デュエル不平等な王国を平等にする話   作:あしゅき

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宣誓の声

 世界は暗雲に包まれている。「たった一人」がたった一枚のカードを操り、この世界、『ハルヅィド』は滅びを迎えようとしていた。

  事態を黙って見れなかった数多の勇者達は何度もたった一人に挑んだ。その数、百にも登ると言われているが、「たった一人」に傷をつけることは叶わなかった。

 百の勇者の中には賢い者がいた。彼は百年に一人の鬼才と呼ばれ、あらゆる敵を奇策を用いて葬りさっていく、王宮の中でも懐刀と呼ばれ、まさの彼は王宮の最終兵器であった。

 彼は数多の勇者を広場へ集め、隙間なく字を詰め込まれた紙を片手にこう言った。

 

「このチャート通りに進めば必ず奴を葬れる」

 

 その気迫に圧されてか、他の勇者はその言葉を信じた。実際かの有名な知略の勇者に今まで間違いなど存在しなかったのもあるかもしれない。そして彼らはチャートの示すままに複数人で「たった一人」に挑んだ。しかし傷をつけることはおろか、下僕を墓地へ送ることすらできずに葬り去られた。

 勇者の中にも後の世に真の勇者と言われる者がいた。普通の村で生まれた彼は古い遺跡に封印されていたカードを十全に使いこなせるその腕を王宮の使いに買われて勇者としてたった一人を倒すべく旅立った。その手に、幼馴染みである彼女の手作りのお守りを握りしめて。

 冒険譚にするには少し短い旅を終え、王都についた村人の彼はあの有名な賢い勇者が破れたことを知った。聞くところによると傷一つ付けれずに惨敗したらしい。

 玉座の座る王もこの報告を受け、顔を真っ赤にしてその場で怒鳴り散らした。

 

「誰かおらぬか。あの男を仕留めんとする真の勇者はおらぬのか。我こそはと思う者は頭を上げよ」

 

 その声は、城中に響き渡った。しかし目の前の勇者達は床を見つめることをやめず、従者達でさえ床から頭を離すことはできなかった。少しずつ時がたっていく内に、勇者達の心にも絶望という暗雲が少しずつ色濃く立ち込めていったその時、村人の彼は思った。

 

"ここで俺は逃げることができる。あの賢い勇者が倒れてしまっては、もう勝ち目などない。けれど、もし、俺があの村に逃げ帰ったら、残された少ない時間を全て、逃げた自分から逃げ続けるんじゃないだろうか。"

 

 ふと、指輪もまだ渡せていない幼馴染みの顔を思い出した。その表情は今の彼に思うところがあるのか、普段では考えられない程に皺をよせていた。村人の彼は自らの手が震えていることに気づいた、先程たった一人の恐ろしさを聞いていた時にはピクリともしなかった手が震えているのだ。村人は悟った、「自分を知っている女の方が万倍も怖い」ということを。

 王が再度声を張り上げようと拳に力を入れた時、村人は一人おじぎ草の群れから立ち上がった。そうして、彼は――――

 

 

「――はい、今日はこれでお仕舞い」

 

 幼い子供達の抗議の声が狭い家を震わせるほど上がった。なんでなんでと子供達が少女の肩を揺らす、少女はそんなことを気にも止めないといった表情で年期を感じさせる本を静かに閉じ、棚に収めて南京錠でしっかりと鍵をかける。鍵を持っているのはこの施設の管理者である少女だけだ、鍵を閉められた時点で子供達に出来ることはもう何もない。

しかし子供達はここまで来てもまだ抗議をやめない。横暴だ、とか、職権乱用だ、とか、こんなのってないよおかしいよ、等と色々と好き放題に叫び始める。

 そんな言葉どこで習ってきたんだろうと少女は思わず苦笑いを浮かべた。そんなに有害な本は与えてないと記憶しているのだが、世の中不思議なものだ。

 

「あんまり文句ばかり言ってたら、もう読んであげないよ?」

 

 めっ、と指を立てて注意すると子供達はえー、やだー等と喋り始め、部屋にいるのに飽きたのか次々に中庭へと走っていった。本も好きだが、それ以上に外で走る回る方が子供達は大好きなんだろう。いつ見ても駆けていく姿を見るとにやけてしまう。

 しかしこれで一人、やっと一息つけると安堵すると、今度は誰かが廊下から走ってくる音がした。子供達が忘れ物でもしたのかと思っていると、先生と呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「せんせー! デュエルモンスターズ教えて!」

「あっ、"ルピス"! また"あそこ"からカードを拾ってきたの? 危ないから駄目って何度も言ってるのに」

「だってせんせーが教えてくれるデュエルモンスターズ楽しいし!」

 

 困った子達だなぁと思っても、本気で叱るような真似はしない。確かに危ない事だとは分かっているのだが、カード一枚でルピスはこんなにも楽しそうに笑ってくれる。自分の幼い頃と全く同じ様に喜ぶルピスを見て、それを奪うようなことは少女には到底できないことだった。何もこもっていないため息を一つつく。机の引き出しからデッキを二つ取り出し、床に置くと少女は膝を叩いた。

 

「さ、いらっしゃい。今日のデュエルの授業を始めるよ」

「うんっ!」

 

 

 王都『リリヴェス』は"三大陸"の中で最も大規模な街であり、それと同時に最も貧富の差が激しい街でもある。

 街の中枢部にある巨城を中心に囲むように大きな屋敷が数百ほど建てられている地域は貴族街と呼ばれ、上流階級の者達が王の恩恵を受け暮らしているが、この地域にはまるでと言っていいほど事件が起こらない。極稀に泥棒等が入るようだが、基本は警備が強固なので失敗し、打ち首にされる。

その地域を囲むようにあるのは普通は平民街なのだが、ここで一気に差がつく。上流階級の出すゴミすら生きるために自分の物にしようと必死にしがみつく者達が住む地域、貧民街が貴族街を取り囲む形で存在している。

 貧民街はこの世の地獄を表したような場所だ。暴力行為は頻繁に行われ、死体は当たり前のように転がり、上流階級は虫を貶すように虐げる。誰一人心に豊かさを持ち歩くことが許されない貧民街にも、憩いの場と呼ばれる建物が存在する。

それが「アリクル孤児院」、悪に染まった貧民街に許された唯一の豊かでいれる場所。ここでは珍しくもない捨て子や、親を亡くした子や、預けられた子などを引き受け、全うな人として世に送り出す施設として貧民の間でも有名である。

 その院長、"ユエル・アリクル"は経歴不明の18の少女だ。何故孤児院を建てる財力を持っているのか、この地獄でどう食料を確保して子供たちに分け与えているのか。そんな小難しい疑問からスリーサイズまで謎の多い少女である(一説にはバストは少なくとも70はあると言われているが、定説したものは既にこの世にはいない)。

 孤児院で送られる一日はどこの家庭とも変わらないものだ。日が昇る頃に寝床から立ち上がり、朝食を作り、本を読み上げ、昼まで遊び、昼食を食べた後には昼寝をし、起きたら勉強を始め、夕食を食べて寝床に入る。

 何年間もサイクルしてきた、何も変わらない緩やかな日常。遊ぶ子供だけでなくそれを見つめる大人たちにも幸せを与える憩いの場は

 既に紅蓮の暴力に包まれていた。

 

「ルピス、後は貴女だけよ。早く逃げて!」

「せんせーもいっしょにいくの! 絶対あぶないよ!」

 

 孤児院から抜けた森の中、院長であるユエルと孤児のルピスは小さな声で話し合っていた。ユエルの手につけられているのはカードの束であるデッキが装着された金属製の盾を模したディスクだ、ユエルは多くの子を逃がすための囮兼盾になろうとしているのだ。

 青い瞳が特徴のルピスはまだ七歳の少女だ。七歳には難しい世の中の流れやユエルが家計簿なるもので頭を抱えているのを見ても困っていることぐらいしか理解できない小さな子供だ。けれども、今この瞬間で分かることが一つあった。ユエルではあの男たちに敵わないということを。

 

「"ユエル・アリクル"……。子供を逃がそうとは聖母のような考えをしているな。思わず拝みたくなるほどだ」

 

 バキリ、と枝を掻き分ける音と共に現れたのは、仰々しい鎧を身に纏う男が二人。腕には『Sacrifice』と書かれた盾と良くにた金属製のディスクとそれにセットされたカードの束。『Wrest』と彫られた兜の奥に光る目は、前にいるユエルではなくそれが庇っているルピスを捉えていた。ユエル・アリクルはその騎士の目に怒りを表情に出し、ぐるりと振り返る。

 

「ッ! 黙りなさいっ。騎士の恥知らず共!」

「あれ、隊長。俺らもしかして嫌われてないっすか? まだ爆弾をつけた覚えも起爆させた覚えもないんすけど」

「黙っていろハジメ。ユエル・アリクル、用があるのはそちらの青眼(ブルーアイズ)の子供だけだ。その子を差し出すだけでいい、そうすれば孤児院の再建、その他諸々は我々"騎士団"が受け持とう」

「黙りなさいと言ったはずです。ルピスには何の罪もありません!」

 

 ユエルは孤児院の子供たちにも見せたことないような鋭い眼光で男たちを睨み付けるが、隊長と呼ばれる男はそんなものをどこに吹く風のように扱い「あるではないか」と呟いた。

 

「不法魔札所持罪、我が『リリヴェス』では極刑にあたる重罪だ。ユエル・アリクル、こんなことは猫であろうと知っているぞ。犬でさえカードには近づかないというのに、その子供は恐れ知らずのようだな」

「くっ!」

 

 目の前の男を殴れない代わりに空気に裏拳をかますような動きと同時に、金属製のディスクは"決闘"に最も適した形態へと変型していく。周囲の光を吸い込みエネルギーを確保、その後金属製の盾は二つに別れ、双刃剣のような姿となり中央の4000と書かれた液晶を軸とした円盤に吸い付くように合致する。それと同時に《Duelmode ON》とネガティブな音声が暗闇の森に響く。

 

「我々に敵対するつもりか。ユエル・アリクル」

「これ以上貴方達の不快な問答をするつもりはありません。私を従えさせたいのであれば、決闘で勝敗を決しましょう」

 

 ハジメと呼ばれた男は「分かりやすすぎて涙が出るね」と一言もらし、隊長と呼ばれた男は「愚かな」と呟き、ユエルと同じように盾を展開しディスクとしての機能を起動させた。それと同時に、ユエルはモノクルに手を伸ばし、スイッチを押しその本当の機能を呼び覚まし、その動きを見て騎士の二人も兜側面のスイッチを押した。

 

「「「Dゲイザー、ON!」」」

《デュエルターゲット。ロックオン》

「「「決闘(デュエル)ッ!」」」

 

 

 

「………宣誓の声、か」

 

 決闘を始める者たちの所より少し離れた所、布を纏う男はその手に持つ焼きたての魚を置き、視界の悪い森の奥へと歩き出す。火も持たない男の道先を照らすのは、静かに満たされた月だけだった。




・ハルヅィド……スタンダートより遥か彼方の次元に存在する。一度大きな災害に襲われている。

・リリヴェス……絶対王政主義国。デュエルに自由はない。

・騎士団……王政の忠実なる僕。デュエルによる処刑を許可されている。

・ユエル・アリクル……孤児院経営者。憐れみからか孤児を引き取って一般教養を教えている。

・ルピス……幼女(七歳)。青眼が特徴の孤児。ある出来事からデュエルが大好き。食べ頃。
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