例年通り、誕生パーティーを行っているんだけど……
どうも今年はすごい、何がすごいって、もう何もかもが。
パーティーに来れなかった人の為に、少しでもこの雰囲気を伝えたいので、少し実況してみることにする。それでは、楽しんでくれ。
8月5日、はんこの日。
そして、我らが『日向美ビタースイーツ♪』のドラム担当、芽兎めうの誕生日でもある。
ついでに、日向美商店街のはんこ屋『兎月堂』つまり、めうの実家では、大蔵出し祭りだとかいう催し物もやるらしい。
そのせいかはわからないが、なぜか、普段からは想像もつかないような人だかりが、今、この商店街にはできている。
道行く人の話に耳を傾ければ「イケメンがいた」だとか、よくわけのわからないことを口々に話していた。
たかがイケメン一人にここまでの行列が出来るものなのだろうか。たとえば、ここなつだとか、そこらの有名人がいた。とかならまだ納得はできるのだろうが。
もっとも、この界隈では、日向美ビタースイーツも負けず劣らずの知名度を誇っている。しかし、わざわざめうの誕生日に集まるかといえば疑問だ。……もっとも、私の知る限り、十数人は集まりそうな気がするが。それに、どうも女性層が多い。どうやら、かのイケメンとやらがメインである可能性が極めて高そうだ。
人の波をかき分け進むと、人だかりの中心がついに見えた。……『兎月堂』である。
まさか、日向さんが帰ってきていて、また男に間違えられているのか?と思い、苦心して、何とか内部に潜入する。
……刀だ。なぜか、沢山の女性が刀に群がっている。
そして、その刀にむかって「イケメンだ」などと言い出したではないか。
……何が何だか、わからない。
……いや、恐らく、刀の擬人化キャラなどの元ネタがこれなのだろうが、例えば、今、諸兄らの目の前に艦隊がいるとして「かわいい」などという発想を持つことができるのだろうか。甚だ謎である。
結論からして、日向さんはいなかった。どうやら、男に間違えられる悲劇は繰り返さなかったらしい。
そして、めうもすでに姿はなかった。シャノワールに先に行っておく。だそうだ。と、めうのお父さんに伝言をいただいた。
再び苦心して、兎月堂を出ると、まるきり逆方向にシャノワールがあることを思い出し、少しだけ泣いた。
めげずに、シャノワールに向かうと、ちょうど咲子ちゃんが今年のちくわパフェの準備をしているところだった。
去年のものもあり得ないサイズだと思ったが……パワーアップしている。しかも、なんか黒い。で、太い。
それにしても、どこでこんな大きな器を仕入れてきたんだろう?と疑問に思っていると、咲子ちゃんがこちらに気づいたようで、意気揚々と、今年のちくわパフェについて語ってくれた。
「今年のバースデイちくわパフェは、なんと!あの末廣総本店さんの新作最高級ちくわ、『黒野太刀攻め弾正』をふんだんに使用して、さらに黒ゴマ白玉クリームあんみつで、ちょっぴり和風テイストに仕上げてあるんです!とってもとってもおいしいですよ!」
……なんだか、ものすごいことはよくわかった。
本日の主役であるめうは、ちくパはお楽しみに取っておきたい、とかで、咲子が用意しているところが見えないところで楽しんでいるらしい。正直、現実逃避をしているだけな気がするが、去年の悪夢、いや、それ以上か。それを目の前にしたのならいささか仕方ない事だといえる。去年のものですら、かのまり花ちゃんをもってしても一人で片付けられず、心菜ちゃんに力を借りることになったのだ。
そして今年、ここなつの二人は夕方からくるらしい。
……多分今年も、力を借りることになりそうである。
そして、夕方になって、ここなつの二人がやってきた。
それと同時に、咲子ちゃんが例のブツをもってこちらにやってくる。
……心なしか、若干みんなは引き気味であった。そんな中で、咲子ちゃんだけが優しい微笑みを浮かべている。
ある意味、シュバルツ・トイフェルなどなくても、この娘はかなり恐ろしいと思う。
「お待たせしました!『極 ブラックチョモランマちくわパフェ』です!」
テーブルの上に超巨大な器が乗り、その際に、ズドッ、という、とても、パフェが出してはいけない、出すはずのない効果音を響かせる。
そして、それを追って、ちくわだけが盛り付けられた皿が、これまたおかしな音を出してテーブルに置かれる。
「それではめうちゃん!音頭をお願いします!」
咲子ちゃんが、めうに音頭を取るように求める。
「まっかされためうーっ!えー、こほん、それでは!ちくパファイトー!すったーとめうーっ!」
これ、そういう競技だったっけ。
数分後。
イブと夏陽が競うようにちくわを平らげていく。
なるほど、めうの言ったことは正しかったらしい。たしかにちくパファイトだ。まあ『パ』ではないが。
そして、その横では本当のちく『パ』ファイトが行われている。
まり花ちゃんたちは、真剣そのものの表情で、黙々とちくパをほおばり続けている。
凛は、我関せずという風に一人マイペースでちくわを食べ進めてゆく。
……が、その実、結構苦しそうである。
そして、それを見て咲子ちゃんはうれしそうに笑っている。怖い。
…………一向にブラックチョモランマはその底を見せない。
めうはおろか、まり花ちゃん、心菜ちゃんまでもがすでに満身創痍だ。
そんな中、まり花ちゃんが突如輝いた。(ように見えた)
「まさか……覚醒めう!?」
「わたし……もう負けないよっ!必ず完食してみせる!」
「キーボード…………すごい…………」
覚醒したまり花ちゃんによって、ブラックチョモランマは着実に量を減らしてゆく。
……かに見えた。
「……ああ!だめめう!覚醒してもまりり一人ではたおせないめうっ!」
主役から一転、解説役になっためうが悲痛な声を上げる。
「キーボード…………ここなも、がんばる…………」
「こここも覚醒しためう!?これで勝つるめう!」
そして、修羅が産みし修羅を倒さんがせんと、また新たな修羅が誕生した。
……それから、いくら時間がたったろうか、ついに、あのブラックチョモランマは倒れたのだ。
「これで終わった……終わったんだよっ……!わたしたちはついに勝ったんだよっ……!」
「おなか……いっぱい……」
「やっためうっ!まりりとこここがついにやっためうっ!大げさかもしれないけど、世界は救われたんだめうーっ!」
……しかし、悲劇は終わらない。
「きゃあああああーっ!」
突如響く悲鳴。……イブと夏陽、凛に何かあったに違いない。
……逃げよう。嫌な予感しかしない。
「……どこへ行くんですか?」
纒さんだ。しかも、顔が赤い。……イブたちの身に、何が起こったのかその瞬間わかった。
そして、自分がもう逃げられない運命にあることも。
それでも、一縷の望みにかけて振り向く。
……絶望というのは連鎖するもので、泣きっ面に蜂、というのはこういうことだろうか。
「みなさん、どこへ行くんDEATH?」
――――シュバルツ・トイフェル、漆黒の悪魔。
……意識は、そこで途切れた。
目を覚ますと、そこは地獄だった。
比喩でもなんでもなく、である。
口からちくわを生やした、無残な屍。
二体の修羅の亡骸。
……そして、自転車に隠れる、無邪気な少女。
……願わくば、この地獄に一輪の花が咲くように。
「……誕生日、おめでとう。めう」
その後の話だが、みんなその後は無事らしい。
全く、大変なパーティだった。
……そういえば、イブの誕生日って…………
……考えないほうがいいか。