瞬刻の大空 ―Wing of the moment― 作:七海香波
それではどうぞ。
結局無理矢理人垣の中を抜け出して、寮に辿り着いた頃には正午になっていた。生徒指導室を出た頃は確か十時半だったから――大体一時間程度来賓の集まりに拘束されていたことになる。
その元凶となった来賓たちの顔がふと頭に思い浮かび、俺は軽く溜息をついた。なんで『国家に所属する気は無い』って明言したのにそれでも話しかけてくるのかね。お陰で随分と時間を無駄にしてしまったのが悔やまれる。
結局織斑先生を呼んで何とかして貰ったが、もしそれでもどうにもならなかったら素直にISを展開してでも追い払っていたに違いない。もしくは他の暴力的手段に訴えたか……結果的にはそんなことはしなくて良かったのだが、あれらのお陰で余計に疲れることになったのは間違いない。
何はともあれ、部屋へとようやく戻ることができた俺は、扉からそのまま一直線にベッドへと向かい、その上に大の字になってどさっと倒れ込んだ。
「にしても、疲れたな……あ、そう言えば」
急に全身を襲ってきた疲労感を感じながら、俺はふとあることに気付いた。
PCを近くの机の上に召喚し、それを引き寄せて寝転がったままキーボードを少しばかり叩く。武装の事ばかり考えて忘れていたが、本体も至近距離でレーザーを喰らっているんだった。一応全体を一度チェックしておいた方が良いだろう。
そう思って検査プログラムを使い、現在のISの破損状況を確認すると――なんと、ダメージレベルC。装甲のほとんどが溶解して原型が崩れかけており、自働修復をするにも随分と時間が掛かるらしい。
「なるほどね。自己修復が出来るのはまだ良かったが……やっぱり一部は再調整しないと不味いだろうなぁ」
恐らく、主な原因は至近距離でレーザーを受けたことだろう。
詳しく確認してみると主に身体前方の装甲がダメになっていて、そのほとんどが危険域Cに達していた。……これでは自己修復で直ったところで、細かな数値の差が生まれることは間違いない。それらを細かく調整し直す必要が有るな。
別に調整せずとも授業で動かすくらいはなんとかなるだろうが、そのまま修正せずにいざ本番となると、様々な問題として浮かび上がってくる可能性もある。
さっさと専用機を作って、そちらに丸ごと乗り換えてしまうというのも有りだが……それが終わる前に何が起こるか分かったものじゃないんだよなぁ。一ヶ月で立て続けに数回、実戦とそれらしきものを行うような運の悪さだ。次にいつ何があるか分からない以上は、今有るラファールを使える様にしておいた方が良い。
それが終わらないまま専用機作成に入るのは、多分織斑先生も反対するだろうし。
「とりあえず整備室が直ったら、まずは武装の交換。それに各部設定の再調整に、新機体の作成に入るわけだから……また忙しくなるのか」
やることのリストを並べてみると面倒な雰囲気が漂ってきたので、即打ち切って俺はベッドの上で身体を伸ばした。唯でさえ色々とあったんだ、今日はこれ以上面倒事に頭を使うのは神経に良くないだろう。
これについてはまた明日にでも考えるとしようか。
それにしても今日はヤケに疲労が溜まった気がする。いざ寝転んでしまうと、もう起き上がるのも億劫になってしまう……やっぱり、生まれて初めて実戦を経験したからなのだろうか。いざ命の奪い合いともなると、本人の気付かぬ間に精神力が一気に削られていったのかもしれない。
そんなことを考えながら、寝返り一つ打たずにただ何の意味も無く天井を見つめていると――何分くらいそのままでいただろうか。突然、玄関の方からチャイムが鳴った。
「はい。どちらさまで?」
「私よ、結城くん」
この二ヶ月間、毎日のように聞き慣れた声が耳に届く。先ほどまでそんな気は無かったのに体を起こし、ドアを開けてみると、そこには鷹月が立っていた。
「ねぇ、入っても良いかな」
「ああ。別に構わないが」
誰かに見られると面倒なので彼女をそそくさと中へ入れて扉を閉める。それから近くの椅子に座るよう勧め、俺はその間に冷やしておいたお茶を冷蔵庫から出し、この間買ってきたカップに入れて出す。
「ありがと」
「どういたしまして……それで、どうしたんだ?わざわざここまで来て」
俺は彼女の対面の椅子に座り、同じくカップに入れた茶を口にしながら話しかけた。
「そんなの、結城くんが心配だから様子を見に来たに決まってるじゃない。アリーナからは出られなかったし、そっちに行くことも出来なかったから、気になって仕方無かったのよ」
「へぇ、そっちはそんな風になってたのか。生憎俺は織斑達の様子しか見てなかったからな……何にしろ、こっちへ来られなくて結果的には良かったことになるけどな」
「ってことは、もしかして……」
彼女は俺の言いたいことを悟ったかのようにこちらへ向ける視線を強めた。……まあ、話してもバレなきゃ同じ事だろう。彼女なら信用できるし、構わないか。
俺は首をすくめながら、彼女の頭に思い描いているであろう事を肯定した。
「お察しの通り、さ。お陰でISが全体でダメージレベルCだ。しばらくは自働回復させなきゃならない」
「……やっぱり、そうだったのね」
俺が敵と戦っていた場面を想像でもしたのか、彼女は顔を青くして、目を少しばかり見開いた。そんな彼女の様子を見ながら、俺は何もなかったかのように軽く微笑んで普段通りの口調のまま、冗談を交えつつ口を開く。
「ま、これくらいで済んだと思えばマシだろ。コレがなかったら今のうのうとしてお茶してることも出来なかっただろうしな。無かったら今頃塵になってそこら辺に浮いてただろうさ」
「ちょっと待って……それって、どういう事?」
「鷹月にも設計図は見せたと思うが、“揺光”は分かるだろ?」
「うん。確かこの間結城くんが作ってた武装だよね。瞬間加速の勢いを利用した機械の剣だったと思うけど」
「正解だよ。で、それの原理を利用したぶっつけ本番の実験をやったと言えば良いか……具体的に言えば放射したエネルギーを取り込むと同時に、敵のエネルギー攻撃も取り込んで――」
「ちょっと待って」
そんな俺の説明を遮るように、彼女が突然机の上に身を乗り出す。その余りの勢いに閉じてしまった俺の言葉に繋ぐようにして、彼女は疑問を口にした。
「一つ聞きたいんだけど、まさか至近距離でやったんじゃないでしょうね?」
「いや、自然と剣の間合いに入ってたとは思うが」
「やっぱり……で、そのエネルギー攻撃ってまさか、
「どの光線を指してるのかは知らんが、多分相手の中ではかなり殺傷性の高いヤツだったと思うぜ。もしかしたら最大出力だったかもしれないなぁ」
「っ、そんな……」
俺の言葉に鷹月は絶句したらしく、両手で口元を押さえた。その隙間からこぼれた声は、まるで信じられない事実を聞いてしまったかのようにか細く震えている。
「どうしたんだ、そんな顔をして」
「……結城くん、その攻撃の威力ってどれくらいか分かってたの?」
「いや。精々整備室の扉を融解させる程度ってのは知ってたが、具体的な威力までは測定してなかった」
「だから、そんな無謀なことをしでかしたのね……。結城くん、多分貴方、一歩間違えてたらISの有無にかかわらず本当に死んじゃってたのよ。分かってる?」
「だろうな」
「いいえ、その顔は絶対分かってないわよ!」
彼女は更にぐいっと体を乗り出して、その距離ほぼ数センチと言った所まで顔を近づけ、その深い青紫色の瞳で俺の心の奥を捕らえてきた。その言葉からはどこか、必死さと悲しさを織り交ぜたような不思議な感情が伝わってくる。
「敵はアリーナのシールドを破って侵入してきたのよ?あれはISの絶対防御とはまた違うけれど、その硬さは同じ、いえ、それ以上だったと思うわ。……そんなのを平然と破るような攻撃を仕掛けてくる相手に、なんでそんな博打みたいな攻撃に出たの!?」
「そうでもしなきゃならない状況だったんだ。仕方無いだろ」
そう飄々と語る俺に、彼女は両手を強く握りしめながら再度疑問を投げかけた。
「……本当に、そうなの?」
「ああ」
「でも、わざわざ使い慣れていない武器を使っての攻撃を仕掛けるような事をしなくても、先生方が来るまでの時間を稼ぐくらい出来たんじゃないの?」
……それは彼女の言うとおりだ。
教師陣がこちらに来るまでの時間稼ぎを第一目標として考えた場合だったら、より安全な手があった。単純にそのまま攻撃を回避し続ければ良い。それだけの話だ。
確かにそんな考えが頭を過ぎらなかったわけでもない――しかし俺は、そんな甘い思考は即座に切り捨てたのだった。
何を言っても納得しないような彼女の雰囲気に心の中で溜息をつきながら、俺は弁明らしき物を話した。
「確かに織斑先生には“待っていろ”って言われてたさ」
「だったら――」
「でも、悪いが信用できなかったからな」
そんな俺の言葉に、彼女の纏っていた空気が一瞬揺らいだ。……すぐに俺の言葉を理解したのだろう。
そう、織斑先生自身ならともかく、他の教師・専用気持ちが本当に俺の味方としてこっちへ来るのかは分からない。織斑とは違って散々彼女達を否定すると思われても仕方のないような言動を取ってきたのだから、むしろ敵として襲ってくることすらあり得るかもしれない。
俺としては素直に事実を告げただけなのだが、昨今の風潮からするに喧嘩を売っているとしか思わない女子が大半だろう。それに、ここに入学してから今に至るまでの彼女達の態度はその考えを肯定するようなものばかりだったからな。
「だから自分で倒すって方にシフトしたんだよ。応援が本当に来るとは思えない――なら自分で片を付けるべきだと、そう思ったから。確かに鷹月の言うとおり、逃げ続けるって手もあったさ。実際普通ならそうやってる。でも今回はそれが出来る話じゃなさそうだった、だから戦ったんだ」
その時の俺はもちろん、そんな深く考えていた訳じゃ無い。しかし無意識のうちに、そんな考えをしていたというのは振り返ってみて分かる。
『時間を稼げ』と言われた直後にISの出力制限の解除を求めたときも、逃走速度を上げることなんか一切考えなかった。頭にあったのはただ一つ、『いかにして攻撃力を底上げするか』。それだけだった。
「……そうだったのね」
「ISの絶対防御を破ることの出来るほどの威力があるなんて、知らなかったからなぁ。分かってたら別の方法を考えただろうし。さすがにこんなことに賭けられるほど俺の命は安くないつもりだよ」
「でも、死ぬ可能性だってゼロとは言い切れなかったでしょう?それなのにどうして、そんな思い切った行動を取れたの?」
「そんなことを言ってたら何も出来ない。ただ、今回の場合、あのまま救援を待ってるよりはこっちの方が生き残れる確率は高かっただろ?救援に来た奴らが誤射とか言って俺に撃ってきたり、敵のレーザーの通り道に自然と誘導してくる、なんて考えた方がより危なそうじゃないのか?」
「それでも――」
「そんな気にするなって、鷹月」
まだ何か言いたそうにしている鷹月の肩を叩いて、首を振る。
「これ以上話したところで多分ずっと平行線だぜ。キリがない。鷹月の言うことだって良く分かったさ。でも、俺はやったことは後悔してない。それでいいんじゃないか?なんでもかんでも一致するような意見なんて早々ないんだから」
そんな俺の意見に、彼女は顎に手を当て何かを考え始める。
……今まで意見の食い違いなんて何度も起こってきたことだが、何故今回はこうも食い下がってくるのだろう。目の前の彼女の何かしらを考えている素振りを眺めながら、俺もそんなことを考えた。
しばらくそのまま、互いに茶を飲みつつ無言の時間を過ごす。
やがて口を開いた彼女は、一応納得することが出来たのか、これ以上こちらを問い詰めようとする雰囲気は出していなかった。
しかしその代わり、真剣そうな面持ちは変えないまま、いきなりこっちの手を握ってきた。
「……だったら、せめて約束して。君がどんな戦いに挑んだりしても、私はもう何も文句なんか言わないわ。でも、これだけは結城くんの口から直接、約束して欲しいの。――絶対に、生きて帰ってこられるようにして」
「いや、そんなのは当たり前だろう?もちろん、そうなるようにはしてるんだが……」
ふと、俺の手を握る強さが強まる。
「出来る限り、なんて言わないで。絶対に、百パーセント、何が何でも、自分の命を最優先にして、最後には私に無事な姿を見せるようにして頂戴。今回は偶然無事だったようなものでしょ、でもそんな戦いには挑まないようにして欲しいの。君が死んじゃったら、御両親だって悲しむだろうし……私だって、悲しいんだから」
「百パーセントなんてこの世には存在しないんだが……」
ギュッ。――彼女の手の強さが、更に強くなった。
「ねぇ――結城、くん」
彼女がしっとりと濡れたシルクのように艶めかしく、俺の名前を呼ぶ。その声の重さが、言い訳がましかった俺の口を問答無用で閉じさせた。彼女の口から漏れたその一言は俺に、冗談やそう言う類を一切感じさせない、真剣で、それで居てどこか縋るようなものを感じさせる。
……これは理論やらを幾ら展開したところで無駄なんだろうな、きっと。
俺は目に映る彼女の姿に苦笑しながら、改めて彼女の方へと姿勢を正し、繋いだその手を握り返す。
「分かったよ。いつでも絶対にここへ帰って来られるようにする。五体満足で無事な姿を鷹月に見せられるよう、なんとかしてみせるさ。だから落ち着け」
「……うん」
その言葉だけで満足したのか、彼女は少し目の辺りをこすると、こちらに寄せてきていた顔をゆっくりと引っ込めた。
次に手が取り払われたときには、先ほどまでの雰囲気は微塵も感じさせない、普段通りの彼女の顔に戻っていた。……どうやら、とりあえずこの件についてはこれ以上追求する気は無いようだ。
「それで、一応納得したけど……ところで結城くん、今日は残りの時間、どうやって過ごすつもりなの?」
「整備室は使えないから、もうこのまま適当に過ごそうと思ってたんだが……」
「そう?……って、そうよね。よく考えたらさっきまで実戦をやってたんだもんね。疲れてるに決まってる……あれ、私、そんな結城くんを責めちゃったの!?」
今度は打って変わって可愛い小動物のような鷹月へと変貌する。なにやら慌ただしい様子で、アワアワとせわしなく上半身を揺らしながら、何故かこっちに頭を下げてきた。
そんな彼女に先ほどとは違う笑みを向けながら、俺はとりあえず軽く頭にチョップした。
「痛っ……なにするのよ?」
「そんな慌てるなってことだよ。俺だって気にしてないし落ち着いてくれ。とりあえず今は休みたいんだ。そもそも俺はそんな好んで動き回るタイプってわけでもないからな。散々動いたんだ、いい加減眠くなってくる」
「うん……それなのに、さっきはごめんね。お邪魔だったみたいだし、私は教室に戻るわ。それじゃ、また明日会おうね」
そうして彼女は丁度カップのお茶を空にして、まるで何事もなかったような自然な足取りで去っていった。
俺は彼女を見送ってから再度ベッドに倒れて、眠気を誘おうと、ISの勉強やら専用機の設計図やらを完全に意識の外へと排除するために心を落ち着かせていた。
そんな中ふと意識の中心に入り込んできたのは、今日の出来事。
「無人機の襲撃、か。上級生との一戦に鳳の一戦、で、今回の事件……」
……ある意味、今回の襲撃が俺の初めての実戦だったのだろう。
先の二人との事は戦いと言うより、じゃれ合い、に近い。上級生だって本気の殺意を抱いていたわけでは無いだろうし、鳳だってそうだ。あくまでISはスポーツ、殺し合いではない。
しかし今回の戦いは違う。奴も俺も、始めから互いを殺すつもりで挑んでいた。
だからこそ俺は相手の身体を千切るような重突を仕掛けた。相手だってそうでなければ、中に誰が居るか分からない状況で鉄の扉を融解させるようなレーザーを最初から放ってくるわけがない。
あの戦いを思い出すと、一番最初に頭に浮かぶのは。
「……やっぱり、圧倒的に――実力が足りないんだろうな」
今回の戦いでは勝つことは勝てたものの、一歩間違えればこっちが危なかった。
あの瞬間加速紛いの斬撃だって、レーザーで可能なのか、吸収しきれず暴発するか……成功する確率の方が低かったんだ。多分もう一回やったら失敗するだろう。
そんな危ない橋を渡るような戦闘を、そう何回も行うわけにはいかない。
それを防ぐためには出来る限り早くに強く……挑発とかそう言うのを抜きにして、常に相手の上に居ることの出来るほどの力が欲しい。ISもいつまでもフランスの第二世代に甘んじているわけにはいかないんだろうな。
鷹月と“絶対に生きて帰ってくる”約束もしたことだ。
今考えている機体も、もう一度武装も含めて全体を考え直した方が良いかもしれない。
「そう考えると、寝てる暇は無い……かな」
思い立ったが吉日と、設計図を見直すためにベッドから起き上がろうとする。
そんな俺の決心と同時に――ピン、ポーン。
部屋のチャイムが、新たな舞台の来訪を告げてくるのだった。
■
一方その頃、学園の地下空間にて。
緊急の職員会議を終え、来賓への説明も済ませた私――織斑千冬は、この隠された研究室へと降りてきていた。IS学園の中でも限られた人間しか入る事の出来ないこの場所では、現在無人機の解析が進められている。
壁に広がるいくつかのスクリーンには先ほどの戦闘の記録が映っており、織斑や結城が戦っていた映像が流れている。
軽くそれらを眺めると、後ろから解析を任せていた教師が近づいてくる。
「……麻耶」
「はい、織斑先生」
「解析の様子はどうだ、順調に進んでいるのか?」
「大丈夫です。つい先ほど解析結果が出ました。あれは――やはり、無人機です」
「そうだろうな」
それはわざわざここまで運んで確認せずとも分かっていたことだ。……
近くの画面を見てみると、丁度アイツが無人機に槍を突き立てたシーンが映っていた。女性型の相手に対しても突進の勢いを一切殺さないまま突撃していく。本当、良くも悪くも遠慮のなさを感じさせる攻撃だ。
まあ、今はそれはどうでも良いとして。
「しかし遠隔操作にしても、やはりこれだけの技術となると……」
「ああ。襲撃者は大体予想が付いている。ちなみにシステムの解析はどうなっていた?」
「不可能です。織斑君や鳳さん達の方は彼の最後の攻撃で中枢が完全に焼き切れていました。結城くんの方も特殊武器の斬撃で核を潰されていましたから」
「仕方無いだろう。初めての実戦だ、無傷での捕獲など無理だろうさ」
「そうですね。織斑君でも、あの光の中では視認出来なかったでしょうし。ちなみに、どっちも修復不可能でした……」
彼女が済まなさそうに、しゅんと顔を傾ける。
「なに、そう気にするな。お前が悪い訳ではない。さて、コアの方は……もちろん未登録か」
「何か心当たりでも?」
「いや、まぁ……な。しかし――」
――その当人は、一体何のつもりでこんなモノを寄越したのやら。
頭の中に浮かんだ馬鹿の顔は、いつも通り憎たらしいような満面の笑みを浮かべている。
「いや、それとも、私の予測通りにしてくれと言うことなのか……?」
「織斑先生?どうかなさったんですか」
幸いにも今の言葉は麻耶には聞かれていなかったらしい。いや、聞かれていたとしてもさほど問題ではないのだが。
それより恐らく、というか絶対アイツの差し金である無人機をどうするか……果たして、アイツの提案に乗っても良いのだろうか。渡すも渡さないも私の勝手だが、アイツのことだ。どっちも計算してやっているんだろう。全く、いつもの事ながら手の掛かる幼なじみだな。
しかしそう迷惑と思っているわけでもないのだろう。無意識のうちに自身の口の端が少しばかり上がったのが分かる。
――なら。
頭の中で一通りそれについての考えを巡らせてから、私は背後で首を傾げる麻耶へと振り返り、これからの事を告げた。
「いいや、なんでもない。それで、コイツラの扱いだが――」
これにて原作一巻は終了です。
次からは多分、二巻へと入っていく形になりますね。
感想等々よろしくお願いします。