瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第十二話 作成許可と週末の外出へ

 後日。

 あれっきり鳳は俺を見ても顔を背けて目も合わせようとしない。そんな様子に「どうしたの?」と尋ねてくる鷹月の質問を何とか反らしながら、俺は装備のシステムやら原理やらの知識を頭に詰め込んでは吐き出すと言った日々を過ごしていた。

 既に参考書は一週目の終わりに差し掛かっているし、ISの作成案も順調に進んでいる。

 しかし、一旦武器の方を後回しにしたとしても、防具の外見や基礎の仕組みといった内容の第一案は未だ完成にはほど遠い。それに必要な物を織斑先生に装備関係の補習を実習込みで教えて貰い、どれほど重量やエネルギーやらの計算を重ねても、次から次へと問題は浮上してくる。

 問題を一つ潰せば次に二、三の問題が――まるで、とある黒いナニカの様に湧いて出てくる。『一匹見れば三十匹いる』とはよく言った物で、連鎖的に襲いかかる時にはキリがない。場合によってはかなり前へと遡ってのやり直しを要求してくることだってある。

 

 本来は数十人の開発者達が頭を捻って作り出すものなのだから、それも当然のことだというのは分かる。この二週間近く、一日三時間の睡眠で努力しているのだが、毎回どこかで赤ペンが入るんだよなぁ……。

 

「失礼します」

 

 それでもめげずに今日もまた、昼休みになって彼女の元を訪ねてきていた。

 ちなみに昼飯はちゃんと取っており、その際に鷹月にもアドバイスを貰っている。最初は飯抜きでも構わないと考えていたのだが、「時間が無いから昼飯抜きで」と言ったら、鷹月は笑って、「じゃあ一緒に考えようね」と即座に返した。

 ……せっかく飯時に別れる口実が出来たと思ったのに、実際そのお陰でスムーズに出来ている部分もあるので断り切ることが出来なかった。

 とりあえずいつも通り織斑先生の机へと行き、手に持った書類の束を渡す。

 彼女は口元に加えたパッケージからじゅるるる、と昼飯を食べつつ俺の書類にざっと目を通していく。この二週間ほど毎日この食事風景を見ている辺り、彼女の仕事の忙しさが伺える。

 きゅぽんっ、と全て飲みこんだ後のゴミを捨てた所で彼女は書類を指に挟んだ腕を組み、こちらを向いた。

 

「で?コレを装備に組み込む所までは良くなった……が、その際の機動に関する設定はどうするつもりだ。全てマニュアルでやるつもりか?実戦の空気も碌に知らないのに、か?それで相手の動向に注意を払いながら、全身に集中力を働かせると?」

「えーと、その辺りは予めいくつかの動きを設定しておくって考えてるんですけど、その辺り……プログラミングは未だ知識不足でして。目下、勉強中です」

「そうか。考えているなら問題ない。ま、最終的にはマニュアルでコントロール出来るようにならなければならないところが問題と言えば問題だが……その辺りはどうする?」

「実戦での慣れがないと難しいかと。でも、俺の相手を好んでするのなんて早々いないでしょうし……。実験のデータを取られるのも癪ですしね。出来ればちょっと手伝って貰いたいんですね、織斑先生に」

「ほう、私が、か?」

 

 ニヤリと口の端を吊り上げる先生に、こちらも同じように笑い返す。

 

「何しろ世界最強ですから。ほら、前に言ってたじゃないですか。望むならしごいてやるって。……ちょっと内容は違いますけど、“目標はとにかく高く持て”と言われてますから」

 

 しごくのと実験機の練習台になるのとはかなり違うのだが、おそらく織斑先生ならやってくれるだろう。何しろ俺の機体は一応全距離に対応出来る予定だが、メインは彼女の現役時代と同じで近接特化型(・・・・・)なのだから。

 近接には近接を――同じタイプの方が練習相手としては丁度良い。

 

「ふっ、ならばその時に声を掛けろ。時間が空いていれば手伝ってやらん事もない。お前もここ数日で分かっていると思うが、私は多忙だからな。で、とにかくこっちの方はもう一回出力調整のバランスを練り直してこい。方向性は良いが、このままだったら全身が複雑骨折を起こしかねないからな」

「はいはい、分かってますよ」

「はいは一回だ、馬鹿者」

 

 バシンッ!

 

「……はい」

 

 最後の出席簿アタックはともかくとして、今回は特に添削されるところはなかった。

 これで少しは前進したと捉えてもいいんじゃなかろうか。彼女から書類を受け取り、早速練り直そうと上機嫌で近くの図書室へ足を向ける。

 

「ねぇ、あの結城って子、一日にどれだけ呼び出されてるのかしら?」

「確か朝と昼休みにそれぞれ一回、それで今でしょ……今日は三回目ね。最も昨日は確か朝昼放課後、加えて夜に二回ほどで計五回ね。ホント、何をやらかしているのやら」

「もう一人はあんなにおとなしいのに、自分だけ呼び出されて恥ずかしくないのかな」

 

 職員室から出る途中にそんな悪口が耳に届くが、これももう慣れたモノだ。

 あまりに多く織斑先生の元を訪ねたお陰で彼女に呼び出しを喰らっていると勘違いしている馬鹿がいるお陰で、職員室での俺の評価は現状駄々下がりになっている。とは言え俺の成績を付けるのは織斑先生なので影響はない。

 それに、俺は元からそんなことは言われたところで気にしない。馬鹿は馬鹿なりに陰口を叩かせておけばいいのである。織斑先生からも「馬鹿に向けるエネルギーがあるならその分開発に回せ」とのありがたい一言も貰っていることだし。

 

 さて、とりあえず午後の授業は全部コレの手直しに回すとするか。

 

 

 

 

 ――そんなこんなで書き直しは順調に進んでいき、それから三日後の深夜。

 

「いいだろう。よくやった、結城」

 

 更なる五度の書き直しを経た提案書を見た先生からは、ようやく望んだ一言が飛び出した。

 

「……マジですか」

「うむ。よくこれだけの短期間で基礎を完成させたな。コレなら最低限なんとかなるだろう。最も、応用にはまだ経験が足りないだろうが、元々碌に知識もなかった状態でここまでやれたのは一重にお前の努力の結果に他ならない。本当に、よくやったな」

 

 そんなねぎらいの言葉と共に、先生は机の上の棚から一つのファイルを取り出し、その中から数枚のプリントを引き抜いて渡してきた。

 

「これは?」

「努力への褒美と言う奴だ。整備室の使用許可証、本来なら取るのに一週間近くかかるんだぞ」

「予め取っておいてくれたってことですか。それはどうも」

「何、構わんさ。ほら、これも受け取れ」

 

 続いて渡された紙の束を受け取る。……それは、俺が最初に彼女に見せたノートの中の、武器の項目が書かれたページだった。その大半がボツとなっているが、いくつかの装備は《許可》の判子が置かれていた。……どういうことだ?武装の方は一旦諦めると伝えておいたはずだが。

 

「見て分かるとおり、それはお前が一旦諦めていた武装の方の書類だ。ここまで忠告した事を踏まえ、改めてその中から一つを選んで、設計図を完成させてこい。まずはそれの作成過程で、整備室の機械の使い方に慣れてもらう。それが終わったら本格的なIS作成の許可を下してやる。……忙しくなるぞ?」

「――はい!」

 

 忙しさなんて今更だ。そんな事より、作成の許可が出たことの嬉しさの方が俺の頭の中を占めている。そのせいか、ガラにもなく少し声が弾んでしまった。

 そんな俺の様子を見ながら、目の前の先生は小さく微笑んだ。

 

「嬉しいのは分かるが、今日はもう寝るんだな。……お前、あれから一切寝ずに計算を進めていたんだろう。少しばかり足取りがふらついている上に、妙にテンションが高いぞ」

「あ、分かります?」

「当たり前だ。私は教師だぞ、生徒の体調くらい分かるさ。ま、そのお陰で中々珍しい物も見れたがな」

「そうですか……んじゃ、ま、とにかく、どうも有り難うございました。帰って寝ます」

「ああ。それでは明日の放課後、IS整備室に来い。機械類の使い方を教えてやる」

「分かりました」

 

 彼女の差し出した書類を全て鞄にしまって、俺は自分の部屋へと向かう。

 あー、それにしてもやっと一段落付いたせいか、急に眠くなってきたな。

 さっさとシャワー浴びて寝ることにしよう。

 

 

 

 

 よほど眠たいのか、フラフラとしながら帰って行く結城の背を見つめながら、私は手元の資料の最初のページを改めて見直した。

 そこに載っているのは最初のノートとは違い、ハッキリとした設計図に基づいて描かれたアイツのISの完成予想図だった。武装の類はないモノの、その異様さは内外共に他には例を見ないだろう。

 

「“鮮血の流れ星(ブラッディ・ミーティア)”、か。中々凝った名前を付けたモノだ」

 

 ご丁寧に機体のイラストの上にそうハッキリと銘が書かれている。

 正直どこがその銘を意味するのか分からんが……いや、アイツのことだ。恐らく完全に信用されているわけでもないのだろうし、私に提出していない装備でも有るのもしれんな。きっと今のアイツが本当に信用しているのは――ふん。

 何にしろ、やる気がある生徒なら教師としては大歓迎だ。奴がISを完成させるのが楽しみだな。

 ……一夏の奴も、これくらい頑張ってくれれば助かるのだが。

 

 

 ■

 

 

 久々にキッチリ七時間寝たお陰か、随分と頭がスッキリした翌日。

 授業時間を終えた放課後、俺は昨日の織斑先生の言葉通りに整備室へと足を運んでいた。

 クリアな頭で改めて思考を纏め直すと、この六時間だけで武装の設計は頭の中で処理することが出来たので、もう今日にでも作成に入る事は出来る。

 纏めた荷物を持って整備室へと辿り着くと、そこには先に教室を出ていた織斑先生が既に待機していた。

 

「よし、来たな結城。早速機器の使い方を説明するが……その前に、昨日渡した武装の設計にはもう手を付けたのか?」

「手を付けたどころか既に完成してます」

「なら早速見せてみろ。ほら、出せ」

 

 そう言った先生に、俺は笑って続きを口にした。

 

「――頭の中で!」

「……」

 

 顔を顰めた織斑先生に、俺はとりあえず笑っておいた。

 もちろん教育的指導と言う名の出席簿が喰らわせられるが、まあ、今回は俺の方が悪い。

 

「――まあ、良いだろう。どちらにせよそれを改めてこちらで打ち直さなければならなかったところだからな。出来ているのならどちらにせよ構わん。とりあえず、後でデータを私の方へ送れ」

「分かりました。それで、早速ですが、やり方を確認したいんですが」

「もちろんだ。ではまず、お前の場所はあそこだ」

 

 そう言って彼女が指した場所に行くと、そこには必要そうな機械の一式が揃っていた。

 

「では、ISを出してみろ」

「はい――ラファール」

 

 手首に付けていた十字架が姿を変え、一瞬の光の後に灰色の機体へと姿を変える。

 それを先生の言うとおりにコードを繋いでいく。

 

「まずはこの間教えた通り、システムのチェックから始めて見ろ」

 

 PC上に表示されたISの状態確認欄を開き、異常がないか一つ一つ調べ上げて箱にチェックを入れていく。――チェックする箇所は百以上あり、機体に乗る度にやらなければならない。

 今回も一通り見て見たが、問題は無かったらしい。

 

「よし。それでは早速操作を教えていくぞ。まずはそちらのソフトを立ち上げ――」

 

 先生の言うとおり設計用のソフトを立ち上げ、その中に専用のパネルとペンで設計図を書き上げる。

 もちろん部品の数は非常に多く、それらを一つずつ書いていく。

 

「書き終わったらコレを使って組み上げて、問題点がないかどうか確認しろ。いいか、ちょっとでもズレがあれば戦闘時に大きな隙を生む可能性だってある。そこまでしっかりと考えて、時間を掛けて書けよ。……ま、お前ならそれくらい言わなくとも分かるか。それが終わったら保存して、今日の所はそれで終われ。残りは明日だ。私は職員室へと戻る」

「はい。それじゃあ先生も仕事頑張って下さいね」

「ふん、お前に言われるまでもない」

 

 笑って去っていく先生を尻目に、俺は一気に部品全部を書き上げていくのだった。

 外殻となる巨大な部品から、細かい部品に至るまで正確に。一応ボルトなんかは予めあるモノを拡大・縮小することで何とかなる分、気が楽になる。

 

 それらを近くの自販機で買ったコーヒーを飲みつつ三時間程度で書き上げて、今度は一つ一つ精密に組み上げていく作業へと入る。

 

 画面の中で完成したそれは、一振りの大太刀。

 最も、“葵”のように単なるIS用の太刀ではなく少しばかりゴテゴテとしているが、多分分類的には太刀だ。……ほら、モンハンだってどっからどう見ても大鎌な武器とかがそこに入ってるし。それに比べればまだ普通の太刀に近いはずだ。

 ……よし、とにかくこれなら俺の目的にあった武器になるだろ。

 とりあえずそのデータを保存し、ISを片付けて今度は職員室の先生の所へと戻った。

 書き上げたデータを提出したときの先生は、少しばかり面白いモノだった。

 

「……早いな」

「適応力の高さには自信が有りますから。最初の二十個を終えた辺りでなんとなく慣れました」

「それでも今日いっぱい掛かると思っていたのだが……残り、何か予定はあるのか?」

「いえ、特には。どれだけかかるか分からなかったですし、今日の予定は丸々開けてましたから、残りはぶっちゃけ暇ですね」

「そうか。なら、少しばかり汗をかいてきてみてもいいんじゃないか?ここしばらく碌に運動もしていなかっただろう」

「いや、俺って運動は嫌いなんですよね。そりゃまあ最低限はやってますけど、好んでやるようなタイプじゃあないですし。どうしますかねぇ……」

 

 俺が予想外の問題に真剣に悩み始めると、織斑先生が思い出したかのように数枚のプリントを取り出した。

 

「そう言えば、結城。一つ伝えておかなければならないことがある」

「え、なんですか?」

「お前の外出許可がようやく下りた」

「……マジですか」

「マジだ。とは言え、書類を数枚書いて貰わない上に、二日前までに提出して貰わなければならないのだがな」

「そんなのなら何枚だって書きますって」

 

 あ。そう言えば早速、外へ出なきゃならない案件があったんだ。

 

「……そう言えば今日は何曜日ですか?」

「木曜日だが?」

「だったら先生、早速ですけどその書類貰えませんか?実は鷹月にお菓子作る約束してたんですけど、材料を買いに行けなくて困ってたんです。で、土曜日に近くの材料店でそれを買ってきたいんで……」

「分かった。……せっかくだ、数回分纏めて渡しておいてやる。ちなみに注意事項として、当たり前だが、ISは持っていくのを忘れるな。場合によっては展開しても構わん、後でどうとでもなる」

「それ明らかに何か起こるフラグですよね……」

 

 先生、笑ってますけど……俺は笑えないんですよ。

 

 

 ■

 

 

 そして土曜日、俺は私服に着替えて久々にIS学園の外へ出てきていたのであった。……何故か、その情報を聞きつけた鷹月と一緒に。

 

「いやー、凄い晴れてるね」

「晴れてるね、じゃないだろうが!ホント、どっから聞きつけてきたんだ……」

「えっと、織斑先生が教えてくれたんだよ。結城くんが土曜日にどこかへ行くみたいだから一緒について行ってやれって」

「……はぁ」

 

 明らかに余計なお世話ですって、先生。

 そのお陰で、こちらとしてもまともなファッションをしなければならなくなってしまったのだ。碌に服もないというのに、全く。一人だったら黒いポロシャツとベージュのズボンと言った適当な形を取る予定が、女子と一緒となると話は別になる。

 白のワイシャツに黒のジーンズ、それに普段とは違い胸元に掛けたロザリオ。それらで体裁を整え、髪は面倒なのでワックスを使ってオールバックに纏めてしまう。こういうときにクォーターのせいか、少しばかり適当でも日本人からすればまともに見えるのは本当に助かる。

 

 対して鷹月は、薄紫の薄手のシャツに紺色のスカート。彼女の髪の色と合ってしとやかな雰囲気を感じられる。……こういうときに服の種類に詳しくないせいか、語彙が悲しいのは気のせいだとしたい。

 

「……なに、そんなにじろじろ見て。もしかして似合ってない?」

「いや、十分似合ってるよ。つーか、俺の方こそどこか変じゃないか?」

「ううん。大丈夫、格好いいよ?なんというか、普段と違って凄くワイルドな感じに見えるよ」

「そうか。んじゃ、時間も惜しいしさっさと行くか。付いてこい」

「はーい!」

 

 嬉しそうな顔をした鷹月はぎゅっとこちらの手を握ってくる……なんで?

 少し顔を顰めた俺に、彼女はちっちっと指を振った。

 

「あのね、男の子と女の子の二人っきりなんだよ?つまりこれは所謂デートみたいなものなんだよ」

「……付き合ってる覚えは無いんだが」

「だとしても、男女二人でのお出かけなんだから、手を繋いだ方がいいの。周囲に気を配らない結城くんには分からないかもしれないけど、女の子はそう言う所を気にするものなの。もし他の誰かに見られてたら、これくらいやっとかないと後で説明が面倒になっちゃうんだよ」

「そういうものなのか?」

「そういうものなの。いい?どうせ結城くんだって分からないから!今日はずっとこのままだからね!」

「いやずっとじゃなくても――」

「ほら、早くモノレールに乗らないと!出ちゃうよ!」

 

 そう言って鷹月が、IS学園から本土へ戻る唯一の機関であるモノレールへと引っ張っていった。

 ……訳が分からん。

 

 しかし、同年だの女子と手を繋ぐのは小学校の授業以来か。

 で、今日はそれに加えて俺と鷹月の二人っきりでの外出……。

 そう考えると、握った右の手を妙に強く意識してしまう俺だった。

 

 

 




 ……ISの名前を考えるのにどれだけ頭を捻ったことか。
 うっかり中二病が再発しかけた。
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