辺りは真っ暗だ。それもそのはず、俺は多分もう死んでいる。三体のトーラスに襲われ青い光となって四散しているはずだ。俺が死んだことでユキがどうなったかは分からない、というか分かりたくない。願わくば、俺の予想した事態だけは回避していて欲しかった。そうこう考えていた時、暗闇の中に一縷の光が差した。あまりの眩しさに目を細める。この光は何だ……と考えているうちに光は次第に広がっていく…………。
ガバッと飛び起きた。辺りを見回すと見たことの無い部屋だった。いったい何があったか。俺は殺されたと思ったら知らない部屋に居るのだ。
「まさか……夢か……?」
有りがちな展開だ。俺は拳を握り思い切り自分の頬を殴る。痛っ……くは無い、というかSAO内部は痛覚を感じないのだからこれで判断は出来ないのだと気付いた。これじゃあここが何処だか分からない。少なくとも現実ではないみたいだが。そして俺は何気なく右手をスライドさせてメニューウインドを開く。……メニューウインドが開ける?という事はここはまだSAOの中、つまり俺はまだ死んでないのだ!
「嘘……ァあぁ……」
目が熱くなっているのが分かる。とその時突然ドアが開き、中からバンダナを巻いた男がやってきた。
「お!やっとお目覚めか?体の調子はどうだ?」
初対面であるはずの俺をあの状況から助け、寝床まで提供してくれた命の恩人である男であるはずの男を向く。
「あんたが……俺を助けてくれたのか?」
まずは礼をするべきだろうという気もするが俺はバンダナの男へ問い掛ける。
「んー……。いや、俺と仲間の三人掛かりでトーラス達と戦ったから俺だけがあんたを助けたわけじゃないな」
「そうか……。すまない、本当に助かったよ。あんた達が助けてくれなければ今頃俺は死んでいた」
ふと窓を見ると明るい光が差し込んでいる。ということは少なくとも半日は寝ていた事になるのか。
「礼はいいぜ。困った時はお互い様ってな!」
邪気の無い笑顔を向けてバンダナ男は言う。なるほど、この男は俗に言う「良い奴」なんだと今更ながらに気付いた。俺が思わず顔を綻ばしてしまったタイミングでバンダナ男は口を開いた。
「ところであんたの名前はなんて言うんだ?ここらで見ない顔だし仲間も知らないみたいだからな」
そういえば俺もバンダナ男も互いを「あんた」としか呼んでいない事に気付いた。バンダナ男はともかく俺は仮にも命の恩人にずっと「あんた」と呼ぶのはどうかと思うので名前を聞いてみることにした。
「俺はヒット。H、i、tでヒットだ」
「そうか、俺はクラインだ。よろしくなヒット!」
俺とクラインはどちらとも言わずに手を出して握手をした。殺伐としたこの世界でユキ以外の人物とこんなに打ち解けたのは初めてだ。
「ところでヒットよ……突然なんだがもし良かったら俺達のギルドに入ってくれないか?」
俺はその時、この言葉が勧誘の言葉だと気付くのに三秒程要してしまった。
「えーっと……ギルドってまだ作れないはずじゃ……」
「あぁ間違えた!ギルドを作る予定なんだが入ってくれないかって意味だ」
……ギルドか。確かに大人数で集まって戦えば戦死の確率は一気に減るだろう。それにこのクラインという男の人柄にも惹かれだしており、こいつのギルドならこの世界でも楽しくやれそうな気がしていた。だが……
「……すまん。考える時間と飯をくれ」
そう言った瞬間、クラインは腹を抱えて転がりだした。抱腹絶倒とはこのことか。
「あははは!……そうだよな今までおとついから飯抜きだもんな!分かった分かった、今から飯に行くぞ。ついでに他のメンバーとも顔合わせしないといけないし聞きたい事も沢山あるしな!」
よほどツボにはまったのか立ち上がってもなおヒーヒー言っているクラインを追って俺もベッドを出て、扉へと向かう。廊下を歩いていると再び不安が込み上げてきた。
「(さっきクラインはおとついから食べてないと言っていたから俺はあれから一日以上寝てた事になるのか……。街を出て五日目、ユキが心配になってきたな)」
喧嘩別れみたいに街で別れた気まずさが無いわけではない。ただそれ以上にこれまでコンビでやってきたユキが一人になった時、何をしでかすか予想が出来ないことが俺の不安を更に煽る。とはいえ今は飯の事、そしてクラインのギルド予定地の事を最優先に考えるべきと思い、思考を前へ向けた。