結論から言おう。白夜叉への"挑戦"は勝利に終わった。
具体的にどう終わったかと言うと、そのギフトゲームの内容はグリフォンに跨って数百キロ先の山岳を越える、というもの。このギフトゲームはグリフォンに憧れの情を抱いていたらしい耀が率先して挑戦、見事にクリア……というわけだ。
で、そのギフトゲームで耀のギフトもだいたいわかった。それは"あらゆる生命体との対話を可能にすること"と"対話し、対等となった生物のギフトを得ること"。
黒ウサギ曰く如何なる生物とも話せるというのはレア物中のレア物らしい。
まぁそれでそのギフトがどんなものかはあまりわからないと言ったところで、美月達がここに来た理由のギフト鑑定へと話が移るわけだが。
「……ふむ、おんしら四人、纏めて素養が高いことはわかる。しかし私ではなんとも言えん。おんしらはこれが自分のギフトがどのようなものなのかはどれ程把握しておる?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「同音同語」
三人につられて存在しない造語をつくってまで美月も否定する。
「うおおおい!?いやまぁ、仮にも対戦相手にギフトを教えることが怖いのはわかるがそれじゃあ話が進まんだろ」
「別に鑑定なんざいらねえよ。人に値札つけられるのは趣味じゃないや
十六夜の拒絶に耀と飛鳥は同意し、美月は逆廻がそうならそうなんだろう、という感じだ。
困ったような顔をする白夜叉だが、突如妙案が浮かんだようにニヤリと笑った。
「ふむ。なんにせよ"主催者"として試練をクリアした褒美はやらねばなるまいに。ちょいと贅沢だが、コミュニティ復興の前祝いとしてはちょうど良かろう」
白夜叉が柏手を打つと四人の目の前に光り輝く四枚のカードが現れる。それにはそれぞれの名と、身体に宿るギフトを表すネームが刻まれていた。
コバルトブルーのギフトカードに逆廻 十六夜・ギフトネーム
ワインレッドのギフトカードに久遠 飛鳥・ギフトネーム"威光"
パールエメラルドのギフトカードに春日部 耀・ギフトネーム
爪紅色のギフトカードに琴之葉 美月・ギフトネーム"雪月花"、
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「お賽銭?」
「ち、違います!というかどうしてみなさんそんなに息ぴったりなんですか!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの"生命の目録"も好きな時に収納して好きな時に顕現できるんです!」
「つまり素敵アイテムってことでOK?」
「だからなんで適当に聞き流すんですか!?あーもうそうです素敵アイテムなんです!」
黒ウサギに叱られつつも四人は物珍しそうにカードを見る。その中で美月は二つ、奇妙なものを見つけた。……が、案の定口には出さない。
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは"ノーネーム"だからの。味気ないが我慢してくれ。文句は黒ウサギに頼む」
「ふぅん……もしかしてこの水樹ってのも収納できるのか?」
なんとなく、カードを向けると、水樹は光の粒子となってカードに呑み込まれた。そして十六夜のギフトカードには"水樹"の名が記される。
「おお、面白いなこれ。もしかしてこのまま水が出せたりするのか?」
「出せるとも。やってみるか?」
「だ、ダメです!水の無駄遣い反対!これはコミュニティのために使ってください!」
チッ、と露骨につまらなさそうな反応をする十六夜を尻目に美月は盃にギフトカードを翳す。やはり盃はギフトカードに収納され、"聖盃"というギフトが出てくる。
「……なるほど」
「このギフトカード、正式名称は"ラプラスの紙片"といっての。わかりやすく言えば全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームこそがおんしらの魂と繋がった"恩恵"の名称。鑑定はできずともこれでなんとなくどのようなギフトかはわかる」
「へぇ?じゃあ俺のはレアケースってことか?」
「知らないものが二つあったってことは、まだ自分も知らなかったってことでいいのか?」
ん?と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。そこには確かに"正体不明"と刻まれていた。
「そんなバカな……"正体不明"だと?いいやありえん。"ラプラスの紙片"は全知の証。それがエラーを起こすなどと」
「なんにせよ鑑定は失敗ってわけだ。俺的にはこれの方が有難い」
白夜叉の納得できない顔を見つつも十六夜はニヤ、と笑う。だが、裏を返せばそれほどこの"正体不明"がありえない存在だということでもある。
(そういえばこの小僧……蛇神を倒したと言ったな。それほどギフトが強大なのは間違いないが、それだけでは"ラプラスの紙片"がエラーを起こす理由にはならん……)
ギフトが正常に機能していない、という考えに着くと、白夜叉の脳裏にある考えが浮かぶ。
(ギフトをキャンセルした……?いやまさか、それこそありえん。これほど強力な奇跡を宿す身でありながらその奇跡を打ち消す力を一つのギフトに混在させておるなど……いや待て、それよりももう一人ギフトの守護者を神格も持たずに倒した者もいたぞ)
すまぬ、と白夜叉は美月のギフトカードを奪う。美月が「あっ、」と呟くが、同時に白夜叉が取ったギフトカードをすぐに落とす。
「……おんし、なんだこのギフトは」
「このギフト……とは。悪いが俺が答えられるのは"言霊"だけだ」
「巫山戯るでない!なぜただの人間であるおんしが"物質液状化現象"を所持している!?これは百年前に箱庭から消えたギフトのはずだ!」
美月の言葉にカッとなった白夜叉が思わず美月の胸倉を掴む。ぐわんぐわんと揺さぶられながら美月はその表情を変えることなく、あくまで平静に答える。
「ふざけるもなにも、そんなギフト俺も初めて知った。というか俺は"言霊"以外にもギフトが三つあったなんて知らなかった。最後のはなんとなく理解できるが」
「………………信じてもよいのだな?」
「俺は嘘という概念を知らない」
「このギフトの能力を知って悪用しないと言えるか?」
「悪行に使うほどの脳は持ち合わせていない」
「……ならば教えよう。その"雪月花"含め、二つのギフトのこと」
白夜叉は美月の眼を見て、黒ウサギが呼んだ同志であることを加味して、説明することにした。白夜叉は美月のポーカーフェイスを見ると、ゆっくりと語り出す。
「……事の始まりは百二十年ほど前だ。箱庭の世界が今の状態を作り始めて暫く……と言ったところか。その頃から一人の恐ろしい者が現れたのだよ」
「恐ろしい者……?そいつは魔王なのか?」
「いや、魔王ではなかった。だが……ある意味では魔王よりも厄介だった。其奴が持っていたギフトこそ"物質液状化現象"。その能力は二つ、一つが対象の意識や良識、道徳に力……ありとあらゆるものを文字通り液状物質にして溶かすこと。そしてもう一つがその液状物質へと変質させるための"毒"を操る能力だ」
「それがどう問題に繋がる?」
「わからぬか?その"毒"は感染した一人を発端に徐々にコミュニティ全てに感染し、最終的にその全てがスライムになって溶けるのだよ」
そう、このギフトはコミュニティというものが存在する箱庭にとっては決定的なほど、魔王を勝る災害だった。しかもそれはまるで病気のように始まるため、魔王のように態々ギフトゲームを仕掛ける理由がない。
「……それで、そいつはどうなった」
「天軍にとうとう身元を特定されて感染した者たちや関係のない者たち諸共辺り一帯焦土にするカタチで討伐されたよ」
つまり、ギフトの保持者と正面から戦っても無駄死にに終わるため、気付かれないうちに核のようなもので吹っ飛ばした、ということだ。そうせざるを得なかったほどその男が犠牲を出したのだ。
「なるほど。お前がこのギフトと俺を警戒する理由も理解した。コミュニティに行ってそのまま"ノーネーム"を壊滅させるのでは……と」
「そういうことだ」
「それなら問題はない。俺は正直"ノーネーム"というものに興味なんて微塵もない」
「なっ……!」
あまりにもあっけからんと、少し前から十六夜と黒ウサギに告げていたことを口にする。だが初めてその言葉を聞いた飛鳥と耀、白夜叉にはその言い方は誤解を与えるものだった。
「き、……貴様!やはり箱庭を壊すつもりなのか!?」
「……?なぜ今までのくだりでその結論にたどり着く?」
あー、と黒ウサギと十六夜は美月の事情を知っているが故に項垂れる。そして同時にこのままじゃ話に決着がつかないことも明白だったので口を挟むことにする。
「し、白夜叉様……そういうことじゃないんです。美月さんはただ純粋に、"ノーネーム"の境遇や箱庭の格差含めて"そういうのに興味ない"と言っているんですよ」
「……は?」
「そういうこった。コイツはちょっと生まれに色々あったらしくてな……常識とか感情とかを知らないんだよ」
「……どういう意味かは知らないが、逆廻がそういうのならそうなんだろう?」
「……この通りだ。ちょっと痛いとか嬉しいとかの感情について教えたら変に懐かれちまってな……」
やれやれ、と十六夜は溜息を吐く。
「……そうか。ならついでに雪月花も説明しよう。と言っても、これは"言霊"や"物質液状化現象"のように戦いに使うギフトではない」
「じゃあなんだ?」
「単なる美貌だよ。一種の"魅了"の効果がある。その魅了は持ち主に応じて変わるがな。異性としての魅了、カリスマ性としての魅了……色々あるからどんな魅了かまではわからん」
「随分と分かりづらいな」
「その通りだ。どんな魅了かわからない以上あまり無闇に使うなよ?もしかしたらその魅了で変なのを惹きつけてしまったらおんしの性格上厄介事に巻き込まれかねん」
「……わかった。注意はする」
白夜叉の一通りの説明を終えると、美月は軽く頷く。
「話は以上だ。おんしらはまだ"ノーネーム"に寄ったことがないのだろう?ならさっさと行くといい。それで魔王がどんなものか……知るといいさ」
「は、はい……それでは白夜叉様、お世話になりました」
◆◇◆
それから暫く。一行は噴水広場を超えて半刻ほど歩いた後、"ノーネーム"の居住区前の門前に着いた。見上げると旗があったような名残が見える。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館はこれからもう暫し歩かねばなりません。この近辺はまだ戦いの名残がありますので……」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングの奴との戦いか?」
「は、はい」
「丁度いいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
飛鳥の言葉を聞いて黒ウサギは若干躊躇いつつも門を開ける。すると門の向こうから乾き切った風が吹き抜けた。
美月以外の三人は砂塵から顔を庇うようにする。視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは……!?」
「……魔王、か」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜は目を細める。そして美月はやはり、変わらないポーカーフェイス。
美月が『"掴"』と唱えてその辺の木片を手元に手繰り寄せて軽く握る。それだけで木材は乾いた音を立てて砕ける。それを見た十六夜は信じられないものを見るように黒ウサギに問い掛けた。
「……おい黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは、今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前の話でございます」
「……とても三年でなるような風化の仕方じゃあないぞ」
美月が呟いた言葉通り、こんな老朽の仕方はたった三年でなっていいものじゃないわ、美しく整備されていたであろう街並みは砂に埋もれ、木造建築は軒並み崩れ去っている。
要所で使われていたであろう鉄筋や針金は錆びきっており、とても三年前まで人がいた場所とは思えなかった。
「……断言するぜ。どんな力がぶつかってもこんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて膨大な時間をかけて自然崩壊したとしか思えねえ」
十六夜の言葉に続くように耀と飛鳥、美月も複雑そうな感想を述べた。
「ベランダのティーセットがそのまま出てるわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたい……」
「生き物の気配も全くない。整備され亡くなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「だれも寄り付かないだろうな、これは……人のいるやいないに関わらずこれは未来永劫なにかの切っ掛けがない限り誰一人、草一つ寄り付かないだろう」
美月は淡々と言うが、二人の感想は重い。
黒ウサギは廃墟から目を逸らし、朽ちた街路を進む。
「……魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのです。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と見せしめでしょう。彼らは力のある人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させる。わずかに残った者たちも皆心を折られ、コミュニティから、箱庭から去って行きました」
大掛かりなギフトゲームの時にゲーム盤を用意する理由はこれだ。力のあるコミュニティと魔王が戦えばその傷跡は酷く残る。魔王はあえてそれを楽しんだのだ。
黒ウサギは感情を殺して風化した街を進み、飛鳥も耀も複雑な表情で進む。
しかし十六夜は瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いた。
「魔王───か。ハッ、いいぜいいぜ、いいなァオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか……!」
四人が街を進む中、美月は街を静観し続け───
「俺は……なんて思ってるんだろう。怒ってる?いや違う。じゃあ悲しい?違う……俺は……?」
───嗤って、いるのか?───
美月の顔は、確かに嗤っていた。
完全に魔王sideのオチである。そんな今回。
美月は感情を知らない子ですが、感情を持たない子ではない。なので嗤います。学んで、喜んで、知って、嗤います。