「ムッハハハハ!ゲイトキーパー=サン、其奴がお前のイチオシするヤクザニンジャか?」
トコロザワピラー上層階、ここにはのっぴきならないソウカイヤの首領、ラオモト・カンの私室が在る。
今、ソニックブームはゲイトキーパーに連れられて首領ラオモトに謁見していた。
「ハイ、ラオモト=サン。ソニックブーム=サンは実際ニンジャキャリアは日が浅いものの、確かなカラテを持っております。」
「ムッハハハハ!確かによく練り上げられたカラテだ!それに一時間前出社とは律儀な男よ。タイムイズマネーをよく理解しておる!ムッハハハハハハハハ!」
「ありがとう存じます!」
ソニックブームは勢いこんで一礼。ラオモトの発する凄まじいまでの圧力。ソニックブームのニンジャ第六感がラオモトに宿る複数のニンジャソウルを感知している。これは一体!?
気を抜くとドゲザしそうになる身体を、ソンケイとカゼ・ニンジャの独立独歩の気風が押し留めた。一見すると、ソニックブームは汗一つかかず涼しげな佇まいだ!ワザマエ!
かつてのカゼニンジャクランは、その独立独歩の気風を疎ましく思った腐敗ニンジャ達に徹底して弱点を研究され、囲まれ棒で叩かれた為に勢力を減ずるインシデントが発生したことはあまりにも有名だ!だが、今回の相手はのっぴきならないソウカイヤ首領ラオモト・カンだ!この度胸ある骨太な振る舞いはラオモト的にポイントが高い!
「まこと数を揃えるのは容易であっても、オヌシのような骨のあるニンジャ戦士は中々おらん!励めよ、ソニックブーム=サン!ムッハハハハ!ムッハハハハハハハハ!」
「ソニックブーム=サン。実際にラオモト=サンにお会いしてみてどう思った?」
トコロザワピラーの各フロアについて説明を受けながら、ソニックブームは歩く。
「ゲイトキーパー=サンの仰る通りの大器だと、思いました。」
「左様。ラオモト=サンこそ、この混迷のネオサイタマをひいては日本を統べるべきお方よ。やはりソニックブーム=サンをスカウトして良かった。共にソウカイヤを盛り立てていこう。」
「ハイ!ゲイトキーパー=サン!」
「うむ、君には期待している。ゆくゆくは私に代わってニンジャ戦士人材の管理以外にも、ヤクザや裏社会関連事業の統括を任せたいものだ。励めよ。」
「ハイ!」
「では、先ずは君のオフィス...といってもトレーニングフロアの一部にデスクとUNIXを置いただけだが。に、案内しよう。後の事はドミナント=サンを附けるから、アレに案内させなさい。」
「ヨロコンデー!」
「しかし、ソニックブーム=サン。アレと随分派手にやり合ったようだが...今後はトレーニングスペースなり試験場なりでやるようにな。」
「ハイ!スミマセン!」
実際慈悲深い!本来ならばシンジケート構成員同士の私闘など、ケジメ案件ものだ!だが許されている。
「アレも中々の素質が在るので目をかけてやっていたが...ソニックブーム=サンに突っ掛かっていった挙げ句にやられている様ではな。すまんな、ソニックブーム=サン。」
「いえ、ドミナント=サンとはユウジョウしましたので!」
「そうか。君が本格的にニンジャ人材育成室の仕事を始めたら、アレは君の下に配しても良いかもな。」
そう言っている間に、トレーニングフロアに到着した。トコロザワピラーのエレベーターは実際静穏で奥ゆかしい。
エレベーターが開くと、ドミナントがオジギ姿勢でゲイトキーパーを出迎えた。
「おはようございます、センセイ!」
「うむ、ではドミナント=サンは伝えた通りにせよ。私はこれからラオモト=サンに随伴してビズが在るのでな。」
「ハイ!センセイ!」
そのままエレベーターで下っていくゲイトキーパーを、二人は奥ゆかしくオジギ姿勢で見送った。
「で、ソニックブーム=サン。昨日ぶりだね?」
顎に治癒促進パッチを張ったドミナントがソニックブームにウインクする。カワイイ!
「ドーモ、先輩。今日はアンタが案内やら業務連絡やらをしてくれンのかい?エエッ?」
ドミナントが一つ溜め息をつき、ツカツカと革靴を鳴らしながらソニックブームに近づく。強化セラミック材の床はピカピカに仕上げられ、ぼんやりと二人を映し出す。
「君は、凄まないと、話が、出来ないのか!」
もはやソニックブームとドミナントの距離はワン・インチだ!青い眼光がソニックブームを捉えて逃がさない!ソニックブームの方が頭一つ分、背が高いため自然とドミナントは見上げる形になる。ショートカットのカラスめいた色合いの髪から、女子高生アトモスフィアが発せられる。ソニックブームはたじろいだ。
加えて顔が近い!顔が近いのだ!
「オイオイ...顔が近ぇよ、勘弁してくれ。」
「変なことを気にするな!君が役職付きとはいえ、ボクは二年も先輩だぞ!もっと敬いなよ、ネンコだよ!ネンコ!」
ネンコとは古来から伝わる、ある視点から見て目上の者を敬う考え方のことで年功序列とも言われる。
「アイアイ。しっかし、ネンコなんて良く知ってやがるなァ。」
「ムゥーッ、とにかく仕事の話だ!これがトレーニングフロアの機材目録、こっちがスカウト可能性の在るニンジャ人材リスト、このリストは現在育成中のニュービーだ。で、センセイからの指示だけど育成中のニュービーから一人見込みの有りそうなの選んで、少しでも使いものになるように試してみろって。」
ソニックブームに憑依したソウルが、弟子をとれとでも言うように一瞬身じろぎした。カゼ・ニンジャクラン再興を願うニンジャソウルが。
各トレーニングルームの様子が分かる管理室がソニックブームのオフィスだ。ゲイトキーパーはデスクとUNIXだけの部屋と称したが、ソウカイヤ程の組織がスカウトしたニンジャにそのような不必要な冷遇をするわけがなかった。
戦略チャブめいた大きさのモニター付きデスク、そしてデスクトップUNIXが用意されている部屋の中、危険極まりないニンジャ戦士二人が顔を付き合わせてニュービーのトレーニング光景をモニタしている。
「こいつもこいつも、そっちのあいつも全部サンシタだ!こんな中から磨けば光りそうな奴を探せなんて、センセイも無茶を仰る!」
ドミナントが鼻息荒くまくし立てる。彼女は、彼女の尊敬するゲイトキーパーが組織したシックスゲイツに末端とはいえ、サンシタが所属していること、そしてそれがラオモトの役に立たないであろうこと予見し、激怒しているのだ!
「西のザイバツとの抗争も激化しそうだというに、サンシタばかりとは!」
ドミナントの怒りは収まらない!しかしソニックブームは彼女ではなく、別の方を見ていた。正確には、戦略チャブめいたデスクのあるトレーニングルームを映すモニターを見ていた。
「ドミナント=サン、悲観するのは早そうだぜ。」
「何!?素質が有りそうなのが居たのか?」
ソニックブームは冷酷なヤクザ幹部の目でドミナントを見つめ、頷いた。
「そこの一番右上のモニターの奴だ、ヤバレカバレの素質がある。一を極めるのに向いているタイプだなァ。」
「右上というと...コイツか。このイマイチな木人拳トレーニングをしている奴が?図体ばかりでカラテパンチに重みが無い。野良犬のカラテだ。」
「ドミナント=サン、こいつはイメージが出来てないだけさ。強烈なイメージが在れば...化けるぞ。」
「そこまで言うのか。何々...リストに依れば、そいつはオニヤス・カネコ、ソウカイヤクザのレッサー位階だったみたいだな。君と同じヤクザだが、カラテに関してはどうだろうな。」
ドミナントは静かに目を閉じて息を吐いた。ザゼンめいて怒りを収めるためだった。