ジリリリリ
耳の横で目覚ましが馬鹿騒ぎをしだす。朝の合図――――
「う゛、うーん」
と呻き声を上げながら目覚まし時計にチョップをおみまいし、ベッドからぬけでる。
「もう……朝か」
なんて誰にいうわけでも朝の気怠さからかなくなんとなくそんな事を呟く。
あの入学式からもう一週間以上が経過した。
キツイ事は覚悟していたが、本当にキツイ。まるで毎日が受験みたいな感覚だ。容赦なく精神がすり減ってゆく。
まあ、中学でも、自主的にこの高校に入るために無理をしていたせいで、そのおかげで無理にたいして耐性ができているから精神的には耐えられる――――……本当のことを言えば『耐えられる』というより家の問題で半分自棄になっているのが正解だが。
逆に体は疲労がとれず疲れっぱなしだ。
もしかしたら無理してこの高校に入ったのは愚策だっただろうか?と中学生活を犠牲にした癖して今更逃げ出したくなるほどに。
おまけに・・・クラスにはあまり馴染めていない。このままでは本当にぼっち街道まっしぐらだ。
「ちょっと……不味いかなあ」
幸い、みんな一瀬に集中しているため、孤立しても苛めは受けずにすんだが。
歯を磨きながらそんなことを考える。
朝メシを昨日の残りもので手軽にすませ制服を着、学校にいくための身支度を終わらせる。
時間を確認すると学校に行くまでまだ時間が一時間近くあまっていた。
別に目覚ましの時間を間違えた、というわけではない。意図的に起きる時間を早めているのだ。
なんのために?かというと周りに置いてかれないための自習時間のため――――つまり朝練のためだ。
ここはあくまでアパートのため小規模な呪術行使しか不可能だがそれでも呪術展開の速度に問題がある俺には充分練習になる。
それに疲れて本業の学校がおざなりになったら本末転倒というものだろう。
そんな練習でうんうん唸っているともう時間だ。
集中していたせいで時間の流れが早い。
「さあて行くか」
俺は学生鞄を持って学校に登校するべく玄関へと向かった。
◆
学校の校庭での全校演習。
相手を自分で決めて組手なり呪術戦なりの演習をする半場自主訓練のようなもの。
そこで城李士は――――
「対戦相手どうしよ……」
孤立していた。
確かに苛めてくるやつはいなかった。
だがしかし、相手してくれるやつもいない。
孤立、中学三年くらいからこんな感じに孤立することが多くなった気がする。
――――やっぱり強く踏み込めないのが原因か……
城李士は――――俺はまともに友達とかそういういつも一緒にいるような人をつくった事がない。
だいたいその場の空気にしたがって軽く混ざる程度だ。「もしかしたら他人を不快にさせるかもしれない」と思ってしまい怖くて踏み込みこめない。
その生き方が、祟ったらしい。
中学の頃は何もしなくても取りあえずで一緒にいられたが、高校でもなるとグループ意識が強くなって俺が入る余地がなくなってしまったのだ。
更に言えばこの学校は家柄とかの影響が強い。学校に入る前から家の関係で知り合いだとか、上層の家柄ならそれだけでグループができてしまう。尚更俺には分がわるいというもの。
とにかくこの状況をどうにかせねば、ずっと一人で突っ立っていたらさぼっていると勘違いされるかもしれない。
毎日が受験戦争みたいなこの校風でそれは致命的だ。
誰かいないかと周りを見回す。と一人孤立している人がいた。
嫌われ一瀬の従者の一人、雪見時雨――――
正直、嫌だ。
あの一瀬と接点を欠片も作りたくはない、でも、このまま突っ立てればさぼっていると思われてしまう。
八方塞とはこういうことを言うのだろう、なんて考えていると。
「……」
あちらもこっちに気づいてしまった。
お互い孤立している。これで背でもむけて逃げれば完全におかしいと思われてしまうだろう。……思われたところで実害はないかもしれないが、それでもそのプレッシャーだけで俺を行動させるのには十分だ。
意を決して話しかける。
「あの、相手お願いできますか?」
本心ではないといえ、入学当初に周りとともに雪見時雨を俺は嘲笑ったのだ。その相手に1対1で話かける、背中が冷や汗で濡れて気持ち悪い。
「……分かりました」
とひんやりとした返し。
それだけだった。
自分を笑った相手に対し恨みごとも吐かず睨んでもこない。
――――本当に一瀬グレンというのは何者なのだろう。
高校生とは思えないこの冷静な従者の主、従者に守ってもらいっぱなしの腰抜けと罵られているが、本当にそうなのだろうか――――?
本当にそうであるなら、その方がいいのだが。
「早くしてください」
そんな事を考えるていると雪見さんが急かしてくる。
「あ、すいませんすぐに」
といってポケットから数枚の呪符をとりだして術式をくみあげて――――
嫌な――――――予感がした。
自分の術式を組む速度は、自慢ではないがかなり遅い。
正直、他の生徒からみれば隙だらけだろう。なのに、雪見はゆっくりとその場に佇んでいる。
俺の呪術なんて受けてもどうってことないという自信だろうか?――――いやおそらく、違う、このみるからに冷静そうなやつがそんな分かり易い慢心をするのか?
雪見から目を離し、頭を動かさず目だけで左右を確認し、下をみて、違和感に気づいた。
細い、地面と同じ色のとことんばれないようにされた――――糸。
いったいいつ仕掛けたのだろう。俺が考え事をしている最中か、それとも最初からか、俺が間抜けすぎて目の前でやられていることに気づかなかったか――――
それがゆっくりと動いていて――――そして次の瞬間、一気にそれが引かれた。
雪見も、罠がばれたのに気付いたのだろう。
その糸の先についてるのは呪符か得物か、一応致命傷にはならないよう訓練用に調整してるはずだが。あたれば怪我は避けられない。
痛いのも勿論嫌だがそれ以上に怪我をすれば学校生活に支障がでかねないだろう。
だから全力で避けなければならない。だが、どう避ける――――?
呪術で体を強化なんてする暇はない。俺は術式を組むのが遅い。よって、跳んで回避、またはとんでくるモノを弾くなんてことは不可能。横に避けようかと一瞬思考したがこの罠は糸の先にナニカをつけたおそらく操作が可能な罠だ。
その程度では調整してあててくるだろう。ならば!
――――雪見のほうに全力で走る。
そうすれば雪見も自分の罠で自傷しないように罠を止めるだろう。普通に正面からも攻撃してくるだろうが、現状それしか方法はない―――――!!
極限状態で脳にアドレナリンが分泌されそんな思考を一瞬でする。いつもなら絶対にできないような思考速度。
「――――」
ほんの少し、雪見が表情を変える。
手には数本の暗器。
それを、投擲してくる。
「ううう゛おお゛お゛お゛お゛お゛りゃああ゛あ゛あ゛あ゛!!」
それを――――全力で避ける。
今まであまりやったことがない実践的な訓練のためか、必要以上に集中し、思考が限界まで加速して世界がゆっくりに見える。
投擲された暗器を避けきる。あとは顔の前に拳の寸止めなり、見せかけに呪符を張り付けるなどで決着にしてしてゲームセットだ。
右腕を振り上げ突進していく。
後ろから糸で引っ張られ、せまってきていた罠がこない。おそらく、俺の思惑どうり自傷しないために止めたのだろう。
いけるぞ―――――!!
「俺の、か――――――ッ!?」
あと3、4歩――――それで勝てる。だがそのあと少しのところで――――
――――更なる罠が城李士を襲った。
いや襲ったという表現は不適切だ。それは襲う罠ではない。
城李士の動きを止めるための――捕縛式。
振り上げた方の腕に呪術で操られた縄が後ろから飛んできて巻き付く。自分が全速力で走っていたせいで慣性の力で急にとまれず腕の関節に強い不可がかかる。更に腕を後ろに引っ張らる形になったため、そのままずっこけてしまった。
「ぐぁッ」と呻き声がでる。
縄に巻き付かれた右腕の肩の関節が酷く痛む、もしかしたら脱臼してるかもしれない。
俺が地面に仰向けに転がってるのを見て勝敗が決着したのを察した雪見時雨が近づいて言った。
「お相手ありがとうございました」
感情を感じさせない、定例文句だ。
それだけ言って雪見時雨は立ち去ってしまった――――
あと少し、なんてわけがなかった。
アレは全部罠だったのだ。
――――俺が最初の罠に気づいたのも。
――――投擲された暗器をよけられたのも。
最初の罠は、わかりやすくかつ、糸まで土色にするということでそれを見つけた相手から見れば『バレないように工夫した罠』だとみせかけそれで思考を誘導したのだ。
とくにあの暗器の投擲は最悪だった。
俺をわざとよけさせ罠の発動ポイントに誘導させていたのだろう。でなければあんな後ろからピンポイントに設置式だろう縄の捕縛式が腕に巻き付くはずがない。
そしておそらくあれはちょっとどころではない手加減していたように感じる。
やろうと思えば、一瞬で決着をつけることも可能だろう。でもそれをしなかった。
手の内をあかさないため、あんな参考にならない回りくどい方法で、さらに騒動を起こさないために対戦相手になるべく怪我を負わせない考慮まで入れて。
完敗だ。掌でおどらされていた。ぐうの音もないほどの敗北だ。
ゆっくりと縄を解いて肩を抑えながら立ち上がる。
「ちく・・しょう・・・!」
悔しくてそんな言葉が漏れた。改めて、自分の素養のなさを自覚する。
だが、反省は後だ。この肩の痛みが脱臼なら早々に保健室ではめなおして貰わなければならない。放っておけば悪化してしまう。
俺は痛む肩を押さえながら保健室へと向かった―――――
時雨ちゃんがヒロインになると思った?残念!このオリ主にヒロインなどない!
原作主人公に完全に惚れてるからそれを引きはがす展開なんてもの思いつかんし…