「ミノモ=サン!?...シノダァ、カネコ...!」
前進させたヤクザアサルト分隊を追って、最上階に辿り着いたソニックブームが目にしたのはネギトロめいた死体と化したミノモに、X字に胴体を切り開かれたシノダ、倒れ伏すカネコ、ヤマの姿だった。そして、部隊壊滅の憂き目にあった精鋭ヤクザ降下部隊...
そして... ヤクザの...ニンジャ!
「ドーモ、初めまして。ジャックナイフです。」
ダークスーツ、左右の手に構えたナイフ。そして口元を覆う、残忍な、の文字が刺繍されたバンダナ。間違いなくニンジャである。
そして、油断ならない先制オジギだ!
「ドーモ!ソニックブームです!ワドルナッケングラー!」
コワイ!オジギと共にヤクザスラングを発するソニックブームをジャックナイフが冷やかな目で見る。
「非ニンジャのクズが幾ら死のうと関係無いだろ?ソンケイ?昔気質?ファックだぜ!」
「テメッコラ、じゃあテメェんとこのオヤブンはどうしたんだぁ...?」
ヤクザ幹部めいたソンケイを滲ませながらソニックブームが凄む。
「当然殺した。俺はこれから金庫の金を持ってオイランとネンゴロするんだ!」
ナムアミダブツ!義理とはいえ擬似的親子関係を結ぶヤクザにあって、親殺しは大罪だ!ソニックブームの堪忍袋は殆ど限界に近い!
「ダッテメッコラー!親殺しッコラー!ユルサネッゾコラー!」
オジギ姿勢から瞬時に間合いを詰め、掌打で殴りかかる!吹き荒ぶ風を纏った打撃を二本のナイフが受ける。メキシコに棲息する毒サソリめいた構えのジャックナイフ!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
打撃と刺突の激しい応酬だ!だが、地のカラテ力量の差からソニックブームが徐々に押している!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」
ジャックナイフの歯が吹き飛び、顎が上を向く。その瞬間、再び体感時間が極限まで引き延ばされた。
次の瞬間、ソニックブームは巨大なハンマーシリンダーの動力室に居た。当然物理的風景ではない。ソニックブームのローカルコトダマ空間である。巨大なジェネレータの唸り、沈黙する12の並列シリンダー、そこに直結された巨大な鉄槌。それがソニックブームの心象風景にして、ニンジャのイクサで使われるカラテの源泉ともなる場所だった。
「ドーモ、ソニックブーム=サン。また会ったな。」
声がした方向を振り向けば、ライオンめいた髪型の偉丈夫だ。上半身は裸だがカゼ紋の刻まれたガントレットを装着し、下半身には薄緑色のニンジャ装束。凄まじいまでの存在感だ!
「ドーモ、カゼ・ニンジャ=サン。てっきりもう融けていなくなってしまったものかと...」
ソニックブームが深々と頭を下げる。実際壮絶な死の光景を幻視してから、ソニックブームは幾分か奥ゆかしくなっている。
「自分の後継者にしようという者に、何のインストラクションも与えぬセンセイが居るか?否。断じて否!敵はサソリニンジャクランのサンシタよ。サンシタ相手のイクサとは経験を積むには実際ちょうど良い。これからお前に、ソニックカラテチョップを授けよう。」
おお、ゴウランガ!平安時代より絶えて久しいカゼ・ニンジャクランが、ソニックカラテが不死鳥めいて現代に蘇る瞬間だ!
「オヌシは実際、カラテを全身にみなぎらせるイメージが強固だ。だからこれほどの心象風景が描ける。大きくて凄い、だから強い!誰もがオヌシを無視することなど出来なくなる!先ずはザゼンせよ、深く息を吸い深く息を吐くのだ。ひたすら繰り返し、カラテ粒子を供給し、この巨大なイメージを稼働させるのだ!」
「ハイ!」
言われた通りにアグラ姿勢をつくり、チャドー呼吸めいて深く息を吸い上げ、吐くソニックブーム。
「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」
不完全ながらも、意図せずチャドー呼吸を行ったソニックブームの全身にカラテが満ち、逆巻く風が全身から激しく迸る!
同時に12連並列シリンダーが稼働を始め、ピストン運動が強烈なエネルギーを生み出す。生み出されたエネルギーは直結された巨大な鉄槌を降り下ろす力になる!撃鉄めいて降り下ろされる鉄槌!
「今だ!ソニックブーム=サン!敵を切り裂け!ニンジャのイクサはカラテが物を言うことを教育してやれ!イサオシだ!」
体感時間が戻り、ソニックブームの腕には先ほどよりも勢いと鋭さを増した風が巻き付く!今のソニックブームのチョップはカタナよりも遥かに鋭い!
「スッゾスッゾスッゾスッゾスッゾスッゾスッゾコラー!」
「ア、アバババーッ!?サ!ヨ!ナ!ラ!」
ソニックブームの断頭チョップがジャックナイフの首から上をケジメする!サツバツ!ジャックナイフは首を残して爆発四散!
「大丈夫か!ヤマ!カネコ!」
「半分ぐらい死んでますな。」「デスネー」
「そんだけ元気なら大丈夫だな!とりあえずZBRを注射してやるから寝てろ!」
「「ヨロコンデー...」」
無針注射器を取りだし、息のあるもの全てに手早く処置を済ませると、ソニックブームはIRCで報告を行った。
HUMATONI@YABAREKABARE:状況終了
共有IRCチャットからは歓喜のカチドキコマンドがひっきりなしに届く。
この抗争の勝利で、ヤバレカバレクランとソウカイ・シンジケートは大きく躍進することだろう。
マルノウチ近辺、トコロザワピラー周辺地域の利権は確保された。ニンジャの暴力、フェイス・トゥ・フェイスを重んじるヤクザの機動力と人脈、ネコソギファンドの経済力。ネオサイタマの裏社会を牛耳るには過分な程の力!
間違いなく、この日がソウカイヤ躍進の切っ掛けの一つだろう。泳ぎ始めたマグロめいて、最早誰にもその勢いは止まらない。止められない。