仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

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九之巻『荒ぶる血筋』

○たちばな

右京「……俺、フブキさんの弟子になりたいんです」

 右京の言葉に驚く香須実と日菜佳。

みどり「(冷静に)弟子って……、あなたもフルートを?」

右京「いえ。そっちじゃなく、今専属でやってらっしゃる仕事の方です」

 思わず顔を見合わせる香須実と日菜佳。

みどり「(焦った笑みを浮かべながら)えっと……、何の、ことかなあ?」

右京「とぼけなくたっていいですよ。……俺も、鬼として人助けする仕事がしたいんです!」

 思わず沈黙するみどり、香須実、そして日菜佳。

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 九之巻『荒ぶる血筋』

 

○たちばな

 みどり、ジッと右京の目を見て、大きな溜め息をつく。

みどり「……ハァ~。右京君、君さあ、鬼がどういうものだか分かってる?」

右京「五年前、フブキさんの戦いっぷりを見ましたから」

 驚いて顔を見合わせる香須実と日菜佳。

みどり「それだけで、鬼の何たるかを分かったつもりなの?」

右京「フブキさんに、何回か色んな話を伺いました。あの時、フブキさんが鬼として人間を守っているってことを知ってから、俺ずっと弟子入りを頼んできたんです。……でも、フブキさんは受け入れてくれませんでした。俺の気持ちが、中途半端だと思ったんでしょうね。俺も、フブキさんのように音楽と鬼の両方を極めたい!って思ってましたから……。それでも、フブキさんは俺に『鍛えなさい』って言うばっかりで全然相手にしてくれない……」

みどり「……それで?」

右京「だから俺、フブキさんに言われたように、まずは音楽を!と思って、卒業してからもずっとオーボエに没頭してきました。……だけど、最近迷ってきたんです。俺がホントにやりたいことはどっちなんだろうかって。そんな時、こないだここでフブキさんに久しぶりに会って、俺改めて実感したんです。やっぱり俺は、この仕事がしたい! 鬼になって、人間の自由を守りたい!って……」

 圧倒されている香須実と日菜佳。

 みどり、再び右京の目をジーッと見据える。

みどり「……あのね右京君。これはね、そう簡単にできる仕事じゃないわよ?」

右京「分かってます! 俺、どんなことでも頑張ってやり抜くつもりです! ……フブキさん、次はいつ来るんですか!?」

みどり「う~ん……。しばらく来ないんじゃないかなあ。その、ここにはね、あんまり来ないのよ」

右京「……俺、フブキさんの自宅の場所も、知ってますよ」

 ドキッとする三人。

右京「でも、自宅まで押しかけるような真似は、もうしたくないんです」

 そう言って立ち上がる右京。

右京「また来ます」

 右京、店から出ていく。

みどり「ハァ~……」

 溜め息をつきながらへたり込むみどり。

香須実「……みどりさん、事情知ってたんですか?」

みどり「まあねぇ……。でも、まさか未だにそんな気持ちだったとは思わなかったけど……」

香須実「なんか、ますます明日夢君っぽいですね~」

みどり「でも、明日夢君と違ってな~んか歓迎ムードじゃないのよね~」

日菜佳「そうデスカ? 悪い人じゃなさそうですけど……」

みどり「それはそうなんだけど……。何て言うのかな、学校出てから、音楽家目指して勉強してるって聞いてたんだけど、三年間進展なしでしょう? ちゃんと就職してるわけでもない。……フリーターが悪いってわけじゃないけどさぁ、何かこう、芯ってモンが感じられないのよねぇ……」

 と、入口の扉が開いて、ヒビキと明日夢が入ってくる。

ヒビキ「ただいま~!」

香須実「(振り向いて)あ、ヒビキさん、お帰りなさ~い!」

 

○同・地下作戦室

 電話で話している勢地郎。

勢地郎「……ああ、そう。そいつは、参ったねぇ……。ウン。ま、とにかく、よろしく頼むよ。……はい、じゃ」

 電話を切って、腕組みして考え込む勢地郎。

勢地郎「今度は琵琶かあ……」

 と、階段からヒビキと明日夢が現れる。

ヒビキ「おやっさん、ただいま!」

勢地郎「おお、お帰り。ご苦労さん。や、明日夢君もご苦労さん。……どうだい? だいぶ慣れてきたかなあ?」

明日夢「はい! ……いや、でも何かヒビキさんの足引っ張ってばかりで」

ヒビキ「そんなことないぞ? よく頑張ってるって。……まあ、まだまだ先は長いからなあ」

勢地郎「そうそう。焦らないで、頑張るんだよ?」

明日夢「はい!」

 ヒビキ、中央の椅子に腰掛けながら、

ヒビキ「そういや、ミカヅキさんが来てるんですって?」

勢地郎「(椅子に座りながら)ああ、そうなんだ。ちょっと助っ人にね。……ホウキ君も一緒だよ」

ヒビキ「ホウキ……。ホウキってぇと……、あ! 一時期フブキさんが教えに行ってたあのホウキですか!?」

勢地郎「そうそう。よく覚えてるねぇ」

ヒビキ「そりゃそうですよ! あん時はまだ九人体制でしたから、フブキさんの出張の穴、俺が埋めたんですよお? 確か、半年くらい休みなしだったんじゃないかなあ」

勢地郎「そ……、そうだったかな?」

 とぼける勢地郎。

ヒビキ「オイ明日夢。この組織はな、結構平気でムチャやらせるから、気をつけた方がいいぞ~?」

明日夢「は、はあ……」

 苦笑いの明日夢。

ヒビキ「……ところで、変な魔化魍が出てるんですって?」

勢地郎「そうなんだ。さっき、フブキ君から連絡があったんだが、また新手の奴が出てきたってことらしい……」

 

○とある森の中

 フブキ、ミカヅキ、ホウキの三人がベースキャンプを張っている。

 ミカヅキ、赤と銀のディスクをトランプのように簡易テーブルの上に並べる。

ミカヅキ「今までの傾向からして、無機物魔化魍の行動範囲はごっつい狭いんですよ。せやから、この辺を虱潰しにあたったらすぐ見つかると思いますよ」

フブキ「了解です」

 フブキも、ディスクアニマルのケースを開けてそのまま地面に置く。

 ミカヅキ、腰から音笛を抜いてひと吹きすると、机の上に並んでいた赤と銀のディスクが次々とアニマル化。

 赤の方はトカゲのような形態に、銀の方は人型のロボットのような形態に変化した。

 ミカヅキの専用ディスクアニマル、真朱竜(しんしゅりゅう)と銀蟷螂(ぎんかまきり)だ。

 真朱竜は地面を這って草むらへと消えていき、銀蟷螂は忍者のように高々とジャンプしながら木々の間へと消えていく。

 一方、フブキも音笛を吹いて、浅葱鷲を飛ばす。

ホウキ「じゃあ、ワタシは例の女の行方をあたります」

ミカヅキ「オッケー。何かあったら連絡するわ」

 ホウキ、長い髪を頭の上で器用にまとめながら、謎の女の捜索に向かう。

   ×   ×   ×

 森の中を歩くホウキ。

 ホウキの脳裏に、吉野本部での状景が浮かぶ……。

   ×   ×   ×

《回想・猛士吉野本部》

 本部の研究室で、バッグに荷物を詰めているホウキ。

 と、部屋の逆側でPCに向かっている同僚たちの声が聞こえてくる。

同僚の女A「何? あのコ、また出張?」

同僚の男B「おんのかおれへんのか分かれへんな」

同僚の男C「まあ、バイトみたいなもんだからね」

同僚の男B「せやけど、本職でやってへんくせに、出張は一人前やもんな」

同僚の女A「シッ! 聞こえるわよ」

 チラリとホウキの方を見て、再び作業を続ける同僚たち。

 ホウキ、平然とした表情でバッグを持って立ち上がる。

ホウキ「では、行ってきます」

同僚の男C「(振り向きもせず)ああ、行ってらっしゃい」

 ホウキ、中空に深々と礼をして部屋を出ていく。

《回想・ここまで》

   ×   ×   ×

ホウキ「(……アンタらなんかに、ワタシの気持ちが分かってたまるもんかい!)」

 黙々と歩き続けるホウキ……。

 

○たちばな・地下作戦室

 中央の机で向かい合って話し込んでいる勢地郎、ヒビキ、明日夢。

ヒビキ「……ふうん。じゃ、ホウキに至るまでずっと、その一族を見張ってるわけですか……」

勢地郎「そうだね」

 考え込むヒビキ。

明日夢「ヒビキさん?」

ヒビキ「……おい明日夢、おかしいと思わないか? こういうやり方って、罪人の一族はみんな罪人だって決めつけてるみたいじゃないか。そりゃあ、今回はそのおかげで変な魔化魍の糸口が掴めたかもしれないけど、これが猛士のやり方なのかと思うと、俺はちょっと……」

勢地郎「ヒビキ……」

 真剣な表情になる三人……。

 

○森の中・女を捜索するホウキ

 怪しげな小屋や倉庫を順々にあたっていくホウキ。

 と、とある崩れかけた小屋の陰に、例のおかっぱ頭の女を発見する。

ホウキ「あっ!」

 女に近付くホウキ。

 一方、おかっぱ頭の女はホウキを見据えたまま立っている。

 と、女の目の前二メートルほどのところで、ホウキは突如足元から崩れ落ちる。

ホウキ「……わっ!」

 ホウキ、その踏んだ地面が丸く崩れ落ちて、落とし穴のようなものに真っ逆さまに落下。

 どうやら、枯れた古井戸をおかっぱ頭の女が落とし穴にしていたようで、ホウキはその深い底で尻餅をついてしまう。

ホウキ「アイタタタ……」

 古井戸の上から、ホウキを覗き込む女。

ホウキ「(上を見上げて)ちょっと! どーゆーつもり!?」

 黙ってホウキを見つめる、おかっぱ頭の女。

 

○同・ベースキャンプの地

 地を駆ける銀蟷螂。

 シュッと忍者のようにジャンプし、ミカヅキのいるテーブルへと降り立つ。

ミカヅキ「お、戻ったか」

 ミカヅキ、音笛を開いて手前に差し出すと、銀蟷螂はスッと飛び上がってディスク化し、その上に落下。

 ディスクを回すミカヅキ。

 フブキもそこへ近付く。

フブキ「どうですか?」

ミカヅキ「……当たりは当たりなんですが、何かヘンな音が混じってるよーな……。まあ、とりあえず行ってみましょか」

フブキ「はい」

 ミカヅキ、鍵盤ハモニカ型音撃管・明星を背中に背負うとともに、ホウキの三味線型音撃弦・風月(ふうげつ)も携え、フブキと一緒に歩き出す。

ミカヅキ「電話電話、と……」

 ホウキの携帯電話に電話するミカヅキ。

ミカヅキ「……あれ?」

フブキ「どうしました?」

ミカヅキ「留守電」

 そう言いながら、携帯電話をフブキの方へ掲げるミカヅキ。

ミカヅキ「電波悪いんですかね? 途中でまたかけてみましょ」

 出発するフブキとミカヅキ。

 

《CM》

 

○森の中・廃小屋近く

ホウキ「アンタ……、アンタが魔化魍操ってんねやろ!? 何でやの!? 何でそんなことを……」

 古井戸の底からおかっぱ頭の女に向かって必死に問いかけるホウキ。

 しかし、女は無表情でジッとホウキを見つめたまま。

ホウキ「ちょっと……、何とか言いーや!!」

 と、女はスッと姿を消したかと思うと、手に持ったスコップで古井戸の中へ周りの土をバサバサと入れ始めた。

ホウキ「……ちょっ!! やめんかコラッ!」

 降ってくる土を手で避けながら叫ぶホウキ。

 と、そこへフブキとミカヅキの姿が。

フブキ「(おかっぱ頭の女を見つけて)は! あの女……」

 おかっぱ頭の女、フブキらに気付いて振り返る。

ミカヅキ「おい! お前そこで何やってんねん!」

 ミカヅキの声にハッとするホウキ。

ホウキ「……ミカヅキさん!」

 女の足元から響くホウキの声。

ミカヅキ「え? ホウキ?」

 と、どこからともなく鈍い琵琶の音色が聞こえてきた。

ミカヅキ「ムッ!?」

 辺りを見渡すミカヅキとフブキ。

 すると、二人の頭上高くからビワノセイがフワフワと降りてくる!

ミカヅキ「ボクらに音で対抗しようなんて、それはちょっとおこがましいんとちゃうかな~。……いきますよ、フブキさん」

フブキ「はい」

 ミカヅキとフブキ、同時に音笛を吹く。

 光の輪がミカヅキを包み、白い吹雪がフブキを包み込む!

甕月鬼「ジョアッ!」

吹雪鬼「ハッ!」

 掛け声とともに手刀でそれぞれの変身結界を断ち切り、甕月鬼、吹雪鬼が鬼化!

 甕月鬼は頭部の刃角を外して手に持ち、吹雪鬼はフルート型音撃管・烈雪に念を送ってソードモードに変化させて、空中に浮かぶビワノセイにジャンプして斬りかかる!

 素早い動きで、二人の攻撃を巧みに避けるビワノセイ。

 と、ビワノセイはまたしても手持ちの琵琶をかき鳴らす!

 周囲に響き渡る鈍い琵琶の音色。

吹雪鬼「ウッ……」

甕月鬼「何やこの周波数は!? こ……、これがさっきの変な音の正体なんか……!?」

 跪いて頭を抱える吹雪鬼と甕月鬼。

 その光景を見て、ニヤッと笑うおかっぱ頭の女。

 と、女の後ろの木が、突如ガタガタと揺れ始め、その上部からニョキっと白い首が飛び出し、幹を左右に大きく広げて動き出した!

 ヌリカベだ!!

吹雪鬼「な……!!」

甕月鬼「そっか! アイツの音が混じってたんか!!」

おかっぱ頭の女「(振り向いて)キャーー!!」

 その場に尻餅をつくおかっぱ頭の女。

 ヌリカベ、ズシンズシンと女に近付いていく。

 古井戸の中で気配を感じ取っていたホウキ、体から土をはらって立ち上がる。

ホウキ「くそっ!」

 左手首の音錠を鳴らすホウキ。

 そのまま左腕を高々と上げてクルッと回すと、花吹雪が井戸中に広がっていく!

 古井戸の上部まで立ち込める花吹雪が外へも溢れ出て、一瞬ピカッと光を放つ。

縫鬼「ヤッ!」

 鬼化した縫鬼が、古井戸の中から驚異のジャンプ力で飛び出し、おかっぱ頭の女に襲いかからんとしているヌリカベに、手首のブレスレットから鬼針を発射!

 鬼針がいくつか背中に命中したヌリカベは、思わず動きを止める。

 着地した縫鬼、背中から音撃撥・艶花(えんか)を取り出して、ヌリカベに斬りかかる!

 一方、ビワノセイの狂音に苦しむ吹雪鬼と甕月鬼。

 甕月鬼、跪いたまま頭部から外した刃角をビワノセイに向かって投げる。

 しかし、うまく照準が定まらない。

吹雪鬼「み……、甕月鬼さん……。縫鬼に、風月を……!!」

甕月鬼「あ、そやった! ……縫鬼!!」

 甕月鬼、足元に置いていた縫鬼の音撃弦・風月を拾って縫鬼に投げ渡す。

 縫鬼、風月をキャッチして、さらに四方八方からヌリカベに向かって鬼針を撃ち込んでいく!

 一方、吹雪鬼は狂音に苦しみながらもビワノセイの形態を凝視する。

吹雪鬼「(あの人型の影部分……、あそこだけは無機物ではないはず……。あそこを狙っていけば……)」

 吹雪鬼、烈雪を縦に口元にあて、思いっきり鬼針を吹射!

 甕月鬼、それを援護するように、腕を回して飛ばした刃角を遠隔操作!

 甕月鬼の刃角を避けていくことで、逆に吹雪鬼の鬼針がビワノセイの人型部分に命中していく!

 吹雪鬼、烈雪を横に持ち替え、ベルトの音撃鳴・さざれをそこに取り付けて麗麗とフルート音撃を奏でる!

 鬼針の食い込んだビワノセイの人型部分が、吹雪鬼の音撃を受けてガクガクと揺れ動く!

 そして、ビワノセイは空中で激しい音とともに四散!!

 と、黒いオーラに包まれた魔化魍琵琶が地上にカターンと落ちる。

甕月鬼「今や!」

 甕月鬼、明星のチューブをその魔化魍琵琶に向け、金色の音撃球を発射!

 魔化魍琵琶の直前でバッと弾けた音撃球は、そのまま金色の粒子となって魔化魍琵琶を包み込む!

 甕月鬼、ベルトから音撃盤・諸星をを外して地面に埋め込み、ググッと膨らみ上がったピアノ台に明星を取り付ける。

 大きく広がる明星の鍵盤!

甕月鬼「音撃弾・熱岩即興!」

 細やかな早弾きでピアノ音撃を奏でる甕月鬼。

 金色の球体に包まれた魔化魍琵琶は、甕月鬼の音撃波動を受けてバチバチッと火花を散らす!

 そして……、爆発!!

 倒れこんでいたおかっぱ頭の女、粉々に砕け散ったビワノセイを見て愕然とする。

 と、そこに覆い被さらんと近付くヌリカベ!

おかっぱ頭の女「……いやっ!!」

 間一髪、縫鬼が素早く滑り込んで女を抱え込み、その場を脱出!

縫鬼「……ジッとしとき」

 女を降ろし、立ち上がって風月にベルトから音撃震・花鳥(かちょう)を外して取り付ける縫鬼。

縫鬼「音撃節・絡繰無常」

 縫鬼、風月を体の前で構えると、右手に持った音撃撥・艶花で三味線音撃を奏で始める!

縫鬼「雨が降ったらぁ、傘を差す」

 ベン♪

縫鬼「辛い話はぁ、胸を刺す」

 ベベン♪

縫鬼「娘十八ぃ、紅を注す」

 ベベベン♪

縫鬼「魔がさす、棹さすぅ、将棋さす」

 ベンベベン♪

縫鬼「世間の人はぁ、指をさす」

 ベベベンベン♪

 ヌリカベの周りを歩きながら、三味線音撃を奏でる縫鬼。

縫鬼「世の魔化魍にぃ」

 ベ~~~ン♪

縫鬼「とどめ刺す!」

 止めのひと弾きを奏でる縫鬼!

 と、ヌリカベに撃ち込まれていた鬼針が絡繰無常の音撃に共鳴して全身に伝導!

 そして……、爆発!!

   ×   ×   ×

 顔の変身を解き、地面に伏したまま放心状態のおかっぱ頭の女のもとへと近付くホウキ。

 涙を流しながら、ワナワナと震える女。

 そこへ、同じく顔の変身を解いたフブキとミカヅキも近付いてくる。

ホウキ「もう懲りたやろ。魔化魍っちゅーのは、人間をエサにしてんねやで? それを利用していいことなんかあるはずないんやから」

 おかっぱ頭の女、涙目で振り返り、キッとホウキを睨む。

おかっぱの女「あなたなんかに……、あなたなんかに私の気持ちが分かってたまるもんですか!!」

 ホウキ、自分が同僚に対して感じていた気持ちと同様のことを言われ、思わずドキッとしてしまう……。

 

○たちばな・地下作戦室

 一人、座って考え込む勢地郎。

 しばらくの後、立ち上がって電話のところへ行き、どこかへかけ始める。

勢地郎「……ああ、もしもし。関東支部の立花です。やあ、どうもご無沙汰しております。……あ、いえ。そっちの方は順調に。実はですね、ホウキ君のことでちょっとお話が……」

 

○土手沿いの道

 並んで歩くヒビキと明日夢。

ヒビキ「明日夢」

明日夢「はい?」

ヒビキ「俺たち鬼の役目は……、いや、猛士としての役割は、人間を守るってことだ」

明日夢「はい」

ヒビキ「悪い人間ってのも確かにいるし、悪いことが起こってしまうのも世の中だ。だけどな、人を疑うことからは、何も生まれないと思うんだよな。……人を守るってことは、人を信じることから始まるんじゃないかって……。分かる?」

明日夢「な、なんとなく……」

ヒビキ「なんとなく……、か。……ハハッ。ま、いいか!」

 ヒビキ、明日夢の肩をガシッと掴んで、にこやかに歩き続ける。

 

○森の中・廃小屋近く

 涙声で語り出すおかっぱ頭の女。

おかっぱ頭の女「……私の家系は、昔から何故かずっと周りから虐げられてきたわ。代々まともな仕事にも就けなかった。それが罪人の子孫だからってことを聞かされたのは、八歳の時。その上、何だかいつも誰かに見られているようなフシもあったわ」

 ピクッとするホウキ。

おかっぱ頭の女「変だと思って、家に残っていた昔の記録や先祖の資料を色々と調べたのよ。そしたら、人殺しの末裔だからってことで、妙な組織の監視がついているみたいだってことが分かった。……そう、あなたたちのことよ!」

ホウキ「それは……」

おかっぱ頭の女「言い訳なんて聞きたくないわよ。……警察にもストーカー被害だって何度も相談したわ。でも全然相手にしてくれない。どうせあなたたちが手を回してたんでしょ」

ホウキ「違う! そんなことはしてない!」

おかっぱ頭の女「どうだか……。挙句に、どこに勤めても変な噂が立つし、両親はノイローゼ気味になってまともに働くことも出来なくなった。でもお金だけはあった。先祖代々持っていた山を売ったおかげで、お金はうなるほどあったのよ。だから、私は先祖の資料を懸命に解読して、お金の力で実験を繰り返して化け物を造っていったわ……。この化け物たちで、私たち一族をメチャクチャにしたあなたたちに復讐してやろうと思ったのよ! それが悪いって言うの!? 同罪じゃないの……!!」

 狂気の表情で叫ぶ女。

 圧倒されて言葉の出ないホウキ。

 と、ミカヅキが一歩前へ出る。

ミカヅキ「……それはちゃうで。確かに、こっちのやり方も問題あったかもしれへん。せやけど、だからっちゅうて化けモンと同化してえーわけないやろ。アンタも人間やろうが。人間としての誇りがあったら、耐えていくのが人生ってもんとちゃうんか!?」

おかっぱの女「……詭弁よ」

 と、ここでフブキがツカツカとおかっぱ頭の女に歩み寄る。

 女の前に立ちはだかるフブキ。

 見上げるおかっぱ頭の女。

 と、女の頬を思いっきり引っ叩いたフブキ!

おかっぱ頭の女「……ウッ!!」

 バッタリと倒れるおかっぱ頭の女。

フブキ「甘ったれてんじゃないわよ!! どんな理由があろうと、あなたのやったことが許されるわけないわ。それが分からなくて偉そうなことは言えないわよ」

 フブキの言葉をうな垂れたまま聞いているおかっぱ頭の女。

フブキ「人はね、誰でも苦しみを背負って生きているものなのよ。自分だけが苦しいなんて思ったら大間違い。……もっと、心をしっかり鍛えなさい!!」

おかっぱ頭の女「う……、うわああああ!!」

 その場に泣き崩れる女。

 そして、静けさを取り戻していた森の上空に、徐々にヘリコプターの音が近付いてきた……。

 

○たちばな・地下作戦室 & 吉野本部

 中央の机のところに集まり、勢地郎に業務報告をしているフブキ、ミカヅキ、ホウキ。

勢地郎「ご苦労さん。今回は、色々大変だったろう」

ミカヅキ「あの女、おとなしく本部のヘリに乗っていきましたけど、大丈夫なんでしょうかねぇ?」

勢地郎「う~ん、あとは任せるしかないからなあ……」

 俯いていたホウキ、顔を上げて、

ホウキ「事務局長、ワタシ……」

フブキ「いいのよ、ホウキ。あなたは何も言わなくて」

ホウキ「…………」

 辛そうな表情のホウキ。

勢地郎「まあ、あのエリアにあったという、彼女が無機物魔化魍を造り出していた実験室も、その設備ごと全て本部が撤去したってことだから、これ以上被害が出ることはないだろう」

フブキ「少し不安は残りますけどね……」

勢地郎「……あ、そう言えば、さっき本部の研究室からホウキ君に電話があったんだ。折り返し、連絡が欲しいそうだよ?」

ホウキ「そ、そうですか……」

 さらに暗くなるホウキ。

勢地郎「どうかしたかい?」

ホウキ「……いえ! じゃ、ちょっと電話お借りします」

 ホウキ、立ち上がって電話のところへと歩く。

 フブキとミカヅキ、二人キョトンと顔を見合わせると、勢地郎の方を見遣る。

 微笑を浮かべる勢地郎。

ホウキ「(本部に電話をかけ)……あ、お疲れ様です、幌宵です」

   ×   ×   ×

 画面、ここから吉野本部・研究室とホウキを交互に。

同僚の男B「お、蛍か!(周りに向かって)おい、蛍や! ……蛍、スマンかった」

   ×   ×   ×

ホウキ「え?」

   ×   ×   ×

同僚の男B「事情はみな聞いた。お前、一人で苦しんどったんやな……。ホンマにスマンかった」

   ×   ×   ×

ホウキ「そんな……」

   ×   ×   ×

同僚の女A「ちょっと、代わって!」

 同僚の男Bから受話器を奪う、同僚の女A。

同僚の女A「蛍? ホントにゴメン! 帰ってきたら、アンタの好きな味噌煮込みうどんオゴッたげるから、許してね!」

   ×   ×   ×

ホウキ「(明るい表情で)ア、アハ……」

   ×   ×   ×

同僚の男C「(同僚の女Aから受話器を受け取り)幌宵、知らなかったとは言え、バイトと同じだなんて言い方して、すまなかった。許してくれ。……もう帰ってくるんだろ? 待ってるからな」

   ×   ×   ×

ホウキ「(目に涙を溜めながら)ハイ……、ハイ……。じゃ」

 電話を切るホウキ。

 嬉し涙を流すホウキに、勢地郎が説明する。

勢地郎「ホウキ君の生い立ちや鬼の活動については、極秘事項ということで本部でも一部の人にしか知らされていなかったんだが、それじゃあチームワークのいい仕事が出来ないからねぇ。それで、私から、せめて本部内だけでもオープンにしてもらうよう頼んでみたんだ」

ホウキ「事務局長……!!」

勢地郎「それとね。今までやってきた監視の業務は、今日限り完了、ということになったよ」

ホウキ「え!? ホンマですか!? ……じゃ、もう他人を見張るようなことはせんでもいいんですね!?」

勢地郎「ああ」

 ホッと溜め息をつくホウキ。

 そして、にこやかに笑い合うフブキとミカヅキ。

ヒビキ「その話、ホントですか?」

 階段からヒビキの声。

 いつの間にか、ヒビキと明日夢が作戦室にやって来ていた。

勢地郎「(頭を掻きながら)あ……、いやあね。実は今回の件については、ヒビキに叱られちゃったのがきっかけでねぇ」

ヒビキ「(部屋に入ってきて)……ミカヅキさん! お久しぶりです!」

ミカヅキ「やあやあ、久しぶり! ……よっしゃ! じゃ今晩は、東京のウマいもんでも食べさしてもらおうかな~」

ヒビキ「(シュッのポーズをしながら)りょ~かい! では、今夜は俺がバ~ンとご馳走しますよ!」

フブキ「……ヒビキ君、もちろん私もいいのよねぇ?」

 いたずらっぽくヒビキに問いかけるフブキ。

ヒビキ「あ、ああ……。もちろんいいですよお? ……あ! でもトドロキの奴は今日は呼ばないからな! アイツ、こないだもオゴリっつったらメチャクチャ食いやがって……」

ミカヅキ「ハハハハ……」

明日夢「じゃ、今日は僕がトドロキさんの代わりにバンバン食べますよ!」

勢地郎「お。言うね~、明日夢君」

ミカヅキ「よっしゃ! じゃあ、今晩はヒビキの弟子と食べ比べや! な、ホウキ!!」

 バンとホウキの背中を叩くミカヅキ。

ホウキ「……ハ、ハイ!!」

 涙を拭いて、満面の笑みを浮かべるホウキ。

 作戦室いっぱいに、皆の笑い声が満ち溢れていく……。

 

○九之巻 完

 

○エンディング曲

 

○次回予告

 たちばなで話すヒビキたち。

ヒビキ「ゴールデンウィークだしな。ここらで息抜きしてこい」

 観劇に来ている明日夢たち。

明日夢「五月姫か……。きれいな人だね」

 作戦室で電話を取る勢地郎。

勢地郎「被害が出ない内に、なんとか見つけ出してくれ」

 十之巻『流れる夜叉』

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