俺とユキはNPCレストランにいた。
キバオウから話を聞き、彼と別れたあと俺達は陰鬱とした雰囲気の中なんとかレストランまでたどり着き、落ち着こうとした。
別にリアルで友人なわけでは無い。むしろこっちの中でも今朝出会ったばかりの赤の他人が消えただけ。そう頭では分かっているが「今朝話したばかりの人が今は居ない」という喪失感と彼のような素晴らしいリーダーを失った攻略組はどうなるのかという事が不安が俺達の心をえぐった。
「…………まさか本当に死んじゃうなんて……」
ユキは自分が攻略組から離れた所で言った言葉を思い出していた。
「私が……私があんなことを考えていたから……」
「ユキは関係ない!!!」
俺は気づけば大声を出して立ち上がった。しばらくしてここがレストランの中だと思い出し居心地の悪そうに着席する。
「ユキは何も関係ない。キバオウも言ってたみたいにβの時にも無かった新しいアクションがあったかららしいじゃないか!だから……ディアベルは……」
俺は何を言おうとしていたのかが段々と分からなくなり途中で言葉を止める。
「……私ね、思うの。ディアベルさんが負けた理由。それはβテスターだから。だから先入観に囚われて未知のアクションに対応出来なかったんだよ……」
「………………」
ユキはディアベルをβテスターだと確信している。根拠は無いのだが俺もそれを信じる事にしていた。
「だから……もしかしたら攻略組にβテスターは居ちゃダメなのかなって思うんだ。ゴメンね……私から攻略組に入ろうって言い出したのに……」
つまり彼女はこう言いたいわけだ。
「もう戦うのは止めよう」と……
「…………っざけるなよ……」
ユキに対してこれ程苛立ちを覚えたのはいつ以来だろう。
「それをお前は本気で言ってるのか」
小三の時に貸した筆箱を壊された時、あるいは小五の時に一緒に行った遊園地のお化け屋敷で置き去りにされた時……いや違う。そんなもんじゃない。
「うん……」
何故なら、その時でも大声を出す事は無かったのだから……。つまり今、俺は、ユキに過去で最大に怒っているわけだ。
「甘えんじゃねぇ!知り合いが死んだから攻略を止める?ふざけるな、お前はそんな甘い覚悟でボスと闘うつもりだったのか!俺もユキもディアベルも、皆自分も生き残って脱出する為に毎日毎日切磋琢磨して頑張って必死に生きてるんだろうが!それがなんだ!たった一度後悔した位でお前はここ一ヶ月の努力を、死闘を、水の泡にするのか!ふざけんじゃねぇ、やる気が無いなら一人で宿に戻ってろ。俺だけでも攻略組に入ってやる」
そこまで言ってから俺はユキが泣いている事に気づいた。しまった、と思ったがもう後の祭りである。ユキは「うん……ゴメン」と言い残してレストランを出ていった。
「…………何やってるんだ俺は……」
よりにもよってユキに当たるなんて最悪だ……。ディアベルを失って辛いのは何もユキだけじゃない。攻略組の皆も、そして勿論俺もだ。
それを言いたかっただけなのに俺は何を言っていたんだと自責の念に駆られる。
あの様子だとユキは本当に当分動けない。攻略組はディアベル不在の今でも多少いざこざはあれど着実に進んでいるようだ。最悪二層から合流の予定は諦めて、ユキが復活した時には彼女を守れるようになりたいと思った。その為に必要な事、暗に俺は弱いと言われたあの夕時の事を思い出して俺は決意した。善は急げで、俺は会計を手際よく済ませ荷物を確認する。そこには切り詰めれば当分暮らせる量の荷物があった。
「……俺は強くなる。攻略組に参加するじゃない、攻略組のトップを取れる位に」
それから俺はユキに「しばらく帰れない」とメールを送信。返事は無い、今までだとありえない事だが今はありがたかった。
「よし、行くか……」
そして俺は街を出て圏外へ、第二層の新しいモンスターどもの闊歩する死地へと向かった。