ノーカラテ・ノーニンジャ   作:酢豆腐

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◆温泉◆ソウカイヤ御一行様◆旅行◆


メンター・アンド・アプレンティス#2

「ムッハハハ!今日の連絡事項は他でもない温泉旅行についてだ!今年の温泉旅行先は中国地方の温泉マンジュウの美味い温泉宿に決まった。シックスゲイツの六人、インターラプター、ヒュージシュリケン、アースクエイク、ビホルダー、ガーゴイル、バンディット。そしてゲイトキーパー=サン含む人事部四人は同行せよ!ムッハハハ!」

 

「ハイ!ヨロコンデー!」

 

このようなのっぴきならない会議の最中ではあるが、温泉旅行というものについて読者諸氏に説明しておこう!

 

温泉旅行とは古来より権力者が功ある部下を労い、人心を掌握するために行ってきたサービスのことだ。ラオモトはタイムイズマネーを重んじるが、来るべき対罪罰影業組合抗争に向けて部下を団結させモチベーションを上げさせる必要を認めていた。

何たる決断的組織管理メントか!

 

ここでソニックブームが最近取り組んできた綱紀粛正が活きてくる。邪悪なニンジャソウルに憑依された者達は、恐るべきシックスゲイツとラオモトの右腕たるゲイトキーパーが温泉旅行で不在となれば直ぐにでも私腹を肥やしたり、オイラン遊びにうつつをぬかしたりし始めるだろう。

 

適度にガス抜きをするのは必要だ。だが、過剰なミカジメ徴収、組織の威や名誉を貶める行為は許されない。その為の綱紀粛正である。

 

この決断的綱紀粛正行為メントでソウカイヤの中にソニックブームの名を知らぬニンジャは居なくなった。

 

「温泉旅行か...」

 

「楽しみだねっ!ソニックブーム=サン!」

 

ドミナントが無邪気に跳びはね、ソニックブームにまとわりつく度、ドミナントのバストが揺れる。不変の真理めいてドミナントのバストは豊満であった。

 

「俺にはブレイコの経験なんてないんだぞ...」

 

ナムサン!ブレイコというのは恐るべき査定システムの事である。これは日常の業務以外で気が緩むように仕向け、奥ゆかしさや気づかいを発揮出来るかをチェックするという卑劣だが実際有効な査定方法だ。ブレイコが始まる際にはその場で最も地位の高い者がブレイコ・チャントを宣言するのが習わしである。おぉ、ナムアミダブツ!

 

ソウカイヤは実力主義の組織だが、あまりにも奥ゆかしさを欠いた振る舞いをすればキリステの対象になりかねない。

 

カラテと狂気/侠気の信仰者、純粋暴力の使徒たるソニックブームにはいささか荷が重いことであった。

 

「ふむん。流石の君にもブレイコの経験は無いか...だが安心しろ。ブレイコの最中はボクが守ってやる!」

 

「アー...マジに頼むぜ先輩。俺はともかくオニヤスやゲイトキーパー=サンに累が及ぶのは耐えられねェ」

 

実際歴史上、ブレイコ期間中の危険な選択ミスのためにムラハチにあった者やキリステの対象になった者は少なくない。

 

 

ドミナントの先輩力が試される!カラダニキヲツケテネ!

 

話しながら歩いていた二人であったが、前方からオブシディアン色のニンジャ甲冑に身を包んだ青年が歩いてくることに気付いた。

「ドーモ、ダークニンジャ=サン。お疲れ様です」

 

ソニックブームが道をあけ、ヤクザめいて武骨なオジギをする。

 

「ドーモ、ソニックブーム=サン。お疲れ様です。温泉旅行が楽しみですね」

 

ダークニンジャが奥ゆかしくオジギをして話しかける。だがその声色からは何も感じられない。だが、ソニックブームは奥ゆかしさの中に、恐るべき刃の存在を確かに感じ取った。

 

ドミナントはむっつりと黙り込み、ダークニンジャに挑戦的眼差しを向けているがダークニンジャは全く気にした様子が無い。

 

この強力なニンジャ戦士はソニックブームとほぼ同時期にソウカイヤ入りし、めきめきと頭角を現して今やラオモトの懐刀めいた立ち位置にいる。ソウカイヤ内には第二のゲイトキーパーとの呼び声も高い。

「先を急ぐのでこれにて」

 

ダークニンジャは歩み去って行った。

 

「...ボクはまるっきり奴のことが気に食わないね」

 

「オイオイ、先輩それは奥ゆかしくないぜ。実際ラオモト=サンが認めるほどの実力者だろ、エエッ?」

 

ドミナントの青い瞳に浮かぶのはイサオシへの執着、そしてダークニンジャへの強烈な対抗心だ。師であるゲイトキーパーを狂おしく敬愛する彼女は、自分以外の他者がゲイトキーパーの後継、もしくはそれに近い何かとしてラオモトに貢献することが許せない。ドミナントのニンジャ邪悪さの根源は独占欲と功名心だ。実際、ゲイトキーパーに目をかけられているソニックブームと彼女の関係が上手くいっているのは、幸運とソニックブームの奇跡的なバランス感覚によるものだった。

 

「だからこそ、さ。アイツみたいな有能者の皮を被って何を考えてるか全く周囲に顕さない奴は、土壇場になると裏切るものなんだ。ボクは詳しいからわかるんだ!」

 

ソニックブームは苦笑したが、あながちドミナントの言うことが完全に与太話と断じれる自信は無かった。ソニックブームの優れたヤクザ幹部洞察力がダークニンジャの抱える闇の一片を察知したと言っても良い。

 

「大丈夫だ、ドミナント=サン。いざとなれば俺たちで何とかしよう。ヤクザニンジャとエリートニンジャ、あとは危険極まりないテッポウダマニンジャまで揃ってやがるんだからなァ?」

 

「そうだね!ボクとソニックブーム=サンを掛けて、あとオニヤスも足して120倍だ!」

 

なんという危険なカラテ掛け算か!だが実際、この三忍であれば通常戦力の完全武装機械化歩兵連隊でも容易に制圧可能なのだ!ドミナントは上機嫌に自説を披露した。

 

「しかし、リムジンバスの手配等はともかくとしてシックスゲイツの皆さんの中には実際初対面も多いんだよなァ」

 

「そうなのかい?よく、ビホルダー=サンと一緒に居るところは見るけど。ボクを放っぽった上でね」

 

「おいおい、センパイ勘弁してくれよ。ビホルダー=サンは同じようなヤクザ上がりで、カラテ鍛練を重点してる人だから話が合うって訳だ。分かるかエエッ?」

 

「ムゥーッ。分かんないもんね!」

 

唇を突きだしてそっぽを向く姿は、いかにも年頃のティーン女子高生めいた雰囲気を醸し出している。だがニンジャだ。

 

「はいはい。センパイも俺ともっとカラテしてぇんだろ?わーかったよ、分かった分かった」

 

「まぁ、それでいっか。オニヤスも付き合わせよ?」

 

「そうだな。温泉旅行前にガッツリしごいとかねぇとなァ...!」

 

 

 

トコロザワ・ピラー、トレーニングルーム。時刻は0900、重ラバー製ダルマがジェット・ツキを連続的に受け、空中に浮いていた。

 

「イヤーッ!」ソニックブームのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」オニヤスのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」ソニックブームのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」オニヤスのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」ソニックブームのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」オニヤスのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」ソニックブームのジェットツキだ!「イヤーッ!」オニヤスのジェット・ツキだ!「イヤーッ!」ソニックブームのジェット・ツキだ!「グワーッ!」

 

おぉ、ジェット・ツキが連続的に当たる事で空中に浮いていた重ラバー製ダルマが徐々にオニヤス側にずれていき、最後の一撃でオニヤスに激突したのだ!

 

なんという危険なカラテ鍛練法か!これは平安時代以前のカゼ・ニンジャクランが生み出したソニックカラテの鍛練方法の一つである!

 

「オニヤス、おいオニヤス、大丈夫か?」

 

「ハイ!アニキ!」

 

オニヤスは従順な闘犬めいて飛び起き、重ラバー製ダルマを担いで戻ってくる。

 

「これは本来、鉄球で行うんだがまだまだテメェはジェット・ツキに慣熟してないからなァ?エエッ?」

 

「恐れ入りやす!」

 

「楽しそうなことやってるね」

 

フスマを開いてエントリーしてきたのは、女子高生の...ニンジャ!

 

「ドーモ!アネゴ!」

 

「ドーモ、オニヤス=サン。僕も手加減さえ出来ればなぁ。」

 

「センパイのエンハンスメントされたエメイシは殺傷力高過ぎんだよな」

 

「それなんだよね。殺して良い相手ならともかくさ」

 

「しかしセンパイ、学校はどうした?」

 

「ボクはニンジャだし、頭が良いから大丈夫。」

 

ブッダファック!なんという大雑把な理論か!

 

「今日は温泉旅行前の最後の追い込みってことでしたが、アネゴはともかくオレまでお供することになるとは思いませんでした」

 

「その事については、弟子にとったからには色々経験させろっていう意図だろう。ラオモト=サンはお前やドミナント=サンを随伴させることで、人材育成室としてのソウカイヤへの貢献を考えさせるおつもりだろうな」

 

大体あってはいるが、オニヤスに関してはラオモトの気紛れである!ナムサン!

 

 

「温泉旅行中、オニヤスは俺とドミナント=サンから離れるなよ。ヒュージシュリケン=サンやアースクエイク=サンはやや邪悪だし、インターラプター=サンは実際戦闘狂でアブナイ過ぎる」

 

中距離からソニックカラテで攻撃出来るソニックブームならまだしも、近距離で自爆ダメージ覚悟でジェット・ツキをラッシュする戦法を採るオニヤスは、インターラプターの絶対防御カラダチとの相性が最悪に近い。

 

「ハイ!アニキ!」

 

「そういうソニックブーム=サンはブレイコ未経験なんだから、ボクから離れないように」

 

「アッハイ。それを言われると弱るぜ」

 

ソニックブームが困った表情で頷くと、ドミナントはその豊満な胸を張り、任せろというかの如き仕草をした。


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