瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第五話 決闘、その当日へ

 

 一週間の準備期間はまるで嵐のように過ぎ去っていき、数々の出来事を加速させながら、やがて一組クラス代表決定戦当日へと相成った。クラスのために授業時間を削るのはもってのほか、という織斑先生の指示もあり、決定戦は放課後に執り行われることとなっている。

 この間、オルコットは一応アリーナで普通にISの練習を。織斑は何を考えているのか篠ノ乃と二人で剣道場でトレーニングしていたらしい。その様子を見た女子の会話を盗み聞きすると、相当弱かったらしく幼なじみの篠ノ乃にボコボコにされていたとか。これが最近流行りの暴力系女子、とかいうヤツなのだろうか。

 

 ――ちなみに俺はと言えば。

 現在進行形で、昼休みの静かな図書室でふと興味の湧いた本をただ読み進めていた。ここ最近休み時間に付き合ってくれている鷹月は、今日も自然と隣に座っている。

 ゆっくりと、指がページを捲る感触に心穏やかな休息を感じる。女尊男卑である、ないに関わらず騒がしい周囲の女子もここでは誰もがただ黙々と自分の空間を作り上げている。ここの空気は嫌いではない。少なくとも、一週間で俺が見つけた最大の結果と言っても過言ではない程度には。

 世間が無くした誰にも等しく与えられる孤独。

 誰とも関わらない静寂の中で、俺達は一時を過ごしていく。

 

「ねぇ、結城くん……」

 

 ふと隣から、小さく声が掛かる。鷹月だ。自らの読んでいた本を一旦閉じ、こちらに顔を向けてきている。

 少し時計に目をやると、休み時間は丁度半分ほど過ぎたところだった。

 俺も本を閉じ、彼女の方へと顔を動かした。

 

「なんだ、鷹月?」

「この一週間、一回もISで練習してないけれど、大丈夫なの?」

「そんな事心配してたのか?ま、大丈夫だ。気にするなよ」

 

 彼女の話は、俺の一週間を通しての行動に対するものだった。

 そう、俺はISに乗ったり身体を特別動かすと言うこともなく、この約七日間は資料集め以外はほぼ普通の高校生のように過ごしていた。起床し、飯を食べ、授業を受け、本を読み、シャワーを浴びて寝る。基本的には、絵に描いたような規則正しい高校生の日常を繰り返していた。

 特にISについて勉強で徹夜すると言うこともなく、運動もしていない。

 そんな俺の行動は一般的に考えて信じられないような内容だ。確かに普通であれば、付け焼き刃でも良いから何らかを行ってから今日を迎えるだろう。

 

 最もそんな心配は、まともにオルコットや織斑と剣を交えようという前提があってこそ――だから俺には、必要が無い。

 

「……本当に?」

「ああ」

 

 心配そうな顔を向ける鷹月に、俺はここにいない誰かを嘲笑うかのように冷たい声にするりと次の一言を放つ。

 

「俺は、代表戦とか出る気無いから」

 

 そう告げた俺に、目の前の彼女は一瞬硬直した。

 

 その理由は、五日前に遡る。

 

 

 

 

 

「ダメですね。学園のIS・アリーナの使用は予約制で、一ヶ月先までは去年の二年生、三年生が既に予約を済ませています。特例を作るわけにもいきませんので、素直に諦めて下さい」

 

 水曜日の昼休み。この時点で俺はまだ、織斑先生の決定に従おうと思っていた。

 しかしあのオルコットの言うとおり、当然碌にISを動かしていない俺はこのままでは何も出来ずに終わる。仕方ないからせめてISに少しでも慣れておこうと、アリーナの使用許可が必要かと思って職員室へ来た……のだが。

 俺に返ってきたのは、明確な否定の言葉だった。

 

「あ、そうですか……」

「はい。規則は規則ですから」

 

 眼鏡を掛け、赤いスーツを着た鋭い目の金髪女性教師はそう冷たく言い放った。いや、その表現は良くないであろう。確かに冷たいことには冷たいのだが、その冷気は平等ではなく、明らかに俺個人に対して向けられたものだ。

 

 しかも使えないと分かったところでドヤ顔まで乗せてきた辺り、コイツは規則の有る無しに関係無く俺に使わる気が無いのだろう。そのニヤニヤした顔さえ無ければ、眼鏡を掛けたきつめのエリートに見えたのだが。

 

 クソ、ふざけるなよIS学園。教師の採用基準に人格の基準も定めておけよ。

 クラス代表戦があるからせめて織斑先生か山田先生のどちらかが話を通しておいてくれたりしないかと密かに期待していたが、そんなこともなかったらしい。あの二人、さては俺達にはISを使わせないまま戦わせるつもりじゃなかったんだろうな?

 唯でさえ使えないので苛ついたのに連鎖的に思い浮かぶ内容に更に腹立つが、とりあえずそれを悟られないように隠しながら会釈する。

 

「そうですか。お手数掛けてすみませんでした」

「いえいえ、頑張って下さいね。……まぁ、男如きが満足にISも乗れるわけないですけど」

 

 表面上頭を下げて去ろうとすると、後ろから同じく表面上の激励と余計な一言が飛んできた。もう一度言うがなんでこんな奴が教師になれたんだ。織斑先生と言いこの人と言い、悪い意味でクセの強い先生ばかりだなここは。

 出入り口のドアの方へと足を返した時、ギシリと歯を軋ませる。

 少しやる気を出したところでこれかよ。クソ、ああいうヤツに限っていざISで対戦したらすぐに負けるんだよ。感情をすぐに言葉に乗せて聞こえるように口に出す大人って最低だよな。とりあえず黙って頭の中でひたすら相手を殴る俺の方が、まだアンタよりまともにISくらい乗れるっての。多分。

 なにはともあれ、これで俺は一切ISに乗れないまま当日を迎えることが決定したのだった。

 

 

 

 

 

 話はここでは終わらない。

 あれだけならまだ、作戦を立てるなりくらいはしようかと思ったよ。世の中あんな女性がほとんどで、一々キレて足を止めていたら何も出来ないのだから。実際、ふと思いついた時なんかにオルコットの機体について調べたり、それに合わせて武装を変えたりしてイメトレしたりしていたさ。

 ……いつの間にかオルコットの顔が受付の女に変わっていて、ひたすらマウントを取って顔を殴りつける事態に変化していたのはご愛敬だろう。

 さて、しかし。

 昨日の夜、調べ終わった最後の資料を片付けようと、寮の廊下を歩いていたときのことだ。偶然にもすれ違った山田先生が、そんな俺の二日間の――実際は3、4時間程度の――努力の山に、俺に取って核爆弾級の言葉を落としてくれたのだった。

 

 ――昨日と今日でISには慣れてくれましたか?先ほどアリーナの先生と話をしたんですが、一生懸命頑張っていた結城くんを見ていてくれたそうです。まさか土日が自由と規則にあっても、来るとは思っていなかった。けど、誠意に満ちた目をしていたから使用を許可しましたと言っていましたよ。また、あんな全力で頑張ろうとする彼には是非頑張って欲しいって。良かったですね、結城くん。

 

 その言葉で、俺がこの二日間で積み重ねた作戦や戦闘への心構えなど、そういった地道に固めてきたはずのものが一気に瓦解した。どうやらあの受付担当は俺に嘘を吐いた挙げ句、山田先生にも嘘で塗り固めた言葉を伝えたらしい。

 ふと手の力が弛み、指の隙間から抱えていた紙が滑り落ちた。

 ――なんだったんだろうな、俺の二日間は。真面目に情報収集していたのが、馬鹿らしく思えるじゃないか。

 そんな俺の胸の内を知らない山田先生はそれを拾い、最後に明日は頑張って下さいねとの言葉を残して去っていった。

 俺はしばらくその場から動くことが出来なかった。

 部屋に帰って鷹月と軽く話してベッドに入った後も、俺の思考は止まらなかった。

 ――これがIS学園か。立派に就職した社会人の行うことなのだろうか。せめて最善を尽くそうと手を伸ばした生徒を適当に払い捨て、同僚には誠心誠意応対したと嘘をつく。……なんで俺は、こんな場所(IS学園)の流れに素直に従っていたのだろうか。方向を強制されど道を進むことは許可されない。こんなもののために俺は、二日間も使ってしまったのか。

 

 そう考えると、もう俺にわざわざ明日の戦いに参加するという気は残っていなかった。 碌にISを使わせる気もないというのなら、俺も意地だ。誰がこんな戦いに出るというのか。そもそも俺は決闘騒ぎに巻き込まれた形なので、直接喧嘩を買った織斑はいざ知らず、戦う必要性はどこにもない。

 そう話すと、鷹月は小さく苦笑する。それは失笑ではなく、どこか納得を含むものだった。それは過去にもそんなことをやらかしたことのある俺を知っていたから、なのかもしれない。

 

「――なるほど。そんなことがあったのね」

「ああ。不戦敗で英国女が騒ごうが織斑がどう言おうが、クラスの女子が何を言っても、どうせ俺に取ってそいつらはどうだっていいからな。わざわざ俺の読書時間を削ってまで参戦する必要性はないだろ」

 

 そう謝る俺に対して、彼女は表情に変化を見せない。

 それでいて少しばかり考える素振りを見せてから、彼女は、アッサリと俺の自分勝手な話を肯定してくれた。

 

「……まあ、いいんじゃないかな。戦うのは結城くんだし、元々オルコットさんと織斑くんとの諍いが原因だったんだから。それに私も結城くんは巻き込まれただけで、本来は戦う必要なんて無いって思ってるから」

 

 鷹月はそのままニコニコと笑いながら、俺の隣で自分の本を読み始めた。

 反論の言葉が飛んで来ることは、無かった。

 こんな彼女が同室で、本当に良かったと思う。

 

 

 

 

 ――そして、本日の授業終了の鐘が鳴る。

 

「それでは織斑、オルコット、結城は十分後までに第三アリーナに集合しろ」

 

 そう告げた織斑先生の声に、本人達の心の中も知らないまま、クラス内の女子達が色めき立つ。……そんなに織斑に活躍して欲しいんですか。一昔前ならいざ知らず、今時の女子は決闘騒ぎを楽しむ思考があるのか。

 軽く溜息をつきながら、女子達にもてはやされる織斑の陰に隠れ、教室後方のドアからこっそりと気配を消して廊下へと出る。幸いにも今日は織斑目当ての女子もおらず、そのまま他の女子達で寮までの廊下が埋め尽くされる前に小走りで移動する。

 やがて寮に辿り着いた俺は、周囲に誰も未だ来ていないのを確認してから、急ぎ鍵を開けて部屋の中に入った。

 そしてその勢いのままベッドへ倒れ込み、俺は横になりながら枕元に置いてあった小説を手に取った。

 

「(どうせ一日経てば人間は大概のことは忘れる。俺が参加しなかったことなんて、どうせ次の噂話に溶けて消えていくさ……織斑先生は怖いが)」

 

 これに参加しなかったぐらいでそんなキツい罰を受けるわけもないだろう。

 それよりも、一応俺の本心を知っていながら黙っておいてくれた鷹月にどんなお礼を返した方が良いのだろうか……後で聞いてみることにしよう。

 

 

 ■

 

 

 ――第三アリーナ。

 織斑一夏(おとうと)が山田先生をからかっている光景を目の端に止めながら、織斑千冬は履いたヒールの底を鳴らしつつ頭を悩ませていた。

 試合当日になっても一向に届く気配のない弟の専用機、白式。

 かの友人が手がけた機体と聞いており、不安が残るがそれが政府の決定である。文句を言う筋合いもない。それでも、この搬入の遅れはどうなのだろうか。白式搬入ギリギリの時刻に試合が始まるというのに、未だ届かないとは。

 ……仕方無い、結城を先に行かせるとするか。

 せっかくの舞台、弟が先陣を切る姿を見たかったという僅かな願望はさておき、下手に試合を遅らせたら他の学年に迷惑が掛かるということもある。

 

「目上には敬意を払え、この馬鹿者」

 

 とりあえず緊張感がまるでない馬鹿の頭を出席簿で叩く。

 

「山田先生、仕方がない。先に結城に出撃させてくれ」

「あ、はい。分かりました。それでは結城くんは準備を……あれ?」

 

 どうかしたのか、山田先生は周囲を軽く見回した後、こちらに泣きそうな顔を向けてきた。

 

「織斑先生、結城くんがいないみたいなんですが」

「何?」

 

 そう言われて自分も軽くこの部屋の中を見回す。ある程度広いとは言え、人一人を見逃すほどではないはずだが……。一応見えにくい場所も一通り見ても、結城の姿は何処にも見えない。

 

「織斑、篠ノ之。結城が何処へ行ったのか知っているか」

「あ、ちふ――織斑先生。それが、一緒に行こうって誘おうとしたんですが。気付いたら教室にはいなかったので、先に行ったのかなー、と」

「知りません」

 

 織斑はともかく、篠ノ之はそうハッキリと言い切らなくとも良いだろう。

 まるで弟以外は眼中にないかのような振る舞いをしおって。

 

「ちっ、何をしているかあの馬鹿者は。山田先生、仕方無いから結城を探しに行ってくれ。アリーナの近くで迷っているかもしれん」

「そ、そうですねっ。ここは初めての人には迷いやすい場所ですし」

 

 小走りに走っていく彼女の背を見送りながら、私は手元の端末を見る。

 その中に一つのメッセージ受信表示を見つけ、軽く叩いてそれを開く。……ふ、ようやく来たか。

 

「こい織斑、お前の専用機の到着だ」

「はいっ!」

 

 返事だけは一人前だな――そう呟きかけた一息を飲み込んで、弾む足を抑えるように期待に胸を膨らませた弟を見る。

 ……勝てる訳はないが、善戦くらいはしてほしいものだ。

 姉としてのそんな小さな気持ちを心に抱え、私は白式の搬入許可を下した。

 

 

 ■

 

 

 さて、そろそろ織斑の試合が始まっている頃だろう。

 ということは俺がいないのに気付いた先生のどちらかが俺を探しに来るかもしれない。

 帰ってきた鷹月に黙っておいてくれたついでに、隠れるのに協力してくれないかと話を持ちかけると、彼女は快く頷いてくれた。

 

「んー、良いよ」

「悪いな。お礼として、いつか何かを返すから」

「ふふっ、期待して待ってるね。出来れば結城くんのお菓子がいいかなー、ほら。前に家庭科の時間に作ったあのクッキーとか凄い美味しかったじゃない」

「あんなものでいいんなら明日にでも作るよ。何にしろ、今日一日は調理室は使えないし。材料も買ってくる必要があるか。……そもそも俺って外に出られるのかね。ISが使えると分かった瞬間監禁するような奴らだぞ」

「あ、はは……どう言えば良いのかな……。とりあえず、ご愁傷様、かな?」

 

 同情とか止めてくれよ……。

 と、そこで――ピン、ポーン。

 丁度先生が来たらしく、チャイムがなる。

 

「とりあえず俺は隠れるから後はよろしく頼む」

「はいはい、分かってるよ……はーい!」

 

 鷹月が出ようと、ドアの方へと足を向けた。

 俺はその間に午後の授業の間に考えておいた場所へと身を動かした。

 座っていたベッドから離れ、必要な道具を身につけて隠れる。――本当は隠れるなんて表現はふさわしくない場所なのだが。

 急ぎそこに身体を押し込むと同時に、玄関先から鷹月と山田先生の声が聞こえてくる。

 

「すみません鷹月さん、結城くんはいませんか?」

「あ、山田先生。彼なら見てませんけど。どうかしたんですか?」

「それが実は、彼が未だアリーナに来ていないんです」

「そうですか」

「鷹月さんは中学校からの付き合いがありましたよね?彼が行きそうな場所とかには心当たりがありませんか?」

「えーと、図書室とか屋上とか、人気がなさそうなところが好きみたいですけど。……結城くんって、隠れるのは得意だから、簡単には見つからないと思いますよ」

「そんな……」

 

 声からして、あわあわと慌てる彼女の姿が目に浮かぶようだ。

 今いる場所からして顔を見ることは出来ないが、なんとなくあの先生は声だけで大体の動きが分かるような気がする。

 

「と、とりあえず、部屋の中を確認させて貰っても構いませんか?鷹月さんには申し訳ありませんが、こっそりとここに隠れているかもしれませんし」

「ええ、いいですよ。どうぞ」

 

 続いて山田先生が部屋に入ってくる音が聞こえる。

 

「ベッドの下とか、机の下には――さすがに、いませんよね……シャワールームにもいませんね。やっぱりここにはいませんか」

「いくら結城くんでも忍者みたいに天井に張り付くわけはないですから、やっぱりいないんじゃないんでしょうか」

「そうだったみたいですね。失礼しました鷹月さん」

「いえ」

「それでは、失礼しましたー。……どうしましょう、ホントに。はぁ……」

 

 結局俺を見つけられなかった彼女は、落ち込んだ雰囲気で帰っていった。

 申し訳ない気もするが、仕方無い。文句はアリーナ受付の人によろしくお願いします。

 さて、そろそろ俺もここから戻るか。

 

「結城くん、もういいよー」

 

 念のために先生が去って少し立ってから、頭の上から鷹月の声が掛かる。

 

「サンキュー。よっと」

 

 それに応えながら懸垂の要領で俺は一気に今いる場所からよじ登る。

 鷹月が空けてくれたその場所から、腕、肩と順に身体を室内に入れていく。

 最後に足を引き込んだところで、ようやく俺は一息つけた。

 

「ま、さすがに先生も見つけられなかったか。見つかったらそのまま逃げるつもりだったんだが」

「いや、あんな所に隠れてるなんて誰だって考えないでしょ……」

 

 そう、俺がいた場所はと言えば。

 部屋の奥に広がる窓、その外である。

 さしもの織斑先生でも見つけられない意外性を考えると、もう室外に隠れればなんとかなるだろうと思った結果である。山田先生の声が聞こえたと同時に急ぎ結構小さな窓から身体を出し、予め見つけて置いた場所に片方を引っかけ、もう片方に作った輪に足を引っかけて待っていたのだ。ちなみに部屋の方に引っかけておいた縄は観葉植物の陰に隠してあった。

 中学校時代、クラスメイト(女子)に追いかけ回されたときのアイデアがまさかIS学園でも役に立つとは……思っても見なかった。あの時は屋上の柵からつり下がっていたしな。まだ今回の方がマシだったな。

 縄を回収し、ケースの中に片付ける。

 

「けど、明日クラスに行ったらきっと問い詰められると思うよ?」

「問い詰められたところで適当に頷いておけばどうにだってなるだろ」

「それでいいのかな?」

「いいんじゃないのか?」

「……まあいいわ。そう言えば結城くん。知り合いに頼んで織斑くんの戦闘を見られるように頼んでおいたんだけど。見る?」

 

 彼女が手元を動かすと、そこから織斑の声が聞こえて来た。

 どうやら試合は終盤になっているようだった。

 声に引かれて鷹月の手元を覗き込むと、白い機体に包まれた織斑一夏の姿があった。

 その口が突然開く。

 

『――俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』

「「……はい?」」

『俺も、俺の家族を守る』

『は、貴方、何を言って――』

『とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!』

 

 ……いつからIS戦闘は織斑劇場になったのだろうか。

 

「なぁ鷹月、織斑(アイツ)が何を言ってるのか分かるか?」

「ごめん結城くん。私にも分からないよ」

「姉を守るとか、よくそんな恥ずかしいセリフを堂々と言えるな。一応まだ初心者だろ、それなのに世界最強を守るとか……黒歴史確定だな」

「そういうことを言わないの。そうだね、きっと、いつかは織斑先生を超えたいっていう心の表れなんじゃないかな。織斑くんも男の子だし、そういうのに憧れると思うけど」

「別に……で、ここでまさかの覚醒か?」

 

 画面の中に映る織斑の剣が光り輝くようなエネルギーを纏っている。

 

「あれってもしかして、『零落白夜』じゃないかな。ほら、織斑先生のワンオフ・アビリティーと同じ、シールドエネルギー無効化能力の」

「ん?でもそれは第二次移行からじゃないと手に入らないんじゃなかったか?織斑は専用機を手に入れてまだそんなにたっていないし、基本の一次移行しか終わってないだろ」

「そうだよ。なんでだろうね……」

 

 その後を見ていると、結局織斑は負けた。

 何故かは知らないが、主人公補正でオルコットに近づいて、後もう少しで勝てそうな所で――シールドエネルギーが勝手に零になって敗北していた。

 織斑自身も何が起きたのか分からなかったようで、画面越しに感じられるアリーナのフリーズした空気の中、一人首をかしげていた。

 

「そう言えば、零落白夜って凄い効率が悪いって聞いた事がある……。織斑くんのもそうなのかもしれないわ」

「つまり姉から丸々コピーしただけってことか。進歩してないんだな、ISって。それよりあの宣言からのこれって……アイツ明日クラスでどうするんだろ。普通だったら陰でこそこそ女子に陰口を呟かれて引き籠もるレベルだぞ」

「それは結城くんだけだよ……」

 

 ……まあ、俺には関係無い話か。

 それよりも俺の明日を考えるべきかもしれない。

 先ほど鷹月の手前どうにかなるさと言い切ったが、いざ振り返ってみると織斑先生に何をされるか分からない。あの人に事だから碌な罰が待っていないような気が。

 

 ま、いいか。

 今明日のことを考えたって、どうにもならないし。

 常識的に考えて悪いのも俺だからな。

 とりあえず、素直に謝るとするか。変な罰を受ける確率を出来る限り避けるためにも。

 

 

 




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