でも、現時点じゃ使える曲がアレしかないからしかたない……のか?
こんだけひっぱってこれかい!って展開です。なんかすいません。
「……それで、私たちでバンドをやろうって思って」
「なるほどね、商店街のために……ああ、どうも」
日向美商店街の洋裁店『いずみ洋裁店』から出てきた少女に、紫吹は会釈した。
少女の手にはベースと、それに接続するであろう機械類が、ずしり、と重そうに乗っている。
恐らく、その機材を持ち運ぶ手間があるため、少し遅れて出てきたのだろう。
「あっ、イブ!紹介するね!こちら、りんちゃんの同級生の、如月 紫吹さん!」
先ほどまで、紫吹と談笑していたまり花が、イブに気付き、紹介する。
「どーも、ただいまご紹介にあずかりました、如月です」
追って、紫吹が自己紹介をする。
「……りんと同級生ってことは、一コ上?あ、あの、初めまして」
イブが急にかしこまって挨拶をする。
外見に見合わず、年上相手には丁寧な態度だ。
「イブっ!なんとなんと、紫吹さんは私たちの演奏を聞きに来てくれたんだって!」
「……マジでっ!?」
「マジよマジ、大マジ」
予想外の事態に、イブは驚く。
誰にも、明日シャノワールで演奏するとは言ってないはずなのに、なぜわかったのか?いや、そんなことはどうでもいい、仮に、本当に演奏を聞きに来てくれたのだとしたら?
「ってことは……もしかして、初ファン!?」
「……まあ、そう、なるのかな?」
初ファン、その言葉がイブを高揚させた。
以前から、自分のベースをインターネット上に投稿したりしていたが、コメントはまり花一人だけだった。しかし、今、自分の目の前に初めてファンがいる。
ならば―
「……よーしっ!今日は、イブたちの最高の演奏、聞いていくといいしっ!」
「うんうんっ、がんばるよっ!イブっ!」
「「おーっ!」」
―必ず、今できる最高の演奏をしてみせる。咲子のためだけでなく、この、初めてできたファンのためにも。
「……いよいよだね、まりか」
「……うん」
初めて、自分たちの演奏を人に聞かせる。
二人は緊張していたが、確信があった。
今日、この演奏は必ず、大成功する。という確信が。
顔を見合わせ、戸を開ける。
「いらっしゃいま……」
「……さきちゃん」
「さきこ……」
「…………」
「ねえ、さきちゃん」
咲子が、何か言いだそうとするが、まり花がそれを遮る。
「さきちゃん、きっと、悩んでるんだよ……ね?私たちと、バンドやるか、どうか。って」
「……はい」
咲子が頷く。
「……何も言わずに、聞いてくれる?」
「…………」
無言。
それを肯定と受け取り、まり花とイブは、演奏の準備をする。
―巨大SCやってきて、シャッター降ろして早幾年~
二人で沢山練習した『ひなちくんのうた』
きっと、二人の心に届くと信じて、二人で歌い上げる。
―ひなたび、ひなびた、いやまてまだまだネバールーズ!
ひなたび、ひなびた、いやまてまけるなひなちくん
「……どう、だったかな?」
まり花が問う。
「…………私は」
もう、言葉は必要なかった。
答えは、既にわかっていた。
私なんかでいいのなら、ぜひ、バンドに―
春日咲子、加入。
「……えっ、なにこの状況」
眼前の美しい光景に、紫吹はひとりごちた。
バクマンでいうところの『シリアスな笑い』に相当する何かができたんじゃあないか。そんな気がする。
……俺、疲れてんのかな……
咲子離脱~再加入の時はさすがに真面目にやります(震え声)