「ドーモ、オニヤス=サン。ソニックブームです。」
「ドーモ、オニヤス=サン。ドミナントです。」
「ドーモ、はじめまして。オニヤス・カネコです。オレなんぞに御二人は一体何の御用なんで?」
さっそく殺気を隠そうともしないドミナント!露骨!あの、ゲイトキーパー肝いりでソウカイヤ入りしたソニックブームと才気に溢れる女子高生ニンジャが自分を呼び出すとは何事なのか?
オニヤスは胴着に袴姿だが、実際全身が汗ばんでいた。
「オイオイ、ドミナント=サン。ちょっとよさないか。」
「ふん。」
ドミナントは殺気を消したが、そのままムッツリと黙り込みオニヤスを睨み付けた。ブッダデーモンめいた眼光である。コワイ!
未だにドミナントはオニヤスがサンシタ以下のカスであると信じきっているのだ!
「まぁ、なんだ。オニヤス=サン。端的に言うならテメェには見込みがある!今のお前はカラテのイメージが固まっていない為に、サンシタ以下に甘んじているがな。それに俺様も元はヤクザよ、テメェみたいな野郎を見ると一端の漢にしてやりたくなるじゃあねぇかエエッ?」
「オレに見込みが...?」
オニヤスは先日、意地の悪い先輩ニンジャに手も足も出ずにやられたばかりだった。オニヤスの取り柄はと言えば、ラオモト家への強烈な忠誠心。これだけだ。
「そうだ!オニヤス、テメェには見込みがある!今、人事預かりになっているニュービーの中なら間違いなくお前がピカイチよ!」
「オレが...?ラオモト=サンのお役に立てるように...?」
オニヤスは呆然とした。突然現れたこの男は、自分に向かって見込みがあるというのだ。あのような明らかに下劣なニンジャに敗れた自身に。だが、ソニックブームの言葉はしみじみとオニヤスの心に染み込んだ。それはソニックブームが身に纏うソンケイか、カラテか、暴力のプロフェッショナルとして生きてきた背景がもたらすシンパシーからか、様々な理由に依るものだろう。
「そうだ、お前にはカラテパンチだけを仕込む。どんな状況下でも必ず敵にパンチを叩き込む狂犬だ!」
「ウ、ウオオオーッ!アニキ!オナシャス!」
ドゲザ!オニヤスは瞬時に身を投げ出しドゲザした。
「立てよ、オニヤス。誰にもお前を軽んじさせやしないぞ!今日からお前は俺の舎弟だ!ヒサツ・ワザにジェットツキも教えてやろう。」
「アニキ!」
ゴウランガ!ヤクザにヤクザを掛けて100倍だ!しかしドミナントはカヤの外だ。
「話はまとまった?ドゲザなんてしてる暇が有ったらチョップの一つも打った方が良いんじゃない?」
冷淡なドミナントの物言いだが、オニヤスは動じなかった。
「ハイ!アネゴ!」
「ア、アネゴ?それってボクのことか?」
「ハイ!」
「聞いたかい?ソニックブーム=サン!これがネンコだよ!ネンコ!」
「アー、あんまりはしゃぐなよセンパイ...」
「君は先輩に対する敬意が足りないぞ!ソニックブーム=サン!」
青い燐光が空中に先輩の二文字を決断的にショドーした。
「ハイハイ。オニヤス=サン、とりあえず瓦割りから教えてやるよ。それがキホンテキだ。カラテ全ての土台になる、分かるかエエッ?」
「ハイ!アニキ!」
「分からなくても良いから、教える通りにパンチを降り下ろせ。いいな?」
「ハイ!アニキ!」
瓦割り修練用特殊合金カワラを前に、オニヤスはインストラクションを受けていた。
オニヤスを囲むニンジャは二人。何時ものワインレッド・ヤクザスタイルにキメたソニックブームと、黒玉色の目立つ女子高生ニンジャ装束のドミナントだ。
「オニヤス=サン、しっかり引手を取れ!降り下ろす突手に引手の勢いが加わって100倍だ!」
「ハイ!アニキ!」
特殊合金カワラに拳頭が垂直降下!ワザマエ!10枚重ねられた特殊合金カワラの内、4枚が割れて砕けた。
「ス、スゲェ...今までは一枚しか割れなかったのに...」
「そうだ!それが正しく力が加わった時のテメェのニンジャパンチ力ってわけだ!最終的には一度に20枚は割ってもらうぞ!」
「20!?20枚ですかい!?」
「ザッケンナコラー!オニヤステメッコラー!ビビってンジャネッゾオラー!」
「グワーッ!」
ソニックブームの目にも止まらぬソニックカラテ右ストレート!コワイ!
「テメッコラー!ヤクザでニンジャダロガッコラー!」
「そうは言ってもアニキ...俺は...「イヤーッ!」...グワーッ!」
ナムサン!ソニックブームの掌打!オニヤスは目を白黒させる。
「テメッコラ、変わるのになぁ時間が掛かるとか自分は弱いとか思ってる奴は一生腰抜けのままだッコラー!ヤバレカバレ見せてみろッコラー!」
「アニキ...」
「ドミナント=サン、カワラ100枚積んでくれ!」
「コウハイ、それは無茶だ!100枚だぞ!?」
「見本をやるには必要だ!ドミナント=サン、頼む!」
ヤクザ幹部特有の凄み!ソンケイだ!ドミナントの青い瞳をソニックブームの目線が捕らえて離さない。
「ムゥーッ、どうなっても知らないぞ!」
ニンジャ筋力で素早く100枚のカワラを積み上げるドミナント。準備は整った。
「アニキ...まさか、本当に?」
ソニックブームは答えない!アグラメディテーションだ。
「スゥーッ!ハァーッ!」
かっ、と目を見開くとソニックブームは下半身に力を込める。ZDOOM! スプリント跳躍したソニックブームの直下の床に、クレーターめいた穴!
飛び上がり空中で中段ジェットツキを構える!風を掴み引手を取り、打ち下ろす!おお、ゴウランガ!100枚の特殊合金カワラはスチロールめいて粉砕。ゴウランガ!ジェットカラテ!
「おお、おぉぉ、これが...カラテ...!」
着地するソニックブーム。右拳を負傷、そして近距離ジェットカラテの自爆ダメージで身体の各所を負傷!だが精密なカゼ操作・ジツで被害は最小限だ!ワザマエ!
「オニヤス=サン、今のジェットツキはハヤイ過ぎる拳速が生み出す衝撃波を纏い、カラテパンチと共に叩きつけるワザだ。ソウル由来のソニックカラテはともかく、ジェットツキはお前にも出来るはずだ。圧倒的踏み込みからのジェットツキ! これをやってる自分をイメージしてみろ?エエッ?カッキェーだろうが?」
「ハイ!アニキ!」
オニヤスの目から涙が一滴こぼれた。
「やれやれ、君もニンジャになってから三年も経っていないだろうに無茶苦茶をやる。カラダニキヲツケテネ!」
ソニックブームの拳にバイオ包帯を巻きながら、ドミナントは呆れたように言った。だが、その目付きはブッダエンジェルめいて優しい。
「アー、スミマセン。悪ぃな先輩。手当てなんてしてもらっちまって...」
「本当だよ!光栄に思いたまえ!」
二人は戦略チャブがある部屋、ソニックブームのオフィスに戻っていた。
モニターの中では、一人、オニヤスがトレーニングを続けている。ひたすら降り下ろす動作を身体に馴染ませるように、との指示を忠実に守っているようだった。もはや他のニュービーはソウカイマンションに帰宅するか、オイラン遊びに繰り出しているというのにだ!
「なぁ、先輩?」
「どうした?コウハイ。」
「一瞬の狂気があれば、誰でも本当は一瞬で変われるんじゃねぇかと、そう思うんだ。つまりヤバレカバレだ。オニヤスは見込みが在るんじゃないですか、エエッ?」
「...そうだな。そうかもしれないな。」
トコロザワピラー眼下のネオサイタマの夜景はブッダデーモンの宝石箱めいて美しい。昼間は味気無いコンクリと鉄筋、強化ガラスの構造物が美しく様変わりする光景は、一見サンシタに見える者の中にも磨けば光る原石が在るのではないか、という心持ちにドミナントをさせた。
「...センチメントだな。」
「エエッ?」
ソニックブームがドミナントの方を向く。
「何でもないよ。」
ドミナントはかぶりを振って微笑んだ。