瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第十四話 食事時の語り合いへ

 店の中に入ると、早速ウェイトレスに席へと案内された。その際に軽く店を眺めると、机と言い椅子と言い、その全てが木で出来ている。洋式だが和の雰囲気が大きい。丁度人もおらず、静かな音楽が流れるその空間は、安らぎと癒しに満ちた場所だった。

 和洋折衷ならぬ和伊折衷、と言った所か。

 鷹月と顔を合わせる形で座席へと腰掛け、横に置いてあったメニューを取る。

 

「さて、正直俺としてもこんな店は初めてなんだが……どれにするか」

「あ、結城くんも?実は私も何だよね。友達とだったらカラオケなんかで済ませちゃうことがほとんどだし、こういうところに来たことはなかったかなぁ」

「ま、メニューはイラスト付きだし、そうだな。見た目の印象で決めてしまえばいいだろ」

「どうぞ、お冷やです」

 

 メニューの絵を眺めていると、先ほどの店員がお冷やを持ってくる。そしてなぜか俺達の方をじろじろと見た後、客が俺達以外いないせいか、そのまま話しかけてきた。

 

「あらあら、こんな昼間からデートですか?」

「いえ。俺達は単にクラスメートなだけです。今日は彼女にここの案内をして貰ってた所でして」

「ふーん……?ねぇ――」

 

 その人はなにやら意味ありげに目を細めると、鷹月の近くへ顔を寄せ、なにやら小さく一言二言呟いた。それを聞いて彼女の顔が赤くなる。

 ……何を言われたんだか。碌でもない事だというのは分かるが、何にしろ、これ以上の面倒事は勘弁だぞ。

 

「なにしてるんですか。変にちょっかい出さないで下さいよ店員さん」

 

 俺がそう声をかけると、彼女はニヤニヤしながら鷹月の耳元から顔を離す。

 そして俺と鷹月の顔をなにやら比較するようにじろじろと見ると、面白そうな顔を浮かべて口元に手を当てた。

 

「ふむふむ、へぇー。なるほどね、中々面白そうな関係じゃない」

「ちょっ、店員さんっ。余計な事言わないで下さいよ!」

「はいはい、分かってますって。――それで、ご注文はお決まりですか?」

「注文を聞くのはついでかよ……。まあ、それはいいとして。すみませんが、実はこういうところは初めてでして。どんなものがいいのか……お勧めなどは有りませんか?」

「そうね……男性の貴方にはボリュームのあるモノが良さそうだし、コレなんかどう?“舌平目のグラタン”。そちらの彼女さんには、軽く“スパゲッティのマッシュルーム、ハム入りトマトソース和え”でいかがかしら」

「……なるほど」

 

 とりあえずお互いに薦められたメニューのイラストを見て考える。

 俺のは結構重いというかしっかりと腹に溜まりそうなモノで、彼女の方は逆に少なめで軽いモノに見える。さて、こちらとしては構わないが……鷹月はどうだろう。

 

「鷹月はどうだ?これでいいか?」

「うん……」

「じゃ、これとこれで」

「はい。分かりました、っと」

 

 軽くそれらを書き留めると、店員さんは軽やかに去っていった。というか無駄に楽しそうにも見えるのは気のせいだろうか。

 俺が半目になって彼女の背中を見つめていると、鷹月から声が掛かる。

 

「結城くん。さっきの、聞こえた?」

「何の話だ?店員との話なら聞こえなかったが」

「そ、そう?ならいいんだけど……」

「そうか」

 

 少し前髪を撫でながら、彼女は軽く深呼吸して息を整える。

 ……聞こえている、いないは別として、顔から大体の内容は想像出来たのだが。どうせ店員の顔からして、付き合っているかどうかなんていう事を聞かれたのだろう。女は自分が関係無いことだと思うと容赦なく聞いてくるからな。特に恋愛に関しては。良い例としては家の母親である。

 彼女の落ち着こうとする様子を水を飲みながら眺めて、彼女がようやく静かになったところを見て声を掛ける。

 

「で、どうする?なんか話す事でもないか?正直俺からは話題が思い浮かばないんでな」

「それなら丁度聞きたいことがあったんだけど。――結城くん、ISの方の調子はどう?進んでる?最近私もあんまり関わってないから気になるんだけど。設計が終わってから、最近織斑先生と放課後に色々やってるでしょ?」

「ああ、それか?えっと、それなりに進んでるよ。基本はもうオッケーを貰ってるからな。今は武装の作成で練習を積んでて、それを完成させたら、本格的なISの作成に着手する予定だ。最も、それに関しての勉強が山ほど残ってるけどな。先生同伴で、実際にやっていきながら覚えていってる」

「ふーん。……ねぇ結城くん、その過程、私も付き添っちゃダメかな?」

「え?鷹月が、か?」

「うん」

 

 ……いきなりどうしたことだろう。確かに彼女には今まで結構協力して貰ったし、改めて許可を求められるほどじゃないと思うのだが。

 とりあえずその理由を聞いてみようと思い、彼女に問いかける。

 

「別に良いと思うが、何でだ?」

「いやほら、気になっちゃうし。それに結城くんと一緒なら授業も先取り出来るみたいだしね。ISの作成になると、もう二年生以上の整備科関係の内容になってきちゃうじゃない。私、整備科志向なのよ」

「……ほう、そうだったのか」

 

 聞きたかったこととは少し違うのだが……まあいいか。

 そういえば今まで俺の事は話しても、彼女の事については余り聞いた覚えがない。……いや、それもそうか。元々は彼女から話しかけてきたことだし、俺はそんな彼女から離れようとしていたんだ。こっちから踏み込もうとしたことはなかったんだし、考えてみれば当たり前の話だ。

 

「ま、元々そんなに運動神経も良くなかったし。作ったり整備してる方が楽しいしね。IS適正も実はB-なんだ。個人面談でも言われたけど、それで国家代表を目指すのは難しいみたい」

 

 IS学園にいる生徒の進路と言えば、国家代表もしくは整備・研究員。一応それ以外の所でも優遇されるような授業を行っているのだが、それではせっかくのISの勉学が無駄になってしまう。

 しかし国家代表なんてのは当然IS適性が高くてはならず……適正が低ければ整備科に回る、なんてのはほとんど決まっているようなものだ。

 

「確かに国家代表って言ったら最低でもA+以上だからな」

「うん。Bくらいなら整備科なら丁度良い感じだって言われたし。今のところはその方面で頑張ってみるつもりなんだ」

「なるほどな……」

「ちなみに結城くんの適正ってどれくらいなの?そういえば聞いた事無かったけど」

「ちょっと下がってC+だ。加えてそんなに乗ってないし、多分変わってないだろうな」

 

 ここ最近乗ったのは精々、ISのデータ取りの時と、練習をする時間くらいだ。

 鷹月に薦められたこともあって一日三十分程度、データを取る日と練習を行う日を分けて行っている。データ取りは自分だけで、練習は一週間に三日ほど織斑先生に付き合って貰っている。……しかし、そう変化するほどの搭乗時間ではないだろう。

 最も、そんな、第二次移行を起こすほどの暇があったら全部開発や勉強、その他少しだけ趣味に回したいものだが。

 

「でも上級生を倒しちゃったんでしょ?さっきも妙に手慣れてたみたいだし」

「元々実家でそういう武術紛いのことはやってたからな。適正が低いのは突然手足が伸びたり視点が高くなったからだろうし、タイマンだったらそれなりの自信は有るんだよ」

「ってことはつまり、もしかして実家って古武術の大家だったりするの?」

「いや。歴史は古いのは確かなんだが、そっちは特に何も。ただ、爺さんと父さんが婿入りしてて、その二人からそれぞれ心構えと動きを習ったんだ」

「そうだったの。それで、二人はどれだけ強いの?」

 

 やけに気になるらしく身を乗り出してきた鷹月に、俺は彼らの話の内容を思い出す。

 それはもう数年前のことだが、確か直接聞いたはずだ。

 

「えっと……爺さんは確か今もドイツ軍で教官やってるレベルだ。強さはどうなのか聞いた覚えは無い。で、父さんは自前の総合格闘術らしいけど、爺さんが言うには現役のあの人より強いみたいなんだ。ってことは現役外国軍人より上って事になると思う」

「それって結構強いんじゃないの……?だからC+でも上級生と渡り合えたのかな?」

「多分な。この間織斑先生に剣術は才能無いって言われたけど、あの人に言われてもな……。元々無手が基本だし、俺は一つの武器を極める一極型っていうよりその場その場で対応する万能型かな」

「はい、お待たせしましたー!」

 

 そこで丁度、先ほどの店員が盆の上に注文していた料理を持ってくる。

 俺の前には白いグラタンが、鷹月の前には赤いパスタが置かれる。どちらも綺麗に飾り立てられており、ふつふつと揺らめく湯気などが参考写真で見るより料理を更に美味しそうに見せる。

 

「さ、熱いうちにどうぞ」

「「いただきます」」

 

 一旦話を中断して、早速食事に入る。

 ……美味いな。

 グラタンと言ってもそう重い物ではなく、魚介が入ったせいかアッサリめになっている。中に入っているのはもちろんヒラメとあとはマカロニ、パセリ等々。

 対して鷹月の方は見たところ、トマトにチーズに加え、少しのアクセントとして唐辛子が少量加えられているらしい。

 

「へー、結構美味しいね」

「ああ、これは中々イケる」

 

 暫くそれを食べていくと、美味しかったせいか意外と早く食べ終わってしまう。

 店でイタリア料理を食べるのは初めてだったが、案外すんなりと食べられたものだった。ファミレスなんかだと日本人用に少し味が変わってたりするからな……。

 食器を下げて貰った後、俺達は少しばかり無言でこのゆったりした空間の中をくつろぐ。

 やがて余韻が冷め始めた頃に、俺は彼女に声を掛ける。

 

「さて、どうする?もうすこしここでゆっくりしていくか?」

「うん。どうやらこの辺りは静かだしね。落ち着けると思う。デザートでも頼まない?」

「そうか?……いや、そうだな」

 

 手元のベルを鳴らして店員さんを呼ぶ。

 さすがに今回くらいは確認しなくても分かるので、絵を見ながら適当なモノを頼んだ。

 

「それじゃあデザートの注文で。俺はこのトリュフ形アイスクリーム、後コーヒーを」

「私はソフトクリームと紅茶で」

「はい、分かりました」

 

 彼女は注文を聞いて、今度は何も無いまま去っていく。

 

「それで、さっきの話の続きなんだけど……IS作成に付き合っちゃ、だめかな?」

「俺としては一向に構わないが、一応後で先生にも確認を取っておいた方が良いだろうな。また後日にでも、先生に相談しておくよ」

「うん。ありがとね」

「ここまで散々世話になってるからな。それくらい問題無いだろ」

 

 そのまま俺達の話題は日々の訓練の内容へと移行していき、どんな風に先生にしごかれているのかを話しながら楽しんでいると、やがてデザートが運ばれてくる。

 

「はい、おまちどおさま。デザートです」

 

 もちろんそのデザートも美味しく頂き、残りの三十分でたわいもない話をしてから俺達は店を出たのだった。

 

「うし、それじゃあもうそろそろ材料店……いや、その前に本屋へ寄ってくれないか。開いたい本があってな、材料は早めに冷蔵庫に入れたいし」

「分かったわ、それならこっちよ」

 

 そう彼女に手を引かれて、レゾナンスの二階の本屋へと向かう。そこは意外と広い本屋で、買いたい本なら恐らく全部揃っていそうな雰囲気があった。

 俺は早速目的のコーナーを素早く視界に収めると、そちらへと足を向ける。

 

「鷹月も自分の買いたい本があったら選んできたらどうだ?」

「うん。それじゃあまた後でね」

 

 入り口の辺りで別れ、互いに気になるコーナーへと向かう。

 俺はライトノベルから、漫画、小説などの娯楽を周り、ついでにIS関係のコーナーで良さそうな参考書を自分で買い入れる。……あんな学園の参考書なんか使うより、信頼性のある青チャー○式の方が役に立つように見えるって、なんなんだろうな。

 とりあえずそれらをカゴに入れてレジへと向かうと、丁度向こうから鷹月も買いたい本を抱えて戻ってきた。

 ……そうだな。

 

「ん」

「え、どういうこと?」

 

 俺が自分のカゴを出したところで、彼女が顔をかしげる。

 

「今回付き合わせた礼って事で、味気ないかもしれないが、本の代金くらいは出すよ」

「ホント味気ないわね。……ま、結城くんらしいと言えばらしいかな」

「ほら、早く入れてくれ」

 

 彼女は笑いながら、素直に俺のカゴに本を入れた。

 そのまま列に並んで代金を払い、終わったところで店の外へと出る。

 

「よし。それじゃあ本命の材料店へ向かおうか」

「オッケー。でもちょっとまってね。私もそこには行ったことないから、まずは案内板で店をさがさないといけないのよ」

 

 近くの案内板の所へ行き、目的の店を探す。一階から順に見ていったところで四階にそれらしき店の名前を見つけたので、彼女の案内でそちらへと向かう。

 そこに着いたところで店の中に入ると、丁度それらしい内容の送品が棚に陳列されてあった。俺は記憶にある通りのレシピの材料を探し、一気に買いこんでいく。

 

「バター、砂糖、チョコレート、卵、塩、薄力粉、生クリームっと。あとは――ジャムはあっても果実はないのか」

「……何を探してるの?」

杏子(アプリコット)。ジャムはあっても、自分で作った方が調整できて良いからな」

「だったら果物屋さんのところかな?それならあっちだよ」

「分かった。まずはコレを買ってからそっちに行こう」

 

 代金を支払ってから、俺は急ぎ果物屋へと向かう。

 その中から出来る限り新鮮で熟したモノを買いこんで、コレで俺の買い物は終わりだ。

 正直これ以上は持つことが出来ないというほど、かなりの量を買いこんでいる。

 

「とりあえず俺の方はこれで構わないぜ。念のために聞いておくけど、鷹月には他に寄る所はないのか?」

「大丈夫。それじゃあ、帰りましょうか」

 

 そうして俺達はそのまま帰路についた。レゾナンスの中を通って駅へと戻る。

 帰りのモノレールの中、隣に座った鷹月に今日の礼を言う。

 

「今日は悪かったな、俺の買い物に半ば無理矢理付き合わせるような形で」

「私も中々楽しかったし、別に構わないわよ。お礼だって貰ったし……本だけど」

「あー、その辺りは良さそうなのが思いつかなかったからな。悪い。精一杯この間の礼を作るから、その分で今回の味気なさを埋めてくれ」

「オッケー、楽しみにしてるね」

 

 三十分ほどでモノレールはIS学園へと辿り着き、俺達は駅から校門の方へと向かう。周囲に人は少なく、そう注目されることなく俺達は学園内へと戻っていく。

 

「待て、そこの男。何者だ」

 

 しかし偶然にも、丁度その辺りを見回りしていた一人の女性から聞き覚えのある厳しめの声を掛けられた。

 

「両手を挙げ、そのままこちらへと振り向け」

「……んなことしたら荷物一旦下ろさなきゃならないんですけど、先生」

「む、結城なのか?」

「そうですよ」

 

 後ろへと振り向くと、出席簿を武器のように構えた織斑先生の姿があった。……ホント、それを武器にするのは止めませんか?本来の目的と全然違うじゃないですか。

 彼女は構えていた出席簿を下ろし、こちらへと近づいて俺の顔を疑わしげに見てくる。

 

「確かに声はその通りだな。それにしては随分と雰囲気が違うが。相当化けたモノだな」

「失礼ですね。せっかくの外なんですから、それなりに変装はしますよ。最も、普段の雰囲気が暗すぎるせいか、そう大したことはしてないんですけどね。髪を上げて服装で明るそうな雰囲気を整えただけですよ」

「それでここまで変わるとはな……。よし、お前は普段からこのままでいろ」

「んなことしたら別の意味で面倒になるでしょう?あ、そうでした。先生、ちょっとこっちの荷物持っててくれません?」

 

 彼女に軽い方の手の荷物を渡し、その隙に俺は前髪を元に戻した。

 

「……いつもの結城くんに戻っちゃったわね」

「確かに。普段の暗そうなお前そのものだな」

「なんでそう残念そうに言われなきゃならないんですか」

 

 失礼すぎるにもほどが有る。

 特にこの二人に言われると何故か無性に心に突き刺さるような気がしないでもない。

 とにかく俺はその後先生と別れ、結局午後四時くらいに自分の部屋へと戻ったのだった。

 

「あー、もう三時か……なんでこんなに疲れるんだか」

 

 冷蔵庫に菓子の材料をつっこんで、俺は早速買ってきたラノベや漫画も同じく買ってきたばかりの本棚に並べる。

 それからグッタリとベッドの上に倒れ込み、今日の出来事を振り返っていた。

 正直初めての出来事だったから結構緊張していたのだが、最後の辺りは自然と振る舞えていたんじゃないだろうか。中々に疲れたが、それに勝る勢いで楽しかったのも事実だ。まさかここまで楽しくなるなんて思っても見なかったが、それも彼女のお陰だって事か。

 

 ……さて、今日は残りどうするかな。六時からはまた先生との作業に行かないといけないし、少しくらい休んでから予習しておこうか。

 そうこの後の予定を組み立てながら、俺は髪のワックスを落とさないままベッドの中で目を閉じたのだった。

 

 

 

 

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