教室。
中学の教室とは違う新鮮な感覚。
机や椅子がオンボロではなくピカピカのあたり流石はエリート高校だ。
がその程度であくまで見た目は綺麗な教室というだけだ。とても特別にはみえない。
その教室で割り当てられた、窓際の特等席に腰をおろす。
九つの組のうちの二組の教室。
キョロキョロと周りを見回す。
この教室でともに一年を過ごすクラスメイト達の顔ぶれを確認する――――
「あいつはこの教室じゃないのか」
あいつ、というのは朝登校中でみた『帝ノ月』の奴だ、名前が分からなかったので実際に教室に入るまで分からなかったのだが、どうやらこの教室ではないらしい。
その事実に、安堵する――――
あいつの目を見たときに感じた悪寒、一緒にいると苛められるととか、そういう分かり易いこととは違う。もっと危険で得体の知れない恐怖――――
そんな奴と一年ともに過ごせるわけがない、気が狂ってしまう。せっかく入学できたというのにそれで登校拒否にでもなったら笑いごとではない。
いや、まあ他人から見れば必死で入学したクセに苛められっ子にびびって不登校になるなんて笑い話にしかならないだろうが。
だがもう一つ困ったことがおこった、あの『帝ノ月』の奴――――このクラスの会話から聞いたがどうもそいつの名前は一瀬グレンというらしい、
俺のような孤立したやつとは違い、後ろ盾がある。だから学校に二人も従者を置くことができるのだろう。しかも主を侮辱されて憤っていたのをみると心から従者として仕えているようだ。さて、なぜこんなことを今考えていたのかというと――――
「なんで従者の片方がこのクラスに来ちゃうんだよ……」
嫌悪や、一瀬の従者であることへの憐み、容姿への下卑た目線などがごちゃごちゃに向けられているその従者の席を、席順が記されているプリントで見る。
それが彼女の名前のようだ。主の一瀬グレンは得体の知れなさが怖かったが、こちらからはあの得体のしれなさは感じられない。
まあ、凍てついたようなクールな雰囲気がそれだけで十分に俺を怯えさせてしまうのだが…。
とにかくここはアレと同じにならなかっただけよかったと考えよう。クラスメイト全員と仲良くならねばならない理由もないし、おそらくあの従者に関わらなければあの『一瀬』と俺は全く接点のない赤の他人のままでいられるハズだ。
とそこで根本的な問題に気づいた。『クラスメイト全員と仲良くならねばならいない理由もない』と考えたが――――
――――はたして俺がこの学校で仲良くできるやつなんているのだろうか?
中学の頃はその場その場でなんとなく仲良いっぽくして、それでいて奥には踏み込まないという方法で過ごしていたが、この学校では家柄や能力がダイレクトで人間関係につながるようなところだ。
家柄なんて大層なものも持ちえず、能力も努力はしたがこの学校では下位の下位、仲良くどころか名前すら覚えられない可能性すらある……。
孤立でもすれば一瀬ほどではないにしろ苛められることになるだろう。
――――それは御免だ。それは絶対に嫌だ。
折角ここまできたのだ、使い潰され、だれにも気に留められず消えるのが嫌でここまで来たのだ。
なのにその行先でさらにマイナス要素が増えるなんてことはしたくない……。
だから考える。この学校生活で自分の運命を変える方法を―――
と、そこでおそらくこのクラスの担任であろう教師がこの教室に入ってきて、言う。
「さて、みなさんは今日からこの第一渋谷高校の一員なわけですが、日本最高峰である呪術学校の生徒としての矜持と自身を持って、実りある学校生活を送れることを願っています。」
なんて定例文のようなことをにこにこと言ってくる。だが無視もできないので思考を中断し、目を担任にむけ、真摯に聞いているように装う。
それからその担任はとても担任とは思えないことを付け加えた。
「まあ、若干一名『生徒』と言えるか怪しいですがね」
にこにこ顔が豹変する。他人をあざ笑う顔。他人の不幸で愉悦を感じている顔。
…改めてこの学校が『普通ではない』ことが分かる、さっき教室を見て、「思ってたより普通だ」なんて思った自分をぶん殴りたいほどに。
生徒達もその笑顔につられて笑う。雰囲気がそれで塗りつぶされる。空気に流されて俺もへらへらと笑う。
いつもどうりだ。
他人に嫌われないために居場所を得るために周りに流される。なにも特別なことはしていない。なにも感じない。
その渦中の、『一瀬』の従者だけが笑っていない。
周りは全員笑っていた。
合法的な――――苛め。
あれだこれだと罵詈雑言が舞う。そんなことをクラスがしているうちにそろそろ入学式の時間が迫ってきた。
「静かにーそろそろ入学式の時間だ。行きますよ。廊下に並んで下さい。」
担任の教師の一言で騒がしかった教室がじょじょに静まり、生徒達が席をたって行く。
俺も席を立って廊下に並ぶ。
「たしか入学式には主席で入った
自分とは真逆の頂点としてこの学校に入った同学年の天才。気にしない訳がなかった。
「どんなこと……言うのかな」
定例文のありがたいお言葉か、見下した嘲笑か、優しい慈母の様なことを言うのか、それとも天才として凡人には到底理解できないことを言うのか。
どんなスピーチをするのだろうと考えながら城李士功仁は入学式へと向かった――――