冷たいビル風が身を切るようなネオサイタマ。ツチノコストリートを歩くのは一人のヤクザニンジャだ。金糸のニンジャ装束にワインレッドのヤクザシューズ、今日はワインレッドのバイオ水牛皮の頑丈なコートを身に付けている。名はソニックブーム。
「寒過ぎるだろコレは...ザッケンナコラ、ネオサイタマッコラー...」
時たま漏れ出るヤクザスラングはすれ違うヨタモノやパンクス、スモトリ崩れにゴスを足早にさせ軽度のYRS(ヤクザ・リアリティ・ショック)を促すには実際十分な威圧感を伴っていた。
「アイエエェェ...コワイ!」
これがヤクザだ。純粋暴力の使徒、ヒエラルキーの上位に位置するもの、いや、かつては位置していたもの。だが、ソニックブームはヤクザニンジャだ。ヤクザでもなく、ニンジャでもない。ヤクザニンジャなのだ!紛れもなくこの瞬間、この場において、彼は半神的ニンジャ存在にして絶対的上位者であった。コワイ!
「クリスマス・ソウカイにも参加出来ず、俺は今日もビジネス...何がクリスマスダッコラー!」
独身中年男性サラリマンめいて毒づくソニックブームだが、世間は残酷なまでにクリスマス一色!オムラ・ホビーカンパニーの最新型ゲーム機のコマーシャルが街頭モニターには流れ、ネオサイタマの掃き溜めツチノコストリートですらイルミネーションで飾り付けられている。おぉ、クリスマス!
なお、クリスマス・ソウカイにはドミナントとオニヤスが代理出席しているので読者の皆様におかれては安心してもらいたい。
ソニックブームがクリスマスなのにも関わらず、こうしてネオサイタマの掃き溜めを足早に進まざるをえない事には一つの理由がある。
ニンジャスカウト人事案件だ。しかも、極めて手練れのニンジャに関する、だ。ドミナントやオニヤス、もしくは他のスカウト部門ニンジャでは荷が重いとの、上位の判断が有った結果がコレだ。加えて言うなら、ミラーめいた装束のニンジャ上司から慎重にコトに当たれとのアドバイス付きでもある。
「っと、ここか。先方が指定した待ち合わせ場所ってのは。」
ソニックブームの目の前にある建物はツチノコストリートの猥雑な建造物や胡散臭い住人達の中にあって、かなり異質と言えるものだ。
それは奥ゆかしい小料理屋であった。スシ・ソバ・サケのシンプルなチョウチンに、おなしやすの文字がショドーされた暖簾。場違いな奥ゆかしさである。恐らく暖簾を潜った先の一つ目の玄関口には用心棒が詰めていることだろう。この手の店は大抵二重玄関を採用しているものだ。
案の定ソニックブームが暖簾を潜った先には用心棒が詰めていた。それも三人もだ。
「いらっしゃいませお客様。当店はどなたかのご紹介の無いお客様の入店は御断りしております。紹介状はお持ちですか?」
ソニックブームの発するヤクザ幹部めいたアトモスフィアに負けず、丁寧に声をかけてきたのはマゲを結った重サイバネとおぼしき用心棒だ。
他のダークスーツを着た用心棒達は沈黙を保っている。
「ドーモ、フマトニと申します。今日はフロストバイト=サンと此方のお店で約束があり、参上した次第です。確認をお願いします。」
マゲを結った重サイバネ用心棒が片耳を押さえるような仕草で通信を行う。小型インカムが仕込まれているのだろう。
「御待たせ致しましたフマトニ=サン、奥へとお進み下さい。メリークリスマス。」
マゲを結った重サイバネ用心棒がイタズラっぽく笑い引戸を引く。ヒノキの手動扉だ。ソニックブームは警戒心を一段と高めた。どうやら待ち合わせの相手はニンジャと化す前から、それなりの立場と収入が有ったようだ。
待ち合わせ相手の情報がこれほど少ないのはソニックブームも初めてだった。ソウカイ・ネットを用いても相手の情報が出てこないとあれば、相手がどれほど情報セキュリティを固めているのかがうかがい知れるというものだ。
分かっているのはフロストバイトというニンジャネームと、最近傭兵働きを始めたということ。そしてその名を一躍高めたのが、ニルヴァーナトウフ社重役暗殺事件だ。これはヨロシサン系列の傘下に入る事に反対する複数の重役が口に豚足を詰め込まれて殺害されていたもので、公式的にはトレーニングの休憩中に豚足を喉に詰まらせて事故死、夜中に軽食の豚足を喉に詰まらせて事故死、フランス料理店のトイレで自前で持参した豚足を喉に詰まらせて事故死、ということになっている。
中にはカウンターと座席があり、カウンターの中では一見してマスターイタマエ・シェフと分かる老齢の男が料理をしていた。
「いらっしゃいまし。そこのサブロが奥へご案内致します。サブロ!」
「ハイヨロコンデー!」
老イタマエの弟子とおぼしき青年がぺこりと一礼し、無言のソニックブームを先導した。店の最奥 部へソニックブームをいざなったサブロはカーボンフスマ越しに声をかける。その後、ソニックブームに一礼すると、後程酒と料理を自分が持ってくる旨を告げてサブロは去っていった。
しめやかにフスマを開く。目線の先には、泰然と構えファー付きタクティカルコートを身にまとい、バラクラバ越しにも美しいであろうことが窺える女ニンジャがいた。
「ドーモ、ソウカイヤ人事部のソニックブームです。コチラお名刺です、ドウゾ」
「チョウダイシマス。元ネオサイタマ湾岸警備隊、特殊作戦群キツネ部隊のフロストバイトです。...これが知りたかったのでしょう?」
開口一番強烈なフロストバイト真実がソニックブームを襲う!ソウカイネットを総動員しても得られなかった情報をいとも容易く与えてきたのだ!
テーブルを挟んで座り、対面する。フロストバイトの全身には油断ならぬカラテがみなぎっている。底冷えするような殺気がソニックブームをなめ回すようだった。
だが、ラオモトほどではない。
ソニックブームもまた、タフな姿勢、鋭い眼光、逆巻く風の様な凄烈なカラテに一片の曇りもなし!
「トクシュブタイか。道理で情報が出てこないわけだ。だが、これでますますソウカイヤはフロストバイト=サン、貴女のスカウトに本気になるだろう。勿論、俺を派遣してくるところからも既にソウカイヤの姿勢は読み取れると思うが。」
ソニックブームが口火を切る。
「ソニックブーム、元グレーターヤクザ、金糸のニンジャ装束、ソニックカラテの使い手。私は好きよ?その格好。威圧感アッピールに効果的だわ」
「それは意外だな。てっきり何のタクティカルアドバンテージもないって扱き下ろされるのかと思ってたぜ」
ただならぬアトモスフィアが室内に満ちるが、フロストバイトが座るように手で促し、料理とサケを待つことになった。
フロストバイトが贔屓するだけあってスシもソバも大した一品だった。特にマグロスシの赤身とトロはキイッポン・サケと抜群の組み合わせ。こういう店を一つ行き付けにしておくと何かと実際やりやすいものだ。
「まさかフロストバイト=サンもオスモウが好きだとは思わなかったな。俺は実際ゴッドハンド=サンの大ファンでな」
先ほどからオスモウトークはかなり盛り上がっている。おぉ、卓上を見よ!何と言うトックリの数か!いくらニンジャ解毒力があるとはいえ、ニンジャとて酔うのだ!
「ワカル。ゴッドハンド=サンのテッポウは実際たまらん。ソニックブーム=サンは中々見る目がある」
ナムサン!口元までたくしあげられたバラクラバ越しにも白磁の陶器めいた肌が赤く染まっているのがワカル!
「一旦整理しよう。俺はフロストバイト=サンをスカウトしにきた。ここまではOK?」
「ワカル。ワカル。」
「もう一度整理すると、俺はフロストバイト=サンをスカウトしにきた。で、今度キルオスモウを一緒に観に行く流れだ」
「ワカル。そのとおり」
なんたることだろうか。この奥まった密談向きの一室には二人の泥酔ニンジャを止めるものなどいない!
「もう一度整理しよう。フロストバイト=サンは俺にスカウトされたので今日からソウカイヤだ。このクロスカタナのカッキェーなバッジをあげよう」
「アリガト。ワカルワカル」
実際特に豊満でもないバストが若干迷彩ニンジャ装束を押し上げているが、ソニックブームは特に気にもせず無遠慮に迷彩ニンジャ装束の襟元にクロスカタナエンブレムを吸着させる!
「さらに整理しよう。フロストバイト=サンはソウカイヤなのでこれから出勤です」
「ワカルワカル。ナンデ?」
「先ほどから俺のIRC端末にザイバツニンジャがマルノウチ近辺に急襲をかけてきたので出勤しろと」
「ワカルワカル。ザイバツって食べれる?」
「食べれません」
「じゃあカラテだ。私は技巧者気取りの手を無惨に破壊するのが大好きなんだぞ!」
「整理するとこれからカラテですね?」
ブッダミット!なんという大雑把なブルシット状況判断か!?
こうしているまにもペイン・オブ・ソウカイヤ誕生の瞬間が一刻また一刻と近付いている。
しかしソニックブーム、今だけはアルコールに包まれてあれ!アルコールに包まれてあれ!