ソードアート・オンライン《贖罪》 β版   作:th重治

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俺とユキの二人は二時間で今日の目標であるレベルアップを果たしたのでいつもより早くいつもの街への帰路へとついていた。

季節や年月の概念は現実のそれを忠実に再現しているので現在の時間、四時三十七分はこの世界でも夕方の頃合いになる。

となりの少女、ユキは手持ち無沙汰気に呟いた。

「やっとレベル九だね。これで心置きなく次の階層に行けそう……かな?」

俺達は今日の狩りによって二人ともレベル九へと上がっていた。一層の時点でレベル九なら全体的に見れば高レベルに位置するはずだ。ただ、俺達が二層から参加しようとしているのは攻略組、全体の数%の腕自慢が集まったSAOの最前線、この程度で慢心してはいけない。

「いやいやまだだな!たしか今回のボス攻略組の平均レベルは十くらいになるともっぱらの噂だぜ。」

と俺が街で盗み聞きした根拠の無い世間話をしていると気付けば辺りも暗くなってきた。時期的に冬の今は日が暮れるのも早いのだ……日がこの世界にあるのかは甚だ疑問だが。

「それに今日は遂に金が貯まったから鍛冶屋に行かないといけないしな!」

「そうだった!危うく忘れかけてたよ、アニールブレードの強化だったね。」

SAOにおける強化の概念はその武器の性質を強化する物である。例えば重さ、正確さなどの種類があるがそれも何度でも強化出来るわけでは無い。武器により強化出来る回数が設定されているからだ。しかも強化が失敗した時はマイナス補正が掛かり、能力は下がるわ残る強化可能回数は下がるわで散々な目に合うことになる。実際に完全な強化が出来るかは八割の資金と二割の運が物を言う。

「じゃ、チャッチャと済まして今日は早く寝ることにするか。これだけ材料があれば二人とも+2は行けそうだよな!」

「その事なんだけど……」

突然ユキはモジモジとし出した。何かごにょごにょと聞こえるがよく聞こえない。

「えーっと……何?」

俺は思わず聞き返した。ユキは溜息をつきこう言った。

 

「とても言いづらいんだけど……ヒッ君の動きは危なっかしくて見てられないから先に+4まで強化していいよ!」

 

(……そんなに俺は弱く見られているのか!)

 

思わず俺も溜息を一つついた。

「じゃあお言葉に甘えてそうさして頂くよ……はぁ」

「あ、あぁ別にヒッ君が弱いとか言ってるわけじゃないからね!私はただヒッ君がその方が楽かなって……」

昔から変わらず正直者過ぎるユキを見ながらまた一つ溜息をついた。

溜息をつく度幸せが逃げると言うがそれなら俺はこの短時間で幸せを二つも失った事になるのか、と思うとまた溜息が出そうになるのをなんとか堪える。

そんな会話をしながらも一時間かけて始まりの街へ到着、時間も時間なので夕飯前に強化を済ませるべくそのままNPCの鍛冶屋へと足を運ぶことにした。

 

「これはお兄さん達いらっしゃい。今日はどうしたのかい?」

鍛冶屋では気さくそうな男が話し掛けてきた。実はこのドワーフ風の男はNPC、つまりプレイヤーではなくプログラムによって作られた存在である。SAOのNPCは初見の人だと見抜けない程高性能で、例えばこの鍛冶屋の男になら「強化」や「武器購入」を依頼する言葉を発するだけで目的を理解してくれる。なので俺は手短に依頼を出す。

「強化を頼む。武器はこの……アニールブレードを、材料と資金はこれを使って速さに二、重さに二で四回強化を頼む。」

メニューから支払う額と素材を選択、提示する。

「これなら成功する確率は九十五%だがいいかい?」

「あぁ、頼む」

それじゃあ強化してくるぜ、と店の裏の方へ駆け出すNPC店長。

「……やっぱ、わりいなユキ。せっかく強化出来るチャンスだったのに」

突然話し掛けられて戸惑ったユキは俺の顔を見直す。

「も……もう!そんなに気にしなくていいから!これに感謝してるならいつか美味しい料理が見つかったら奢ってよね!」

SAOの食事は正直あまり美味しくない、少なくともこの一層では。レストランも基本的に質素な黒パンや、良くてシチューが関の山という所なものだからユキが美味しい物を欲するのは無理もない。

「あぁ、それくらいならお安い御用さ!」

「現在三百コルしか無い人が偉そうに……」

痛い所を突かれた……。思わず溜息を漏らす俺の元へNPC店長が剣を持ってやってきた。

「強化は大成功だ!我ながら惚れ惚れする出来だぜ!」

へへっと鼻を擦るドワーフ店長。俺は内心(アンタが作ったわけじゃないだろ)と毒づきながらも輝きの増した剣を受け取り適当な感謝の言葉を述べ店を後にした。今日は十二月三日、向こうの世界では師走の文字通り師……ではなく大勢の社会人、あるいはバイトに精を出す学生達が走り回っている頃であろう。

「ふぅ、寒い……」

「せっかくだし今夜はシチューにするか……」

「あ!賛成ー!」

明日はボスだ、という未経験の恐怖と好奇心を胸に秘めつつ俺とユキは今日もNPCレストランへ向かう。

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