CKP1 ちくわ売りのめう
むかしむかし、しんしんと降りしきる雪の中、ちくわを売る少女がおりました。
「ちくわいりませんかめうー、ちくわいりませんかめうー」
しかし、今宵はクリスマス――ちくわなど売れるはずもありません。
みな、このあわれなちくわ売りの少女を避けて行きます。
それでも、ちくわ売りの少女はあきらめません、けなげにちくわを売り続けます。
「ちくわいりませんかめうー……ちくわいりませんかめうー……」
ちくわ売りの少女――めうには、どうしてもちくわを売らねばならない理由がありました。
少女の手に持つかごの中いっぱいに入ったちくわ。これをすべて売るまで、めうはうちに帰ることができないのです。
「さきき……どうしてこうなってしまっためう……?」
めうは、今、この状況に陥る前の――昔のことを思い出し、目に涙を浮かべました。
少女――めうの家庭は以前、それはそれは穏やかなものでありました。
貧しいながらも、常に家族の間では笑い声が絶えず、一生懸命働く母、咲子をめうは大好きでした。
ところがある日、事件は起きました。
それは母、咲子の誕生日のことでした。
咲子は音楽が好きで、幼いころよりギターを弾いていました。
しかし、貧乏が災いし、とても新しいギターを買うことなどできません。
だから咲子は、今でも古びたギターを弾いているのでした。
それを見ためうは、やげて、咲子に新しいギターを弾かせてあげたい。そう思うようになりました。
そして、その日からめうは、路上でちくわを売るようになったのです。
――そして誕生日。無事、めうは咲子にギターをプレゼントすることができました。
まるで、石炭のように黒い、漆黒のエレキギターを。
最初、めうは、咲子がこれまで弾いていたアコースティックギターを新調しようと考えていましたが、咲子がエレキギターにも興味があったことを知ったのと、今、咲子が使っているアコースティックギター ――セレさんのことも、咲子と同じくらい、めうは大好きだったのです。だから、セレさんを弾いている咲子を見られなくなるかと思うと、アコースティックギターを買うのがためらわれたのでした。
そんなめうの思惑を知ってか知らずか、咲子はめうのプレゼントをとってもとっても喜んでくれたのでした。
――しかし、悲劇は起きました。
咲子が、めうのプレゼントしたエレキギターを、早速弾いてみようと思ったその時です。突然、咲子が異様な雰囲気に包まれたかと思うと、もうそこに、元の咲子はいなくなっていました。
元の優しい咲子とは打って変わって、言動は粗野になり、乱暴になっていました。
当然、もともと経営難にあった喫茶店も閉店の危機に陥りました。
そこで、出稼ぎに、と、めうにちくわを売りに出したのです。
そして、全て売れるまでは帰ってくるな、と、強くめうに言いつけたのでした。
そして、その言いつけを守るため、めうはちくわを売り続けます。
「ちくわー……ちくわいりませんかめうー……」
しかし、やはり誰も足を止めません。
やがて、すでに数日間も飲まず食わずだっためうに、限界が来てしまいました。
飢え、それは、まだ幼いめうにとって、とても耐えきれるものではありませんでした。
(……少し、少しだけなら、バレないめう……?)
もし、売り物のちくわに手をつけたことがわかれば、たとえ他のちくわすべて売って帰ったとしても、咲子は許してくれないでしょう。それをわかったうえで、めうはちくわを口に運んだのでした。
「めう……」
――おいしい、こんなにおいしいものが、この世にあったのか。めうは思いました。
めうはすぐに一本のちくわを食べ終えてしまいました。
するとどうでしょう、めうの目の前に、めうの大好物である、咲子が作ってくれたパフェがあるではありませんか。
突然のことにめうは驚きますが、なにはともあれパフェが目の前にある――その事実だけで、めうには十分なのでした。
そこで、めうはあることを思いつきます。
――このちくわは、とてもおいしかった。このパフェは、めうの大好物だ。ということは、ちくわをパフェに刺せば、もっとおいしいのではなかろうか。
そう思い立っためうは、すぐさまもう一本のちくわをかごから取り出し、パフェの中に入れます。そして、それを一気にかきこんでしまいました。
すると今度は、めうの目の前に自分のドラムセット――ずんどこうさ丸が現れます。
これをみて、めうは確信します。これは、食べると自分の願いがかなう、魔法のちくわであると。
そう確信すると、めうは、かごからたくさんのちくわをとりだし、三本ほどを一気に食べてしまいました。
――目の前には、たくさんの友達がいます。その中の一人が、一緒に演奏しようよ、と、めうに声をかけてくれました。
めうは喜び、友達と、心行くまでずんどこうさ丸で演奏をしたのでした。
……次の瞬間、友達は消えていました。そして、傍らにあったはずのずんどこうさ丸もです。
めうは悲しみました。結局、ちくわの魔法も永遠のものではなく、あの友達や、ずんどこうさ丸も、すべては幻影だった。そう思うと、めうはやりきれない気持ちになりました。
すると、めうの手にあったはずのかごが、きれいさっぱり消えてしまいました。めうの深い絶望が、ちくわを消すという願い事をしてしまったのです。
しかし、そのちくわがなくては、めうはうちに帰れません。めうは後悔しました。唯一の頼みの綱であったちくわも消え去り、もはやめうにできることは何も残っていませんでした。
「――ねえ」
後ろから、聞きなれない声がしました。
めうは、失意のまま振り返りました。
すると、どうしたことか、めうの手にはさっき消えたはずのかごが握られていました。
そうか。めうは思いました。自分がちくわを失ってなお、最後に残っていた願い。それは、ちくわを売る相手が欲しい。だったのか。――ずいぶんな皮肉だ、と。
「ちくわなら、一本七十円めう」
投げやりにめうは言いました。
「――ここで、私がちくわを買うのは簡単よ。でも、あなたはそれでいいのかしら?」
相手の返答は、めうにとって意外なものでした。
それでいい、とはどういう意味なのか――?
めうの中で、これまでのできごとが、走馬灯のように流れていきました。
……気づけば、めうは泣いていました。
そして、もうわけがわからなくなって、ただ、目の前の黒髪の少女にすがりつき、言いました。
「――助けて」
黒髪の少女は、コクリ、とうなずきました。
そして、二度めうの頭をなでました。
「もう安心よ。……ちくわ屋」
それから、めうは、黒髪の少女を引き連れて、自分の家へと戻りました。
そうすればすべて解決する。そう言われたのです。
そして、二人を咲子が待ち受けていました。
「下がっていなさい」
少女が言いました。
「めうちゃん、その娘はだれですか?…………誰かと、聞いているんDEATH!」
そういうやいなや、咲子は二人の方に飛び込んできました、手には、包丁が握られています。
「悪しき霊よ……自らの滅びの運命を受け入れなさい……破ぁ!」
少女は振り下ろされる包丁をかわし、叫びました。
すると、咲子の体の中から黒いオーラのようなものが飛び出し、空中で激しく暴れまわったかと思うと、消滅してしまいました。
「終わったわ……」
少女はそういうと、どこへとしれないところへ歩いて行ってしまいました。
魔法のちくわってすごい、めうは改めてそう思いました。
「……きき!……さきき!」
しばらくたって、咲子は目を覚ましました。
「ふわあ……なんだか、とってもとっても長い間、寝ていた気がします……」
元の咲子でした。めうの好きな、元の優しい咲子が帰ってきたのでした。
「さききー!」
「め、めうちゃん!?とってもとってもお顔が近いです……!」
…それから、少しの時が流れました。
「さききー!ちくパはいっためうー!」
「はいはい、わかりました。……テレビですか?少々お待ちください!」
以前と何も変わらない、いつも通りの生活が戻ったのでした。
変わったことはと言えば、めうが咲子の店の手伝いをするようになったことと――
喫茶店のメニューに、あの、ちくわパフェが加わったことでした。
「――本日、……市の路地裏で身元不明の遺体が発見されました。原因は、凍死とのことです」
3333文字で終われてなんかうれしいです。
よく意味が分からんって人は、えっと、どうしようかな……質問でもしてみてください、多分答えられます。
どうでもいいけど
サブタイのCKP1は
ちくわ 小話 パート1の略です。