早速二話目を更新!
感情の無い少女というタイトルに反して早速、ある意味タイトル詐欺でそうでもないこじつけのようだった発言がある第二話です。
「おい、おいお前ら」
「なんだ」
「どうかしたの?」
「ちょっくら世界の果てまで行ってくるぜ!」
「そう。なら行ってくるといいわ」
「OK。美月も連れてくからバレないように頼むぜ」
「俺はその世界の果てというものに興味がない」
「いやいや……コイツはお前の興味じゃなくて俺の興味だ。それに『感情とはなんだ』なんて哲学的な質問して来たお前が気になるから、ちょっと付いて来い!」
「……嫌だと言ったら?」
「連れてく☆」
「……好きにしろ」
項垂れることすらせずに十六夜について行く美月。その姿はまさに美月自身が感情とはなにかと問うた理由の裏付けになっているようで、十六夜は少し真剣な面持ちを作ったのだった。
◆◇◆
二人が飛鳥達と別れてから数分後。
「おーし、じゃあ世界の果てまで駆けっこでもするか?」
「お前がしたいのなら」
「なら決まりだ。えーと、こういうのもギフトゲームになり得るんだよな。だったら勝った方の報酬とか設定して折角だし、箱庭初のギフトゲームとでも洒落込もうや」
「さっき言った通り。お前がしたいのなら一向に構わない」
「そか。そんじゃあ……お、出てきた出てきた」
十六夜と美月の会話を聞いていたかのように一つの羊皮紙がヒラヒラと落ちてくる。
『ギフトゲーム"チキチキチキンレース㊙︎!"
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
琴之葉 美月
・ゲーム概要
誰よりも速く世界の果てまで駆け抜けろ。
・勝利条件
一着でゴール地点の世界の果てに着く。
上記を尊重し、誇りの下にギフトゲームを開催します』
「それじゃあ負けた方はどうするよ?」
「こちらが負けた時はお前の好きにしろ。だが俺が勝った時のことは俺で決めさせてもらう」
「……というと?」
「俺が勝ったら俺はお前への強制的な質問権を三つ得る」
「……へぇ。じゃあ俺もそれでいいや」
んじゃ、と十六夜がそう言うと彼は走り出す前の構えを取る。美月は先ほどと変わらず棒立ちしている。
「3」
「2」
「「1」」
そして同時に叫ぶ。片方は叫びというより呟きだったが。
「「スタート!」」
その合図と共に十六夜は地面が陥没せんとばかりに走り始める。それに対して美月は先ほどの徒歩とほぼ変わらない速度で歩き続ける。
(……なんだ、俺の考え過ぎか?)
黒ウサギに言われた、自分のような人外の巣窟がこの箱庭である、と言われれば当然この三人もそうなのではと考えていた十六夜だったが、あっという間に距離差が開いて拍子抜けだ。
と、思ったその時───
「───"迅"」
突然、十六夜の前に美月が現れた。それも、先ほどと変わらない歩いた姿勢のままで。
「っ!?」
「"瞬"、"風"」
美月が短く言葉を紡ぐだけでありえないほどに速度を増していく。一瞬だけ呆気にとられた十六夜は負けじと更に加速する。
「ヤ、ハハハハハハ!!いいないいなぁ!お前スゲェよ!!」
「ここまで速度出しといて追いついてくるお前の方が興味深い。"迅"」
美月が加速する度十六夜の速度も増していく。互いに自分でもたどり着いたことのない速度まで到達してもそれをやめないのは、互いに走りあってアドレナリンが出まくっているからだろう。
それから一時間、箱庭的には一刻も経たないうちに二人は世界の果ての目の前にまで到達する。
「ヤハハ!負けらんねぇ!」
「負けには興味無い。勝つだけだ」
二人はラストスパートに入り、更に速力を上げていく。美月が速くなれば十六夜はそれ以上に速くなり、それを超えるように美月も速くなる。そんなんが続きに続いて───
「んな!?」
「しまった……」
ドゴンッ!!!!という豪快すぎる音を叩き出して、二人揃って世界の果ての滝の岩盤に激突したのだった。
◆◇◆
「おーいってぇ……」
「……ぶつかった鼻が熱い……ジンジン、か?」
互いにぶつかった顔面を摩りながらトボドボと岩盤から少し離れる。そして少しすると美月が十六夜に対して質問。
「逆廻……これはなんて感情なんだ?」
「ん?コイツか。これは痛い、だな。ジンジンして嫌になってくる感覚、多分そんなところだ」
「そうか……これが、"痛い"か」
鼻を抑えた美月は不思議と、先ほどよりも朗らかな表情を作ったので、思わず十六夜は素っ頓狂な顔をしてしまう。
「それよりも、ほぼ同着だったようだが勝敗はどうするつもりだ?」
「ん?そうだな……じゃあ互いに質問権一回でどうだ?流石に今の"痛い"はナシとしてな」
十六夜が名案を思いついた、という顔をするので美月はそれに首肯する。まぁどうせ首肯しなくても『お前がそれでいいなら俺は構わない』と言うのだろうが。
「んじゃあ俺からだ。……お前のさっきの力。いや、ギフトか。あれはどういうモノなんだ?なんとなく予想はつくが」
「予想がつくならわざわざそれを聞かずともいいだろうに」
「いやいや、答え合わせだと思ってくれ」
「……わかった。俺のあのギフトは所謂"言霊"だ」
「やっぱりか」
十六夜がふむ、と納得するように頷く。美月はその納得した姿になにを思ったのか、変なことをのたまう。
「……わかってたことを聞いて一つじゃ後味が悪いだろ。もう一つ教えてやる」
「もう一つ?」
「ああ。俺の住んでた場所では"言霊"を操れるモノはどんな種族、人種であろうと神格化されてきている……と聞いている」
「聞いている?」
もう一つ教える、という割には帰って来たものはあまりにも曖昧だった。
「俺は物心ついた時から神格化されていた。だから俺は、"外の世界"や"人の感情"というものを一切知らずに育ってきた」
美月の一言で十六夜は今度こそ納得した。そんな境遇に置かされれば今の美月のように感情が希薄すぎる人間がいてもおかしくはない……いや、今美月が言った通り"言霊"を操る者は神格化されるという。
ならば、この琴之葉 美月はもしかすると"人間ではない"のかもしれない。
神というものはあまりにも曖昧だ。そもそも神とは人間が己の理想を追い求めた先の理想像、あるいは人を産んだ人に限りなく近しき存在。つまり両者は互いの存在がなければ生まれ得ない存在であるはずなのだ。
ならば、神も人もない世界ではどちらが先に生まれたのか?
などなど……神という存在は明確な神話が残っている現代でさえ曖昧なものだ。
もしかしたら、美月は神でありながら人間てあるかもしれないし、人間でも神でもないのかもしれない。そんな底の知れない彼女の謎は十六夜を惹きつけた。
コイツを全部知りてぇ。十六夜はその質問をしたが故に願わくばもっと質問したいという泥沼に浸かってしまった。
だが、そんな泥沼から引っ張り出したのも、その美月であって……
「なら、次は俺の質問だ」
表情では読み取りづらいが、嬉々としたように若干語気が荒くなっている。余程気になっていたことなのだろうた十六夜は感じ取った。さも当たり前のように"感情"とはなにかと聞いてきた時とは違う。本当に興味本位で質問するのだろうと。
「あれはなんだ?」
「……あれ?滝か?」
「……滝」
美月はぼうっと滝を見る。その視線は先ほど湖を見ていた時のようなもので、なにか懐かしさを感じているような遠い目をしていた。
「……これは、"綺麗"と言うのだろうか?」
「そうだな。これは綺麗だ。俺が今まで見たどんな絶景よりも綺麗だ」
「……さっき逆廻とギフトゲームをしていた時、胸が高鳴って熱くなった。あれは?」
「それは多分楽しいだ」
「たの、しい」
感情がない、というよりは言葉を知らないというのだろうか。言葉を知らないというのに"言霊"を遣うという二律背反した一面を持つ彼女はふと、十六夜に振り向く。
「逆廻とギフトゲームをしていた時、楽しくて。岩にぶつかった時、痛くて……滝を見た時綺麗だと思った。これは、"感情"なのか?」
十六夜にむかって覗き込むように美月が見てくる。それは身長差から生まれた副次的なものだったが、思わず十六夜はたじろいでしまうが、すぐに元の態度に戻る。
「……それは"感情"だよ。お前は例え感情が無くても決して無感情じゃないってことだな」
「そうか。そう言われると嬉しいな」
十六夜が頭の底からできるだけキザなセリフを引っ張ってみたが、素っ気ない返答がすぐさま帰って来たので十六夜は若干凹んだ。
はぁ、と溜息をついて美月の方に目をやると、やっぱりその目は滝に向いていた。なんか少しショック。
まぁ、絶景なのは変わらないからいいか、と十六夜も滝を眺めていると、ふと美月は十六夜に話しかけてきた。
「逆廻。俺はアレの景色の上から箱庭を一望してみたい」
「……は?」
「少し、登ってくる」
そう言うと美月は先ほどの壁に向かって歩くと、壁に足をかけて「"軽"」と呟く。
すると、美月の身体は壁に向かって重力が働いているのではと錯覚してしまうくらいにゆったりと、普通に壁を歩き始めた。
これも"言霊"だというのだから末恐ろしい。十六夜は「忙しいヤツ……」と呟いて、滝の方に目を戻すと───
『人間、ここに一体なんの用があって来た?』
「あ?」
先ほどまで姿すら見えなかった、巨大な背丈の白い蛇がいた。
「……いいなぁ箱庭。気に入ったぜ。変なウサ耳や神格化された人間の次はバカデケェヘビと来たもんだ!少しは楽しませてくれよ!?」
十六夜は嬉々として、大蛇に勝負を挑むのだった。
◆◇◆
一方の美月は壁を登り終え、景色を一望できる場所を探そうと草木を掻き分けている。
「……例え感情が無くても決して無感情じゃない、か」
そう言われた時美月の胸の奥が少し熱くなった。多分これは嬉しいという"感情"なんだろうな、と結論付けて辺りを探っていると、唐突に巨大な水柱が先ほど美月がいた場所で立った。
「逆廻……なにをしているんだ?」
素朴な疑問を持ち、引き返そうかと思ったが、見てくると言った以上見てこないとなんだか後味が悪そうだと思った美月はそのまま道なき道を真っ直ぐ進む。
そうしていると、終わりは直ぐに見えてきた。のだが。
『お前は誰だ?』
「誰、と言われると」
『名はなんだ?という意味だ』
「琴之葉 美月」
軽い問答。一言二言で終わった一つ目の質問だが、問うてきたソレは美月にさらなる質問をする。
『なぜお前はここに来た?』
「"綺麗"と思うような感情をもっと堪能するため、じゃあ不十分か?」
『……ほう』
「逆に問うぞ。お前の名は?」
『……私の名か。そうさな、
白鳥と名乗ったそれが美月の前に姿を現す。薄白い肌に鎧としての役割を果たせるかどうかという疑問を持つほど薄い鎧を着た女性が静かに目を瞑っている。
「……さて、お前は景色を見に来た、と言ったな」
「なにかそれがそちらに不都合でも?」
「いや、ない。だが……個人的な都合でここから先を通るものなら、私はお前をここで止めるだけだ。これより先は資格のない者を通すことができない領域だからな」
「資格とは?」
「盃を持つに相応しい者であること。私は盃を一つ守護している。つまり私の試練を乗り越えれば盃を持つに相応しい、ということだ」
「そうか……盃には興味ないが、この先の景色が見たいからな。通らせてもらうぞ」
美月は先ほどからの緩い体勢から一変、僅かに腰を下ろして白鳥をしっかりと目に映す。
白鳥もどこからか取り出した剣……正しく言うなら
『ギフトゲーム"白鳥の舞う湖"
・プレイヤー一覧
琴之葉 美月
・クリア条件
己が力を以ってその資格を証明せよ。
宣誓
上記を尊重し、誇りの下ギフトゲームを開催します』
印と御旗がないということはこの白鳥はずっとここにいる、ということなのだろうかと美月は思案する。
そう言えば、と美月は先ほどの黒ウサギの言葉を思い出す。
『ゲームクリアのヒントとなる伝承があるのならその伝承を知らない方が悪い』
ならば、この白鳥にも伝承はあるのではないか?と考えるが、彼女のあまりにも安直なヒントにすぐ答えが出てきた。
「それでは、行こうか」
白鳥がそう言うと、高速の剣尖が美月を襲う。
「"壁"」
美月がそれに対応して"言霊"を結ぶと白鳥と美月の間に文字通り壁の文字が壁となって白鳥を遮ってきた。
「ぬっ、これは言霊か!」
「"斬"」
白鳥が驚愕している隙に美月は次の"言霊"を結ぶ。今度は斬の文字が二固まりの刃物となって白鳥を襲う。それを身体を捻ることが回避した白鳥だが、体勢を崩したのが災いとなって一気に美月の接近を許してしまう。
「"弾"」
「ぐっ、おぁ!?」
白鳥の腹部に手を添えた美月が"言霊"を紡いだ。すると白鳥がまるで弾丸のように吹き飛ばされた。近くの木に激突してそれは止まったが、思わず白鳥は咳込んでしまう。
「ぅ、ゴホッ!」
が、無情にも美月は"迅"によってその開いた距離差をも一瞬で詰め、言霊もなにもない、ただの踵落としを白鳥の後頭部に容赦無く叩き込んだ。
後頭部を叩きつけられたことによって動くことなく地面に突っ伏していた白鳥だが、暫くすると先ほどの堅物そうな顔から一変してフランクな笑顔を見せて笑い出した。
「う〜いったぁ……参った参った。ここの道を守護する身としての私はもうキミを認めるよ。どうぞ、ここを通ればいいさ」
「……その言い方は少し納得がいかない」
「なんでさ」
「お前、守護者としての職務と自分自身の全力を別物として捉えてるように見えるぞ」
「あ、やっぱそう聞こえた?いや〜参ったな。ここの守護者になってからというものよくわかんないけど外部から圧力がかかっててね。力のリミッターっていうの?それがうざいったらない」
あーかったるかったー、と白鳥は後頭部を摩りながらそう言う。暫くそのまんまだったが、それもすぐにやめてふぅー、と立ち上がる。
「キミはこの先の景色が見たかったんだよね。景色一つのために世界の果てに来て私の試練に挑むなんてとんだ物好きだ……ついて来て」
こくり、と首肯する美月。それを見た白鳥は歩みの方向を自分が向いていた真後ろに向け、草木が邪魔をする道を軽快に歩いていく。
「いやー、守護者として任命されたのはよかったんだけど、何故かこんな箱庭から離れた世界の果ての、蛇神がいる場所のちょっと上なんて微妙もいいところな場所に送られたから正直誰もこなかったんだよねぇ」
だから一人でも来てくれて嬉しかったよ、と白鳥が楽しそうに告げる。言葉が若干弾んでいる白鳥を見て美月はなにを思ったのか、自分の掌をじぃ、と見つめる。
「……うれしい。白鳥は俺が来てくれたから、うれしい……」
そう呟くと、少しだけ歩く速度を上げて白鳥について行く。
「それにしても、ここからの景色が見たいなんていい目をしてるね。私もヒマでヒマでしょうがない時はよくここの景色を見ていたからね」
「そんなに、心が弾む景色なのか?」
「絶景も絶景さ。私がここに来てよかった、て思えること第2位だ」
「……1位は?」
「お客さんが来てくれたことさ」
ニッコリと笑いながら白鳥は美月に視線を移す。なんでそれだけなのに絶景よりも嬉しかったのだろうか、と美月は疑問に思ったが、人が全く来ない場所に一人でも人が来てくれたというのが白鳥にとってなによりも嬉しかったのだろう。
当然美月はそこまで考えが至らなかったが。
「そろそろ……あ、見えてきたよ。ほら」
白鳥が美月を急かすように手をくいくいと引いて招く。そして美月は白鳥に見せられたその光景に───
「───」
「素敵な光景だろう?」
圧巻した。上から見渡す森、草原、スタート地点だった湖、球状の物体に覆われた都市……恐らくあれが箱庭だろう。そして滝が泉を打つ音。
全てが全て、美月が見たことのない景色で、興味がないと言った少し前が嘘のようにその光景に魅入られていた。
「……白鳥」
「なに?」
「俺は今、他に何も考えられないくらいこの景色に魅入られている。この感情はなんなんだ!?」
初めて、美月にとって本当に初めてはっきりと語気を荒げていた。今まで相槌程度に一言二言しか喋らなかった美月がそんなに語気を荒げて言うので白鳥は少し面食らったが、すぐに元の表情に戻る。
「それはきっと……驚いているんじゃないか?私もこの景色を最初見たときはそんな感じだったよ」
「……驚いているのか。俺は」
美月がぽつ、と呟く。その光景に見惚れていた美月を白鳥は暫く見ていたが、すぐに思い出したように「あ、そうだ」と声を出す。
「ギフトゲームの報酬を忘れていたよ。生憎私が渡せるのは一つしかなくてね……」
「いらない」
美月は即答で断った。彼女の短い言葉には『この景色こそが最大の報酬だ』という言葉が込められており、白鳥もそれを理解したが、美月の手に強引にそれを持たせる。
「気持ちはわかるけどそんなこと言わないでくれ。試練を乗り越えた者に渡す決まりなんだ」
「……決まりなら仕方ないか」
驚くほどあっさりと受け取る。美月の手に持たされたそれは砂時計に似たような形の盃だった。
「美術品としてはかなりの価値があるらしいけど、それをただのコップとして使うなり売り飛ばすなりはキミの自由だよ」
「わかった」
相変わらず一言二言しか相槌をしない美月は白鳥と共にそのまま白鳥が流石に長く見過ぎているとつまらなくなってしまうと美月を止めるまで景色を眺めていたのだった。
感情が無い、という設定は口調とかそんなに気にする必要がないから執筆意欲の低下に繋がらないという事実に気づいてしまう作者であった。