家に帰ってしばらく灼と二人でお茶していると、優が迎えに来た。
優は涼しそうな半袖にデニムのショートパンツの姿だ。外国人のような気品を帯びた日本人の顔に、銀色の長髪をなびかせている姿はまるで、楽観的な思想に街を歩き回るお姉さんそのものだ。
「は~い、お嬢さん二人方~お迎えに参りましたよぉ~っと」
寿司屋では見れない優の性格・・・初めて一緒に遊びに行ったときは苦手だったが、今思えばこの性格はとっても絡みやすく、好きだ。
さっそく灼らは自分達の着替えを入れた手提げカバンを持って、優と一緒に出発した。
優は基本的に仕入れ以外は移動することもないので、車などは所持していなく徒歩だった。カフェから銭湯まで大体徒歩で15分程だ。
「優姉さん、今日はとってもカッコイイ服だね!いつもなら可愛らしいワンピースとか着てるのに、今日はどうしたの?」
灼は優に自分の感想を言う。正直な感想だ。優はいつも私よりもファッションセンスがあってとても羨ましい。いつも葉子のファッションとか着飾りに口を出す自分だが、優のファッションに文句はどうしても言えないのがいつも悔しい
「ふふ、今日は久しぶりのお出かけだからね。たまにはこう言う格好もいいかなってね。灼ちゃんのワンピースもとっても可愛いよ。もちろん葉子ちゃんもね」
優は微笑みながらそう言って、急に意地悪な笑顔に変えて言葉を続けた。
「灼ちゃんと葉子ちゃんもそういえば中学生だったね・・・もう少し小さかった時にお風呂行ったきり行ってなかったから、二人の成長した体が見れるね。どう?ちょっとはおっきくなった?」
意地悪な笑顔の視線は私と葉子の胸元に行っている。小学生も中学1年生の体も言うて変わらないのだが、優はわざと意地悪しているらしい。
「あんまり変わってませんよ?そう言う優お姉さんはどうなんですか?前会ったときは大学3回生でしたけど、少しは大きくなってCくらいは行ったんでしょうね?」
そう葉子は返す。実は優はモデルのような体に外国人の気品のある顔付きをしていて寿司屋の店主としては考えられない容姿だが、そのバストはまだほのかにしかふっくらとしかしていない。それも彼女の昔からの特徴だ。
「あら葉子ちゃん、いつからそんな事を言えるようになったのかしら、お姉さんまた悲しくなってきたわ。ねぇ?灼ちゃん」
優はそんな葉子の言葉を避けてまた葉子のことを子供のように扱い言いながら、葉子の茶色がかった黒色の髪の毛を撫で始めた。やっぱり結構気にしているのか、葉子の撫でる手の力が強い気がする。
そんな葉子に便乗するように追い討ちをかけるのは私の仕事だ。
「葉子の言うとおりだよぉ。優姉さんのバスト2年前から全然変わってないよぉ~」
優にそう言ってやると意地悪な顔はだんだんと崩れて泣き顔になった。意外と外見とか性格によらず可愛いところがあるみたいだ。
「ふぇ、ひどいなぁ二人ともぉ~、いつからそんなにいじめるようになったんだい。お姉さんもっと悲しくなってきちゃったよぉ~」
もちろん優の泣き顔は演技で、私達に対しての返事にも少し笑いが混じっている。基本的に灼らは行きつけの店や知り合いの店員、カフェへの常連客とはとても仲が良く、ちょっとした罵りや罵倒、いじりは許される間だ。
「いっそその泣き顔も見てみたいものだわ」
たまにはちょっと多めにいじめるのも面白いかもしれない。
優は嘘泣き顔からまた意地悪な顔をして私の顔を覗き込んできた。
「ふふ、じゃあ逆に灼ちゃんの泣き顔を作ってみようかな」
「あら?あたしは泣き虫な葉子と違って、とっても強い子だよ?簡単には泣きませんよ」
葉子はよく泣くけど逆に私はそれを支えるために、泣くための感情は可能なかぎり捨ててきたつもりだ。だから簡単に涙を浮かべるような気持ちはない。
「そう?じゃあその気持ちがどこで曲がるか後で試してあげよう」
何を考えているのか。優は意地悪な顔を一層意地悪くして言う。こんな優はよくわからないから相手してるとこちらが萎えてくるため、もう話は適当に切ることにした。
「はいはい分かりましたよー」
適当に手を上げて話を切る合図をしたのだった。
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銭湯に着いて、無料券を出して中に入った。
今日は貸し切りだ。この間来たときも貸し切りだった。この時間は基本的に貸し切りとなるらしい。ガラッとした棚と多めに並べられた椅子はシンとして置かれている。
さっそく真ん中らへんの棚を引っ張りだして、来ているワンピースの帯をほどいた。スルスルと真っ白い帯をほどいて、ワンピースを脱いだ。白いワンピースを着ていても透けて見えたりしないように今日は白いブラジャーとパンツをはいている。
まだまだ子供らしい体は小さく、優と見比べても比率には合わない。早く大人になってもっと自分らしさを出したいと思うものだ。
「灼ちゃん、もうそんなもの身につけて!まだ子供なのに早いねぇ~。そういえば葉子ちゃんはつけてないのね」
葉子に視線を向ける優の目は意地悪そうだ。葉子のバストは完全な絶壁と言ってもいいくらいで、ほんのりふくらんだ印象が持てる私と違って、葉子のそれには角度はない。なぜここまで育ってないのか私にもわからない。
「み、見ないでください」
一糸まとわぬ葉子は私達に背中を向けてしまう。そんなしぐさが少し可愛く見える。
ブラとパンツをとってかごに放り込んで、手拭いを持って風呂のドアを引いた。
この間来たときとなにも変わらないお風呂だ。電気風呂、ブクブクと空気をふく風呂もある。サウナがないのは銭湯だからだろう。
さっそくかかり湯を浴びて、一番面積を占める四角い風呂に浸かった。
体には少し熱めの湯を肩まで浸かって温まる。葉子は電気風呂に浸かりに行ってしまって隣には優が、道沿いで浮かべていた意地悪な顔を作って座っていた。少し嫌な予感がする。
予感は的中か。優はその白い細い手をこちらに向かって伸ばしてきた。
咄嗟にその手を払い除けて抵抗しようと左手をあげた。しかし、優は私の左手を左手で掴んで、右手を私の背中越しに右の脇腹に軽く爪を立てて脇腹を握ってきた。
その瞬間に何とも言えないこそばゆさが電撃のように体に走ってきた。一瞬のうちに私は身をよじって優に背中を向けた。
「ふっふーん、灼ちゃ~んさっきのお返しだよぉ~、さぁ泣き顔拝ませてもらいますよぉ~っと」
優の意地悪な少し高くなった声が背中越しに聞こえる。背中を向けたのは間違いだったようだ。左手首を握られて思うように抵抗ができず、そのままグッと引っ張られ優の肌が背中に密着する感触を覚えた。
また右脇腹からこそばゆさが走ってきて、「ヒュッ」っと変な声が漏れた。
「や、やめ!ふぇっ・・・はははははっく」
隙あらば葉子のことをつついていた私がまさか逆につつかれることになるとは思いもよらなかった。左手をそのまま頭の横まで持ち上げられ抑えられながら、右手でつついてくる。しかも背中越しに・・・抵抗しにくいすぎる。
どうにか自慢の関節の柔らかさを利用して、右手で優の右手首を捕まえて抵抗した。
「ふふ、無駄な抵抗はやめなさい?さっき罵ってくれた分全部しっかり返してあ・げ・る」
優はこれ以上に無いくらい意地悪な声で言いながら、右手の力を強めて私の抵抗を無視する。右の脇腹からさっきよりも強い刺激が伝わってくる。
「くふぁ、やめ、やめて!、くははははっうっくはははは」
反射的に体が暴れるように抵抗して優の腕の中でもがいた。抵抗とは言っても所詮、私は子供で、大人の力にはかなうはずがなく、体を動かしても優の手の内からは逃れられない。
「灼ちゃんは最近口がとっても悪くなったらしいからね。しっかりお仕置きもかねていじめてあげるから、ほら早く泣いてみなさい?」
どうにか優の攻めに耐えながら再度抵抗をする。
「くふぇ、はぁ、うぇ・・・よ、葉子!たすけ、はふ!?、助けて!!」
お風呂には私達以外だれもいないから力の限り叫んで、葉子に救いを求めてみた。葉子ならきっと助けてくれるはずだ。
視界の端で葉子の姿が見えた。ゆっくりとしたあしどりでこっちに向かってきている。
「あら葉子ちゃん、もしかして邪魔するの?あなたも同じ目にあっちゃうよ?」
「いいえ?最近よくいじめられたから、私もこの際だからいじめようかなぁ~って?」
葉子はそう言いながら私の前に腰おろしてきた。しかもその笑顔はどこか黒色の感情を持ってるように見える。
優は私の葉子に対する物言いを許すように一旦手を止めてくれる。もちろん抑えつけは解かないで。
「よ、葉子?嘘だよね?助けてくれるよね?ね?」
これ以上刺激を与えられたら、泣き笑いか過呼吸でつらくなってしまう。どうにかして抑えなければならない。
「ん?灼?助けるわけないじゃん。最近私にしてきたこと覚えてないの?だから私もしっかり灼に復讐させてもらうよ?」
最悪だ。最近してきた私の葉子に対する軽い意地悪の積み重ねのせいだ。もう逃れることができないような気がしてならない。
「ゆ、許して!お願い助けて!何でもするから!ねぇ?お願いだからね?ね?」
なにかまずいことを言った気がする。葉子はいつもの顔からじゃ想像もできない意地悪な顔を浮かべて、「そうなんだ」と言って言葉を続けてきた。
「ふふ、じゃあ泣き顔を見せてくれる?何でもいいよ?笑い泣きでもガチ泣きでもいいよ。どう?言われて泣ける?」
泣けるはずがない。葉子の支えのために自分は泣かないように、何にでも耐えられる精神作りをしてきた自分だ。ちょっとした痛みや精神打撃なんかじゃ泣かない。映画やゲーム的な感動シーンでも泣かないくらい、変に無慈悲になってるのだ。そんなこと無理だ。
「む、無理だよ・・・。助けて・・・くれないの?」
「泣いてくれないのに助けるわけないでしょ?無理やりでも泣かせてあげるよ?」
そう言い終えて葉子は両手を私の方に伸ばしてきた。優の右手首から右手を離して葉子に対して抵抗を試みようとしたが、優に右手を掴まれて完全に拘束されてしまった。
「や、やめ!?ひゃう!?、くふっはははははは」
葉子の白い細い指が私の両の脇腹をつつきまわしてきて、電撃のような刺激が大量に体を伝わってきた。
「灼って私とかには結構するから、意外と灼自身は効かないような気がしてたのに、灼意外とすっごく敏感なんだね。ほれほれ、もっと笑ってはやく泣きなさい」
もはや後半いつもの葉子からは考えられない口調になっている。そんなに楽しいか。
「はははは、やめ、やめて!くふぁ、はははは、も、もうやめて!」
笑いすぎて涙が目頭に溜まってきた。もうこれ以上されたら本当に倒れてしまうかもしれない。
そんな考えが脳裏をよぎった瞬間だった。急に葉子はその手を引いて、私の顎をつまんで顔をクイッと上げた。目の前にはにんまりとした意地悪な葉子の笑顔が見える。
「ふふ、やっと泣いた。ほら、もっとその泣き笑いの顔を見せて?」
「グスッ・・・意地悪」
後ろからは優が「ふふふ」と隠し笑いする声が漏れていたのだった。
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風呂から上がって、最近買ったばかりの大きめの服と、夏用の余裕のあるズボンを腰パンぎみに着て、椅子に腰掛けて優に買ってもらったコーヒー牛乳を飲んでいた。
葉子は前と同じように長風呂していて、私と優姉さんはそれを待っているのだ。そんな優はフルーツ牛乳を飲みながらマッサージ機に座っている。
「ふぅー、風呂のあとはこれに限るねぇ~。最近はずっと働き詰めで、なかなかこういう娯楽の楽しみ方はしてなかったから、良い気分転換になったよ」
優は満足げにそんなことを言ってる。
「ふっもう良い歳したおばさんみたいなこと言ってる。まだ23なんだからもっと元気にその歳らしいこと言いなさいよ」
優の言葉にそう言ってやると、またさっきの意地悪な顔が背もたれごしにこちらを覗いてきた。
「ふふ、まだこりないようね。この悪小娘は」
そう言う優はもう動くのもだるいように、またその顔を引っ込めて背もたれに深く腰掛けた。
急に訪れた沈黙を破るように葉子がお風呂から上がってきた。熱だった葉子を一人で浸からせるのには気が引けたが、一緒に長風呂するのは好きじゃない。どちらにしろ元気そうだから大丈夫と判断したのだ。
「おまたせ~」
絞った手拭いで軽く水気を拭き取り、バスタオルを棚から取り出して再度拭き始めた。
「葉子ちゃんは何かいるかい?」
優は葉子にそう言って、マッサージ機から身を乗り出していた。
「え?いいんですか?じゃあコーヒー牛乳をお願いします」
葉子は基本的に甘い飲み物はあまり飲まないのだが、コーヒー牛乳は別らしい。どこに行っても甘い飲み物はコーヒー牛乳しか飲まない。しかも商品陳列棚にコーヒー牛乳がないときは甘い物は飲まず、結局コーヒーなどを飲む。よくわからないこだわりようだ。
「オッケー」
優は親指を立てて返事を返すと、マッサージ機から立ち上がり、入口の方に歩いて行った。
「灼、髪梳いてくれない?なんか最近うまくできなくて、ボサボサになっちゃうの」
相当不器用らしい。朝いつも跳ねとクセができるのはそのせいか、仕方ないのですいてあげることにした。
椅子から立ち、葉子の後ろに回る。既に服を着替えてチョコンと座る葉子の茶色がかった黒色のセミロングの髪に、私の両親が唯一私に残しておいてくれた真っ黒で綺麗な光沢のある純鉱石でできた櫛を通してあげた。
「葉子?全然髪の水分が取れてないよ?」
葉子の髪はまだ水分をたくさん含んでいて、髪を梳くにはまだダメな状態だ。だから乾いたタオルを取り葉子の髪を拭ってあげた。丁寧に優しく拭いた。
「ん、ありがとう灼」
葉子のセミロングの髪をぬぐい終わり、タオルを置いて櫛で梳き始めた。短めのその髪はスッキリした感じに綺麗にほどけ、いつもの艶が戻ってくるように、サラサラとした感触を感じるようになった。
「いつまでも不器用だね。葉子。もう少し自分でできるようにならないと、いつまでも私と暮らすことになるよ?」
そう言いながら葉子の後頭部に軽く口づけをしてあげた。母親が子供をあやすようになぜか急にしたくなったのだ。
「灼どうしたの?ちょっとくすぐったい。ふふ、とゆうか、私は灼の家族だよ?ずっといつまでも一緒だよ?」
葉子は鏡越しに私を見据えて言ってくる。まだまだその考えは中学生らしい。というより子供らしい考え方だ。最終的な結果は嫌でも逆になるのだが、ここで衝突するのもなんかあれなので、それに便乗しておく。
「そうだね。葉子は家族だもん。ずっと一緒だよね」
そう言って葉子の事を見つめると、急に大人っぽい微笑みを浮かべて「うん」と言ってくれた。
そんな私と葉子のあいだに入るように、コーヒー牛乳のパックが葉子の頭の上に置かれた。優が来たのだ。
「どうしたんだい?二人してさっそく思春期的なお話かい?」
この姉さんの思考の方がよっぽど思春期っぽい気がしてならない。
「違いますよ?私と灼は現在プライベートな家族会話中ですよ。勝手に聞かないでくださいよー」
優は急につまらなさそうな顔をして葉子の頬にコーヒー牛乳を押し付けて「そうかい」と言って、またマッサージ機に座りに行ってしまった。
何を想像していたのか、やっぱりよくわからない人だ。
「灼、最近何か心の内を話してくれなかったから、私嬉しい」
葉子は急にそんなことを言ってきた。最近学校のことをあまり話してくれないとかいう母親みたいななのとなんら変わらない。
「なにその母親みたいなこと言って、葉子どこか打った?」
葉子は「そう?」とか言って首をかしげてる。本当にどこか打ったのか?浴場で足でも滑らせたかな。
そんなことを思いながら葉子の頭を軽く撫ぜる。やっぱりいつもどおりサラサラした髪だ。
「ふむ。よくわからない灼だ。今日はどうしたの?」
「よくわからないのはこっちのセリフだ。変な会話やめない?」
笑いまじりに返すと「そうだね」と笑ってくれた。本当にどうしたものか。
そんなことを頭の片隅に思いながら、葉子の後頭部にもう一度軽く口づけをしたのだった。