仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

2 / 13
二之巻『遡る刻』

○東星音大・キャンパス

 画面、『五年前』のテロップ。

 学内を行き交う学生たち。

 友人数人と話しながら歩く右京。

男子学生「聞いたか? あの不動明芙美が、臨時講師にやってくるんだってよ」

右京「不動明……、あ、フルートの?」

男子学生「そうそう、ウチの大学の出身なんだってさ」

女子学生「でも、あの人の喋り方ってさあ、いつもお高くってちょっとヤな感じ!」

男子学生「バッカだねぇ、そこがいいんじゃねーか」

女子学生「え~~~~?」

男子学生「なあ右京、そう思うだろ?」

右京「俺もあんまり好きじゃないかな~」

男子学生「ハッ! 大人の魅力ってのが、分かってねーなあ」

右京「……そんなもんかねぇ」

 時計を見る友人の男子学生。

男子学生「お、もうこんな時間か。次、俺ら実習だからこっちな。じゃ!」

女子学生「じゃーね~」

 実習の校舎へと向かう友人たち。

 手を振って見送る右京。

 

○同・中央掲示板

 学内の中央に位置する掲示板ホール。

 そこには、その週の各科の講義予定や各種情報が掲示してある。

 今週の講義スケジュールを眺める右京。

 その金曜一コマ目に、『音楽理論・不動明芙美 十二番教室』という内容が。

右京「実技だけじゃねーのか……」

 手帳を取り出し、メモする右京。

右京「金曜一限、十二番……と」

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 二之巻『遡る刻』

 

○吉野本部・とある一室

 一般企業の社長室のような室内。

 奥の椅子に、初老の男が腰掛けている。

 ドアをノックする音。

みどり「滝澤みどり、入ります」

 廊下からみどりの声。

 そしてドアが開き、一礼しながら部屋に入ってくるみどり。

 奥にいる男の方へと歩を進める。

 立ち上がる男。

 みどり、机を挟んで男の前にキリッとした姿勢で立つ。

男「(手に持った辞令を見ながら)滝澤みどり、本日付けで関東支部研究室長就任を命ずる」

みどり「はい!」

 辞令を差し出す男。

 それを受け取ったみどり、辞令を見て、溢れる喜びを抑えきれない表情となる。

男「滝澤さんは、もともと向こうの出身だったよね?」

みどり「はい。……と、高校卒業以来、ですかね」

男「事務局長の立花君も心待ちにしているようだ。ま、頑張ってくれよ」

みどり「はい!」

 キリッとした表情で敬礼するみどり。

 そして、ニッコリと微笑む。

 

○東星音大・教室

 講義用の大教室。

 その席は学生たちで既に満席。

 後ろの方には立っている学生までいる。

 その最前列に、右京もいた。

 ザワつく中、扉が開いて芙美が入ってくる。

 大きな拍手、そしてザワめきの中、それを全く意に介せず静かに教壇に歩を進める芙美。

 教壇で正面を向き、教室内を見渡して、わずかに口元を緩める。

芙美「皆さん、おはようございます。この度こうやって母校で講義できる機会を与えていただき、非常に光栄です。フルートの実技指導ということで招かれたのですが、理論の教授が急な出張ということで、わずか一ヶ月だけとなりますが、こちらの講義の方も、担当させていただくことになりました。どうぞよろしく」

 意外な印象に顔を見合わせる学生、自分の理想通りと頷く学生など、様々な反応を見せる教室内。

 芙美、教壇から降りて、学生たちが座り並ぶ前を歩きながら話す。

芙美「音楽は、感性でやるものだと思われがちですが、本当はそればかりではありません。そのメカニズムをしっかり理解していてこそ、人を感動させる音楽を生み出せるのです」

 芙美、最前列で話を聞いている右京に目が留まり、

芙美「……君は、何故音楽をやってるの?」

右京「(ハッとして)は、はい! ……す、好きだから、です」

芙美「そう。専攻は?」

右京「管楽器です」

芙美「何故その楽器を選んだの?」

右京「え? ……と、そうですね……」

 言葉に詰まる右京。

 芙美、その様子を見て微笑み、クルッと向き直って教壇へと戻る。

芙美「音楽とは、エネルギーの源です。……そもそも、音楽を芸術として認識するようになったのはグレゴリオ聖歌以降と言われていますが、原始世界においても、実生活及び儀式面において音楽は人間と密接な関係を持っていました。今日で言う管・弦・打楽器のごく初期の形のものも既に存在しており、必要であればこそ生まれたと言えるのです。皆さんも、本気で音楽に取り組もうとするならば、自分にとっての意義と価値観を明確にしておくようにしてください。……では、本日の講義に入ります」

 途中で突き放されてしまったような右京だったが、かえってその印象は強烈なものとなり、芙美の講義に真剣に耳を傾けた。

 凛とした表情で音楽理論を語り始める芙美。

 そして、それを熱い眼差しで見つめる右京……。

 

○同・教室前の廊下

 講義を終えた芙美が、教室の扉から出てきて廊下を歩く。

 その後ろから、二、三人の男子学生が追いかけてくる。

男子学生「不動明さん!」

 声に気付くが、立ち止まることなく歩き続ける芙美。

 男子学生たち、芙美に追いつき、横から覗き込むように併歩。

芙美「(前方を見据えたまま)ここでは、不動明先生、でしょ?」

男子学生「いいじゃん、どっちだって。いやあ、感動しましたよ、今の講義!」

芙美「そう、ありがとう」

男子学生「ねぇねぇ、一緒にお茶でも飲みませんか? 近くに洒落た喫茶店がありますよ~」

 芙美、ピタッと立ち止まって男子学生の方を見る。

芙美「唇に海苔の切れ端が付いてる。後ろ髪もハネ気味だし、ズボンの裾が破れかけてるわ。……女を誘う時は、まず身だしなみに気を配りなさい」

 そう言い放ち、芙美はその場をツカツカと去っていく。

 茫然と立ち尽くす男子学生たち。

 教室のドア近辺でその様子を見ていた右京、芙美のクールさに惚れ込んだような表情でウンウンと頷く。

 

○たちばな

 レジをたたく香須実。

香須実「はい、二百四十円のお返しでございます。ありがとうございました!」

 そう言って、お客に釣銭を渡す香須実。

 お客、店を出ていく。

勢地郎「(奥の方から)ありがとうございました!」

 香須実、レジから離れてテーブルを片付けに行く。

 と、そこでまた入口の扉が開き、勢い良く日菜佳が入ってくる。

日菜佳「たっだいま~!」

 にこやかに帰宅する制服姿の日菜佳。

勢地郎「おお、おかえり~」

日菜佳「みどりさん、もう来た?」

香須実「(食器を片付けながら)まだよ~」

日菜佳「良かった。久しぶりだもんね~、みどりさんに会うの」

勢地郎「そうかあ……。高校卒業して、すぐ吉野へ研修に行っちゃったから、日菜佳にしちゃあ八年ぶりかあ」

日菜佳「そうなのです! 早くワタシの成長した姿を見てもらいたいもんデスヨ!」

 そう言いながら、真新しい高校の制服を鼓舞する日菜佳。

香須実「ちょっと日菜佳! 悪いんだけど、早く着替えてきてくれる~? 今日、バイトさん休みなのよね~」

日菜佳「アリャリャ」

 日菜佳、顔をしかめながら奥へ引っ込んでいく。

 それを見て微笑む勢地郎と香須実。

勢地郎「……それより、香須実は進学しなくてホントに良かったのかい?」

香須実「あ~。だって、私はヒビキさんのサポーターになるんだから」

勢地郎「……スマンな」

香須実「何言ってんの、お父さん。運転手がいなくなって困ってるヒビキさん、ほっとけないでしょ。早く私が免許取って、バリバリサポートするんだから!」

勢地郎「ああ、頼んだよ」

 頼もしげに香須実を見遣る勢地郎。

 

○駅前のスーパー

 買い物カゴを持って店内を歩くみどり。

 スナックやチョコレートなど、お菓子ばかりを次々とカゴに入れていく。

 カゴが満タンになり、みどりが投げ入れたキャンディーの袋が滑り落ちる。

みどり「あらら~」

 みどり、キャンディーの袋を拾い上げ、廊下に積んである空の買い物カゴを一つ取って、その袋を放り込む。

    ×   ×   ×

レジ係「いらっしゃいま……」

 レジカウンターに、お菓子だけが山盛りに入ったカゴを二つドンと置くみどり。

 少しア然とした表情となる、レジ係の女性。

 

○柴又の商店街

 お菓子の入った大きな袋を両手に持って歩くみどり。

 キョロキョロと、懐かしむように周りを見ては微笑む。

 

○たちばな・店舗前

 みどりが歩いてきて、入口の扉の前に立ち止まる。

 大きく息をして、

みどり「……よし!」

 扉を開けて中へ入るみどり。

 

○同・店頭

みどり「こんにちは~」

 入口からみどりが入ってくる。

 その声に振り向く、勢地郎、香須実、そして日菜佳。

勢地郎「おお、来たか」

香須実「お久しぶりです!」

 日菜佳、そそくさとみどりに近付き、ペコッと頭を下げる。

みどり「……え? 日菜佳ちゃん、なの?」

日菜佳「ハイ! 日菜佳でございます!」

 顔を上げて笑う日菜佳。

みどり「うわあ、見違えちゃった! ……いくつになったの?」

日菜佳「今年、高一になりました! ……ああ、今年、十六になります!」

 クスッと笑う香須実。

みどり「そっかあ。もう八年も経つんだもんねぇ……」

日菜佳「(みどりの持っている袋を見て)んで、これは何です?」

みどり「ああ! これはぁ、大事なものよぉ」

香須実「相変らずねぇ、みどりさん」

日菜佳「……あ、私、部屋に持っていっておきます!」

 そう言って、みどりの持っていた袋を両手から取ろうとする日菜佳。

みどり「あ、ありがとう」

 日菜佳、お菓子袋を抱えて、奥へと引っ込んでいく。

 みどり、勢地郎の方へ歩み寄り、姿勢を正して敬礼。

みどり「滝澤みどり、この度、猛士関東支部の研究室長に任命されました。よろしくお願いします!」

 頭を下げるみどり。

勢地郎「ああ、よろしく。頼りにしてるよ」

みどり「はい!」

 

《CM》

 

○コンビニの駐車場

 一台の原付が走ってきて停車。

 ヘルメットを脱いで、その顔を露にしたのは右京。

 と、コンビニから出てきた女性にふと目を遣る。

 フブキだ。

右京「……あ」

 ちょっとしゃがんで、ヘルメットの後ろで顔を隠す右京。

 フブキ、駐車してある専用バン・結晶の方へ向かい、ドアを開けて乗り込む。

 結晶のエンジンがかかる。

 右京、再びヘルメットを被り、キーを回して原付のエンジンをかける。

 発車していく結晶。

 そして、少し間を開けて、右京の原付がその後を追う。

 

○道路

 疾走するフブキの結晶。

 そして、追走する右京の原付。

 

○とある湖畔

 結晶が停車。

 フブキ、運転席から降りて、空を見上げる。

 一方、右京はそこから少し離れた林の中に原付を止める。

 ヘルメットを脱いで原付から降り、木々の間からしゃがんでフブキの様子を覗き込む右京。

 フブキ、腰からディスクを取り外し、音笛を吹く。

 丸いディスクが浅葱鷲に変型し、空へと飛び立つ。

右京「……い、今のは!?」

 一連のフブキの動きを見て戸惑う右京。

 と、右京の背後から、突如童子の声が!

童子「おいしそうだねぇ」

 驚いて振り向く右京。

 右側に、赤い衣裳の童子。

 そして、左側には白い衣裳の姫の姿も。

姫「いただいちゃいましょう」

 ジリジリと、右京に詰め寄る童子と姫。

 右京、恐怖を感じて林から飛び出す。

 フブキ、その物音で右京の方を見る。

右京「せ、先生!」

フブキ「(怪訝な表情で)君は……」

 林から童子と姫も出てくる。

 と、二人の体が怪童子と妖姫に変化!

 そして、怪童子が右京に襲いかかる。

右京「うわっ! 何なんだ!? コイツら」

 フブキ、左腕のブレスレットから素早く手裏剣を取り出して童子に投げつける。

 手裏剣が当たってたじろぐ怪童子、右京から離れる。

フブキ「逃げなさい! 早く!」

 腰をグラつかせながら、四つん這いのままその場を逃げ出さんとする右京。

 一方、怪童子はフブキに襲いかかる。

 格闘になるフブキと怪童子。

 その間、今度は妖姫が右京の体に覆い被さっていく。

右京「うわああああああ!」

フブキ「クッ! ……仕方ない」

 フブキ、チョップで怪童子を蹴散らし、音笛を吹いて額へと持っていく。

 フブキの体が真っ白な吹雪に包まれる!

 風圧で後ずさりする怪童子。

 そして、吹雪の舞を手刀で断ち切って、仮面ライダー吹雪鬼、見参!

 再び手裏剣を妖姫に投げつける吹雪鬼。

 背中に命中し、思わず右京から離れる妖姫。

 間髪入れず、その妖姫に吹雪鬼が飛びかかる。

吹雪鬼「早く! 早く逃げるのよ!」

 右京、恐怖と驚きが交錯したまま、林の方へと逃げていく。

 吹雪鬼、妖姫に向かって口から目晦ましの吹雪を吹射!

 たじろぐ妖姫。

 吹雪鬼、両手を前で交差させて気合を溜める。

 すると、その右手が銀色に輝き始める。

吹雪鬼「ハァーーー!!」

 吹雪鬼、妖姫に飛びかかってチョップ一閃!

 銀色の弧を描いて妖姫を切り裂き粉砕!

 そして、すぐさまジャンプする吹雪鬼。

 空中で一回転し、今度は銀色に輝く右足で怪童子に向かってキックを浴びせかける!

怪童子「グワッ!」

 キックが命中した怪童子は、二、三歩後ずさりしたかと思うと、キックの当たった箇所から全身にヒビが行き渡り、そして粉砕!

 恐る恐る林の中から覗いていた右京、その様子を見て思わず息を呑む。

 着地して跪いていた吹雪鬼が、ゆっくりと立ち上がる。

 と、前方の湖からイッタンモメンが飛び出した!

右京「ひぃぃ!」

 思わず腰を落とす右京。

 吹雪鬼、フルート型音撃管・烈雪を縦に構える。

 上空ではばたくイッタンモメン。

 その体めがけて、吹き矢のように烈雪で鬼針を吹射する吹雪鬼。

 次々とイッタンモメンに突き刺さっていく鬼針。

 うめき声をあげるイッタンモメン。

 吹雪鬼、烈雪を横に持ち直して、ベルトから音撃鳴・さざれを取り外し、烈雪に取り付ける。

 烈雪を口元に当てて、フルートを奏でる吹雪鬼。

 その音色が辺り一面に響き渡り、イッタンモメンに突き刺さった鬼針が反応する。

 伝道する音撃の威力。

 そして……、爆発!!

 烈雪を口元から下ろして、顔の変身を解くフブキ。

 林の中から、右京が恐る恐る出てくる。

 フブキ、それに気付いて少し呆れた表情になる。

フブキ「逃げろと言ったでしょうに……」

右京「一体、今のは……」

 首から下が変身体のフブキを、ア然とした表情で見つめる右京。

フブキ「ふぅ……。一度しか言わないから、須く理解してちょうだい」

 

○たちばな

 閑散時間の店内では、香須実と日菜佳がくつろいでいる。

 入口の扉が開き、ヒビキが入ってくる。

ヒビキ「ただいま~」

香須実「あ、ヒビキさん、お帰りなさい! みどりさん、来てるわよ」

ヒビキ「お、そうか!」

 そう言って、奥へと入っていくヒビキ。

 

○同・地下研究室

 器具を整理して、机や棚を片付けているみどり。

 と、そこへヒビキが入ってくる。

ヒビキ「よっ!」

みどり「あ、ヒビキ君! 久しぶり~」

 ヒビキ、軽やかな足取りで散らかる荷物を掻き分けてみどりに近寄り、丸椅子の上に腰を下ろす。

 みどり、片付けを中断して椅子に座り直す。

ヒビキ「しっかし、まさかみどりが室長とはねぇ……」

みどり「(微笑みながら)どういう意味よ」

ヒビキ「ヘヘッ。……まあ、頼りにしてますんで、よろしくな!」

 シュッのポーズをとるヒビキ。

みどり「……でもね、ここまで来れたのもヒビキ君のおかげよ。やっぱり、ヒビキ君も頑張ってるって思ったら、挫けなかったもんね」

ヒビキ「何を仰います、みどりさんの実力でしょ」

 そう言いながら、照れ隠しに目の前の器具を弄ぶヒビキ。

みどり「……あ、そうそう! 一応、事前に調べてはきたんだけどさあ……」

 そう言いながら、バッグからファイルをいくつか取り出すみどり。

みどり「関東支部って、今九人体制よね?」

ヒビキ「ああ。でも、サバキさんについてるバンキがそろそろ独り立ちしそうだし、こないだ変身検定受かったイブキが、年内には配属になるって噂だ。そうなりゃ十一人だな」

みどり「そっかあ……。それだけいると武器の種類も豊富だし、それぞれみんなの戦い方の特徴が分かってないと、うまくサポートできないのよねぇ……」

ヒビキ「なるほどなあ」

 と、そこへ勢地郎が入ってくる。

勢地郎「お、やってるな~?」

ヒビキ「(振り向いて)あ、おやっさん」

勢地郎「関東支部所属員の資料だ」

 そう言って、分厚いファイルをみどりに手渡す勢地郎。

ヒビキ「おお! 今ね、丁度その話をしてたんですよ」

勢地郎「いやあ、しばらく専属員がいなくて苦労してたんだ。これから、しっかり頼むよ~?」

みどり「はい! 任せてください!」

 敬礼するみどり。

 そして、勢地郎から渡されたファイルを開いて、マジマジと眺める。

みどり「フムフム……、なるほど。太鼓の鬼は、ヒビキ君をはじめ、ゴウキさん、ダンキさん、エイキさんと充実してるわね。弦は、サバキさんとザンキさん。……で、管がトウキさんとショウキさん、と。……フブキさん……というのは?」

勢地郎「ああ、その人も管の鬼だよ。フルートを使うんだ」

みどり「へぇ……。どんな人?」

勢地郎「え!?」

 絶句する勢地郎、思わずヒビキの方を見遣る。

ヒビキ「どんなって……、ねぇおやっさん」

 ヒビキ、ちょっと苦い顔つき。

 二人の様子を見て、キョトンとするみどり。

 

○とある湖畔

 話を聞き終わって、驚嘆の表情の右京。

フブキ「……というわけなのよ。で、悪いんだけど、今日の事は全部忘れてほしいのよね。よくあるSFマンガなんかだったら、ここで記憶を消す光線か何かをバァーッと浴びせかけたりするんだろうけど、あいにくそういうのは持ち合わせてないの。だから、君の意思で、秘密を守ってほしいってわけ。一応、裏の組織なんでね、表沙汰になるわけにはいかないの。……ああ、さっき言ったフブキって私の呼び名は、コードネームのようなものね」

右京「は、はあ……」

フブキ「君、こないだ私の講義の時に、私に質問されたコね?」

右京「……はい!」

フブキ「何故音楽をやってるのか? と聞かれて好きだからと答えた。そして、専攻を管楽器にした理由を聞いたら言葉に詰まった……」

 右京、バツが悪そうに下を向く。

フブキ「フッ……。それでいいのよ。好きだからやっていると即座に言えて、選んだ楽器に安易に理由を付けたりしない。その純粋さが、きっといい音楽を生み出すことになる。……そんな君だから、私はさっき全てを見せたのよ。君なら、秘密は守ってくれるわよね?」

右京「……は、はい! もちろん!」

フブキ「(頷いて)じゃ、私の話はこれでおしまい。気を付けてお帰んなさい」

 そう言って、駐車してある結晶に戻ろうとするフブキ。

右京「……ま、待って下さい!」

 前に手を出して、フブキを呼び止める右京。

フブキ「ん?」

 立ち止まるフブキ。

右京「先生。……いや、フブキさん! 俺、今すっごく感動してます! 音楽の世界でも超一流のあなたが、一方でこんな大変な仕事までしてたなんて……」

 わずかに微笑むフブキ。

右京「その……、俺もずっと、フブキさんのような、本当の人助けになる仕事ってのに憧れてたんです。高校出て、警察学校入ろうとも思ったんですが、音楽やりたいって思いも捨て切れなくて……」

 必死の様子で話す右京。

右京「……この、鬼の仕事、それから音楽の方も含めて、……俺を、弟子にとってくれませんか!?」

 フブキ、黙って右京の目をジッと見つめる。

右京「お願いします!」

 姿勢を正し、頭を下げる右京。

 フブキ、クルッと後ろを向いて、

フブキ「……君には、まだまだ覚悟が足りないわ」

右京「君……。お、俺の名前は、薄葉右京です! フブキさん!」

フブキ「(歩きながら)右京君、大学で私のことを、くれぐれもフブキさん、なんて呼ばないようにね」

 後ろ手でバイバイのポーズをとりながら右京から離れ、結晶に乗り込んでいくフブキ。

右京「あ……」

 激しく鳴り響くエンジン音。

 そして、その場を走り去る結晶。

 立ち尽くしたままの右京……。

 

○道路・結晶の中

 疾走する結晶。

 運転しているフブキ。

フブキ「弟子、か……。ちょっと、懐かしい響きだったわね」

 意味ありげに微笑むフブキ。

 そして、勢い良く走り去っていく結晶。

 

○二之巻 完

 

○エンディング曲

 

○次回予告

 大学キャンパスで話すフブキと右京。

右京「先生、俺、諦めませんよ」

 魔化魍退治を終えて歩くサバキとバンキ。

サバキ「で、どうすんだ? 大学の方は」

 たちばな地下研究室で顔を合わせるフブキとみどり。

みどり「あなたが、フブキさん……」

 三之巻『導く運命』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。