その日の夕方頃、俺達は自分の家に帰って来た。
久方ぶりの家族との再会、父も母も俺の元気な姿を見ると涙目でとても嬉しそうに喜んでくれた。
お土産がないとわびたのに、お前が無事に帰ってこられたのならそれで良いよと言われた時には、流石にこっちが泣きそうになった。
もう何年も帰ってきていなかった自分の部屋は当時持ち出した私物以外何も変わらずそこにあった。
母さんが「何時帰って来てもいいように」と掃除を欠かさなかったらしい。
久しぶりの自身が持ってきた必要最低限の荷物を置き、高校時代から世話になっている自分のベッドにダイブする。 太陽の匂いがする―きっと母さんが今日布団を干してくれたのだろう。
「………疲れたな。」
あれから何年ぶりの母の料理に舌鼓を打っていた時だ。
父親から発した―数日前にイッセーが高校の先輩と寝たという話を聞いた時だ。
思わずイッセーの彼女の名前を出したとき、父も母も誰だそれ?っと言う反応をしていた。
イッセーは冷や汗をかいていたので夕飯を切り上げて【ゴッキリ】(←じっくりじゃないよ?【ゴッキリ】だよ)話を聞いて説教をしておいた。
そしてイッセーを開放し、それからどっと疲れが表に出てきて今現在に至る。
「……………。」
ごろりと体位を変えて仰向けになる。
懐かしい天井を見つめながらあの時の嫌な感覚を思い出す。
アーシアちゃん―あの時、彼女の手は淡い優しい翡翠の様な輝きを放ち子供のけがを治した。
あれを【神様からの贈り物】と言っていたが―あの時の悲しい表情は脳裏から離れない。そもそもあんな年若いシスターを一人で異国に送り出すというのにも疑問だ。
【追い出された】―そう言った方が、合点が行く。
「いや―或いは、それが事実なのか?」
どちらにせよ―あんな事があったにも拘らず、このままと言うには胸のつっかえは取れない。
何より―この首飾りがあの時、大きな反応をした。
まるで良くないものがあそこに蔓延っていることを知らせるかの如く―
とは言っても、確信があるわけではない―だが、警戒するに越した事はない。
それに―向こうに居た時は俺が一人だったからと言うのもあるが―長年離れていたとはいえ此処は俺の故郷…顔を見られるというのは非常にまずいからな。
「アーシアちゃんの事も含めて、杞憂であること願うしかないな―――ッ!?」
首飾りから走る電流のような感覚―疲れが吹き飛び大きく体を起こす。
この感覚―あの教会の時よりもハッキリとした痛み…あの時と同じだ。 あの異形の化け物が人を襲いに表に現れた時と―
「チッ…まさか、こんな場所にまで現れるとはな」
だが―放っておくわけにもいかないだろう。しかし、こんな夜遅くに出かけるのも怪しいな。
適当な理由をつけて行くか―その為にも―
「イッセー、飲み物を買いに行くが、何か欲しい物はあるか?」
イッセーには証人になってもらおう。
しかし―此処で誤算が起きた。
イッセーの返事が返ってこない―試しに開けてみるとイッセーの姿はそこにはなかった。
「何処に出かけたんだ?アイツは―」
だが、俺の目論見は外れたな―仕方ない。
「あら?一星何処に行くの?」
「コンビニ、少し飲み物を買いにね」
「それなら私が買ってくるわよ。あなたは部屋で休んでなさい」
「母さん、俺はもう二十を超えてるんだよ?子ども扱いしないでくれ―大丈夫、すぐ戻るから。」
「そう?なら―気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。」
少し強引ではあったが―母をうまく丸め込むことができたようだ。親に対して嘘を吐くのは良心が痛むが―仕方ないと心で割り切る。
さて――魔物狩りと行くか。
「此処か――」
辿り着いたのは廃屋―町からはかなり離れているが、工業区の跡だ。
反応は二つあった―お互いに距離もあり―一体どちらに行くか悩んだが、片方の気配が消えたのでもう片方を狙う事にした。
何故消えたのかを疑問に思ったが―考えても仕方ないし、憶測だけで考える事でもないと考えるのを辞めた。
とにかく―被害が出る前に事を片付けなくては―
「【磨羯(カプリコーン)】」
十二の玉の内の一つが大きく輝く―これで臨戦態勢は整った。
後は敵が現れるのを警戒しながら進むだけだ。
静かに屋内を進む―周囲に気を配るが―まだ敵は姿を見せない。
「………………。」
そんな一星を見据える眼、醜い四肢はゆっくりと彼に近づいていく。
獲物は気づいていない。 醜く歪む口元から出そうな笑い声を抑え―それは背後を取る。
此処まで来れば大丈夫―後はゆっくりと嬲って食い殺す。
天井から機をうかがっていたそれは一思いに獲物に襲い掛かる。
コンマ遅れて振り返る獲物―だが、もう遅い。
加虐的な醜悪な笑い声をあげて研ぎ澄ませた腕を繰り出した。
直後―胴体から切り離された腕が廃屋の床を紅く染めながら舞い上がった。
――異形の腕が
「ギ…ギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
一拍の思考―理解した瞬間、笑いは痛みに悶える断末魔に変わった。
異形にはいったい何が起こったか分からないだろう。
「如何した?まさか、気づいていないとでも思っていたのか?」
「ガ、アアッ」
「気配はとっくに気づいていたのさ―後は近づいてくるのを待っていたんだが―此処まで上手くいくとは思わなかった。」
冷静に冷酷に手刀を構える獲物の目には明確な殺意がある。
「俺の様子をうかがって背後から攻撃か―馬鹿の一つ覚えの様な温い攻撃だ。」
「キ、貴様ァ、神器持チカァ!!」
「ほお―この力の正体を知っているようだな。 だが―貴様に掛ける時間も惜しい。 一思いに終わらせてやる。」
手刀を掲げ振り下ろす。
「チィッ!」
異形は背後へと飛び逃げる。
直後、異形が先程までいた場所に一閃の斬撃が過ぎ去る。
「外したか―だが、逃げさん。この場で仕留める!!」
追いかけて距離を詰める
だが、異形の下半身から怪しい液体が吐き出される。
「ッ!」
咄嗟にそれを回避し後方を確認する。 液体を被った鉄骨が無残にも解けていく。
原料は分からないが、強力な酸性の液体か―迂闊にかぶるわけにはいかないな。
前方を向き直ると異形は再び酸を吐こうとしている。
そうはさせない!!
「唸れ【エクスカリバー】ッ!!」
振り上げられた手刀から斬撃が放たれ、異形の足を切断する
「ギィイイイイィィ!!」
足を失いバランスを崩す異形。
このまま止めを刺そうと追いすがるが―今度は尻を此方に向けてきて糸を飛ばしてきた。
「くっ!」
それを薙ぎ払うが―糸が腕に着き自由を奪う。
その隙に異形は大きく跳んで野外へと飛び出した。
「――蜘蛛のようだとは思っていたが、案の定糸を使ってきたか。」
腕に絡みつく糸―迂闊に取ろうとして身動きを封じられるのは良くないな。
相手の姿を確認はできたし、ある程度の手傷を与える事もできた。
此処からは相性の良いこいつで行くとしよう。
「行くぞ、【宝瓶(アクエリアス)】」
腕にまとわりつく糸が凍結し砕け散る。
その腕の感覚を確認し異形の追跡を再開した。
「―見つけました」
時を同じく廃屋の一角から一帯を見据える集団が居た。
「ありがとう、椿姫。」
腕を組む少女―そして彼女を中心に守るように立ち並ぶ数人の人影。
駒王学園の生徒会長【支取蒼那】と彼女を中心にした生徒会一同である。
何故―彼女達が此処に居るのかと問われれば、厳密に言えば此処に居る彼女達は人間ではない。
支取蒼那――本名はソーナ・シトリーは悪魔であり、この場に居る生徒会のメンバーは彼女の眷属の悪魔、或いは人間から悪魔になった転生悪魔である。
悪魔達の本拠―魔界からの緊急の依頼、はぐれ悪魔の討伐を依頼された彼女達は友人であるリアス・グレモリーと分担して作業に当たっていた。
万が一の人前を避けるため―そして、はぐれ悪魔が最も活動する夜中を狙いはぐれ悪魔の潜伏先に突入を試みる所だった。
「リアス達は既にはぐれ悪魔【バイサー】の討伐を完了したようです。けれど油断はせずに任務に当たりましょう。」
メンバー達が頷く。
まだあまり、実戦経験が少ないとはいえ、意気込みを持つ自慢の眷属たちだ。
「では―椿姫は」
眷属達ににこりと笑顔を見せてから改めて彼女は支持を飛ばそうとした時―
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
廃屋の彼方からこの世のものとは思えない醜い叫び声が響いた。
「!」
突然の出来事だ。だが、これがただ事でないことは確かだ―一瞬、驚いた蒼那だがすぐに冷静を取り戻すと眷属達を連れて廃屋の奥へと急ぐ。
いったい何が起こっているのかを確かめるために。
※エクスカリバー違いだよ