…あれ? この匂いは。
本に囲まれた世界の中で、面白いものを嗅ぎとった。
「久しぶりに、出てみようかな。」
背伸びをして、立ち上がる。椅子に掛けていたパーカーを羽織って、数ヵ月ぶりに部屋から出る。
魔王、か。まだ候補だろうな。この因子、不安定だし。
さーて。楽しくなれば良いけど。
「号外でーす! 魔王レベルの転校生がやってくるらしいですよー!」
学校では、金髪美少女がなにやら配っていた。マスコミは情報収集が早いね。
「それ、一つ貰ってくよ。」
金髪美少女とすれ違いざま、配っていたものを一枚掴み取る。
「はーい! …え!?」
ふーん、この号外を見るに、整った顔立ちをしてるね。んで、まぁ。男ってのは珍しいし。
「あなた、その姿は…!」
金髪美少女が俺に気付き、振り返って俺の方を向く。あーあ。彼女と俺の間に人がいる事、分かってないね。このままじゃ…
「わぷッ!」
変な声を上げて人とぶつかる金髪美少女。んー。面白そうじゃん? なかなかじゃん。魔王クン。
「それは凄そうな奴だな…」
この号外はもういらないや。号外の写真に出てる男が目の前にいるし。
いつも通り授業をサボって、本でも読もうかと思ったんだけどなぁ。せっかく出てきたんだし探索でも行こうかな。散歩も時には大切だよね。よし、校内を歩こう。のんびりと。
少し他生徒の声が聞こえてきた。授業終わったのかな。
「すげぇ…忍者だ。」
「凄いでしょう?」
三人の人影が見える。ちょっと混ざってみようかな。
「忍者やってる風間レヴィっスよ。」
「ちゃお。能力者のユズルです。」
自己紹介にちゃっかり混ざってみた。
「ちょっ…ユズルさん…気配消して近づくの止めて欲しいっス。」
「んー。アンタなら気付くでしょ? 別に良いじゃん。」
「あなたがステルスかけすぎなんっスよ。」
えぇ? んなもん調節出来ないよ。この方が楽だし。
「おーい。親しげな二人の関係を教えてはくれまいか。」
えーと…転入生の…アラタか。アラタが取り残されたような顔をしている。アラタの事忘れてた。
「別に? 友人だけど。俺もトリニティセブンに興味もあるしね。」
「間違っては無いっスけど…もう少し言い方あるんじゃないっスかね…」
何かぶつぶつ言ってる。レヴィらしくないなぁ。
「そんな関係ではなさそうだが、まぁ分かった。とりあえず、ニンジャはトリニティセブンの一人なのか? あとアンタ…ユズルだっけ。アンタもトリニティセブン?」
そんな関係だと言うとるに。
「自分はそうっスよ。暗殺からえろい忍法までなんだってこなすっスよ?」
今のところ見たことないけどね。
「えろいのもか!」
「コラーッ!」
リリス大変だね。お勤めごくろーさん。
「あ。俺はトリニティセブンじゃないよ。魔道士にもなってないし、魔道書すら持ってないから。アラタより下だね。」
魔道書探すのめんどいじゃん。どこにあんの?地面とか掘ったら出てくんの?
「魔道士じゃないってだけで、戦闘能力的には自分と同じくらいに強いっスけどね。」
「マジでか!」
「嘘だよ。うそうそ。レヴィに勝てる訳ないじゃん。信じるなよ?」
「ユズルは本気ださないじゃないっスか。本気出せば強いっスよ。」
「結局分かんないのか…」
ま、そういうこったねぇ。
「というか貴方はまず、授業に出席して下さい!いつも居ないのは問題があります!」
リリスに怒られちゃった。どーでも良いけど。
「んー… 勉強はちゃんとしてるし。あとは魔道書があれば魔道士になれるよ。だから、別に良いじゃん。俺、束縛嫌いなんだよ。」
「はぁ… とりあえず、魔道書を得るためにも、授業は出席して下さい!」
「はーい。」
嘘をつくのは簡単な事なんだね。
「んで、トリニティセブンはリリスと、レヴィの他はどんな奴なんだ?」
アラタが聞いてくる。そうだなぁ。
「窓の外。ミラとアキオだね。二人もトリニティセブンだよ。おーい。」
呼びかけるが、窓があるため声が届かない。むぅ。この窓どうやって開けるの?
「へぇ。あの二人か。って何やってんの?」
アラタが話しかけてくるが、無視。全身の力を抜いて。意識を集中させる。
「おっ。ユズルの能力が出るっスよ。注目っス。」
三人の視線を浴びる中で、発動する。
「クレイジー・ダイヤモンドッ!」
瞬間、見えない右手が、窓を破壊した。やったぜ。
「おーい。ミラー。アキオねーちゃん。やほー」
外の二人に呼びかける。
「なっ…何をしているのですか、あなたは!」
「ようちっこいの! その窓、直しとけよ!」
「うーん。行ってらーい。頑張ってねー。」
手を振って見送る。何かミラの顔赤い気がしたけど、大丈夫かな?
「今の二人は?」
アラタが不思議な顔をして問う。さっき言ったじゃん。あぁ、能力を知りたいのかな。
「金髪の方が、純粋に能力だけならリリス先生以上の山奈ミラさんっス。ちなみに、ユズルを見るたびに顔が赤くなるっス。」
「ほほう。どんな関係なのか気になるな。」
…? 顔が赤くなるのって俺のせいなの?
「俺は友人だと思ってるけど…俺のせいで赤くなるのか。…アレルギー的な? 嫌われてんのかな。」
うーん。よく分かんねぇ。誰か助けてよ~う。
「こんな人っスから。多分気付いてないっスよ。」
「ミラも大変だな。」
「勉強では理解力が高い方なのですが…」
「「「はぁ…」」」
三人ともため息がハモるの止めてくれないかな。俺だけ状況が分かってないし。
「で、背の高い方は?」
「純粋に攻撃力だけなら他の追随を許さない不動アキオさんっス。強いっスよ~?」
「ふーん。あと、ねーちゃんって呼ばれてたけど、何で?」
あー。そう言ったね。特に深い理由はないけど。
「何か…雰囲気がそんな感じだからさ。面倒見もいいしね。」
「そうか… にしても、女が多いんだな。」
「さっぱり言うと、女の方が精神的に魔道と相性が良いんスよ。」
「感情的な方が良いってことだよ。学園長もそうだったでしょ?」
「欲望に忠実ってことか?」
核心を突いてるな。さすが魔王候補。
「そ、そういうのは節度を持ってですねっ…」
真っ赤なリリス。教師は大変ですね。
「ほら、真っ赤でしょ? そそられたりしませんか?」
「かなり。」
少なくともアラタのテーマは色欲ではないね。
「アラターッ!」
バチコーン。
なにで殴ったらこんな音するの?
「いっつ…機嫌悪いよな。」
「んー。楽しそうだけどね。」
「確かに、リリス先生にしては珍しいっスけど。ユズルも珍しいっスね。こんなに長く喋るなんて。しかも外の世界で。」
「そりゃあ…魔王候補のお出ましだからね。自分の部屋を離れてでも、見てみたいもんでしょ?」
「…ま、出てきてくれて嬉しいっスけど。」
「これからは、ちゃんと寮で過ごすよ。ちょっと運が良いからね。んじゃ。グッバイ。」
二人に背を向けて、手を振る。さーて。少し寝ようかな。
ガチャリ。
ドアを開ける音。
「んあ…? なんだ、アラタか。気持ち良く寝てたのに。」
「お前がルームメートか。ドアの開閉の音で起きるって…どうやって入ればいいんだよ。無理ゲーじゃねぇか。」
「レヴィならいける。」
「ニンジャと同じレベルで見んなって。ふぅ。疲れた。」
アラタも別のベッドに寝転がる。初日はそんなもんだろーね。
『なぁ。疲れたんなら風呂に行かないか?』
アラタの魔道書って喋るの? なんて便利な時代になったのだろうか。目覚まし要らないじゃん。
「そうだな。でかい風呂があるらしいし。」
「んー… 俺も久しぶりにいくかな。」
「男風呂もでかいなー。」
『無駄に金かけてるんだろうよ。』
「学園長があんなだしね。」
皆口々に感想を述べ、服を脱ぐ。
ガララッ
風呂にはアリンが立っていた。またいるのか。別に良いけど。
「こんばんは」
「こんばんは」
「リリスに怒られても知らないよ、アリン。」
「私は別に良いわ。」
「だろうね。」
さてと、シャンプーを手に取り、頭を洗う。アラタも洗いはじめている。シャンプーって目にしみるとありえないくらい痛いよね。
「それ、ボディーソープよ?」
「マジか」
なんかアラタが間違ってる。ボディーソープをシャンプーと間違って身体洗うよりは被害少ないだろうけど。ぬるぬるするよね。あれ。
「だあぁあああ!」
「アラタうるさい。響く。」
風呂で歌うのは良いと思うけど。風呂だと響いて気持ち良いんだよね。
「お前落ち着きすぎだろ! 女だぞあいつ!」
「だってアリンいつも男風呂にいるから慣れた。」
「私も。」
「俺がおかしいのか!? 誰かー!」
走り去っていくアラタ。風呂入れよ。とりあえず身体を流して風呂に入る。やっぱり気持ち良いね。風呂の外が騒がしいけど。
「アリンさん! ここは男性用なんですよ!」
リリスが入ってくる。
「そのセリフそのまま返すよ。」
アンタも女でしょう。
「…キャーッ!」
ドゴォン
「自分から入ってきて銃撃とか理不尽すぎるよね。」
「それで無傷なお前はおかしい。」
「能力者を甘く見てちゃだめだよ。」
風呂で疲れるのは初めてだ…
とりあえずお風呂までで。
感想やアドバイス等頂けたら私は喜びの余り爆発します。