朝は眠いもの。と隣で寝るクセ毛だらけの少女はよく言う。私は違う。毎日しっかり起きる努力と日課を守ればそんなこと造作もない。むしろ早起きは何か行動をする時間が増えてよいものだ。
まだカーテンから差す光は青く薄い。直接差す日光とは違い山の向こう側で光り、雲を通じて反射される光だ。そんな状態が作られる時間というのは、朝早くから品出しや営業準備をする店の人達が起きる時間だ。
顔を横に向けて机を見れば、カチッカチッと小さなを音をたてながら時を刻むちっちゃな時計がある。そんな時計の短針は現在5の数字を指し示している。もうこんな時間に起きるのも何回目か、こちらに引っ越してきてからこの時間に起きなかった時はないくらいだ。
体を起こし、ベッドを降りた。今日の体の調子も悪くない。走っても全然大丈夫そうだ。上にしっかり伸びをして体をほぐす。筋肉が伸びる感覚はとっても気持ちがいいものだ。
さっそくクローゼットを引っ張り出して、中からランニング用の短いズボンと通気性抜群の100%ポリエステルでできたシャツを取り出した。もうこの服装をするのも何回目だろうか。
これから朝の運動をしに行くのだ。できたら葉子も連れて行ってあげたいのだが、葉子は朝が苦手な上に絶対にこの時間は起きない。だから軽くいたずらをしても大丈夫なのだ。
「よし」
姿見に映った長髪のランニング姿の少女はなんともシュールな格好だ。普通に髪は短めなほうがいいだろうが、あいにくと私は長髪が特徴だ。これは頑固切らない。葉子の要望によっては切るかもしれないが。
髪が顔の前に垂れてこないように、髪を後ろで一纏めして、おっきなポニーテールをつくった。結ぶリボン?紐は白色だ。
さっそく出発し、ドアを開けて廊下から階段を降りた。廊下には窓はなく、とっても暗い。もちろんこんな時間だから部屋も薄暗かったし、目は慣れてる。なんなく階段を降りてカフェからリビングへ移動した。
冷蔵庫から水が入ったペットボトルを取り出して、グラスに一杯だけそそいだ。ペットボトルを戻して、グラスの水を飲み干し、さっきクローゼットから一緒に出したお気に入りのタオルを持って玄関に行き、自分の靴を持ってきた。
玄関から出るのもいいが、表口を開けっ放しにするような危険なマネはしない。家の裏口から出発するのが私の基本だ。
タオルを持ちながら走るのもいいが、できたら手ぶらで真剣に走りたいから、裏口の近くの棚の上にタオルを置いて裏口から外に出た。
裏口から出た外は路地で、家の裏口がすぐ見える場所だ。洗濯機を設置した家、物干し竿がたくさん掛けられた家などいっぱいある。
さっそくまだ薄暗い路地の真ん中に立つ。いきなりゆっくり走り出してもいいが、準備運動くらいしっかりしておきたい。全身の筋肉をしっかり伸ばすストレッチを数回する。片方の足を後ろに引いて、もう片方の足を前に出し、体重を前にかけ後ろに引いた足の筋肉を伸ばすストレッチを左右と、肩甲骨を後ろでくっつける感じに動かし、背中でコリコリと鳴らしほぐした。
他にもいくつかしたが、まぁすぐに終わらした。
走る前にその場で数回ジャンプをして、走ってる時の反動に備える動きをする。これをしておくと走り続けても脇腹が痛くならないとかなんとからしい。まぁそんな感じだ。
さっそく走り出した。最初と最後までのスピードは全て同じにしたい。私は短距離より長距離派だ。しっかり最後まで走れる体を作りをしておきたいのだ。しかも楽器を吹く上で背筋とか呼吸をうまくさせる筋肉は付ける必要がある。それなら長い呼吸を必要とする長距離でしっかり呼吸のマスターをするべきだ。
ちなみに私の身体能力は、中学校最初の体力テストで測ったとき意外と高かった。詳細を言うと・・・握力は25程度で男子の平均値で、上体起こしは30で男子の平均値を5も上回った。長座体前屈は普段、ランニングの後とお風呂後にストレッチをしてるから47もいった。反復横とびは60だ。そして夕紅島中学校は男子も女子も同じ持久走をするということ。つまり1500m走るのだ。他の学校だと1000mらしい。その代わり女子のほうが少しタイムのレベルが緩くなっている。そんな私のタイムは3分47秒で、男子の最高を裏切るタイムだ。50mは少し遅く6秒30だ。そして極めつけはシャトルランで、145だ。体育の先生と男子生徒のムンクの叫びのような顔が脳裏に焼きついている。そんな私だが、立ち幅跳びは1m30で、ハンドボールは15mなのだ。
体力測定後の運動部系顧問の先生からの熱烈な入部誘いが鬱陶しかったが面白かった。もう少し平均的な身体能力だったらなと少し思うものだ。そんな私と違って葉子は平均より遥かに下の記録保持者で、残念ながら私と遊んだら30分もたない。
自分の身体能力の高さは自負できるくらいのものだ。でも残念ながらそんな記録に見合う体は持っていなく、体は白いし、小柄だし、筋肉もまだ腕ばっかりで足には目立つ筋肉はない。陸上部と比べると遥かにこの足の筋肉は少ない。
まぁ、私は吹奏楽部だ。そんな足より自分の独創性と音楽性を磨けた方が私の理想となるのだ。これからも音楽のためにこうやって毎日の日課を守っていこうと思う。
日が顔を出し始めた。今は5時半だろう。あと1時間ほどだ。しっかり走って体を鍛えよう!
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急に体に何かがのしかかる感覚を覚えた。最近は感じなかったから気にしていなかったが、急にくるとやっぱり重いと感じるものだ。
こうやって他人の上に乗りかかってくるようなことができるのは、いつもなら隣で寝てる長髪の無防備な顔を浮かべてるやつなのだが、朝自分が先に起きると決まって上にのってくる。
「お~き~ろ~朝だぞぉ~」
まぁこんな感じに決まり文句を言ってくる。私は眠たいからそんなもの無視して、眠り続けるのだが、その発声主は許してくれないらしい。布団の上から強めにつつき始めた。
布団の上から突かれるのに、その突きは全て的確に私のくすぐったい急所に入ってくる。脇腹やお腹、二の腕にといろんなところを突かれる。
「うふぇ、ははははは、やめてやめて、くすぐったい」
布団を持ち上げて突きをガードする感じに、目を覚ました。マウントを取る形で私の上にいる少女は、無邪気な笑顔を作って私を見ている。怒る気も失せた。本当にその笑顔はズルいものだ。
「おはよう~、ほら早く着替えて学校行くぞ!」
そう言いながらも、布団を片手で抑えながら、もう片方の手で私を攻撃してくる。やはり面白がってこれをしているらしい。
「わかったわかった!起きるからやめて灼!」
灼は「わかったぁー」と言って私の上から降りてくれた。朝からいきなりこれはちょっと疲れる。
とりあえずベッドから降り、クローゼットを開けた。ボタンの多いカッターシャツを取り出し、譜面模様のあしらわれたパジャマを脱いで着替えた。もちろん赤いリボンもしっかり結ぶ。学校の丈夫なスカートをはいて、ブレザーを着ればもうどこにでもいる女子中学生だ。
ちなみに灼は私を起こす時点で、もう着替え終わっている。休日は私よりものんびりしてるくせに平日はこんなに早いのだ。
「今日の予定は~っと、お、今日は本入部とパート決定日だね!誰がホルンパートになってくれるかなぁ~」
灼はひらひらと一ヶ月分の予定を写した紙をつまんで言う。今日の予定に楽しさを感じているらしい。とっても笑顔だ。
「さぁね。まぁ、誰が来ても私はホルンを吹くだけだけどね」
「いやいや、パートに入部してくれる男子とは仲良くなりたいでしょ?葉子は彼氏ができるかもだからしっかり仲良くなっても損しないような、男子が来てくれることを楽しみに思わないと、でしょ?あ、もしかして年上好き?ごっめ~ん、葉子ちゃん意外と早めに見つけてたの?言ってくれないとかひどぉ~い」
全て冗談めかして言っているんだろうが、これがもし普通の同級生だったら鬱陶しくて仕方がないだろう。そんな灼の性格も家族だからこそ嫌いではなく好きだ。
「冗談言わないの。私だって好きな人くらいちゃんと考えて作るよ。だけど部活動内で作るとなんか音楽にしっかり集中できなさそうだから考えたくないの」
まぁこれが理由ならちゃんと私の意見だって通るはずだ。
「ま、そうだね」
そう言うと灼はカバンとホルンを持って先に降りようとする。私も着替え終わったから灼について、一緒に下に降りたのだった。
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いつも通りのバスを待っていると、いつもの二人が来た。
片方は肩にかかる程度の茶色っぽい黒髪の子で、その子よりも誤差程度に小さい身長の黒い髪が膝まである子だ。二人は家族らしい。でも、顔の形も髪の毛の色にも似通った部分が一つもないから、双子ってわけではないだろう。
そんな二人は葉子と灼という。いつも仲が良く、知り合ってまだ二週間程度だが、二人で一人みたいな状態をもう何回も見た。よっぽど親密な関係らしい。
「あ、おはよう!水菜!」「おはようございます水菜さん」
呼び捨てな灼さんとは違い葉子さんは丁寧に言ってくる。ここが二人の主な違い点だろう。もう少しわかりやすくいうと性格?というか気質が真逆なのだ。
「おはようございます。葉子さんと灼さん」
言い終わった瞬間とんでもない間違いをおかした気がした。灼さんの顔は一瞬のうちに意地悪な顔になって言ってきた。
「さん付けしちゃったね」
しまった・・・この間のお出かけの時にさん付けは禁止されていたんだった。反射的に口に両手を当てて塞いでしまった。
「一回目だけは許してあげよう。次からはジュース1本ね。その次は例のアレだよ」
とりあえず許してもらえた。良かった。安心だ。
「水菜ちゃん久しぶりだねー元気だった?」
葉子さんは横から笑顔で聞いてくる。そんな葉子さんには「はい」とだけ返しておいた。
「さぁ、今日は本入部だが、水菜ちゃんは楽器を決めたかい?」
そうだ。今日は本入部だ。しかもその時に楽器も決める。最終的に自分の候補に行くとは限らないが、候補を出して希望を出すことはできる。ほぼ二週間近く体験入部があって、色々と楽器を試したが私が最終的に選んだ楽器はトランペットだ。
とっても明るい音色と音が目立つポピュラーな楽器で、その音色は吹奏楽の花と言われるほどだ。裏方で支える葉子さん達にはちょっとアレだけど、私だって思いっきり人前で目立つ音を出してみたい。だからトランペットを選ぶことにした。
「トランペットを候補にすることにしました」
「おぉー!トランペットか!とってもカッコイイじゃん。水菜が吹いてるところ一回くらい見てみたいね。とっても目立つからミスがあんまり許されないけど、水菜のやる気と意思ならきっと上手になれるはずだ。難しいこともあるだろうけど、ちゃんと相談してね。しっかりサポートしてあげるから」
葉子さんは「おぉー!」と感嘆な声を上げている横で、灼はそんなことを一息に言ってくる。やっぱり楽しい二人だ。
「ありがとうございます」
そんな感謝の言葉を述べると、私達のやり取りに終止符を打つためか、いい感じのタイミングでバスが来た。さぁ、今日の学校生活もここから始まる。音楽もアレだが、しっかり教育を受けて、いい成績を残さなくてはならない。しっかり頑張ろう!