「……ッくん、ヒッ君!ねぇ聞いてる?」
たしかあの後ユキはMobの湧出がどうとかイベントがどうとか言ってたんだったな、そのおかげで今現在の自分達の自慢の得物、アニールブレードを比較的楽に手に入れられたのだからあの時のユキの判断は正しかったわけで……。
「……ねぇ優ちゃん……」
「だから優ちゃん言うな言ってんだろうが!」
「じゃあ無視しないでよ!結構私傷ついたよ!」
と、そこで初めて涙目のユキが何か話していた事に気付いた。ノスタルジックな気持ちに浸っていて完全に気付いていなかった。
「はぁ……その様子だと聞いてなかったと思うからもう一度言うね……。さっき聞いたのだけど明日遂に第一層のボスの討伐隊が組まれるらしいんだよ。私達は以前話したように第一層は様子見で第二層から攻略に参加って方向で行きたいけど、もしかしたら明日で第二層への道が拓けるかもしれないから今日は早めにレベルを上げて引き上げてアルゴさんに例の狩場を売っちゃわない?」
いよいよボスに挑むのか。βの時のボスはたしか「イルファング・ザ・コボルドロード」、赤い躯で斧と湾刀を持った獣人とユキが言ってた事を思い出す。
「そうだな、狩場の提供は賛成だな。あとボスの件も賛成」
ただ……
「ただ、せっかくだから討伐隊にはどんな奴らが居るかくらいは見に行かないか?もしかしたら次から行動を共にするかもしれないわけだし」
もしかしたらβテスターがいるかもしれないし……とは言えなかった。
デスゲームが始まり人々は生き残る為に能力と情報を求めるようになった。特に敵の弱点やレアアイテムをドロップするMob、レベルアップの効率が良い狩場の情報は持っている者とそうでない者の間で大きな格差が生まれた。その中でβテスター達はテスト期間に得た知識が大きなアドバンテージとなり新規のプレイヤー達と大きな格差が出来てしまった。それ故にある時からβテスターは「情報を持っているのに出し惜しみをする輩」と蔑まれてきた。勿論βテスターをやっかむのはお門違いというか、ただの妬みでしか無いと思うのだが一部の反βテスター達に吊り上げられる事を怖れてかβテスター達の間では自分がβテスターである事を口外しないという暗黙の了解が出来つつある。目の前にいるユキもβテスターであるが今の所それを知る者は俺以外にいない。
「まぁ、そうだよね!因みに聞いた話だと明日の隊長はディアベルって人で青髪のイケメンだってさ!」
……イケメンで隊長ってか、面白く無い。俺は思わず顔を逸らす。
「その隊長は強いのか?青髪なんて珍しいレアドロップのを使っているからそこそこは出来る奴なんだろうけど……」
「何でも騎士なんだってさ」
き……騎士?SAOには職≪クラス≫は基本的に存在しない。例外的に鍛冶屋や料理人などはそれらに対応するスキルを上げていく事でそれを生業にする事も可能なので、あくまで便宜上での話で職種を名乗る事はあるのだが……。
「騎士とは中々大層な職だなぁ。もしかして装備も騎士なのかな。」
「それなら面白いね!」
ユキの変な笑いのツボにはまったのかユキはクスクス笑い出した。
「まぁ一旦ボスの話は置いといて、そろそろ行かないと二時に狩場に着けないぞ」
時計は既に十二時を示していた。ユキも時計を確認したらしく「それじゃあ行こっか」と短く言うと席を立った。俺も後を追い席を後にした。そういえば向こうの世界ならもう少しでクリスマスだ。山の向こうから雨雲のような雲がやってくる今日の空模様を見て俺は走りながらホワイトクリスマスになることを願った。