凛として咲かせ、大輪の花   作:ビス子

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いつの間にか公式でFacebookのまとめをやってくれてる……やだ、凄く良心的!



三十八曲目  勝負に負けて、人生に勝った。

「覚悟は良いか!」

凛が怒りのパワーであやかしと化し、シャノワールに異様な雰囲気が漂う。

その雰囲気に圧倒され、まり花、イブ、咲子、めうまでも押し黙るが、事の発端である男だけは空気を読まず、黙らない。

「なんかその台詞、殺意の波動にでも目覚めたみたいだぞ……俺はできてる」

「なら死になさい!」

「甘いっ!」

渾身の力を込めて放たれた凛の初撃を、紫吹は見事正面から受け止めて見せる。

女子と男子の力の差があるとはいえ、かなりの芸当である。

「い、痛てて……お前、本気でやってるのかよ……」

「ちょうど、記憶が消えるほどの力よ……愚昧な記憶など、消すに限るわ……」

「そんなに簡単に記憶って消えるのか、人間って不思議だな……」

「ええ、度を過ぎた恐怖を味わうと、人間の防衛本能が働くのかしらね」

「何気に恐ろしいこと言ってるぞお前」

「……遊びは終わりよ」

「おお、こわいこわい、こりゃ抵抗しない方が吉かね……」

「御託はいいわ」

凛は、紫吹の鳩尾めがけて鋭い跳び蹴りを放つ、まともにもらえばまずい攻撃だが、紫吹はこれをガードせず、真正面から受けた。

「……さすがに一発で落ちるほど俺は甘くないぞ……で、捕まえた」

次の瞬間、凛は驚きの表情を隠せずにいた。

なにしろ、自分の渾身の跳び蹴りで、確実に仕留めたと思ったが、この男は生きている、あまつさえ、自分の足をつかんでいるのだから。

――――負ける。凛の頭にその考えがよぎる。事実、この体制は、すでに自分が一発与えているとはいえ、相当不利であることに変わりはない。

この状況を何とかしなければ。凛の脳内で、いくつもの打開案をはじき出される。しかし、どれも実用足りえない。

数秒、試行錯誤を続ける。この時間は、達人同士の戦いでは致命的であるものの、紫吹はあえて追撃を加えようとはしない。

やがて、紫吹はその腕に持つ凛の足を、ゆっくりと地面におろし、戻した。

突然のことに、またもや凛は驚く。なぜ、手を放すのか。そう、疑問に感じたが、それはすぐに氷解した。

顔が赤い。

凛はすべてを悟り、少しばつが悪そうにしてよそを見ていた紫吹の腹に向かって、今日一番の打撃を一発撃ちこんだのだった。

 

 

「……知らない天井だ……」

どのくらい気を失っていただろうか、紫吹は、いつの間にか自室のベッドに横たわっていた。

あたりを見回すと、窓から差し込む光はすでに弱弱しく、薄暗い。日が暮れてしまったのだろう。

「――――んきゅ?しぶぶ、目を覚ましためう?」

横から、聞きなれた声がする、声の方向に首をかたむけると、めうがいた。

「これでも食べて元気だすめう」

そう言って、めうは、紫吹に、今まで自分がつまんでいたかまぼこと、暖かいお茶を差し出す。

なぜ、めうがここにいるのかはわからないが、とりあえずかまぼこを口に運ぶ。――――美味しい。

「お、ありがと……ってこれ、俺がイブにお土産でもらった山口のかまぼこじゃねーか!お前半枚以上食べたろ……」 

「おいしかっためう」

「……そうか、ならいいや。……それで、なんでこんなところにいるんだ?」

「なぜって、めうがしぶぶをここにおくってきたからめう」

「お前が俺をここに?何を言って……あれ、そういえば俺は今日何をしていたんだ?……そうだ、バンドのミーティングをして、それから……?駄目だ、思い出せない。……いや、待て……何か、思い当たる節が……」

「……それいじょうは思い出さないほうが身のためなりよ?」

「……そうか、俺も、そんな気がする。……たぶん、お前が俺を運んできた理由もそうなんだろ?」

「察しがいいめう」

まだ、恐怖が抜けきらないのか、めうは、それにつられて紫吹も、淡々とかまぼこを食べ終えた。

 

「それでは、こりでめうはしつれいするめう……」

「……ん、もう帰るのか?」

「……早くめうは眠ってすべてを忘れたいめう…………」

若干やつれた表情で、めうは家路につこうとする。

「おじゃましましためうー」

「あら?もう帰るの?」

しかし、もう一つばかり、面倒事がるらしい。

「めう?」

めうを呼び止めたのは、紫吹の叔母であった。

「もしかしたら、ご飯食べていくのかと思って、用意しちゃったんだけど、食べてかない?ちくわパフェもあるのよ」

ちくわパフェ、という単語に、満身創痍のめうもピクリと反応する。

睡眠とちくわパフェ、めうは心の天秤にこれら二つを掛ける。

……これから、自宅に帰らなければ、眠ることはできないが、ここにいれば、待っていればちくわパフェが食べられる。

……こうして、めうの心の天秤は、ちくわパフェの方向に傾いたようだ。

「いただきますめう」

「そう!?それじゃ、もうすこしだけ待っててね?」

そう言うと、紫吹の叔母は、年甲斐もなく、スキップで玄関から台所へと戻っていく。

「……なんだかふっきれためう!こうなったらしぶぶの部屋であっそびまくるめうーっ!」

寝ることを諦めたことで、めうの中で何かが吹っ切れたのか、急にめうが元気になって、紫吹の部屋へ駆け出す。

紫吹は、それを追いかけようとしたが、その時、携帯が鳴ったため、そちらの確認から先に行った。

メールが届いている。差出人は、さっきまで、そこで会話していた叔母である。

メールの本文はたった一行だった。

「うまくやりなさいよ」という一行。

どことなく父を彷彿とさせる文に、紫吹は思わず苦笑する。

叔母は、父の血縁者ではない。つまり、叔父が父の兄弟であるのだが、類は友を呼ぶ、とでもいうのだろうか。どうにも自分の周りには、こういう人間が多いらしいな。そう紫吹は思った。

そして、メールの返信に『うまくやるよ』とだけ返信しておいた。手は出さないけどな!と、心の中でどうでもいい脚注を入れながら。

「……ん、手を出す……?」

紫吹は、すべてを思い出し、そして、女子に気絶させられた悔しさからか、はたまた、別の理由からか。……少し泣いた。

 




すごく、書くことがありませんとです……ビス子です…………
最近、ちくわとちくわぶの違いを知りました。こんな初歩的なことはわからないのに、どんどん知ってるちくわの種類は増えていきます。
……なんだか鳥取の地理までわかってきました。すげえぞひなビタ!
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