ガンダムビルドファイターズ アナザートライ 作:慢性睡眠不足
三月も下旬となったある休日の朝、拓也は自室にてガンプラの製作に取り掛かっていた。
「うーん、どうしたものかなあ。」
腕を組んで考え込む拓也の目の前には一体のガンプラがあった。
六角形に整えられたクリアパーツは一回り大きな白い台座に埋め込まれ、その縁には内部にまで深く切れ込んだスリットが各辺に二つずつ刻まれている。クリアパーツの表面にはXの模様が彫られ、その内部にも複雑な構造が見て取れた。
「とりあえず両脚のふくらはぎを挟んで計四つ。フロントとリアアーマーに二つずつ。肩アーマーの前後に一つずつで計四つ。腕部にやや小型のを一つずつ付けて合計して14箇所。本体はこれぐらいでいいか。追加のバックパックとエネルギーポットの分は別形状で新造しよう。で、問題はと。」
ここ数日、集中して製作に取り掛かっていた拓也はその成果を確認すると改めて現在頭を悩ませている問題に目を向けた。
その視線の先にあるのはパーツ状態でバラバラにされたディバイダーである。展開機構とシールド部分の拡大強化に加え、他にもいろいろと詰め込みすぎたため、重量が想定以上に増してしまったのだ。
このままだと腕や肩の間接部に負担がかかりすぎ、長期戦ともなれば不具合が出る恐れがあった。しかしこれ以上間接部の強化は動きに支障が出る。またいざとなれば他の機体に貸し出す事も想定している以上、軽量化は必須であった。
拓也達はガンプラの仕上げと習熟に一ヶ月を見込んでいた。せっかくの優れた機体を造り上げてもそれを手足のように扱いきれなければ意味が無いからだ。連携の確認や、補助武装の有無の判断もやはり実機を使って試す必要がある。基本的に手をかければそれだけガンプラの性能は向上していくのだから、時間はどんなにあっても足りないのである。
「とにかく機体本体はこれで良いとしとこうか。バックパック類の製作も二日あれば可能だし、ディバイダー以外の武装はほぼ完成……。とりあえず今週中にはディバイダー以外は仮組みでの実働テストまでは持っていけるか。」
来週には賢士朗が帰ってくるため、お互いの進捗状況の報告と確認の意味で綾の新居に集まる事になっている。メールでの報告は欠かさないものの、やはり百聞は一見にしかずの言葉通り実際に目で見るのが一番であった。
各人の報告によれば綾はひとまず機体を完成させ、すでに実働試験も済ませたらしい。現在は追加する武装を考案中らしく、度々アドバイスを求めてきた。
一方の賢士朗のほうも、何とか本体は完成の目処が付いたらしい。武装については多少遅れているらしいがそれでも間に合いそうだと先日の電話で彼は胸を撫で下ろしていた。
拓也も懸案となっているディバイダー以外は順調と言ってよい。
「ディバイダーはバランスの見直しと追加機能の選別で何とかするしかないか。」
ひとまず今後の方針を決め、とりあえずバラバラだった試作型のディバイダーを組み直しつつ、搭載機能の取捨選択を行っていた拓也に聞き慣れたアラーム音が時間を告げる。
本日は改造用資材の調達と補充のため、いつもの模型屋に顔を出す予定であった。ついでに気分転換も兼ねてバトルでもしようかと考えた拓也は、机の上をしっかりと片付けてから部屋の片隅に置かれている小さい棚の前に立つ。そこに飾られているガンプラの幾つかを選び、先程試作したディバイダー共々保護ホルダーに突っ込んでカバンに詰めた。
母は外出中だったため、隣の部屋の兄に一声かけてから外に出る。ここ数日家にこもりがちだった拓也を春のやわらかい日差しが暖かく出迎えた。近くにある公園の桜もぽつぽつと花を咲かせている。
春の陽気はうららかで、停滞気味だった拓也の気分を自然と高揚させた。
春休みという事もあって店内には学生を思しき若者が多かった。その多くには見覚えがあるが、中には常連である拓也も知らない顔が少なからず混じっている。
春は出会いと別れの季節。一年の内でもっとも店に来る顔ぶれが変わる時期である。
バトルシステム周辺がやや過熱気味に見えるのも、常連による新顔の見極めと歓迎によるものだろう。何せファイターという人種は老若男女関わらず常に強者に飢えている。強い新参者は彼らにとって望むべきものなのだ。
自他共に認めるファイターである拓也もその例の漏れず、その熱気に乗せられ早速バトル申請を出そうとして思いとどまった。今日の第一の目的はあくまで資材の調達である。楽しみは後に取っておこうと拓也はその場を後にした。
手早く目的のものを手に入れた拓也が戻ってみると、人数が増えてきた事もあってか丁度6人同時対戦のバトルロイヤルを募集していた。参加人数が多いらしく拓也が参加申請を出したときにはすでに三戦目の募集になっていたほどだ。
時間は多少かかるが、新旧の面々の腕を見るいい機会だと考えれば全く苦にはならない。そう思った拓也はバトルを見やすい位置を確保して観戦に回った。
「ここでサボりですか?製作の方はどうなっていますか?」
しばしバトルに見入っていると突然、丁寧だが冷ややかな声が後ろから拓也にかけられる。振り返ると笑顔を浮かべた綾が近くに立っていた。手にはプラフスキー粒子対応の加工用プラ板やヤジマ商事謹製の粒子変容塗料の容器などが詰め込まれた白い袋を提げている。
「ああ、改造用の資材の補充と気分転換。あと新顔の確認だ。」
拓也は努めて明るく答えた。ここでオタオタして引くのは悪手であると拓也は過去の経験から学んでいる。嘘もサボりも許さないとばかりの綾の冷たい視線に対し、拓也は言葉でもって立ち向かう。
「まあ、天気も良かったし製作も一段落したから散歩がてらってのもあるか。そういう綾はどうしてここにいるんだ。見ればずいぶん買い込んでるようだけど。何か大がかりな改造でもするのか。」
すでに接着や塗装を残してほぼガンプラは完成し、仮組みによる実働テストでも特に問題は無かったと聞いていた。だが彼女の手にある資材は調整や補助武装製作に使うにしてはずいぶんと多い気がしたため、拓也は尋ねてみる。
「はい、これですか?いえ造るにしても補助武装や換装用のユニットぐらいでそこまで大改造は考えてません。これは予備パーツなどに使うためのものです。思ったよりも早く引越しの片付けも終わりましたし、これから忙しくなりますから、まだ余裕のあるうちに作り始めようかと思いまして。」
拓也の問いに綾はあっさりと答えた。彼女の一家が数日前に引っ越しをしたのは聞いていたが、もう製作環境を整えたらしい。相変わらずやる事が早いと拓也は感心した。
「こっちも報告通り機体本体は出来た。ディバイダーを除けば武装はすでに完成済みだから、後はバックパック類だけ作れば一応実機テストまでは持ち込めるはずだ。問題のディバイダーは機能の選別からやり直しだけどな。」
「その出来は来週集まった時に改めて確認させていただくとしましょう。ところで誰か面白い人は居ましたか。」
ひとまず互いの近況を確認し終わった後、興味津々といった表情で聞いてきた綾に拓也も答える。
「あそこの隅に居る二人の男女。見慣れない顔だけど男の方はさっきのバトルロイヤルでタカさんとハム坊下して勝利してた。腕も良いけど粒子の消費を抑えた戦い方といい、位置取りの優先順位といいどうも連携を意識しているように感じる。」
そういって拓也が視線で示したのはバトルシステムの喧騒から少し離れた場所にいる一組の男女であった。拓也たちよりも一つか二つ年上だろうか。さりげなく周囲を見回している男子の方は背が高く、すらりとしている。鋭い目つきだが、そこに暗さはない。あれはただ強者を探しているだけだろうと拓也は考える。
使用していたガンプラは黒いZガンダムの改造機で、大型化されたバックパックと差し替えフレームを利用した変形機構が目を引く機体だった。
また二丁のライフルを巧みに操り、瞬く間に相手を落としてい戦い方は鮮やかで、その操縦技術も高い。
先程彼が相手した顔見知りの常連二人も決して弱くは無いのだが、それを同時に相手をしてあっさりと落としたのだからかなりの腕の持ち主だと拓也は見ていた。
一方女子のほうはやや小柄で赤みがかった髪をショートカットにしている。隣の男子と髪の色が同じで顔立ちも似ているところを見ると兄妹だろうか。こちらは周囲には目もくれず、手元のガンプラの調整を一心不乱にしていた。
距離があるので正確にはわからないが、その手際のよさからガンプラの出来栄えもかなりのもののように拓也は思えた。
「なるほど、強敵かもしれませんね。」
同じことを思ったのか綾もそれを認めた。その証拠に一動作も見逃さないとばかりに彼らを真剣に観察している。そんな綾を見て苦笑しつつ、拓也は現在の愛機を取り出して言った。
「さて、こっちそろそろ出番だ。楽しませてくれるかな。」
視線の先には次のバトルに参加しようとシステムに近づく強敵と思しき女子の姿があった。
「ふん、こんなものか。」
父親の転勤の都合で隣町に引っ越してきてから数日。偶然見つけた模型店にチームバトル対応の大型バトルシステムが設置されていたのは望外の喜びであったが、そこのファイターの質に関してはいささか期待はずれであった。全国でも有数の激戦区であり、元いた場所に比べればファイターの質も高いのだが、それでも啓太の心を躍らせるほどの相手は見当たらなかったのである。
その思いは妹の
顔立ちは良く似ているといわれるが、暗いといわれる啓太に輪をかけて無愛想な妹である。その淡々とした性格はバトルの仲間としては常に冷静でありがたいが、話し相手としてはいまいちであった。
そんな事を考えつつ強そうな相手を探して啓太が周囲を見回していると、急に妹が立ち上がった。見ればバトルロイヤルも決着寸前である。どうやら妹の順番が来たようだと理解した啓太は、兄としてバトル台に向かう彼女に一声かける。
「まあ、調整具合を試すと思ってやってこい。」
兄の啓太の言葉に軽い頷きだけで応えた凛歌は、すいすいと人ごみを通り抜け、決着が着いてフィールドが解除されつつあるバトルシステムへと向かう。啓太も妹の戦いの様子とガンプラの調整具合を確認するべくバトルが良く見えるであろう位置へ移動した。
妹と同じバトルロイヤルに参加する相手の内、半数はすでにその戦いぶりを見ていた。なかなかの腕だが妹の敵ではないだろうと啓太は判断を下す。残りの二人の実力は不明だったが、それもバトルが始まればすぐに分かるはずだ。どちらか一方でも強ければまあそれで良し、そうでなくても妹の戦いぶりとガンプラの調整具合を確認できると啓太は考え、観戦モードに入る。
しかしその後の展開は啓太の予想を超えて大きく推移した。
タグを編集してチーム戦をはずしました。復活するまで暫くかかります。はやく大会まで行きたいなあ。
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