瞬刻の大空 ―Wing of the moment― 作:七海香波
ラウラはなんというか……特に何も。ただ、この子がどうやったらヒロイン三人みたいにデレるのかを不思議に思った記憶はあります。
そんな二人がようやく、話に入ってくると言うことで――それではどうぞ。
教室へ辿り着いた俺は鷹月と別れ、普段通りに座席で本を読んでいた。朝の続きをそのまま捲っていき、途中途中に挟まれたイラストに気を付けながら一気にその内容を頭に入れていく。……うん、やっぱりコレは面白いよなぁ。
読み進めていくとストーリーはやがて大詰めを迎え、ついに主人公は決戦の場に至る。
『――さあ、ここが私達の
そんな主人公の叫びに応えるように、ISが
「諸君、おはよう!」
タイミングが良いのか悪いのか、織斑先生がやってきた。
正直今すぐにでもこのまま続きを一気に読み進めていきたかったのだが――散々世話になっている彼女の目の前でそれをやるのは失礼だな。さすがにここで自身を優先するわけにもいかず、俺はしぶしぶ本を机の中に戻して挨拶を返した。
『おはようございます、先生!』
クラスメイトに合わせるように挨拶を返すと、先生は満足そうな顔でクラスを一瞥する。
「さて、今日からは本格的な実戦訓練に入る。訓練機であってもISを使用するのだから、授業の際には各人気を引き締めておけ。各人のISスーツが届くまでは学校から貸与されるが、それを忘れた場合は水着、それすら持っていない者は下着で受けて貰う……まぁ、自業自得だな」
そこまで言われて下着姿で来るような恥女はここには居ないだろう。と信じたいところだが、ほとんどの奴が以前一年生の寮にいたときは男子が居るのだと分かっていてもラフすぎる格好をしていたことを思い出す。
――案外、“織斑君に見て欲しい”といって忘れてくる奴もいるかもしれないな。
ちなみに俺のISスーツは自前だ。それも織斑みたいに支給品を使っているわけではなく、自分で縫い上げた専用品と言っても過言ではない代物だ。なぜ支給品で妥協しないかと言われれば、それに関してはまた一つのエピソードを語らなければならないのだが、ここでは割愛する。
とにかくそんな俺のISスーツは下は足首まであり、腹の辺りで一旦切れて、上は半袖くらいの長さになっている。最初は体全体を覆うようなモノだったのだが、それでは少々動きにくかったのでデザインは変えさせて貰っている。もちろん織斑先生のチェックを受けた上で、だ。
「では、山田先生。HRを」
「はいっ、織斑先生」
そんなことを考えながら織斑先生の方を見ていると、教壇へ目を向けろとの鋭い注意が目で語られる。……はい。
そちらを向くと丁度慌てるように副担任の女教師が立っており、何故か軽く深呼吸していた。一体何を構えているのかと思ったが、すぐにもう編入生が来るんだったということを思い出す。
恐らくその衝撃の事実が未だ飲み込めていないか、それとも口にしたが最後クラスの連中から放たれる音波攻撃に覚悟を決めかねているかのどちらかだろうな。
入学当初のあの奇声が飛び回る教室を思いだし、俺は溜息をつくと共に、耳に手を当てる準備をしておく。
そして女教師は教卓に手を掛けてから、予想通りの驚くべき内容を口にした。
「ええっと、ですね!今日はなんと、転校生を紹介します!しかも二名ですよ!」
『えええええっ!』
思った通りのハイパーボイス×三十名近くに咄嗟に耳を塞ぐ。
しかし……二名、か。指の隙間から届いたその部分が少し気になった。確か、爺さんがドイツから転校生を寄越すのは知ってたけど。名前は一人分しか言ってなかったし、二人目の名前なんて言っていなかったはずだ。
――これは注意しておいた方が良いかもしれないな。
俺が気を引き締めて入り口を見つめると、その二人は先生に誘われてこのクラス内へと入ってきた。
片方は礼儀正しく「失礼します」と言って入ってきたが、もう片方は口を固く結んだままだった。
最初の物腰柔らかそうな金髪が早速教卓の前に立って挨拶を始める。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました、この国では不慣れなことも多いとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
実際礼儀正しかったそいつは、柔らかな笑みを浮かべながらそう語った。
相手を見下す態度どころか、万物に癒しを与える仏のような慈悲深さみたいなものが感じられる。例えてみるなら、西洋の王道の物語から切り取ってきた人物と言っていいほど立派に
そう、格好いいではなく、可愛い。お姫様の顔を切り取って雑に王子様に貼り付けたような感じだ。その辺りに少し違和感を覚えるが、まあ広い世の中こういう奴も居るだろうということで一旦置いておく。
すると、織斑が信じられないものを見たような声で呟いた。
「お、男……?」
「はい、こちらに僕と同じ境遇の方々がいるときいて、本国より転入を――」
その直後にまたハイパーボイスが響いてくるが、今度はそれを気にも留めずに考えを進める。
正直先ほど考えた彼の見た目なんてどうでも良いのだ。
そんなことよりもなんで――今の時期に、三人目の男子が出てくるのだろうか。デュノアと言えば第二世代のラファールの開発元の名前だ。恐らくそこの息子と思える奴が、今になって男子操縦者だと発覚する?そんな馬鹿馬鹿しい話があるか。
だとしたらフランスは二ヶ月も彼の存在を隠蔽していたことになる。しかし、フランスはそれに第三世代の開発が遅いせいで、欧州の第三世代開発計画、通称イグニッション・プランからも外されている。
隠しておくことで先に男子操縦者のデータを回収しておこうとでも考えたのかもしれないが、逆に世界的にそこを突かれて帰属権利を奪われる可能性すらある。果たしてそこでメリットとデメリットが釣り合っているのだろうか。
それらを含めて突如として現れた、第三の男子操縦者。……それだけでもう、きな臭すぎて逆に笑えてくるレベルなんだが。見た目はともかくとして、中には様々な問題を抱えていそうだ。下手に関わると面倒事がまた起きそうなので、精々距離を取っておくことにしよう。
「あー、喧しいぞお前達。いい加減に静かにしろ」
「そうですよ皆さん、まだもう一人の自己紹介が終わってないんですからねー!」
そして俺としては、本題の方はもう片方の銀髪編入生だ。
爺さんに予め知らされていたラウラ・ボーデウィッヒ。男子の方の挨拶が終わるまで一ミリも動かずにぴっちりと立っている辺りがまさに軍人そのものだった。
教師に言われて慌ててクラスの全員が彼女の方に目を向けるが、彼女は一向に口を開こうとしない。
「……挨拶をしろ、ボーデウィッヒ」
「はっ。分かりました、教官」
きりっとした動作で返事をするが、その様子をみるからに爺さんの言った通り、本当に千冬教信者らしい。完全に織斑先生しか眼中にないように見える。
――彼女は彼女で面倒そうな予感がするな。
「ここではそう呼ぶな、もう私は教官ではないし、ここではお前は一般生徒だ。私の事は先生と呼べ」
「了承しました」
……絶対了承してないだろう。
クラス全員からそんな目を向けられながら、彼女は壇上に立つなり名前を言った。
「ラウラ・ボーデウィッヒだ」
そして、それだけ言って口を閉ざしてしまった。
「あ、あの以上ですか?」
「以上だ」
……どうやら本当に、織斑先生以外には敬意を払ったりしないらしい。副担任への返事は敬語ではなく、むしろ見下すような態度を取っていた。
そして彼女はクラス全体を俯瞰した後、織斑の姿を見つけると、そちらへと足を進めていった。
「――貴様がッ!」
そして思いっきり腕を振りかぶり……その頬を、力任せにひっぱたいた。
――パァンッ、と響いた鋭い音にクラス内の空気が一瞬凍る。
普段は周囲に構いもしない俺でさえ、その行動には度肝を抜かれるほどだった。いくら女尊男卑の世の中と言っても、恐らく初対面であろう男性相手に本気で頬を叩くなど滅多に見られる光景ではない。
「いきなり何しやがる!」
「……ふん」
叩かれた本人が何が何だか分からないといった顔でボーデウィッヒに詰め寄っているあたり、恐らく本当にアイツは何も心当たりがないのだろう。千冬教信者と言うほどなのだから、多分原因は織斑先生の方にあって、それを曲解したか何かと考えた方が可能性が高い。
「……私は認めない。貴様が教官の弟であるなど、認めるものか。そして――」
彼女はそう憎々しげに言い言った後、俺の顔を見つけるなりこちらへと向かってきた。
その顔には依然として負の感情が浮かび上がっている。
「貴様もッ――っ!」
そんな叫びと共に彼女は何故か俺にも平手打ちを使ってくる。
もちろん素直に叩かれる性分ではない俺は、避けただけでは追撃してくるかもしれないと思い、咄嗟に拳を相手の鼻先へと突きだした。その反撃に少々驚く素振りを見せながらも、それに対して彼女は素早く反応し、平手を引っ込めてバックステップで回避した。
俺はそのまま立ち上がって更に襲いかかってきたときのための撃退体勢を取るが、相手は距離を取ったところから無理に詰めてこようとはせず、腰に下げたナイフの柄に手を当てながら、一瞬の隙も逃さない鷹のような目をしながら、ジリジリとこちらをうかがってくる。
周囲からは「なんで女子を殴ろうとするの、信じられない」等と言った声が聞こえてくるがそれはいつもの事なのでどうでも良い。それよりも今の問題はボーデウィッヒだ。
最初の攻撃を当てられなかった彼女は、一層煮詰めた憎悪をこちらへ向けてくる。
「……貴様も、あの人の孫であるなど……貴様のような者がいるから、少将は――」
そこでいつの間にか近づいてきた先生がパシン、と彼女の頭を叩く。
「いい加減にしろラウラ、座れ」
「――はい」
先生の言葉に即座に今までの感情を引っ込めて、彼女は空いている席を探してそこに腰掛けた。
……爺さん曰く、織斑先生を貶さない限りは無駄だったらしいが。それよりも、原因は“孫”と言われた以上爺さんにあるみたいなんだが。さっきの言葉からして、そんな気がする。
「あー、では、今日のHRを終了する。全員即座に着替えてグラウンドに集合、本日は二組と合同のIS模擬戦闘を行う。では、解散!」
そう言って先生は、すぐに教室から出て行ってしまった。
……今の内に練習の話をしておきたかったのだが、無理だったか。
とりあえずさっさと着替えて行くとするか。何故かボーデウィッヒも再度襲撃しようとはせず素直に他の女子に紛れて消えていったし、気を張る必要も無いだろう。
本をポケットに入れて教室を出ようとすると、何故かそこで一旦戻ってきた先生が俺と織斑に声を掛けてきた。
「織斑、結城。同じ男子操縦者だ、デュノアの面倒を見てやれ」
「分かりました」
「はーい、っと」
俺は頷いて、デュノアの姿を探してそちらへと歩み寄った。
その時、一瞬だけ、織斑先生から鋭い目がこちらへ向けられた。そして、その目線は何かを伝えるかのようにデュノアを指す。……どうやら注意しておけ、と言うことらしい。
ちなみに織斑にはなんで言わないのかと目で聞いたところ、言っても無駄だと首を振って返された。どうやら織斑は本気で普通の男子操縦者だと信じて疑っていないらしい。
周囲の女子も一切疑うことなく騒いでいるが……それでいいのか、IS学園。
デュノアは丁度どうすればいいか迷っていたようで、わたわたと俺と織斑の顔を交互に見返していた。
やがて俺が近づいてきているのに気付くと、向こうの方からたたたっ、と小走りで迎えに来た。
クラスに挨拶したときと同じ笑みを浮かべながら、彼は俺の目の前に立つ。
「ええと、君が結城くんかな?ってことは彼が織斑君かな?よろしくね」
そういってデュノアが手を差し出してくる。
「ああ。ま、とりあえずIS学園へようこそデュノア。察しの通り、俺が結城灰人で――」
と、俺が握手としてその手を握り替えそうとしたところ、横から突然一つの手が割り込んできて、その手をさらっていった。
「悪いなシャルル、挨拶は後にしないと授業に遅れちまうんだよ」
そう言って織斑はデュノアの手を引くと、一目散に更衣室へと走り去っていった……俺を、置いて。――先生は俺達二人に世話をしろと言っていたはずだが、気のせいだったのか?
ま、いいか。先生も自分の弟のことはよく知ってるだろうし、織斑の独断専行って言っておけばどうとでもなるだろう。
俺は織斑の無駄な行動力に溜息をつきながら、既に誰もいなくなった教室を見回してこれ幸いとその場で制服とISスーツを互換量子変換し、そのまま直接グラウンドへと向かったのだった。
■
更衣室を経由しないままグラウンドへと出ると、集合時間まで五分ほど余裕があった。
その隙に本の続きを読んでしまおうと思ったのだが、丁度既に着替えて出ていた織斑先生と鉢合わせる。……何で今日はこんなにタイミングが合わないんだろうか。
「どうも、先生」
「ふむ、随分と早いな結城。ところで織斑とデュノアはどうした?」
「織斑がデュノアの手を引っ張って勝手に消えてしまったので知りません。多分今頃はまだ更衣室にたどり着けてすらいないかもしれませんね。途中でアイツラが消えた方角へ大量の女子がなだれ込んでいったのを見ましたし」
「ちっ、あの馬鹿共め……」
溜息をつく彼女の姿ももう見慣れたモンだなぁと思いつつ、俺は徐々に女子も集まってきたので素直にグラウンドの端で一人、専用機のチェックを行う。
ラファールは大破した部分は新たな部品へ交換しており、まだ問題無いところは自動修復に任せていた。そのお陰か、今はもう大したことはない。ただ、それでも細かな数値のチェックはまだ行っていないため、実戦をやるのは出来るだけ避けたい所か。
壊れた“揺光”は予備の素材で新たに作り直し、新品同様の状態で収納してある。しかし、この間のデータから過剰出力だと見なされて少しばかり制限を掛けられており、一定以上のエネルギーの圧縮が不可能になっている。
「ま、これくらいだったら仕方無いかもしれないか」
何しろ無人機の絶対防御を超えて、本体を真っ二つにしてしまったのだ。スポーツとしてのISでそれを使ってしまうとまた大国か管理委員会から色々と言われるのだろうし。
これ以上織斑先生に心労をかけるのも悪いから、甘んじて受け入れている状態だ。
――キーン、コーン……。
丁度そこでチャイムが鳴り、全員が一糸乱れぬ形で整列する。
「遅い!」
同時にそんな先生の声がグラウンドに響き渡る。どうやら織斑達もようやく来たらしい。
それぞれ頭を一回ずつ叩かれてから、男子の列に並ぶ。名前順で織斑、デュノア、結城なので、二人は俺の前に入ってくる形になる。
そして何故か、先ほど叩かれたにもかかわらず隣のオルコットと話し始める……少しは反省して欲しいものだ。デュノアは静かに立っているというのに、やがては近くにいた鳳まで巻き込んで三人は話し出す。
内容としてはなんで遅れたかを問い詰めるような内容だった。「ウソおっしゃい」やら「なんでそう馬鹿なの!?」やら散々な言われようだ。さしもの優等
生風な編入生もこの二人の勢いを止めることは出来ないようで、苦笑いしてその様子を見守っているだけだった。
馬鹿二人のお陰で先生の声が少し聞き取りづらかったので、何とか聞き取ろうと少し体を前……デュノアの方に寄せる。
するとそんな俺の様子に気がついたのか、織斑先生が他の教師に説明を任せ、足音を消してこちらへ近づいてくる。
「――馬鹿はまだ、ここにも居たようだな」
そんな織斑先生の声で三人は慌てて振り返るが、時は既に遅く。
綺麗に三連続で、彼らは頭を叩かれたのだった。仲が良いことでなによりだ。
他人事としてそんな光景を見つめる俺は、それよりも気になったある
■
結局その後、鳳・オルコットの両名はもう一名の教師との模擬戦闘をやらされた挙げ句、現在進行形で見事に圧倒されているのであった。
最初っからチームワークなんて考えずに戦っていたからだろう。互いを見ていないせいで空中で衝突するし、攻撃を相棒の背中に当てるなんてことが何回も起こっていた。あれで代表候補生になれるのなら、俺でもなれるような気がしてくるくらいだ。
ま、愛国心は欠片もないので土台無理な話だろうが。
そもそもそれを見ている周囲の生徒達も失笑するレベルだ。“これは素人には分からないレベルの次元の戦闘なんだから、一見ただやられているだけじゃない”――なんてわけではない。マジでたった一機のラファールに、赤と青の第三世代二機が一方的にボコボコにされている。
見ていられないとさえ思えるほどの連携のなさだが、それでも一応見ておかないと授業にならない。俺はそちらに目を向けたまま、周囲が空中の戦闘に気を取られている中、一人立っていた鷹月の所へ歩いて行く。
彼女は丁度一人で、周りに人もいない。
そんな彼女に後ろから近づきながら、俺は小さく呟いた。
「デュノアって女子だよな」
別に確信があるわけではなかった。
しかし先ほどの違和感から考えたところ、この時期における突然の編入の理由としては、この可能性が最も高いだろう。
「えっ!?――あ、結城くん……?」
彼女は突然の言葉に驚きながらも、正体が俺だと知るとホッと胸を撫で下ろした。
「あぁ。で、鷹月はどう思うよ?デュノアについて」
誰がこちらを見ているか分からないので、互いに三人の戦闘光景に目を向けたまま、なんて事は無いかのように目を合わせずに声だけを相手に届かせる。
不人気な男子操縦者の俺と話していることが広まったら、鷹月に迷惑を掛かるだろうし。
それで彼女の返答を待っていると、思ったより早く、彼女は口を開いた。
「うん、確かに私も結城くんの意見に賛成だわ」
そう言い切った声には、一切の躊躇がなかった。
「なんて言えば分からないけれど、強いて言うなら女の子の直感って言えば良いのかな……?所々、男の子って言うよりは、女の子に近い雰囲気があると思うの」
「具体的には?」
「例えて言うなら、無理して背伸びしてるみたい、なのかな。たおやかに咲く百合の花が無理矢理、凛として咲く薔薇の華に似せようとしている感じで」
「……なるほど。確かに、言われてみればそんな感じだな」
「じゃあ結城くんはどこでそう思ったの?」
「色々有るが、切っ掛けは――香り、なんだよな」
そこで何故か、鷹月が眉をピクリと動かしたような気がした。
気のせいかもしれないが、こちらに向ける言葉も僅かに冷ややかな雰囲気を纏っている。
「……ふぅん」
「さっき近づいた時に感じたんだが、男の汗臭い匂いじゃなくて、女子特有の砂糖みたいに甘い匂いがしたんだよ。後はよく見たら、体も男の角張った感じじゃなくて女子特有の曲線的な肉付きをしてるんだよな。あれで女子の制服着たら驚くほどピッタリだぜ、多分」
ちなみにそのデュノアは現在織斑先生に指示されて、ラファール・リヴァイヴの説明を行っている。俺の専用機であることもあってほとんど知っている内容なので、俺からしたら聞く必要は無かった。それに、そっちに集中している女子も、デュノアの顔を見るのが目的で内容はどうでも良いと言った顔をしているし。
「結城くん、真っ先に上げる理由が匂いなんだね」
「おかしいことか?見た目はそんなに違和感がなかったけど、どうも甘い匂いが鼻についたんだよな」
「……私には分からないわ、そんな匂いって言われても」
「男子だからこそ、っていうのがあるんじゃないか?端的に言うなら、女子はあんまり気にならないかもしれないけどな、男子からしてみるとそういうのが結構気になるんだよ。今じゃ慣れたせいか余り感じなくなったけど、ここに来た当初は女子特有の甘い香りが恐ろしいほど漂ってたし、教室なんかは香水とかも相まって混沌としてたんだぜ?」
女子なんてどうでもいいと思ってたせいかそこまで苦にはならなかったが、やはり最初はどうしてもあの甘い香りが鼻についたことは否定できない。一週間位したらいい加減慣れて何とも思わなくなったが、それでもあの印象はまだ記憶にハッキリと残っている。
それで、デュノアに男子としてのイメージを持って近づいたら……意外にも男子と言うよりは女子の甘さが漂ってきたんだよなぁ。
「ふーん……」
なぜか鷹月が更に言葉の温度を下げてきたので、少し危険な予感がした俺はここで一旦話を戻した。
「ゴホン。で、とにかくだ。結局デュノアは女子である確率が高いって事で良いか?」
「……そうね、恐らくは。確証はないけれど、多分その可能性が一番高いと思うわ。でも、だったらなんでわざわざ男装してまでここに来たって話になるけど……」
その先をあえて濁した彼女に、俺はハッキリとそこに続く言葉を言い切った。
「ま、十中八九目的は俺か織斑だろうな。同じ男子なら接触もしやすいだろうし。――ったく、フランスも思い切った手に出るモンだよなぁ。これ、バレたら後で大変なことになるだろうし。下手したら国際問題クラスだぞ」
冗談交りにそう言うと、隣の鷹月がこちらへ振り向いたような気配がした。
「……大丈夫よね、結城くん?」
心配そうな彼女の声が俺の背に触れる。
多分下手にちょっかいをだされるかもしれないことを気にしているのだろう。
それでも俺はあくまで気楽そうに振る舞う。
「あぁ。なに、俺から関わっていくつもりはないさ。流石に一切の関係を断つと不審がられそうだから、少しは話したりもするだろうけどな。それでも気を許すなんて失態はしないぜ?それは中学の三年間を見てた鷹月なら分かるだろ?」
「……うん、そうだね」
視界の隅では敗北を喫した二人がなにやらいがみ合っていたが、俺達二人の視線は、視界に佇むデュノアへと向けられていた。
クラスメイトに微笑みながら説明を続けるアイツの顔が、実際は貼り付けられたただの隠れ蓑に過ぎないのか――そう思って改めて見つめると、妙な寒気が背を走ったような気がした。