ノーカラテ・ノーニンジャ   作:酢豆腐

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◆リハビリ重点短編な◆


(・火・) <アーソン=サンのネオサイタマシャドウラン

(これまでのあらすじ)新興ヤクザ組織ソウカイヤに所属する邪悪なヤクザニンジャ・エージェントであるアーソンは実際存在否定可能な忍材であり、つい先日も違法薬物メン・タイの仕切り値について完全武装ロシアンマフィアとアブナイかつタフな交渉をまとめたところだ。インセンティブを求め、アーソンは今日も危険なビズに赴こうとしていた。

 

 

アーソンの朝は早い。

夜明けとともに目覚め、身体を解すために先ずは風呂に入る。これは古代ローマニンジャ文明時代から続く肉体調整手法であり、テルマエないしはアサシャンと呼ばれる。そしてアーソンの身体は十分に温まり、ひかる。

 

『5ー5ー5ー5ー5ー♪』『5ー5ー5ー5ー5ー♪』

 

風呂から上がると即座にニンジャ装束を生成し、シャドウボクシングを行う。常に格上との戦闘を想定した動きをとる。カラテだ。

 

「シューシュシュ!シューシュシュシュ!」

 

『今夜サッキョーライン降りたー♪』『駅前の雨が止む前にー♪』

 

高級小型ステレオから無限ループ再生され続けるネコネコカワイイの歌声とともにアーソンの致命的ボックスカラテは冴えを増してゆく。周りの光景がスローモーになり、引き延ばされてゆく。アーソンは完全にカラテに没入していた。

 

その状態で1時間、シャドウボクシングを継続する。そのうちに拳から青白い超自然の炎が吹き出し、アーソンの上半身にヨロイめいて纏わりつきはじめる。ニンポ?そうではない。これはニンジャのジツだ。

 

アーソンのソウルから現出したジツはカトン・ジツの1種であり、カトン・ジツはまさにミヤモト・マサシの残した警句「宝石がよく採れる山では実際粗悪品もでる」そのものであり、多くの種類や威力の強弱が存在する。

 

『激しく上下に動くーほとんど違法行為ー♪』

 

「イイイィィィヤーッッッ!」

 

スウェー回避からのワイクルー!引いたところから一気に踏み込み、盾めいた防御姿勢を取りながら低空移動し、飛び上がりざまに両拳を叩き込む残虐ムエタイカラテ奥義である。

 

ニンジャ考古学に明るい方ならば、電子戦争より遥か以前かつて存在したタイ帝国が欧米列強の干渉をはね除けられたのは、この残虐なムエタイカラテ奥義を極めたニンジャ戦士ラーマ・コタロの力に依るものであることをご存知だろう!ゴウランガ!ムエタイ!

 

それはさておき、アーソンの現在の住まいはというと、かつては何らかのドージョーだったと思わしき一室である。ヤカタバンナ・ストリートではよくある間取りのこの雑居ビルの一室が、アーソンの城であり、王国であり、ドージョーであった。

 

彼の荷物は最小限であった。ネコネコカワイイのお宝ポスター、高級小型ステレオ、ヤクザスーツ一式を何着かとヤクザシューズ。そして短いながら凶悪な鉤爪の付いたガントレット、炎を意味する神秘的なルーン・カンジを象ったメンポ。装備品はどれもドウグ社の作である。全てスーツケース1つに収まるだけの財産であり、これがアーソンのヤクザ感覚の表れだった。居着かないこと。これが長生きする秘訣である。

 

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「ラオモト=サン、アーソン=サンよりメン・タイ仕切り値の件で報告が」

 

天守閣めいたオフィスでは、のっぴきならないソウカイヤ首領ラオモトが重要案件の報告に耳を傾け、マキモノに目を通していた!

 

「ムッハハハ!タイムイズマネー!早速報告せよ!」

 

ゲイトキーパーがIRCでアーソンに入室を促す。

 

「ドーモ、失礼致します。違法薬物メン・タイについての交渉の件、ご報告致します。ロシアとの為替の影響による原材料のバイオキャビア高騰から、仕切り値を上げざるを得ないだろうという見通しでしたが、今回現地でバイオチョウザメ養殖用地を確保。養殖用池の整備後は年間10トン以上の安定した原料供給を図れる見込みです」

 

ニンジャ鎖頭巾に<炎>メンポ、純白のヤクザスーツ姿のアーソンがしめやかに入室し、報告!ニンジャの・・・ビジネスマン!

 

「ムッハハハ!ムッハハハハハハ!グッドビズ!」

 

ラオモトが満足気に笑い、身振りで報告を続けるよう促すと同時に、ゲイトキーパーが手元のUNIXから3Dエクセルデータを会議室の壁面に投影する。

 

「事前にアーソン=サンから提出されていた資料です。今回確保出来た用地はおよそ2000エーカー。そこに彼等現地マフィアの要塞、兵舎、養殖施設を建造させる計画だな?」

 

アーソンが内心の緊張をおくびにも出さず首肯する。

 

「次回以降の図式としては行きの便では湾岸警備隊横流し品の火器とクローンヤクザを積み込み、帰りはキャビアを満載して戻らせます」

 

今回のビズでアーソンは10人近い地権者を焼いている。現地協力マフィアの重武装化は必須であった。また、継続的にクローンヤクザを購入させ続けることで、ソウカイヤにはヨロシサン製薬より莫大なキックバックが振り込まれるのだ!何たる暗黒搾取ビジネスモデルであろうか!ブッダよ、眠っているのですか!

 

「して、施設の建造費用については?」

 

「こちらから建設作業用のクローンヤクザを50体ほど貸出し、造営を終えた段階で彼らに与える運びとなりました」

 

「生まれながらのヤクザであるクローンヤクザのデモンストレーションも兼ねて、だな。国外販路の開拓にもなるか・・・」

 

ゲイトキーパーが何事かラオモトに囁く。ラオモトは特に拒否する様子もなく頷く。

 

「さて、アーソン=サン。今回はご苦労だった。今後もメン・タイ関連については君に一任しよう。それと簡単な仕事を頼みたいので後程打合せを。時間になったら連絡するのでトコロザワ・ピラー内に居てくれ」

 

「ハイヨロコンデー!」

 

勢いよく一礼するとそのままムーンウォークし、再度一礼して自動扉を抜けて退出!ワザマエ!

 

「ゲイトキーパー=サン、奴には臨時ボーナス重点!そして当初の予定通りメン・タイの仕切り値は上げろ!原価維持差額マネーだ!ムッハハハハハハ!ムッハハハハハハ!」

 

「承知しました」

 

な、なんたる非道!メン・タイ中毒者やドラッグニュービー、弱小ヤクザからさらに搾取しようというのか!?目を覆わんばかりの鬼畜行為ではあるが、これによりソウカイヤが得る利益は数億円にも上る。恐るべき暗黒金融搾取戦略といえよう!

 

 

 

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「さて、先ほど軽く触れた簡単な仕事の件だが・・・」

 

ゲイトキーパーがおもむろにミラーめいたニンジャ装束の懐から、1枚の写真を取り出す。

そこには派手な装いのいかにもカチグミ子弟とおぼしき女子高生が写っている。撮影場所もこれまたいかにもなサイバーゴス・クラブである。

 

「一見するとカチグミ子弟が同じような境遇の者共とつるみ、クラブで我が物顔で振る舞っているようにしか見えませんが・・・もしや我々の庇護下にあるクラブで誘拐が?」

 

ゲイトキーパーが重々しく頷く。

 

「以前から彼女の父君より少し分からせてやって欲しい、という話はされていた。しかし、つい今しがた事情が変わったのだ。君の懸念に近い事態が発生した」

 

「・・・と申しますと?」

 

「我々の支配地域にあり、クローンヤクザレンタル契約を締結しているクラブで彼女は誘拐された。警備のクローンヤクザは殺害され、客にも幾らかの怪我人が出た。面子の問題なのだよアーソン=サン。ニンジャを送り込み威圧感アッピールと人質の奪還が必要だ」

 

人質のプロファイルデータが投影され、現在地、誘拐時の映像、敵集団の情報が合わせて表示される。

 

「重サイバネ者が1名、それ以外に障害に成りうる要素は存在しない。電子的サポートはダイダロス=サンがIRCを通じて行う。骨伝導インカムを使用せよ。質問は?」

 

「有りません。直ぐに仕事にかかります」

 

勢いよく一礼するとそのままムーンウォークし、再度一礼して自動扉を抜けて退出!ワザマエ!

 

ソウカイヤの面子はアーソンの双肩にかかっている!走れ!アーソン!走れ!


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