俺は飯を食べながら周りを見渡す。クラインの仲間達も気さくで親しみやすい奴らばかりで素直にこんな楽しい食事は久しぶりだと思った。しかし同時に、ここには入れないと直感した。きっとユキが耐えられない……そう感じたからだ。
彼女は小さい頃からその外見をからかわれる事が多々あり、惨めな思いを沢山してきた。しかし彼女を傷つけてきたのは何も心ない言葉だけじゃない。それは昔の教師達の口癖にもなりつつあった言葉。
「雪美ちゃんは特別だから皆さん優しくしてね」
まるで可哀相な子に接するような、その態度は幼い雪美を更に傷つけた。それ以来、雪美は他人の悪意だけならず、優しさをも避けるようになっていた。
仮にギルドに入るとしてもユキを放って一人だけ入るのは出来ない。そう考えた俺はクラインに入れないと言おうとした。するとその時、メールが来たことを知らせる音が鳴った。とりあえず俺はメニューウィンドウを開き、受信メールを確認した。
その時、俺は驚愕と後悔の念に押し潰されそうになった。俺が寝ている間に来たメールは十件、しかもその全てが同じ人物、すなわちユキからのメールだった。
急いで最も古いメールから最新のメールまで全て確認する。それら全てのメールを通してユキはひたすらに俺と会って謝りたい、という文を、段々悲痛な叫びとなって訴えているようだった。そして六件目のメールに俺は驚愕した。
「まだ許して貰えないようですね……当たり前ですね。それでも私は許して欲しいです。今、始まりの街にある石碑の前に居ます。ヒッ君が許してくれるまでここで私も待っていますね」
七件目にも、八件目にも、それ以後のメールも全て石碑の前で待っていますの言葉が入っていた。六件目が来たのは昨日の昼で八件目が来たのは深夜一時……ということはこの冬の寒い中一晩中石碑の前に居たという事だ。
俺はガチャンという大きな音をたてて立ち上がった。クラインや仲間達が驚いたようにこっちを向いたが今はそれどころじゃない。
「クライン……色々良くしてもらったけどやっぱり俺は入れないや。急用が出来たからもう出る事にする」
「お……おぉい少し待てよ!」
クラインが俺の手首を掴む。俺はそれを振りほどこうと手を振る。その時、クラインが何かを俺の手に置いた。
「……これは?」
そこには回復アイテム、俗に言う「POT」があった。
「ヒット、お前たしかPOT切れてただろ。焦って準備を怠ってると命が幾つあっても足りないぜ!」
……本当に、最後まで良い奴だよクラインは。
「すまない……恩に着るよクライン。この借りはいつか返す!」
「じゃあ俺が死にかけた時はヒットが助けに来いよな!」
そんな都合の良い約束は出来ないなと嘆息混じりに呟く。そのまま扉を開けると寒さが身に染みる。まるで日に日に寒さが増しているように感じた。
「さて……ユキの所までひとっ走りしますか!」
俺は無い敏捷力を振り絞って寒空の下、転移門のある街へと走り出した。