲れ様でした!! それと事務局長から、今夜は合同宴会って話ですよ~!!」

 石割の言葉に、疲れた皆の表情に精気が甦る。

サバキ「オッシャ!! 久々だなあ、みんなで飲むのは!」

ヒビキ「サバキさ~ん、また前みたいに酔っ払って暴れないでくださいよぉ?」

サバキ「……んだと、コノッ!」

 じゃれ合うサバキとヒビキ。

フブキ「……シキさんも、ご都合大丈夫ですか?」

シキ「はい。喜んで出席いたします」

 と、申し訳なさそうな表情で口を開く石割。

石割「……あと、その……」

 石割の心中をフブキが察して、

フブキ「そうよね。……ヒビキ君」

ヒビキ「……え?」

 キョトンとした表情でフブキの方を見るヒビキ。

フブキ「割れた地面の修復、よろしく頼むわよ」

 フブキ、ヒビキに軽くウィンクすると、さっさとその場を引き揚げていく。

ヒビキ「ちょっ……、フブキさん!」

サバキ「アンニャロ……、だからアイツは性格悪いっつってんだよ!! ……オラ、トドロキも! さっさとやっちまうぞ!」

 サバキ、傍にいたトドロキを促して、地面の修復作業に取り掛からんとする。

トドロキ「は……、はい!!」

 追従するトドロキ。

 一方、フブキは石割とともに、モバイルを片手に今の音撃の記録を早速確認していた……。

 

《CM》

 

○とある百貨店・呉服売場

 お客に商品の入った紙袋を渡すすずめ。

すずめ「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

 お辞儀した頭を上げたすずめ、ふと視線の先にいた右京に気付く。

 右京、すずめに向かって軽く手を振る。

すずめ「右京君……」

 すずめ、振り返ってカウンターにいた主任のもとへと歩み寄る。

すずめ「筑波主任、ちょっと早いんですが、休憩いただいて宜しいでしょうか?」

筑波「(すずめの表情、そして通路で佇む右京を確認し)……分かった。あ、今の時間、休憩室は混んでるだろうから、カーディガン着て店内喫茶へでも行っておいで」

すずめ「あ……、ありがとうございます!」

 すずめ、奥の引き出しからカーディガンを取り出して、右京のいる通路の方へと駆けていく。

 それを、微妙な笑みとともに見つめる筑波。

 と、年配の女性店員がそっと筑波に耳打ちする。

女性店員「もう、主任ったら工藤さんには甘いんだから!」

筑波「……な、何言ってんですか! ほらほら、ちゃんと待機姿勢とって!」

 ちょっぴり焦り気味になりながら、女性店員に注意をする筑波。

 

○同・店内喫茶

 向かい合って座っている右京とすずめ。

 すずめ、運ばれてきたマンゴージュースを一口飲む。

すずめ「……わざわざここまで来たってことは、相当よね」

右京「……うん」

 すずめ、右京の目をジッと見つめたまま、話を切り出すのを待つ。

右京「……こないだはゴメン。曖昧な話ばかりしちゃって」

すずめ「で?」

右京「音楽家目指すのは辞める。でも、音楽が嫌になったからじゃない。……もっと、自分を鍛えなきゃいけないって思ったからなんだ。……お前に何度も言われてきたように、俺はどうしようもなくダメな奴だ。今のままじゃ、夢を見る資格なんてないんだよ」

 話し続ける右京を、黙って見つめるすずめ。

右京「だから、ちょっと真剣に心の修行をしようと思うんだ。まあ、寺に入るみたいなもんだね」

 すずめ、右京の目をジーッと見据えて、ニコッと笑う。

すずめ「……今日の話は、丸々ウソってわけじゃなさそうね。……分かった。頑張ってね。……でも、悪いんだけど、今はこのままあなたと付き合い続ける気にはなんない……。少し、距離を置かせてほしいんだ」

右京「だろうね。俺も、今度こそド真剣に修行に励もうと決心したんだ。一年になるか二年になるか分かんないけど、多分、会いたくても会えなくなる」

すずめ「じゃあ、一旦チャラってことで」

右京「ああ」

 見つめ合う二人。

 そして、どちらからともなく吹き出す。

すずめ「アハハ……、変な別れ方ね。なんかドラマのワンシーンみたい」

右京「ホントだ。ハハハ……。じゃ、俺、行くわ」

 そう言って立ち上がる右京。

すずめ「うん。……元気でね」

 そう言いながら、すずめもゆっくりと立ち上がる。

右京「……今度会う時は、絶対もっと大きな人間になってるからな!」

すずめ「どーだか。私こそ、アンタなんかよりずっとずっといい男捕まえてるから!」

右京「へっ! ……じゃーな」

 右拳をサッと差し出す右京。

すずめ「じゃ……」

 すずめ、その拳にカチッと自分の右拳を合わせる。

 右京、踵を返して喫茶室から立ち去る。

 すずめ、その右京を笑顔で見送る。

 と、ポロリとひと筋、すずめの頬に涙が流れ落ちる。

すずめ「……あれ? ……何で?」

 すずめ、涙をカッと拭ってまた椅子に座る。

すずめ「(ストローをクルクルッと回しながら)……五年間、か」

 そう呟いたすずめ、ムンと全身に気合いを入れたかと思うと、ジュースを一気に飲み干す。

すずめ「よっしゃ!! アタシも頑張るぞ!!」

 

○たちばな

 客用の椅子を片付け始めている香須実と日菜佳。

 と、入口の扉が開いて、右京が入ってくる。

香須実「あ、すいません、今日はもう閉店なんで……、あ!!」

右京「こんばんは」

 ペコッと頭を下げる右京。

香須実「どうしたんですか? ザンキさんの話じゃあ、明日来られるって……」

右京「……あ、その、決心が鈍らない内にと思いまして……。

ザンキさん、まだおられますか?」

香須実「あ、ああ~、ハイハイ! いますいます!! どうぞ!」

 香須実、そう言って右京を奥へと促す。

 香須実と日菜佳に会釈して、奥へと入っていく右京。

 その姿を見送り、バッと目を合わせる香須実と日菜佳。

 日菜佳、忍び足で右京の後をつけんと動き出す。

香須実「(小声で)ちょっと、日菜佳!」

 日菜佳を止めようとする香須実。

日菜佳「(その香須実の目を横目で見て)姉上は、気になりませぬか?」

香須実「そ……、そりゃあ……」

 結局、二人していそいそと奥へと右京を追って入っていく香須実と日菜佳。

 

○同・地下作戦室

 中央の机に勢地郎とザンキ、そしてその正面に右京が座っている。

 階段の踊り場からは、香須実と日菜佳の顔もチョコンと覗いている。

勢地郎「……そう。よく決心してくれたね」

右京「よろしくお願いします!」

ザンキ「分かってくれているとは思うが、修行はハンパな覚悟では出来ないぞ? 薄葉君」

右京「はい。俺は、もう一度スタートラインから出発するつもりです!」

 右京の言葉を聞き、安堵の表情の勢地郎とザンキ。

勢地郎「まあ、細かい手続きは追々でいいんだが……」

ザンキ「まずは一ヶ月ほど、吉野で山篭りだな。出来れば、明日にでも出発したいところだが、薄葉君の都合は……」

右京「あ、俺は大丈夫です! バイトもここに来る前に辞めてきましたし……」

ザンキ「じゃあ、明日までに荷物を……。ああそうだ。おやっさん、今晩、来てもらえれば……」

勢地郎「おお、そうだねぇ。みんなにも紹介できるし、そりゃあ一石二鳥だ」

 目を丸くして、勢地郎とザンキを見る右京。

ザンキ「いやね、今晩、馴染みの料亭旅館で関東支部の合同宴会があるんだ。俺もそのまま泊まるつもりなので、荷物持って参加しないか?」

右京「……あ、ぜひ!!」

 何か今までにない高揚感を全身で感じ、思わず武者震いする右京だった。

 

○とある料亭旅館

 店の入口に『立花様御一行』の看板。

 

○同・大宴会場

 座敷の大広間、いくつものテーブルに豪華絢爛な料理が並び、三十名弱ほどの猛士メンバーたちが座っている。

 壇上に勢地郎が立つ。

勢地郎「え~、皆さんご苦労さん。今日は、珍しい魔化魍の退治ということで、山陰からはシキ君、関西からはミカヅキ君にも来てもらって、結構大変な仕事をやってもらいました。で、まあ、みんな集まったいい機会なので、久々にこういう宴会の席を設けたわけです。……今夜はね、部屋もいくつか取ってあるので、シキ君やミカヅキ君だけじゃなくて、酔っ払っちゃってもそのまま休めます。(周りから軽く歓声と拍手が起こる)……ま、ハメ外しすぎないようにはお願いしますよ。……あと、始める前に、ちょっと紹介しておきます」

 勢地郎、そう言うとザンキに目で合図する。

 ザンキ、隣にいた右京を連れて、壇上へと上がる。

 それを見て、少し不快そうな表情のトドロキ。

勢地郎「え~、この度、ザンキ君の呪術弟子になることになった、薄葉右京君です」

右京「(緊張した様子で)う……、薄葉右京です!! よろしくお願いします!!」

 深々とお辞儀する右京。

ザンキ「(頭を上げた右京と目を合わせた後、正面に向き直り)皆さん御存じのように、怨念の封印術は資質がモノを言います。彼は、元々鬼志望だったんですが、体質的にかなりいいものを持っていると俺が判断して、無理言って弟子になってもらいました。俺からも、よろしくお願いします!(各テーブルから拍手が起こる)……それから、トドロキ!!」

 いじけっ面だったトドロキ、ザンキの呼びかけにハッとして立ち上がる。

トドロキ「は、はい!」

ザンキ「ちょっと上がって来い」

トドロキ「え、ええ~!?」

 トドロキ、露骨にイヤな顔をしつつも、しぶしぶ壇上へと歩を進める。

ザンキ「トドロキ。お前は、俺が薄葉君を弟子に取ったために、お前のサポーターを辞めちまうと思っているだろう? ……フフフ、そんなことはないぞ」

トドロキ「(みるみる笑顔になり)え!? ホントですか!?」

ザンキ「ああ。ただ、明日から一ヶ月間は吉野へ篭るんで、その間は一人で頑張ってくれ。その後は、お前の現場に俺と薄葉君も出向くことになる。つまり、お前にも師匠としての役割を手伝ってもらうつもりだ」

トドロキ「……ザ、ザンキさん!!」

 喜色満面のトドロキ。

右京「(トドロキの方に向き直り)トドロキさん、よろしくお願いします!!」

トドロキ「こ……、こちらこそ、よろしくッス!!」

 互いにお辞儀し合って、頭をゴツンとぶつけるトドロキと右京。

トドロキ・右京「アイテ!」

 頭を押さえるトドロキと右京。

ザンキ「おいおい、しっかりしてくれよ、師匠!」

 皆の笑い声が響く。

勢地郎「よ~し! じゃあ、今夜は思う存分飲んで食べてください! かんぱ~い!!」

全員「かんぱ~い!!」

   ×   ×   ×

 各所で盛り上がる合同宴会。

 大皿の上に盛られた刺身を、奪い合うように食べるヒビキとミカヅキ。

ヒビキ「あ! ミカヅキさん、その大トロ、俺んですよ!」

ミカヅキ「何でやねん! お前さっき、一皿丸々食っとったやないか!」

 二人が言い争っている間に、トウキの息子が横からサラッと大トロを奪う。

ヒビキ・ミカヅキ「あ! あ~!!」

 おいしそうに口をモグモグさせるトウキの息子。

トウキ「……ワーハッハッハッハ!!」

   ×   ×   ×

 すっかり機嫌を取り戻して飲みまくっているトドロキ。

サバキ「オイ、ザンキよ。こんな奴にまだ人を教えんのは無理だろーが」

トドロキ「……え、そんな事ないッスよ! 俺、頑張るッス!!」

ザンキ「……まあ飲め」

 ザンキ、そう言ってトドロキのグラスにビールを注ぐ。

トドロキ「あっざーーーっす!!」

 注がれたビールを一気に飲み干すトドロキ、そしてまた料理をパクつき始める。

 と、思わず咳き込むトドロキ。

日菜佳「ト、トドロキ君!」

 日菜佳、トドロキの背中をさすりながらも怒声を浴びせる。

ザンキ「(サバキに向かって)……人に教えることで、改めて気付くことも結構あるもんだ。トドロキにとっても、いい経験になるはずだ」

サバキ「なるほどな。……あ~あ、俺も考えなきゃな~」

ザンキ「そうか。石割君、銀コースに転籍するんだったな」

サバキ「もったいねー話だよ。でもまあ、アイツのやりたいようにやんのが一番だからなあ……」

 そう言いながら、サバキはザンキとカチッと軽くグラスを合わせる。

   ×   ×   ×

 周りの盛り上がる様子を楽しげに見渡す明日夢。

ひとみ「安達君、ハイ」

 ひとみ、明日夢の小皿に唐揚やローストビーフなどを盛ってやる。

明日夢「あ、ありがと! ……ところで天美さん」

あきら「え?」

明日夢「ちょっと疑問に思ったんだけど、こんなふうにみんな集まってお酒飲んじゃったりしてさあ、もしも今どっかで魔化魍が暴れたりなんかしたら、大変なんじゃないの?」

あきら「ああ、それは一応大丈夫なんです。こういう時は、事前に近くの支部に応援を要請していますから。今夜の場合は、中部支部と北陸支部にウチのテリトリーを廻ってもらっているそうです」

明日夢「へぇ~、なるほどねぇ」

 感心する明日夢のもとへ、ヒビキがやってくる。

ヒビキ「おい明日夢、聞いてくれよ~。ミカヅキさん、ヒドいんだぜ~?」

 明日夢に愚痴を言うヒビキの後頭部に、おしぼりが飛んでくる。

ヒビキ「いて!」

 おしぼりの飛んできた方向には、ミカヅキがアカンベーする姿が……。

   ×   ×   ×

 並んで話し込んでいるトウキの妻とゴウキの妻。

 ゴウキの妻は、オメデタのお腹がもうかなり大きくなっている。

 と、そこへ香須実がビールを注ぎにやってくる。

香須実「こんばんは~。ま、どうぞどうぞ」

 香須実、トウキの妻にビールを注ぐ。

トウキの妻「ありがと、香須実ちゃん」

香須実「……えと」

 香須実、ゴウキの妻の方を見て、少し躊躇する。

ゴウキの妻「……あ、私は烏龍茶で」

香須実「ですよね~。……と、今、何ヶ月ですか?」

ゴウキの妻「丁度七ヶ月よ」

香須実「大変ですよね~。あ、大変なのはゴウキさんの方か」

トウキの妻「そうそう。サポーターが急にいなくなるのって、キツいらしいね」

ゴウキの妻「まあ、ビシッと生んで、ビシッと復帰するからね! ……ところで香須実ちゃんは、イブキ君とどうなのよ?」

香須実「え!? ……な、何ですかソレ!?」

 赤くなる香須実。

 その後も続く二人の口撃にタジタジの様子……。

   ×   ×   ×

 勢地郎、シキのグラスにビールを注ぐ。

勢地郎「やあやあ、はるばるご苦労さんだったねぇ」

シキ「ありがとうございます」

ゴウキ「シキさんは、元から山陰の出身なんですか?」

 隣にいたゴウキが話しかける。

シキ「そうですよ。実家は島根です」

勢地郎「ああ、いいとこだよね~、島根は。何たって、どじょう掬いまんじゅうがウマい!」

ゴウキ「何ですか? ソレ」

勢地郎「知らないのかい!? ゴウキ君、それはダメだよ~。コレはねぇ……」

   ×   ×   ×

 勢地郎、シキ、ゴウキの会話をチラリと見て、再び自分のテーブルの方へと向き直るダンキ。

ダンキ「おい、シキさんって、女だよな?」

ショウキ「ええ!? 男の人でしょ!?」

エイキ「う~む、俺も女だと思ってるんだがなあ……」

 ジィ~ッとシキを見つめる三人。

ダンキ「ちょっと、おやっさんに聞いてみよう」

 ダンキ、そろりそろりと勢地郎に近付いていって、後ろから勢地郎の浴衣の袖を引っ張る。

ダンキ「(小声で)おやっさん!」

勢地郎「(振り向いて)んん? 何だいダンキ君」

ダンキ「その……、シキさんって、男? それとも女?」

勢地郎「何だそんなことか。決まってるじゃないか。……実は、私も知らんのだ」

 ガクッと上半身から前に崩れ落ちるダンキ。

   ×   ×   ×

 みどりを囲んで飲む、イブキ、バンキ、そして石割。

みどり「石割く~ん、ホントに角コースから離れちゃうのぉ?」

石割「はい」

イブキ「思い切りましたよね」

バンキ「でもまあ、気持ちは分かるかな」

みどり「そっかあ。バンキ君も、勉強しながら鬼やってるわけだもんね~」

石割「サバキさんには本当に悪いと思ってるんですが……。僕の目指すところは、やはり開発部門にあるんですよね。……みどりさんという素晴らしいお手本も、近くにいらっしゃいますし」

 石割、みどりを煽てながら傍にあった日本酒を勧める。

みどり「や~もう、バンキ君ったら~」

 みどり、そう言いながら石割の背中をバンと叩く。

石割「……あの、僕、石割ですが……」

みどり「え? 何だって? イブキ君?」

イブキ「(みどりのお尻の辺りを見て)……あ! さっき抜いたばっかりのワイン、白も赤もカラッポですよ!」

バンキ「みどりさん……、酔ってますね」

みどり「ア~ハッハッハッ!!」

 高笑いするみどりから、徐々に後ずさりする三人……。

   ×   ×   ×

 様々な人と交わり、飲んだ右京、座敷の壁沿いにもたれてひと息。

右京「ふぅ~~~……」

 ふと周りを見渡すと、フブキがいないことに気付く。

 立ち上がり、キョロキョロしながら大宴会場を出る右京。

 

○同・宴会場外の廊下

 廊下に出た右京、窓際の長椅子に座って外を眺めているフブキを見つける。

右京「……フブキさん」

フブキ「(右京に気付き)……ああ」

右京「(フブキの隣に座りながら)どうしたんですか? こんなとこに一人で」

フブキ「ちょっと酔い冷まし。……どう? 実際に中に入ってみた気分は」

右京「いや……、まだよく分かんないです。でも、ホントに気合い入れなきゃ絶対無理だなって、ヒシヒシ感じますね」

フブキ「そう……」

 フブキ、かすかに微笑みながら、また窓から外を眺める。

右京「……俺のこと、フブキさんがザンキさんに口添えしてくれたんですよね?」

フブキ「私は何も言わないわよ。たまたま、ザンキさんが跡継ぎを探してたってだけ」

右京「へへっ……。そういうことにしておきます」

 右京、そう言って立ち上がり、柔軟運動のように上半身を動かす。

右京「……俺、今度の事で、自分の弱点が少し分かったような気がします。何て言うか……、もっと、しっかりした心を持てるよう頑張ります!」

フブキ「音楽に未練はないの?」

右京「ないこたぁないです。でも、振り返ってみて、卒業してからの三年間は何だったのかなあって。……夢だと思ってたものに疑問持っちゃったら、それもう夢じゃないのかなあって気もしてきて……」

 フブキ、改めて座り直し、右京を見据えて話す。

フブキ「……人が、何かを諦める時。それは、別の何かに集中したくなった時、止むに止まれぬ事情で出来なくなった時、そして、本当に諦めた時。……夢を諦めるのはツラいし、後ろ向きなことかもしれない。でもね、それが本当の夢じゃなかったんだ、自分には無理だったんだって気付くということも、新しい夢のはじまりだと思うのよね」

右京「……俺の場合は、まだよく分からないですね」

フブキ「いいのよ、それで。もし間違ってたとしても、またスタート地点に戻ればいい。それまでの経験が無駄になるってことは絶対ないんだから。…………人間にはね、やり直すのに『遅い』って時間はないのよ」

 フブキの言葉に少々感銘を受け、ボーッと立ち尽くす右京。

フブキ「……さ、夜は長いわよ。入って飲み直しましょう」

 フブキ、ニコッと右京に笑いかけながら長椅子から立ち上がる。

右京「……はい!!」

 大宴会場へ戻っていく二人。

 

○同・玄関口の外

 陽の光が眩しい、天気のいい朝。

 ザンキと右京が、それぞれ荷物を持って料亭旅館から出てくる。

 その後ろから、フブキとヒビキ。

ザンキ「じゃ、行ってくる。俺がいない間、トドロキの奴をよろしく頼む」

 ヒビキに軽く頭を下げるザンキ。

ヒビキ「りょ~かい、シュッ!」

フブキ「ところで、そのトドロキ君は?」

 ヒビキ、苦笑いしながら料亭旅館の上の方を指差す。

 

○同・三階の客間

 トドロキが、浴衣をはだけただらしない格好で、布団に転がって大イビキ。

 

○同・玄関口の外

ザンキ「……ったく、しょうがない奴だな」

 ザンキ、そう言いながらも笑みを浮かべる。

右京「じゃあ、フブキさん。(ビシッと姿勢を正して敬礼しながら)……薄葉右京、心を鍛えてきます!」

フブキ「ん、上出来」

 フブキ、右京に笑顔で敬礼を返す。

 右京、深々とフブキとヒビキにお辞儀して、ザンキとともに振り返って旅立つ。

 二人の後姿を見送るフブキとヒビキ。

ヒビキ「あの青年、うまく育ちますかねぇ」

フブキ「なるようになるんじゃない? ……そういや、明日夢君も、ブラスバンド辞めて鬼を目指すことにしたのよね?」

ヒビキ「あ~。まあ明日夢の場合は、ブラバンに深く入り込む前にこの世界の事を知っちゃったって感じですからね~」

フブキ「ドラムより、ヒビキ君の生き方に惹かれたってことなのかしら?」

ヒビキ「おっ、それって褒め言葉ですか!?」

フブキ「フフ……、さ~ね」

 珍しく柔かい表情で笑うフブキを見て、ヒビキもまた幸せいっぱいの笑顔になる。

ヒビキ「……さ~てと! そろそろ帰り支度すっかな~」

 ヒビキ、そう言いながら料亭旅館の中へと戻っていく。

 そのヒビキを背中越しに見送り、ふと空を見上げるフブキ。

 雲一つない青空は、無限の可能性を感じさせる。

 と、いつの間にか隣にいたのはみどり。

みどり「な~に黄昏てんのよ!」

フブキ「(みどりに気付き)ああ。……人って、分からないもんよね」

みどり「そうねぇ。毎日、思いもよらないことばっかり起こるよね。ま、だから人間は面白いのよ!」

フブキ「……そうだ。何年か先には、一応実用化できるようにしておいてね」

みどり「(微笑んで)分かってるって。新しい音撃管の開発ね。オーボエって、素材的にすっごく難しいんだけど」

フブキ「あなたなら大丈夫よ」

 フブキとみどり、ともに大空を見上げて伸びをする。

みどり「あ~あ! 今日もいい天気!!」

 どこまでも続く青い空。

 それは、これから修行の道に入る右京、そして明日夢やあきら、さらには全ての若者のところまで広がっている。

 若者は、夢を見て、夢を追いかけ、現実を知り、時には諦め、また夢のはじまりを見出す。

 憧れと、不安と、ときめきを乗せて、人は果てしない夢を追い続ける。

 何故?

 それは、夢を紡ぐ時が、一番素敵だから……。

   ×   ×   ×

 大空に向かって、厳しくも穏やかな表情で言い放つフブキ。

フブキ「……鍛えなさい!」

 

○仮面ライダー吹雪鬼 完

 

○エンディング曲


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