瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第十話 偏見と暴言の嵐の中へ

 翌日、そろそろ授業が始まると思いイヤホンを外すと、丁度そこで昨日の中国からの編入生が教室へと乱入してきた。そして織斑と少しばかり話すと、やってきた織斑先生に頭を叩かれて涙目に去っていった。

 話の内容を聞く限り、やはり織斑の関係者であったらしい。

 それも相当仲が良いらしく、変に壁があるわけでもなく、悪友といった表現が近いように見えたが――昨日のことから考えると、きっと鳳の方はそれ以上の関係を望んでるんだろうな。

 それでもどうせ織斑のことだ、本当にただの友人としか思って無いんだろう。

 精々俺の知らない所で勝手に青春ラブコメを繰り広げればいい。

 

「さて、それでは授業を始める――起立!」

 

 号令をかけた織斑先生に従い、一旦鳳のことを考えるのを止めて立ち上がる。

 さて、今日もまた一日が始まるのか。

 

 

 ■

 

 

 午前中の授業もとい自習が終わり、昼食時。

 最近は寝る前のちょっとした時間以外をほとんどIS関係の知識吸収に務めているせいか、時折耳に届く授業の内容も大体は理解出来るようになっている。質問に正解を返した俺に山田先生は嬉しそうにしていたが、一切授業を聞いていない身としては何とも言い難い物があった。無駄に純粋すぎるから表立って嫌味を言うこともままならないし……。

 

 ――実際、彼女の授業を自習時間に変えているのはほとんど俺の意地みたいなモノだしな。

 初日の事も、政府の監禁のお陰で不機嫌だったこともあって、捻くれた考えをしてしまっただけだろうし。そりゃまああの誰にでも好意を向けるような性格なら、目の前でいかにも分からないと言った雰囲気の織斑にしか目が行かないだろう。

 ……ま、聞かなくったって今のところは問題ないし、どうでもいいか。

 図書室から借りてきた『銀翼のアリス』なる自前のカバー付きのIS系ライトノベルを鞄から取り出し、珍しく食堂へと向かう。

 今日は二人仲良く寝坊したお陰で弁当を作らなかったのだ。

 特に会話もなく鷹月と数歩離れて歩き、食堂への道を進む。

 もう少し離れたところでは織斑が篠ノ之、オルコットと一緒に腕を組んで歩いている。歩きにくそうにしている織斑の様子に不満げな二人はそれぞれ小言を言っているが、織斑はその意味を理解していないらしく首を傾げるばかりのようだ。

 それに対して俺には歩く度に悪意オンリーの視線ばかりが叩きつけられる。最も未だ直接手を下してくる輩は居ないので、俺としても無視するだけですんでいる。ホントどこから生まれたんだろうね、この差は。

 ……満員のアリーナでIS一機壊したからか。それともつい一週間前貼り出された小テストの結果で運良く学年二位に入ったからか。いやまあ、一位は十人くらいいたし、二位の一問ミスなんて三十人近くいたんだけど。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 やがて食堂へと着くと、そこには鳳が待ち構えており、織斑が来ると同時にアイツに接触を図っていた。

 

「積極的だね、リンちゃんは」

 

 同じ方向を見ていた鷹月が近づいてきて面白そうに呟く。

 ……っていうか、下の名で呼ぶほどあの短時間で仲良くなったのか。

 とりあえず俺は鳳をみていたら無性に食べたくなった麻婆豆腐を、鷹月も同じ影響を受けたのかチャーハンを注文して適当に席を取ろうとする。

 が、そこで運悪くあの中華娘は俺達を発見してしまう。

 

「あ、結城!せっかくだし、アンタ達も一緒に食べましょうよ!」

 

 ……せっかく無視しようとしたのに。心の中で舌打ちするが、さすがに声を掛けられては仕方がない。アイツだって悪意あってのことではないのだろう。

 仕方無く、本当に仕方無く織斑たちの方へと足を向ける。

 

「おう結城、今日は一緒の昼食だな!」

 

 無駄に仲良さげに話しかけてくれたお陰で、隣の馬鹿二人がこっちを睨んでくる。

 

「なんでいつも無視されてるのに、こんな嬉しそうなんですの……」

「一夏、貴様、私と態度が全然違うではないかっ」

 

 そう考えるのはいいから、俺に対して殺気を向けるのだけは止めて欲しい。

 またも心の中で呆れる俺をよそに、織斑は今度は鷹月へと話しかける。

 

「ええっと、それに鷹月さんだっけ。よろしくな」

 

 挨拶と一緒に手を差し出した織斑に対して、彼女は。

 

「――そうね。一応ヨロシクね、織斑君」

 

 極度に冷たい笑顔を向けて、口に出さず手を結ぶことを拒否した。

 

「あ、ああ……」

 

 オルコット達の好意が理解出来なくてもさすがに今のは読み取れたらしく、若干冷や汗を掻きながら織斑は手を引っ込めた。……ほとんど誰とでも仲良くするような鷹月が拒否するなんて、中々見られない光景だ。俺の知らないところで何かあったのだろうか?

 さすがに理由も無く人を嫌うなんて鷹月らしくもないからなぁ。

 とりあえず六人で適当な座席を探して座ると、早速織斑と鳳が互いに近況報告をかねた質問を交わしていた。それを怒り半分で見る残り二人を尻目に、俺達は俺達で話ながら昼食を食べ始めた。

 とは行っても毎日顔を合わせている間柄なので、話題にすることと言ったら自然とIS関係の方に移行する。

 

「それで、今のところは何処まで固まってるの?」

「ん?……ああ。昨日一晩で大体の防具の見た目は書き上げたから、あとは細部かな。他にも武器なんかの外装はほぼ手つかずだし、全然固まってないって言うのが正しいと思う」

「始めたのも最近だから仕方無いわよね。それより、朝起きなかったのって、きっとそのせいよね。一体昨日は何時まで起きてたの?」

「確か、最後に時計を見たのは五時だったか……」

「そこまで起きてたんならいっその事ずっと起きていれば良かったのに。そんな時間に寝ちゃうから起きられなかったんじゃないの?」

「そう考えればそうだけど、あの時は若干テンションが狂ってたからなぁ。もういっそ一、二時間くらい学校サボってもいいか、なんて考えていたようないなかったような気が」

「完ッ全に本末転倒じゃない」

 

 ビシッ。

 レンゲを握る鷹月の指が俺の額を打った。

 

「い、いや、俺のメインはこっちだし、別に本末転倒じゃないぜ。授業を聞くなんて、俺の中では下の下のそのまた下なわけであってだな……」

「学生としての本分は、何処へ行ったのかしらね?」

「……はい、俺が悪かったです」

 

 最近、鷹月の微笑に逆らえなくなってきた気がする。

 なんというか男として本能から逆らうことの出来ないような、そんな笑みだ。これが必殺タカツキスマイル……なのかもしれない。女子に対しては効力不明、ただし男子限定で一撃必殺。

 

「……仲良いのね、アンタたち」

 

 そんな鳳の声に引き戻されてみれば、目の前の四人がこちらを見てきていた。

 面白いモノを見たような顔をする鳳の横で、篠ノ之とオルコットは不思議そうに、目を疑う光景を見たかのように目を大きく開いている。

 ……普段クラスじゃ一切周囲と関わりなんて持たず、休み時間は延々と本を読んでいるからか?そんな俺が女子といかにも仲が良さそうに話しているのはどうやら彼女らに取って正気を疑うレベルの光景だったらしい。失礼な。

 俺と同じ事を思ったらしい鷹月が苦笑いしながら鳳に答える。

 

「うん、結城くんとは同じ中学校で三年間同じクラスだったからね」

「それにしても仲が良すぎるようですが……」

「三年間も一緒にいたし、色々あったのからじゃないかな。ほとんど近くにいたし、結城くんはやるときはちゃんとやってくれるからね。自然と距離だって縮まるよ。いざというときには頼りにもなってくれるし」

「ほう、そうなのか。……私も一度くらいは是非一夏にそう言うことを言いたいモノだな」

「うぐっ、なんだよ箒……。にしても結城と鷹月さんってそんなに仲が良いのか。――っておい、なんでセシリアも鈴もこっちを睨むんだよ!?――ああ、そう言えば結城、お前っていつ訓練をやってるんだ?」

 

 女子三人が三者三様の苛立ちを織斑へと見せる中、それを受けて冷や汗をかいた織斑が突然話題の中心を大きく変える。しかも、随分と面倒臭くなりそうな話題へと。

 俺は話すのは嫌だったのだが、下手に無視してこの二人――鳳も加えたら三人になるのだが――に睨まれたくなかったので、持っていた箸を置き、とりあえず顔を正面へ戻す。

 

「訓練?ISのか?」

「ああ。今まで放課後とかにアリーナとかでお前を見たことが無いからさ、普段どこで訓練してるのかなって気になってたんだ。誘おうとしてもいつの間にか教室からいなくなってるしさ」

「そういうことか……」

 

 確かに俺は意図的に織斑と使用時間をずらしているし、顔を合わせることはない。

 コイツと一緒に練習すれば確実に余計な二人の怒りを浴びるだけだし、それ以前にコイツと練習したところで大した意味も無いと思ったからだ。織斑の練習を一度観客席で眺めたことがあったが、それは主に実戦メインのものだった。俺とは目的が全く違う(・・・・・・・)

 

「確かここ一週間で授業以外で乗ったのは――日曜の三十分、第二アリーナで、だな。少なくともここ最近は余りISに乗ってないし、そもそも訓練なんてしてないな」

「そうなのか?だったらせっかくだし、今日の放課後にでも俺達と一緒に訓練しようぜ?」

 

 ……なんでそう、爽やかに俺を誘い入れようとするんだ?

 ついさっきまでそのことで女子三人が舌戦を繰り広げていたばかりだと言うのに、その中にさらなる爆弾を放り込もうとするとは。

 少しばかり横に目をやれば、オルコットに篠ノ之はもの凄い眼力でこちらを睨んでくる。そこまで参加して欲しくないのかお前らは。ちなみに鳳は織斑の方を軽く睨んでいる。理由は大体篠ノ之たちと同じようなモノだろうが、こっちの方がまだ良識がある方で助かった。

 ――そんな光景を前にした俺は、

 

「悪いが断らせて貰う」

 

 そこで答えを切っておけば良かったのに、

 

「――そもそもなんでこんなモノの訓練なんかする必要があるんだ、馬鹿かお前は」

 

 そろそろ鬱陶しくなってきた周囲の視線もあってか、余計な一言まで吐き出してしまった。

 

「……え?」

 

 ポカンと口を開いた織斑を中心として、波紋のように食堂内の声が急激に静かになっていく。……まあいいか。

 隣で鷹月が見えないように小さく袖を引くが、俺はそこで好機とばかりに言葉を続けていった。

 

「こんなモノにどれほど乗ったところで、何の役に立つと思ってるんだ?」

 

 そんな俺のセリフに、周囲で聞き耳を立てていた連中の気配が一気にざわつく。

 そして恐らく彼女達と同じような感情を抱いたのであろうオルコットが、彼女らを代表して問いかける。

 

「……結城さん、一体どういう意味ですの?それはISに乗るために懸命に努力をしてきた私たちに対する侮辱、そう受け取ってもよろしいのでしょうか?」

 

 突然様子を変えたこちらに対し、額に十字を浮かべる彼女は勢いに任せて立ち上がった。それに返すようにして俺も立ち上がる。身長は俺の方が高いので、自然と俺が彼女を見下す形になる。

 そして彼女の言葉に対し、散々溜まった鬱憤を晴らすように吐き捨てる。

 

「ハッ、勉強ねぇ……。碌にISに乗ったこともない織斑に追い詰められる程度で、主席だからと言って入学してすぐにクラス全員を見下すような――そんな勉強が自慢とは笑わせてくれる」

「なんですって!?」

 

 自身を貶されたせいか、怒りで髪を逆立て始めたオルコット。

 それに対して俺は、本当はここまで言おうとは思っていなかったのだが――もう、どうとでもなれ。こんな大勢の前で言ったらもう後戻りは出来ないだろうが、戻る場所なんて知ったことじゃない……どうせこいつらとは関わり合うつもりは無いのだから――そう、ハッキリと決めた。

 心の中に一瞬、この後予想されるぼっちの三年間が浮かび上がる。周囲から話しかけられず見向きもされない――が、そんなものは知った事か。こいつらと一緒なんて温い湯に浸るくらいなら、いっそ、ここで全て言い切ったほうがマシだ。

 

 俺は今できるであろう最大の冷笑を顔に浮かばせて、食堂中に響くような声で、今思い浮かんだ出来る限りの侮蔑の言葉を並べ立てる。

 

「そもそもISは現状じゃ、たかがスポーツだ。ISは搭乗時間がものを言う?――馬鹿馬鹿しい。たかがスポーツに歪んだ青春の全力を注ぐなんて、これほど馬鹿馬鹿しい学園は全世界、全宇宙中探したって見つかることはないだろうさ。スポーツを極めたところで何になる。ISの世界大会で金メダルを取ってきたからって何になる。たかがスポーツの大会で覇者(ブリュンヒルデ)になったからって国中上げて大騒ぎするような馬鹿な国民を生みだして――これほどまでの人類に対する害悪なんて、歴史を振り返っても早々ないだろうさ」

 

 

 ■

 

 

 散々な事を言ったお陰で凍った空気の中、食堂を堂々と立ち去った俺はそのまま教室へと戻り、普段通り本を読み始めた。あそこまで言ったら今更どんな行動を取ったところで変わらない、ならばいつものように生活しても構わないだろう。ねじ切れるほど捻くれた意見だが、事実しか言った覚えは無い……そこまでいったら嘘に近くなるような気もするが。何にしろ、俺としては真っ赤な嘘はついていないのだから、変にこそこそとする必要は無い。

 ……最も女子達はそうは思わなかったようで。

 休み時間がそろそろ終わるだろう、そう思って本から集中を外したら何時にもまして数の増えた負の視線がそこらかしこから飛んできていた。それに応えた素振りを見せないせいか授業中もそんな視線が向けられてきたが、完全にスルーして機体案を頭の中で組み立てていると、その全員が仲良く「授業に集中しろ!」と織斑先生に頭を叩かれていた。

 

「――これにて今日は終了とする。礼!」

 

 そんな感じで午後の授業も終わり、いつも通り座席を立って部屋へと戻ろうとした。

 ……だが、今日は珍しく、織斑先生の方から俺に声を掛けてきた。

 

「結城、ちょっと待て」

 

 彼女は俺の肩を掴むと、教室の端に引っ張っていった。

 他の女子達がこちらに聞き耳を立ててくるが、それを無視して先生は話し出す。

 

「実はようやく昨日、お前の個室の整備が終わったらしい」

「あ、やっとですか……」

「うむ。そこで、だ。急で悪いが、今日か明日の内に部屋を移って貰う。いいな」

「分かりました。んじゃ、すぐに帰って荷物纏めてきますね」

 

 急ぎ部屋の方へと足を向けると、今度は首根っこを掴まれた。……なんだというのか。

 そう思い抗議混じりの視線で彼女の方を振り返ると、ついでに友人と喋っていた鷹月も呼び寄せていた。

 

「鷹月、同室のお前も来い。結城の手伝いをしてやれ」

「はい!」

 

 こうして何故か三人で教室を出て、俺達の部屋へと向かうことになった。

 廊下ですれ違う度に織斑先生の後ろに着いて歩く姿をみた他の生徒達がこそこそとあらぬ噂を立てようとしていたが、それらを全て先生が一睨みして黙らせる。

 ちなみに話の内容としては「俺が鷹月を襲った」から連行されているらしい。……そんな下らないネタばっかり話している辺り、エリート校って言っても頭の中はお花畑なんだな。

 そんな周囲の様子を流しながら、俺は部屋へと行く途中で疑問を投げかけた。

 

「そう言えば先生、移動って俺だけなんですか?」

「ああ。空いた部屋はまだ一つだけなんだ。よってどちらか片方を先に移動させることになり、お前が選ばれることになった」

「なんで俺なんです?」

「色々と理由はあるが、最大の理由は委員会の意向として織斑と篠ノ之は同室である方がよいだろう、とのことだ……これ以上のことは、部屋に入ってから話すとしよう」

 

 辿り着いた鷹月が鍵を開け、そのまま部屋に入る。

 外から見られないようドアを閉めた後、俺は早速部屋に置いてある私物を片付けにかかった。元々持ってきた荷物も少なく、加えて何も買い物をしていないお陰か、あるだけ全てをスーツケースに押し込むのに十分も掛からないだろう。

 一応はお客である先生に鷹月がお茶をだし、そこから少し離れた場所で俺が部屋にある物を片付ける。

 適当に荷物を押し込んでいると、先ほどの話の続きが背中の方から聞こえてきた。

 

「先ほどの話の続きだが……実は、とある馬鹿がIS委員会に脅しをかけてきていてな。篠ノ之と織斑の二人を同室にしないと全世界のISを停止させる、などと言われれば、流石にこちら側としてもどうしようも無かったんだ」

 

 ……え?

 

 




《銀翼のアリス》

 IS学園――そこは女性のみに使用を許された新世代パワードスーツ、通称『インフィニット・ストラトス』の操縦者を育成する全世界唯一の学校。目立つことの嫌いな女子高校生篠束(しのつか)アリスはそんな学校へ進学することなく、普通の公立高校で望み通りの『普通な生活』を謳歌していた。しかし、帰宅途中に運悪くテロリストの人質として自身の忌み嫌う“異常な日常”に巻き込まれ、銀に煌めく一つの機体を身に纏ってしまうことにより、彼女の平穏な日々は彼方へと消えていくのだった――。IS学園(一月遅れの)一年生篠束アリスとその専用機《シルバー・ドレス》が行く新世代の学園アクションコメディー、ここに見参!

 ※見参しません。


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