瞬刻の大空 ―Wing of the moment― 作:七海香波
そして翌日。
決闘騒ぎを意図的にすっぽかした、その次の日である。
普通の神経なら身を縮ませながらどこか遠慮して教室の後ろからこそこそと入って自分の席に座るのだろうが、そこは普段から女子の冷たい目線を完全無視している俺だ。
何の遠慮もなしに教室前方のドアから堂々とクラスに入る。
その瞬間、クラス中のほとんどの女子からの目線が俺へと突き刺さる。織斑に熱を上げていた女子も、ISスーツがどうのこうのと騒いでいた女子も、織斑先生抱いて-、と興奮している女子も。その全てが会話を止めて、こそこそと嫌味を呟きながら俺を見てくる。
それらを全て無視して自分の席に座ろうとする……のだが、教卓の前を通ったとき、目の前に一人のクラスメイトが立ちふさがった。
随分と伸びてきた前髪の隙間から覗くようにその顔を確認すると、それは話題の中心の一人、今回の事件の首謀者。第一回結城個人私的裁判におけるA級戦犯こと、織斑一夏その人であった。
何か言いたそうな顔をしているが、面倒なので無視しようと遠回りに自分の座席へと向かおうとする。が、その腕を織斑は無造作に掴んできた。……これは無視できないな。
仕方無くイヤホンを外し、織斑に向かって相対する。
一応それなりにある身長のお陰で、織斑と面と向かって顔を合わせる。
「……何か用か?」
「結城、なんで昨日来なかったんだ?」
……ああ、それか。
「面倒だったから、すっぽかした」
「なんでだよ!?俺達は自分の試合が終わってから一時間近く待ってたんだぞ!?」
「知るか。そんなの俺には関係無いだろ。大体、なんで俺がお前ら二人の決闘騒ぎにわざわざ参加する必要が有るんだ。いいか、最終的に俺を決闘に組み込んだのは織斑先生だが、自分勝手に俺をそう追いやったのはお前なんだぞ。クラスの長を決めるという時に自己保身のために他人を無理矢理引っ張り出すなんて卑劣非道なことをするどこかの誰かさんよりは、俺の方が遥かにまともだと思うがね」
ついでに軽く嘲笑を浮かべると、織斑は何も反論できないのかぐっと腰の辺りで拳を握りしめた後、顔をうつむかせた。
その代わりに、隣に立っていたポニーテールの長身女子が声を荒げて俺の胸を掴んできた。
「お前は……お前は、大和男児でありながら勝負から逃げるのか!?」
また随分と古風な女子だな……。
意外すぎるその発言に、俺は少々目を丸くした。
男だというのに勝負から逃げるのか、と今の時代に正面切って向かってくるとは。言葉の中身はともかく、直接意見をぶつけてくる辺りどうやら少しはまともな精神をしているらしい。
「じゃあ逆に聞くが、無理矢理押しつけられた流れに素直に流されないってのも立派な大和男児なんじゃないのか?」
「むっ、それは……」
「……後、一応言っておくが俺は純粋な大和男児なんかじゃないから。アンタの想像してるようなそういう男じゃなくても別にいいだろ」
俺は彼女にだけ見えるように少しだけ顔を近づけて、前髪を軽く掻き上げてその証拠を見せる。
最初は何のことだか分からない様子でいたが、やがて俺の示しているものに気付いたとき、彼女の目がほんの僅かだけ見開かれた。その黒曜石のような瞳の中には、他の人々とは違う色の瞳を持った俺が映っている――つまり、俺には外人の血が流れているのだ。
正確には四分の一だけ、母親の縁で日本人とは違う血が入っている。
「お前箒に何してるんだよ!?」
顔を見るだけにしては少々長い間顔を寄せていた俺に不審感を抱いたのか、がしっと俺の肩を織斑が掴み、強引に篠ノ之から引きはがす。
……別に彼女をお前から取ろうとか思った訳じゃ無いから。っていうか、俺ってそんなに女の子に手を出しそうに見えるか?むしろ最近女子のほとんどは嫌いなんだが。
妙に俺を睨んでくる織斑から目を外し、俺はその箒さんとやらに口を開いた。
「……ま、というわけで俺の此度の行動を
通路にいる織斑の肩を押してどかし、彼女の横をすり抜けて座席に着く。
「あー、後一分か……」
大したページは読めないが、時間を無駄にするのももったいないからな。
授業の準備などをするより、早速俺は残り時間のために鞄から文庫本を取り出した。
この原作もアニメ化しているのに、鷹月がいる以上部屋のパソコンで見るわけにも行かないしな。なんで最近のは無駄にそう言うシーンばっかりなんだよ。教室でも読むに読めないから、内容が頭に入りにくいじゃないか。せっかく面白いのに、そう言うシーンに設定が食われてるぞ。
ま、それでも面白いからいいんだけど。
「はーい、それでは授業を始めまーす」
教室に入ってきた山田先生によりさっそく号令がかけられ、授業が始まった。
手元の本を机に戻し、俺は早速IS理論の資料集を盾にしてISの実戦に必要な機能の把握を始める。唯でさえ膨大な量なのだから、一部に絞り込まなければ普通はまず覚えられるわけがない。
そう考えた俺は、周囲が授業内容に頭を唸らせる中、ただひたすらに実際に動かす際に頭に入れておいた方が良さそうな知識だけを教科書から抜き出してノートに書き出していた。
ISを動かすのは試しに乗ってみたときに分かったとおり、その大半がイメージ制御で行われている。だから実際になんでISが動くのかよりは、どこから何処までISは動くのか、どう駆動しているのかを頭にたたき込んだ方がまず頭に残りやすい。
そこから少しずつ知識の輪を広げていけば、確実に早い段階で楽に知識を修得することが出来る。しかも、いざという時に思い出しやすい形でそれらは残るのだ。
実際この方法でそれなりに中学でも点数は取ってきているし、学年主席だった鷹月に迫る順位で最後の辺りは卒業できていた。……彼女は、一応入学当初から全科目ほぼ満点を叩き出していたからな。それなりに知り合いだったと言うこともあって、俺に取って実に良い目標だった。
それに比べてここはと言えば。
自習を続けながら時たま投げかけられる山田先生の質問に、正解を答えた時には舌打ちが教室中から聞こえ、間違いや素直に分かりませんでしたと答えれば嘲笑が飛んで来る。
全く、こんなので果たしてやる気が出るというのだろうか。無理だろ。
通常授業の分はIS授業に比べてまだ声が少ないため、それがまだ助けになっている。
ちなみに織斑は全て無茶苦茶な解答を叩き出しているが、後ろから甘ったるい声で女子達が正解を投げかけられてどうにか授業の邪魔になっていないという感じだ。
ホント、どれだけ扱いに差をつければいいんだろうか。この根暗そうな風貌の原因である中途半端な長髪も、外出許可が出ないせいでしばらく切れなさそうだし。
とりあえず、どうやって復讐しようかね……。
あ、言い間違えた。復習だった。
余りに女子が鬱陶しいから、ついつい素が出てしまったぜ。……そのうちどうにかしてストレスを発散させないと、本気で疲れてきそうだ。やっぱり模擬戦に参加しておいて、オルコットはともかく織斑だけでもボコボコにすれば良かったかな。あの顔をひたすら殴れば、俺の感情も少しは晴れるだろう。
翌日からの女子の批評は――今更変わらないだろう。
今更ながら、昨日の選択が悔やまれる。
「ああ、そうでした。授業より先に伝えておかないと……。皆さん、昨日の戦闘の結果、見事織斑一夏くんがここ一年一組の代表になりました。あ、同じ“一”で良い感じですね!」
……ふーん、結局織斑がクラス代表か。
そのまま受け取れば詰まり、オルコットは買ったものの権利を辞退したのだろう。
なんとなくそちらの方へと目をやってみると、何故かまたも彼女は勝ち誇ったかのような顔を浮かべていた。なんでそんな上機嫌なんだ?もしかして此奴、織斑に惚れたんじゃ――。
「ちょっ、先生。なんで負けた俺がクラス代表になっているんですか?」
「それは私が辞退したからですわ!……まあ、勝負自体は完璧に私の勝ちでしたけど。それはこの私を相手にしたからであって、まあ仕方のないことなのですわ」
俺の記憶が正しければもう少しで負けるところだったはずだが。
いつの間に彼女の頭の記憶が改竄されたのだろうか。
「それに私も大人げなく怒ったのを反省しまして、一夏さんにクラス代表の座を譲ることに致しましたの。ISの操縦には実戦が一番ですし、クラス代表ともなればその場も増えることでしょうから」
「ナイス、セシリア!」
「やっぱりクラスに唯一いる男子は持ち上げないとねー!」
そして彼女らの記憶からはいつの間に俺の存在が消えてしまったんだろうか。
一応俺はまだ男であり、このクラスに所属しているハズなんだが。もしかして気付かない間に学籍を抹消されてしまっていたというのか?
「あー、そ、それでですわね……。一夏さん、せっかくですし私と一緒に練習をしませんか?私のような完全かつパーフェクトな存在と一緒に鍛え上げれば、見る見るうちに栄光への階段を上るはずで――」
「あいにくだが一夏は私に教わっている身だ。他人が今更になって出しゃばって来ないでくれないか」
「あら、貴方は適正ランクCの篠ノ之さんでは?Aである私に一体何の用があるのですか?」
「ランクなど関係無い!一夏に頼まれたのは私なのだ!」
あー、煩い煩い。
一応言っておくが、今は授業中なんだぞ。ほら、視界の隅では山田先生がどう収拾をつければいいのか慌てているじゃないか。可哀想に。
というかやっぱりこの様子じゃ、オルコットは織斑に何でか知らないが惚れたみたいだな。もう少しで負けそうになった相手に惚れるなんてマゾヒストなのか?
そう思っていると、バシバシンッ!
立ち上がって言い争っていた二人の頭から激しい音が上がる。……その正体はもう大体分かっている。どうやら今になって彼女はやってきたようだ。
「やかましいぞ、座れお前達。ランクなど所詮私から見れば皆ゴミだ。今の段階で優劣などつけようがないと言うことを知れ」
そこで彼女は一旦言葉を切った後、こちらの方へとその厳しい目を向けてきた。
「さて、そんなことよりも……一応聞いておこうか結城。なぜ貴様は昨日アリーナに来なかった」
山田先生の授業の間に比べて静まり返った教室の中を先生は進んできて、俺の机の前で足を止めて腕を組み、こちらをその吊り目で見下ろした。
俺はそんな彼女に対して正面から目を合わせ、ハッキリとその質問に答えた。
「だって俺がいくら反論したところで先生は聞く耳を持たないでしょう?だから俺は仕方無く行動で意志を示してみたまでです。俺は闘いたくない、あんな馬鹿騒ぎに巻き込まれるのは嫌だって明確に意思表示しましたよね?それに先生は俺にISを渡すとき、自衛用だと仰いました。ならば個人の感情の入った争いにおいて使用するべきではないと思いました。以上です」
「ほう、そうか」
バシンッ!
当然の如く出席簿による一撃が俺の頭を襲う。痛いが、これくらいはまだ予想の範囲内である。恐らく、この後に更に烈火の如き怒りの百裂拳が襲ってくるに違いない。
……かと思えば、意外にも納得したような声で彼女は俺の処分をサラッと告げた。
「言いたいことは分かった。しかしそれは無断で試合をサボる理由にはならん。目を反らさずに理由をキチンと語ったその精神に免じて、反省文十枚分で手を打ってやる」
「あー、そうですか。それは有り難うございます」
「本来ならば私が直々に一週間IS操作についてみっちりと補習してやろうと思っていたのだがな。そちらの方が良いか?」
「いえ。俺は身体を動かすのは好きじゃないんで、それはまた俺にやる気が出た機会にでもして下さい」
「そうか」
さりげなく遠慮しておくと、織斑先生はそれだけで教室後方へと戻っていってしまった。
……あー、死ぬかと思った。
■
織斑先生による説教もアッサリと終わり、その後は普段と同じ時間が過ぎていって、気がつけば昼休みになっていた。
クラスメイト達が学食に行くなりして騒いでいるときに、俺は密かに今朝作っておいた弁当を持って教室を出ていた。
「おい、結城……あれ?いないな」
「一夏。あのような者のことより、早く食堂に行こうではないか」
「あら箒さん?抜け駆けはよろしくなくてよ?」
去り際にそんな声が聞こえた気がしたが、それらが俺の記憶に残ることはなかった。
ここ最近感じられるようになった一部の女子のストーキング――恐らく、いや絶対に悪意しかないもの――を注意して撒きながら、鷹月との待ち合わせ場所である学生寮の屋上へと移動した。
いつも解放されているそこは余り人がおらず、ここ一週間で自然とそこが俺達の集合場所になっていた。
他の人間が来る前にさっさと合流した俺達は、そのまま屋上にある給水塔の裏側へと向かう。
「それじゃ、ご飯食べよっか」
鷹月が広げた風呂敷の上に、俺と彼女それぞれの弁当が蓋を開いて並べられる。
お互いに朝早くに起床して部屋で作った物であり、今日はそれを互いに批評するというのが趣向らしい。
「うわー、やっぱり結城くんって料理上手だよねー……」
「まあ母さんに散々仕込まれたからな。今の世の中、まともに結婚できるとも限らないからって。本当無茶苦茶頑張らされたから、一応大半のものは作れるようになっているはずだな。『灰人はパパに似て変なところで頑固なんだから』と言われた」
「そうなんだ……。それでお菓子も作れるようになったの?」
「それはちょっとした趣味みたいなもんだな。たまに作ったりしてたときに母さんが絡んできて妙にこり始めたけれど、そう好きなわけでもない。……あ。そう言えば昨日のお礼ってことでご所望のお菓子だが、外出許可が出ない以上結構後になるみたいだ。それでも構わないか?」
「うん、貰えるのなら何時でもいいよ。間違っても忘れたりしないでよね」
「さすがに受けた恩くらいは忘れないから……」
お菓子の話題になって一転恐ろしい目を見せる鷹月に、甘い物に対する女子の執念が垣間見えた気がする。
そこからはしばらく授業の内容だったりふと部屋で見たテレビの内容だったり、普通の雑談が続いていた。とは言え二人とも馬鹿馬鹿しい芸能人のスキャンダルなんかに興味はなかったので、ニュースで取り上げられた事件なんかに自然と話題は移っていった。
とある女性権利主張団体の幹部の家が、報復として爆破されたこと。
ドイツがISの第三世代型試験機を開発させたらしいこと。
同年代の女子に散々いじめられ、ついにはそんな意識のない幼い子供に手を出そうとした変質者のこと。
ISが世の中に出たが故の問題は未だ多く、それらに関しての話題には事欠かない。
「あ、このだし巻き卵美味しいね!」
「サンドイッチもだな。味と食感で肉と野菜のバランスが上手く取れてるっていうか、まあ要するに美味い」
「そう?甘辛いソースが少し目立っちゃうかもしれないと思ったんだけど」
「いや、それがいい。なんというか食べ応えがある」
「なら良かったわ……それで、この卵は一体何を使ってるの?」
「昆布で出汁をさっと取って、あとは焼くときに中に小さくした鰹節を入れてみたんだが。不味かったか?」
「もう、さっき美味しいって言ったじゃないの!……なるほど、後から入れるのね。分かったわ、ありがと」
ちなみにこんな食事の交換は初めてではなく、中学校の時に鷹月にボッチ生活から引きずり回されて以来結構な割合で続いている。最もその時は母さんが作った物だったから、敵わないなと嘆いていたような気もするが。
今はそんなことはなく、お互い別の容器に渡す分の量を作ってきている。
まさか同じ弁当の容器に入ったおかずを一緒につつくわけないだろ。……同じ部屋に過ごしているせいか、そんな認識も若干甘くなりつつあるんじゃなかろうか。
目の前で満面の笑みを浮かべている彼女の顔を見つめながら、俺はそっと溜息をついた。
「結城くーん、なんでそんな変な顔するのよ?」
「いや、ちょっとばかり常識が崩れつつある自分が情けなくてな……」
「なんでそうなるの?全く、結城くんっていつも変に思考を飛ばしちゃうよね」
いや、今回限りはそうでもないと思うのだが。
どちらかと言えば思考がぶっ飛んでいるのはそっちですから。
もちろん言えることなく、俺はそんな言葉で心の中で小さくツッコンだ。
「まあ、ホントいつものことだからいいんだけど。……そう言えば結城くん、結局ISに乗る練習とかはしなくて大丈夫なの?一応アリーナが土日に使えるんだし、乗るだけ乗った方が良いんじゃないかな?」
「そうだな……流石にこれから、土日に少しぐらいは乗ることにするかね。一切乗らなかったらいざという時に上手く動かせないだろうし。それに装備の開発に興味が有るから、そっちも出来たら試せるようにしたいからな」
「貸し出されているラファールって……」
「コア自体はIS学園から与えられているけど、調整なんかのバックアップがないんだ。織斑と違って何処の国が専用機を与えるのかの摩擦が煩かったから、コアだけ学園から渡して後は自由にしろって織斑先生に言われてる。だからラファールの装備自体はあくまで仮の予定だ」
「なるほどね……でも結城くん、そういうの出来るの?剣や盾なんかの原始的な武装だったらともかくとして、スラスターみたいな機体の一部なんかやシステムの知識はそんなにないでしょ?」
「ああ。今の俺にあるのはアイデアだけだし、それを現実に映すなんて到底今は不可能だろうな。故に今から時間を使って、知識を詰め込んでいく事になるな。――だから俺はここ最近の授業をほとんど使ってISの基礎を押さえてるんだよ」
元々俺の志望先の進路はISの宇宙開発だ。塾で何故か落とした成績も残り一年で十分回復させたし、ついでに高校の物理生物も基礎は終了している。IS関連の書籍も軽い構造説明くらいは読んでいたし、大半は思い出せなくても基礎中の基礎というのは既に頭の中にある。
後はそれらの針金のように細い知識の架け橋を、IS学園の教科書などでひたすら肉付けしていくだけだ。それでも専門書はまだまだ難しく、イラストの入っている面白そうな所から手をつけているんだが。
「受験期のペース以上でやれば一年で整備くらいは出来るようになるさ。何しろ開発者も大体同じ時期にISを完成させたんだぜ?それに比べればISコアまで作らなくて良い以上、まだ気が楽だろうさ。基本形だって早々変わるモンじゃないだろ?」
「なんて無茶な理論立てなの……」
「ついでに言えばあの騒がしい女子共をごぼう抜きにして成績を上げようとも思ってるからな。それだけの知識をつけられたら、開発だってきっと出来る。――それより普段は教室で勉強してるわけでもなくただ本を読んでいるだけの侮蔑の対象に順位で負けたら、アイツラはどんな顔になるんだろうな。唯でさえしつこく嫌味を呟かれたるしているんだ、その分の借りは中間試験で絶対に返す。んでもって潰す」
「潰すって一体何を想像してるのよ。試験で勝って何が潰れるの?」
呆れたような顔をする彼女に、俺は笑いながら続きを語る。
「あの愉快そうな顔だよ。プライドが打ち砕かれたときの顔を学年中に広めてやろうと思ってるんだ。本当は直接殴って顔面を潰したいんだが、そうも行かないから成績で決着をつける。生憎俺は元から女子も男子も区別はしないからな、やられたら数倍やり返す。――片方の頬をぶたれたら相手の顔面を殴り飛ばし、片目が潰されたら相手の両目を潰しなさい。主はそう仰いました」
「全然違うから……。それは半沢さんだけだよ……」
「やられたらやり返す、倍返しだ――あれは実に素晴らしいドラマだった」
女尊男卑の影響か、原作では本来男性だったはずのキャストがほぼ全員女性になっていたのは頂けなかったが、ストーリーは良かった。というか男性から女性に変えたら名前まで変わっちゃうだろ。必死に名前をひねり出した原作者が可哀想すぎるとは思わなかったのか?
誰だよ半沢直葉って。