街を出て三日目。俺は今日も昨日、おとついと同じように蜂や牛達と戦い続けていた。やはりこの修業は危険を伴う分効率が良く、今朝遂にレベルが上がった。そこで初めて、三日でレベルが一上がったことでどれだけ自分が無茶な事をしているのかを知った。そして今、俺は毎日の締めとして挑んでいる上半身は人、下半身は牛の「レッサートーラス・ストライカー」と戦闘中だ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ブモォォォォォ!!!」
トーラスの両手ハンマーと俺の片手剣が激しくぶつかる。普通のプレイヤーなら圧倒的筋力値の差で吹っ飛ばされかねない危険な立ち回りだが筋力値極振りの脳筋ビルドの俺は負けずに振り切る。ソードスキル「スラント」により威力が割り増しされた剣は大きな両手ハンマーを弾いた。
「ブモォォォ!?」
相手は大きく体勢を崩し後ろへのけ反る。俺はスラントの事後硬直を脱すると同時に大きく前へ踏み込み連続で斬り込む。ソードスキルに依存しない通常の連続攻撃を繰り出し、相手のHPが二割を切った時俺はトドメに再び「スラント」をぶつける。トーラスは耐え切れなかったようで足が地面から離れ巨体が宙を舞う。そして姿が歪んだかと思うと次の瞬間には青い光となって爆散していた。
「はぁ……はぁ…………。これで今日のノルマは達成したな」
俺は右手で虚空へ向かい指を振る。このアクションでメニューウィンドウを呼び出し、武器の耐久値を確認した。
「あれ……案外まだ余裕だな」
昨日までと同じ量を狩っているのでもう耐久値はギリギリになっているはずなのだが……。
「……カウントミスったのかもしれないな。よし、今日はトーラス十体追加だ!」
ウィンドウを閉じ、少し減っているHPを回復する。既に夕日は傾いているので早く倒して暗くなる前に帰りたいと思い、トーラスを探して走る事にした。
それからしばらくして一体のトーラスを発見した。俺はさっきと同じようにハンマーを弾き連続攻撃でトドメを刺す作戦を実行し、難無く倒す事が出来た。しかも好都合な事にそこは一定時間事にトーラスが湧出するようで、一体目のトーラスが四散すると同時に二体目のトーラスが現れた。
「(湧出率高い狩場!これなら日が暮れるまでに十体余裕だ!)」
俺は運のよさに感謝し一体、また一体と狩りつづける。そして次のスラントの構えに入った。このままあと六体狩ったら退散する……。
「ブモォォォ!」
突然背後からトーラスの叫び声が聞こえた。気付けば周りには二体、いや三体のトーラスが現れていた。
「湧出の頻度が早過ぎるのかッ!?」
そのうち一体がいつの間にか俺の背後に立っており、そのまま大きなハンマーを振り上げて力強く振り下ろしていた。俺は既に正面のトーラスのハンマー目掛けてスラントを繰り出していた。そして次の瞬間ーーー大きなハンマーが俺の体を横薙ぎに払った。
これまで味わった事の無い、形容し難い不快感に襲われる。HPゲージが気付けば黄色へと変化しているのが見えた。
「(やばっ!これは逃げるしかないな)」
俺は吹っ飛ばされたおかげでトーラス達と離れている事から逃げる事にした。筋力値極振りは裏を返せば敏捷値皆無、つまり逃げるには不利だがこの距離ならなんとかなるはず……。そう考え俺は三体のトーラス達に背を向けた時……あろうことか四体目のトーラスが俺の正面に現れた。
「っ!?」
俺は声にならない絶叫を上げ、思わず尻餅をつく。その間にさっきの三体のトーラス達もこちらにのしのしと向かってきていた。俺が急いで立ち上がった時には遅く、四方向を四体のトーラス達に包囲されていた。
「…………ぁは、あはははは!!!」
頭の中はもう何もかも真っ白だった。周りは今にも襲い掛からんとする敵が四体、自分の命はよくて三発の攻撃しか耐えられないだろう。POTを飲もうにも時間が無い。戦おうにも全方向攻撃なんてあるはずがない。そして……
「ユキも居ない……」
こんなときユキが居たらどうしていただろうか。おそらくユキと俺の剣技で一点突破、そのまま全力で逃走をしていただろう。
「まったく……馬鹿だよな……」
俺は自嘲気味に呟く。俺だけでも攻略組に入ってやると豪語しておいて雑魚Mobに殺されるのか。ユキを守るとか言っておいて今でもユキが居たら……などと妄想するのか、とんだ自己中だよ。……でも、もし生きて帰れたならその時はユキに謝って攻略組に入るのを止めよう。そう己の無力さを知ったがもう遅い。後ろのトーラスが俺の背中にハンマーを振るい、HPゲージは更に減少。続き左右のトーラスによるハンマーが俺の肩を襲い両膝が地面につく。HPゲージは気付けば赤へと突入しており、残るは数ドットとなっていた。見上げると正面のトーラスも大きなハンマーを構え、まさに断頭台で俺を処刑するかのように振り上げた。俺は死を覚悟し目を瞑る。……その時、三日前のやり取りを思い出した。ユキは朝知り合ったばかりの男が殺され、それが自分の責任だと自分を責め、それが俺とユキが別れた原因となっていた。……待てよ。ユキは朝知り合ったばかりの相手すら自分を責めて攻略を諦めるような女だ。なら俺が死んだら?ユキが攻略組に入らないと言い出した事が発端の
今回の件で俺が死んだら…………。この世界がデスゲームと化した初日、現実を受け入れられなかった人々はアインクラッドの外堀から投身自殺をしたと聞いた。その時俺は最悪の結論へとたどり着き目を開く。
「こんな所で……死ねねぇよ!」
頭は熱が上がっているはずなのに意外と冴え渡っていた。俺は振り下ろされるハンマーの内側、トーラスの体へとタックルを繰り出した。トーラスはハンマーのフルスイングを空振りした事とタックルにより後ろへ倒れる。そのまま俺は剣を抜き倒れたトーラスの手にあるハンマーを斬りつける。ハンマーを攻撃してもトーラスにダメージが通るわけではない。俺の目的は他の所にあった。
「倒せなくていい……向かって来なく出来ればいいんだ!」
俺はそう叫び、ハンマーの持ち手の一点を一閃。するとハンマーは真二つに折れた。それを確認すると素早く後ろを振り返る。残るトーラスは三体、幸い増えていないようだ。
「湧出し尽くしたかな。ならこいつらを斬れば助かる」
俺は剣を構えて手初めに左のトーラスを、正確にはトーラスの持つハンマーの急所を狙ってソードスキルを放とうとする。そして方膝をつく。しかしこれは技の一環ではない。
「体が…………動か……ない」
三日に渡る連戦の修業に遂に体が悲鳴を上げた。
「(ここから形勢逆転なのに……)」
目の前には三体のトーラスが再び俺を狙いハンマーを振り上げていた。それが振り下ろされた時……
俺は金属のぶつかるような音を聞きながら気を失った。