ノーカラテ・ノーニンジャ   作:酢豆腐

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メンター・アンド・アプレンティス#1

朝9時。一般的なサラリマンにとっては始業時間だが、ソニックブームは既に一時間前に出社しIRC端末でソウカイネット・ミッションリストをチェックしていた。

 

そもそも、ヤクザ時代は事務所の一室に住み込み、ニンジャとなってからはトコロザワ・ピラーのトレーニングルームを一つもらって住んでいる。

 

私物などジュラルミンバック一つに納まる量でしかなく、暴力を生業とする者としていつでも塒はかえられる様に気を付けていた。この業界では奥ゆかしさを欠いた者から死んでいく、ソニックブームが生き残っている事が彼のヤクザ奥ゆかしさの証明と言える。

 

ソニックブームがそのような暮らしで出社も早いため、舎弟のオニヤスは7時に出社してトレーニングをしていた。今はソニックブームの背後に彫像めいて微動だにせず、休めの姿勢で待機しているが。

 

その時、突如として強化セラミックフスマが開け放たれる!

 

「ドーモ、ソニックブーム=サン!インストラクションの時間だ。タイムイズマネー!三分で訓練中のニュービーを全員、一番広いトレーニングルームに呼べ!」

 

ナムサン!のっぴきならないソウカイ・シンジケートの首魁、ラオモト・カンのエントリーだ!

 

「ドーモ、ラオモト=サン!直ぐに取り掛かります!」

 

オジギ後、0.05s程でモニターとマイクに取り付くソニックブーム!

 

《ドーモ、ニュービー野郎共!人材育成室のソニックブームだ!ラオモト=サンからインストラクションが在るので、今すぐ12Aトレーニングルームに集合!遅れた奴はセプクだ!以上!》

 

「ア、アイエエエエ!?」「ナンデ!?ラオモト=サンナンデ!?」「あたし今体温何度あるのかなーッ!?」「アイエエエエ!?」

 

ニュービー・ソウカイニンジャ達がモニターの中で慌てふためく様を見てラオモトが笑う。しかし、ソニックブームもオニヤスも気が気でなかった。どうみても...機嫌が悪いのだ!

 

「ソニックブーム=サンと、そこのはソニックブーム=サンの舎弟か?トレーニングルームに移動するぞ。それと、今日はニュービー共にカラテパンチのインストラクションを行うが丁度良い。貴様ら二人が受けろ。」

 

ソニックブームは冷や汗が止まらない!

 

「そのぅ...まだ、把握しておりませんが...俺たちがラオモト=サンのパンチを受けるということで...?」

 

ソニックブームに宿るニンジャソウルが、カゼ・ヨロイを全力展開せよと囁いてくる。囁くといってもソウルが身じろぎするだけだが。

 

「ムッハハハ!何を当然の事を!心配するな、ソウカイヤはあたら有為の人材を爆発四散させたりはせん!ムッハハハ、ムッハハハハハハ!」

 

(ア、アイエエエエ...こんなのって無いぜ!いい加減にしろよソウカイヤ...)

 

前を歩いていたラオモトがピタリと止まる。

 

「それとも、何か異議があるか?」

 

コワイ!ラオモトの背中から可視化されたカラテが立ち上る!

 

「恐れ入ります!ラオモト=サンからカラテパンチを直接頂けることで二倍のインストラクション効果、俺とオニヤスの二人で更に効果が四倍点になりますので!今後の指導にどう活かそうかと、思案しておりました!」

 

「ムッハハハ!流石は元ヤクザ幹部、口が上手いことよな!それともゲイトキーパー=サンに仕込まれたか?」

 

「ハイ!恐れ入ります!」

 

「ムッハハハ!ムッハハハハハハ!」

 

強化セラミックフスマを開き、ラオモトを先頭に進むと50忍を優に越えるニュービーがドゲザ姿勢で待機していた。

 

ラオモトがソニックブームに視線をやる。概要を説明しろということだ。

 

「ニュービーの野郎共!テメェらは所詮ゴジュッポ・ヒャッポに過ぎねぇ弱体者よ!そこで今から、ラオモト=サンが手本を見せて下さるからニューロンに刻み込め!分かったか!」

 

トレーニングルームを「ハイヨロコンデー!」の唱和が包む。

 

「では、ラオモト=サン。お願いします。」

 

「ムッハハハ!よく見ておけ!ムッハハハ!...イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

インパクトの瞬間に凄まじい勢いで捻りが加えられ、ソニックブームのカゼ・ヨロイを貫通する。鳩尾に圧力!吹き飛ばされるが、空中で宙返りし新体操めいて着地!ワザマエ!

 

「ムッハハハ!ソニックブーム=サン、中々良いぞ!次!」

 

オニヤスが緊張した面持ちで、ラオモトの前に立つ。

 

「オナッシャス!」

 

「ムッハハハ!イヤーッ!」

 

「グワーッ!...アバッ!?」

 

カラテをみなぎらせる以外に防御手段の無いオニヤスは、アクションムービーめいて壁に激突!ナムサン!爆発四散か!?

 

いや!オニヤスは耐えた。気絶してはいるものの、オニヤスはソニックブームとのカラテトレーニング重点の中でニンジャ耐久力をも鍛えていたのだ!スゴイ!

 

「ムッハハハ!これがカラテパンチだ!ニュービー共、励めよ!ムッハハハ!ムッハハハハハハ!」

 

ソニックブームとオニヤスを置いて、ラオモトは去っていった。タイムイズマネーを体現するかのような、嵐めいたインストラクションタイムだった。

 

ソニックブームが声をかけなければ、ニュービー達はラオモトが去っていった方向へのドゲザから立ち上がれないところである。身体が立ち上がることを拒否するのだ!コワイ!

 

「解散!各自トレーニングを再開しろ!訓練用クローンヤクザを使い切った奴は申請を出しにこい。以上!」

 

「ハイヨロコンデー!」の唱和!

 

「オニヤス=サン!オニヤス=サン!起きろッコラー!」

 

気付の右ストレート!コワイ!

 

「・・・アニキ!見えました!理想のカラテパンチが!アニキのジェットツキとラオモト=サンのインストラクションで100倍です!」

 

気絶状態から復帰し、やおら立ち上がるとオニヤスは捲し立てはじめる。それほど今の一撃で得るものは多かったのだ。そしてソニックブームもその意見には同意していた。ソニックブームもまた、ジェットツキやソニックカラテ左右ストレートに関して更なる成長の道筋を見出していた。最後の一瞬で凄まじい捻りを加えることで、ソニックブームのジェットツキは現在の凡そ10倍の威力にまで向上することだろう。

気絶状態から復帰したばかりというのに、オニヤスはエアカラテスパーリングを始めている!その場で!

 

「オニヤス=サン。この一か月というもの、テメェにはベーシック・カラテ・アーツである瓦割りトレーニングだけをやらせてきた!その間俺はといえば、ソウカイヤ温泉旅行に備えて末端の綱紀粛正だ!お陰で更にカラテを練り上げる事ができた!俺が何を言いてぇか分かるか?エエッ?」

 

「ハイ!アニキ!実践が必要です!」

 

実際、以心伝心な。一ヶ月半経過した師弟関係は順調であった。

 

「そうだ!だが、なかなか丁度いい敵なんてのはいねぇ!だから俺を殴れ!」

 

「アイエッ...それは...」

 

「クチゴタエスルナー!」

 

ソニックカラテ左ストレート!

 

「グワーッ!ハイ!」

 

「鉄は熱いうちに叩かないと冷える。ミヤモト・マサシの言葉だ。今すぐやるぞ!パンチを構えろ!」

 

「ハイ!アニキ!」

 

オニヤスが構えるのは、拳頭を相手に向けて威圧する変則的ヤクザボックス・スタイルだ!

 

「来い!」

 

「ハイ!イヤーッ!」「グワーッ!」カラテパンチ左ストレート!「イヤーッ!」「グワッコラー!もっと腰入れろッコラー!」カラテパンチ右ストレート!だが、浅い!「ハイ!イヤーッ!」「グワーッ!踏み込み!」カラテパンチ左ストレート!威力の乗り方が甘い!「ハイ!イヤーッ!」ZDOOM!「グワーッ!良いぞ!」ソニックブームの鳩尾にカラテパンチ右ストレートが突き刺さる!

 

「良し!次は一点を狙ってひたすらハヤク突くようにしろ!ラッシュだ!」

 

「ハイ!アニキ!」

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」

 

ワザマエ!オニヤスの左右カラテパンチストレートラッシュだ!そこらのサンシタではまず間違いなく爆発四散するであろう!

 

だが、相手はシックスゲイツスカウト部門ののっぴきならないヤクザニンジャ、ソニックブームである!足を肩幅逆八の字に開き、拳を握り、足を踏ん張り微動だにしない。まるでパンチ一本すら見逃さないとでも言うように。ゴウランガ!師弟!

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」

 

パンチのラッシュはオニヤスの血中カラテが尽きるまで続いた。

 

そして1000回はラッシュのループを終えた辺りから、徐々にオニヤスのパンチが音速を突破し始めた。ジェットツキだ!

 

最早ソニックブームのヤクザニンジャ装束はボロボロであり、上半身は裸に近い。オニヤス自身もジェットツキの自爆ダメージに加え、ソニックブームのニンジャ耐久力の塊とも言える肉体を殴り続けた事で拳にダメージが蓄積している。

 

「オニヤステメッコラー!ラストキバレッコラー!」

 

「イイィヤーッ!ザッケンナコラー!」

 

ゴウランガ!ジェットツキだ!

 

「グワーッ!」

 

ジェットツキを喰らったソニックブームが吹き飛ぶと同時にオニヤスも倒れた。

 

弟子に遂にジェットツキを修得させたソニックブームは安らかな顔で気絶した。

 

師の想いに応えられた安心感を表情に湛えて、オニヤスもその場に崩れ落ち気絶した。

 

その惨状を発見したドミナントが、「おいおい、こんなのってないぞ...ヤクザニンジャいい加減にしろよ...」と、苦笑しながら二人を医務室に運んだ。

 

後には荒れ果てたトレーニングルームが残されたが、得られたものは比較にならないほど価値あるものだった。


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