<シュウside>
俺と女性フェンサーは近すぎず、遠すぎずな間隔を保ちながら谷あいの町、『トールバーナ』に入った。
ここトールバーナは、第一層迷宮区の目と鼻の先にある町であり、ある意味最前線である。
俺とフェンサーは、揃ってフゥ〜っとため息をついた。
やはりそれぞれ疲れがたまっているのだろう。
まあ、隣のフェンサーの方が数日間迷宮区に籠もりっぱなしだったから何倍も疲れていると思うが.....
町に入って少し歩いたところで、俺は先程の話の詳しい内容を伝える。
「フレンドによると、会議は町の中央部にある広場で行われるそうで、時間は午後四時からだそうだ」
「貴方ってフレンドいたのね」
「まあ言っても二人しか居ないけどな。.....いるのが意外か?」
「いえ、そういう訳ではなくて。フレンドいるのに何故一人で行っているのかなと思って」
最もな意見だ。
この『ソードアート・オンライン』という世界は、デスゲームと化してしまったからだ。
HPがゼロになれば、自分自身も死ぬ。
そんな世界で一人でいるなど、余程の自信家か、極度の人見知りぐらいであろう。
「それを言ったら君もだろう?」
「それはそうだけど、私は」
「ああ、分かってるよ。さっき聞かせてもらったし」
からかうような俺のセリフにムッとしたのか、口を少しだけ尖らせている。
「じゃあ貴方は何故?」
そんな問いに俺は一瞬だけ詰まったが、正直に話すことにした。
「..........デスゲームと化したからこそだ」
「?」
彼女はコクンと首を傾げ、疑問符を浮かべた。
今からいう言葉にどう思うかは自由だけど、と付け加えて話しを続ける。
「この世界でのプレイヤーという存在はもう一つの命を宿してるようなものだ。パーティーを組んだとしても、俺はその命を託されるほど強くはないし、任せろ!っていう度胸もない。そしてそんな奴がいたら、パーティーが危険になりかねない。
だから俺は、ソロで貫いているんだ。
まあ、普通のゲームだったらパーティー作ったり入った りしてしてみんなでワイワイやってたと思うけどな」
と苦笑いを含みながら、話した。
「.....貴方って本当にお人好しよね」
「ん?なんか言ったか?」
顔を伏せて、モゴモゴという声が聞こえたが小さくて俺の耳には届かなかった。
「いえ、なんでもないわ」
「そっか、なら良いんだ」
少しだけ気になったが、無理やり思考を停止させ、話を戻す。
「よし、と言うわけで俺からは以上だ。質問があったら攻略会議の時に言ってくれ。さっきの情報をくれたフレンドのプレイヤーに聞くから」
その言葉に彼女はキョトンとし、その後微笑を浮かべ、問おてきた。
「貴方が答えるのでは無いの?」
俺はその問いに頭を掻きながら、返す。
「いやまあ、俺も知ってることはあるけどそいつの方が俺より知ってるし、何より
「.....貴方ってβテスター?では無かったの?」
「あれ?言ってなかったっけ?
俺は『ビギナー』だよ。
それも今回が初めてのVRMMORPGだし。」
その瞬間、フェンサーの顔が凍りついた。
「.....」
「ん?なんかおかしいこと言ったか?」
そんないきなり黙り込んだので少々戸惑いつつ、俺はそう返答した。
たっぷり此方を数十秒此方をジィ〜っと見てから出てきたのはこんな言葉だった。
「貴方、なかなかの肝っ玉ね」
思わず、口がポカーンと空いてしまった。まさか彼女にそんなこと言われるとは思ってもいなかったのだ。
一つ咳払いをして、
「おいおい.....君に言われたくないね」
皮肉で返すことにした。
「フフフ」
「ハハハッ」
軽口を叩きあうことで自然とお互いに笑みがこぼれる。
「さてと、それじゃあまた後で、攻略会議でな」
「私はまだ行くとは言っていないわよ」
「っても、どうせ来るだろ」
最後まで軽口を叩き合い、そして別れた。
「あっ、また名前聞くの忘れてた。」
久々のドジを踏んだ俺であった。
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時は流れ、日が傾きプレイヤーの影が伸び始める頃となった。
トールバーナの噴水広場には続々とプレイヤーが集り、46人という数の人数が揃った。
その中でフードプーケを被った少女と全身黒よりの装備を付けた青年を見つけた。
キリトの背中を見ると、そこにはホルンカで受けられる例のクエストの報酬『アニールブレード』がつる下がっていた。
それを見るにやはり、アニールブレードはなかなかに強力らしい。
そんなことを考えつつ、俺はその二人の間に腰を下ろした。
その時、チラリとキリトに顔を向け、手を低めに上げ会釈する。
俺がフードプーケを被っているからか眉をひそめたが、珍しい髪色を見た途端、キリトも手を上げて返してきた。
すると、背中の方に視線を感じる。
確かその方向には彼女がいたなー、と思いつつ振り向くと案の定彼女がジィ〜と此方を見つめていた。
視線が合わさると、バツが悪そうに目を一瞬伏せたが、再び顔を上げ、あろうことか此方によってきた。
その行動にビクッとするが、直ぐに平常心を取り戻し彼女が近くに座ったところで挨拶を交わす。
「よっ、さっきぶり」
「.....変なの」
変なのとはなんだ、と静かに笑いながら返すとまた後ろから視線を感じた。
今度はキリトかよ、と思いつつまた後ろを向くと何だかギョッとした顔で俺たちを見ていた。
「何だ?」
「.....知り合いか?」
はて?知り合いとは?確かに顔見知りだが.....
と考えていると、俺の左側にいる細剣使いが口を開く。
「迷宮区であったのよ。リアルでの知り合いではないわ」
なるほどキリトの問いはそんなニュアンスが込められていたのか、と考えながらキリトの方に目をやると、目をまん丸くしていた。
.....ん?待てよ。今、細剣使いさん喋ったよな。ってことは.....
「じょ、女性.....?」
案の定、俺を挟んでキリトの反対側に座っている細剣使いの中身が女性だということに気づいた様だ。
「お前、何で.....?」
「色々あったんだよ」
手をひらひら振り、適当に返す。
キリトとはもう友人という間柄だが、流石にプライバシーに関わるようなことは言えない。
そんな俺の意図を察してくれたのか、これ以上聞いてこなかった。
サンキュ、キリト、と心の中で合掌した後、俺は前方を向く。左右の二人も俺の視線に連れられて同じように前を向く。そこには一人のプレイヤーが立っていた。
片手剣と
所謂騎士っぽいやつかと思いつつ、彼が話し始めるのを待ったのだった。
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「はーい!それじゃ、そろそろ始めさせてもらいます!」
堂々としていて尚且つ、よく響く声を発した青年はパンパンと手を弾き、この場にいるプレイヤーの視線を集める。
「オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!オレは『ディアベル』、気持ち的に『ナイト』やってます!」
そんな自己紹介をすると、とある一団が口笛や拍手などのヤジを飛ばす。
まさか本当にナイトを名乗るとは、と苦笑いしつつそのまま彼の言葉に耳を傾ける。
「さて、今日こうして皆に集まってもらった理由は.....」
ディアベルと名乗る青髪の騎士は、右手を振り上げ、ここからうっすらとだが圧倒的な存在感を放つ第一層迷宮区を指差しながら話しを進める。
「今日、オレたちのパーティーがあの迷宮区の.....ボス部屋を見つけた!」
その言葉に多数のプレイヤーがざわめく。右を見れば、キリトも驚きの表情を見せている。
左隣の細剣使いさんはいつも通りだが。
かく言う俺も、普通にビックリしている。
俺と細剣使いが先程合ったのは、十九階の入り口のあたりだったので、もうそこまでマッピングされているとは思ってもいなかったのだ。
「この
再びの拍手喝采。今度は俺も拍手を送る。なにせ、素晴らしく立派であり、そしてこうして最前線で戦っていたプレイヤーをまとめてくれているのだから。
そんな空気を阻んだのは、中々に色が強いプレイヤーだった。
「ちょお待ってんか」
訛りが入った濁声のプレイヤーは一歩前に踏み出し言葉を繋げる。
「ボスと戦う前にいわせてもらいたいことがある」
フンと鼻を鳴らしながら名乗りを上げる。
「わいは『キバオウ』ってもんや」
なかなかのネーミングセンスを持つ名前を名乗った尖った髪の毛の ーーー サボテン頭のプレイヤーは、眉間に皺を寄せた状態でこの広場にいるプレイヤーを見回した。
見回し終えると、キバオウと名乗る人物は先程より一層ドスの利いた声を発する。
「こん中に、五人十人ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「詫び?誰にだい?」
「決まっとるやろ。今までに死んでいった二千人にや!"奴ら"が何もかんも独り占めしたからや!せやろ‼︎」
先程の空気とは全く逆の重苦しい沈黙が辺りを支配する。
聞こえるのは夕方のBGMと微かな呼吸音だけ。
「キバオウさん。君の言う"奴ら"とはつまり.....『元ベータテスター』のことかな?」
ディアベルが話を促すように質問を投げかける。
「決まっとるやろ」
スケイルメイルを鳴らしながらキバオウは続ける。
「ベータ上がりどもは、こんクソゲーが始まって直ぐにダッシュではじまりの街から離れよった。ビギナーを見捨ててな。奴らはウマイ狩場やらボロいクエストを独り占めして、ぽんぽん強うなって、その後もずぅーっと知らんぷりや。せやからわいは、こん中に居る奴らに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれん、そう言うとるんや!」
キバオウの糾弾と言う名の説明が終わってもなお、この場にいるプレイヤーは一人も声を発しようとしない。いや、
目だけで右方向を見ると、案の定キリトは奥歯を噛み締め、息を殺している。彼もまた、『元ベータテスター』なのだから。
しかしここで思う。
元ベータテスターだからなんだ、と。
そんな思いとともに、俺の右手はすでに上がっていた。
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<キリトside>
叫び返したい。
キバオウと名乗るプレイヤーが発言を終えたと同時に持った感情だ。
俺は一週間ほど前、アルゴにとある依頼をしていた。
それは、『元ベータテスターの死亡者の推定人数』だ。
この調査はかなり難航するものであったはずが、彼女は3日ほどで俺に一つの数字を示した。
およそ、三百人。
それが彼女、アルゴが打ち出した人数である。
その数字を正しいと仮定して、
俺が推測した元ベータテスターのログイン人数を750
その中で死亡したのは300
よって300÷750×100=40となる。
したがって元ベータテスターの死亡率はおよそ40%にも及ぶのである。
同じように新規プレイヤー、『ビギナー』の死亡率を求めるとおよそ16%となる。
知識と経験が安全を生むわけではない、とこの結果と自分の体験を元に感じている。むしろ、無駄に余裕を持ってしまうのかもしれない。
そんな感情を心の中で渦巻かせていると、視界の左から手が天へと伸びていくの見えた。
左にいるといえばすなわち、シュウだ。
驚いて彼の方向を見るが、彼のこと視線は中央へと向かっている。
視線を感じたのかキバオウは、眉をひそめる。
と同時にディアベルが発言を許可する。それを見たシュウはゆっくりと腰を上げ、フードを後ろへと動かし、顔を見せる。
完全に露わになると彼は口を開き始めた。
「上から失礼する。少々意見を述べたい。まずキバオウさん、貴方はつまり元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、と言いたいのですよね?」
「そ、そうや」
いきなりの敬語だったからか一瞬狼狽えるが、続けて睨みつける。
そんな視線を受け止めながら、シュウは話を続ける。
「はっきり言わせてもらう。『元ベータテスターだからなんだ』と」
「な、なんやて!」
「『ベータテスト』と言うものは、パソコンのソフトウェアでもあるように正式販売の前に無料で人数制限をつけたりつけなかったりして、プレイしてもらう、と言うものだ。理由は簡単、改善するためだ。改善されることは様々で、特にゲームでいえば動きを滑らかにして使いやすくしたり、解像度を上げて見やすくしたり、モンスターのアルゴリズムを変えて難易度を下げたり、逆に
一度止め、周りを一瞥してからキバオウの方向を向き、続ける。
「つまりだ。いくら正式販売の前にプレイしていたとしても、それが全てとは限らない。もっと言えば、元ベータテスターだからと慢心して死んでいった者もいる可能性はある。そうだろう?」
シュウのその説得力のある説明にキバオウは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
そんな彼を見つつ、シュウはさらに言葉を繋いでいく。
「まあ、元ベータテスターが有利というのは否定しないよ。けど現に今、キバオウさん、あんたを含めてここにいるほぼ全員がベータテストの情報を持っている」
「そ、そんなのは」
「これだ」
シュウはキバオウの言葉を遮り、そしてポーチから一冊の本を取り出した。
それはアルゴが作ったガイドブックだった。
「これにはクエストやらモンスターやら地図やら幾つもの情報が載っている。俺もこれには凄くお世話になったよ」
「なんでそれがベータテストの情報になるんや!」
遠回しげに持っているということを示しながら、質問を投げかける。
シュウは待ってましたとばかりに言葉を続け返答する。
「なんでってそれは、情報が早すぎるからだ。俺たちがメダイやホルンカに着いた時にはすでに道具屋にこのガイドブックは置いてあっただろ?だけど、それは普通おかしいんだよ。あり得るとしたら元ベータテスターの情報だけだ」
彼のその発言に辺りがザワザワとし始める。
しかしその発言に異議を唱える者はいなかった。
「このガイドブックは無料で誰にでも手に取れた。情報は得ることが出来たはずだ。それなのに元ベータテスターせいだとするのはおかしいと思う。どうだ?」
その問いに遂にキバオウは返すことができなかった。
渋々といった感じでキバオウは段差に座り、ディアベルに視線を向ける。
シュウもその様子を見てフードを再び被りながら着席した。
キバオウから始まった話し合いが終わり、結果的に元ベータテスターはお咎めなしになった。危うく息を吐きそうになったが、口を閉じその息を無理やり押し込む。
俺は隣に座る『ビギナー』のプレイヤーの鋭さに感心しつつ、先ほどの言葉を思い出す。
そして心の中で叫ぶ。
(無料ってどういうことだーーー!!!)
と。
はいどうも皆さん、こんにちは!ドライグです。
ギリギリ間に合ってホッとしています。よかった、よかった。
本当はボス討伐まで行きたかったのですが、長すぎるなぁ〜と感じましてここまでとなりました。
ということは次回はボス討伐までです。お楽しみに!
ではまた!