ガンダムビルドファイターズ アナザートライ 作:慢性睡眠不足
本編と絡めた番外編です。一部本編と変わったところがありますがご容赦ください。
私、
先々週のGミューズでの最終テストも終わり、いくつかの改良点はありましたが、大幅な変更も無くこのまま完成を目指すことになりました。現在は予備パーツ作成の傍ら、ヤスリ掛けと塗装の日々を送っています。大会まであと二ヶ月ほどですが、今のところは順調に進んでいるといっていいでしょう。
中学生活も戸惑う事はありますが、何人かの人との友誼も得られ、こちらも順風満帆といった生活を送っています。最も今私の頭を悩ましている問題を除けばですが。
「アヤちゃん、アヤちゃん。そろそろ部活決まった。もうそろそろ締め切りだよ。随分悩んでいるみたいだけどどうするの。」
そう言って私の机に身を乗り出してきたのは
「いいえ、アスカさん。私まだ悩んでいます。いくつか見たい部活は回ったのですが、どれもしっくりこなくていったいどうしようかと。
」
私の返事にアスカさんは小首を傾げて問い返しました。
「あれ、前に聞いたときにはプラモデル部かガンプラバトル部に入るとか言ってなかった?見学には行ったみたいだけど、良くなかったの。」
彼女の問いにため息混じりに答えます。
「ええ、一昨日と昨日見学に行ったのですが、どちらの部活もちょっと思っていたのとは違いまして。他にもいろいろ事情があって結局止めにしました。そういえばアスカさんは美術部に入部するのでしたか?」」
「そうだよ、前からちょっと興味があったからいい機会かなって。もう昨日のうちに入部届けを出してきちゃった。良かったらアヤちゃんもどう?のんびりした部活だから入部は大歓迎だよ。」
私の返事に、早速美術部員としてアスカさんは勧誘を始めました。見た目によらずなかなかたくましい人です。
「そうですね、入るかどうかはともかく後で見学行かせていただきます。とりあえず今日は母から薦められた茶道部か華道部にでも顔を出してみますね。」
とりあえず約束を取り付けた彼女が部活に向かう様子を眺めながら、私は数日の部活見学の顛末を思い返しました。
一昨日見学に行ったプラモデル部は現在三代目メイジン・カワグチとして活躍しておられるユウキ・タツヤ先輩が所属していた模型部の流れを組んだ部で、ここ数年はかなり高い実績を上げていると模型店のマスターからお聞きしていました。
現在でも部員は多く、活気があります。変わった髪型をしたミヤガ部長さんも眼鏡をかけた副部長さんも悪い人ではなさそうでした。活動日は多いようですが、週に一度でも顔を出せばいいらしく、あまり締め付けが厳しくなさそうなのもポイントです。
部の方針で製作、鑑賞に重きを置いているようですが、元々技術を向上させる場として活用させていただきたいと思ってましたので問題はないでしょう。もっとも観賞用とバトル用の製作ではいくつか異なる点もあるので注意が必要ですが。
私以外にも見学者は何人かいました。彼らに対して一通り部活の説明を終えた部長さんは次に部員の説明を始めます。その中で眼鏡をかけている二年の先輩の顔に見覚えがある気がしますが、なぜでしょうか。その疑問を抱えたまま彼の紹介の番がやってきました。
「彼の名前はコウサカ・ユウマ君だ。去年多くのコンテストで入賞を果たしたうちのエースだよ。」
部長の紹介に見学者がざわめきますが、私はようやく彼のことを思い出しました。数年間に三人でコンテストに片っ端から参加していたときに何度か見かけたことがあります。
当時は何度かコンテストの優勝を争った事もあったような気がします。最も私は製作技術は拓也さんや賢さんに比べれば高くないのでお二人と違ってあまり彼と争うことは無かったのですが。そのせいでしょうか、すぐには思い出せませんでした。
そういえばその時は良く笑う少年だったと記憶していますが、今はどこか暗いものを抱えた雰囲気を纏っています。反抗期か何かでしょうか。彼はあまり愛想を見せることも無いまま、紹介は次の人へ移りました。
ひととおり説明が終わると、今度は部室の中を見学する事になりました。他の見学者さん達の多くはコウサカ先輩のところに集まっていますが、私は特に興味を持たなかったので他の部員さんや設備の方を見て回りました。皆さん手際が良く、道具類も豊富です。隅のほうで塗装をしていた先輩の話もなかなか面白く、有意義な時間を過ごせていました。
ところがしばらくすると雲行きが怪しくなります。切っ掛けは部長さんに今後の予定を尋ねられたある見学者さんがガンプラバトル部について話した事でした。その名前を聞いた瞬間に部長さんの機嫌が悪くなり、バトル部の現状を語りだしました。
「あー、また始まったか。」
私と塗装について語っていたハザマ先輩がその様子を見て呟きました。
「バトル部とは仲がよろしくないのですか。あまり良い物言いではありませんが。」
私の質問に彼女は苦笑しつつも話し出しました。
「うーん、どちらかというと部というよりも部長を始めとした一部の部員がかな。あの人、今のバトル部の部長に気があってね。よく勧誘しては振られているんだ。それにバトル部は今その人しかいないから、まとめた方が楽なんじゃないかって事もあってね。」
三年の先輩といえば、部活紹介で見たあの活発な女性の先輩の事でしょうか。ここ数年は目立った成績も無くかなり没落しているようだと思っていましたが、どうやら想像以上だったようです。
「ヒカワさんもバトル部の見学に行くつもりなの?」
ハザマ先輩がそう聞いてきました。向こうで演説をぶち上げている部長さんに気を使ったのかその声はやや抑え目です。こちらも小声で肯定の返事を返しましたが、先輩は難しい顔をして言いました。
「私は正直あまりオススメできないなぁ。あまり大きい声では言えないんだけど。でももし見学に行くなら気をつけてね。」
「はぁ、分かりました。」
とりあえず返事をしましたが、その忠告は気になりました。とはいえ話したくないのかバトル部についての話題はそれきりで、再び塗装についての話になります。
私が言葉の意味を理解したのはその翌日、バトル部へ見学に行ったときでした。
ガンプラバトル部は学校の裏庭の一角にありました。大きめのプレハブ小屋を部室としていますが、プラモ部の先輩の話では、現在の部員は一人らしく勧誘もなかなか必死に行なわれているようです。その成果か分かりませんが私が見学した日も私の他に6人ほどが見学に訪れていました。
正直にいえば昨日の先輩の忠告も気になっていたのですが、このバトル部は第七回ガンプラバトル世界選手権大会優勝者のイオリ・セイ先輩が設立に関係していたとマスターから聞いており、興味があります。もしかしたら彼が残したガンプラもあるかもしれません。見るだけでも参考になるでしょう。
外から部室の中をうかがうと、数人の見学者の間を走り回る中等部三年の先輩が一人います。おそらく彼女が件の先輩でしょう。そして部室の片隅で座ってその様子を眺めている中年の男性が一人。顧問の先生でしょうか。某大尉さんとよく似ていますが、どこかであったような気がします。
少々気になることもありますが、このまま外で見ているわけにも行きません。一声かけて中に入らせてもらうことにしました。
部室に入ってきた私の元へ勢い良くやってきた女性の先輩の名前はホシノ・フミナさん。中等部の三年生でこのバトル部の部長さんにして現状唯一の部員だそうです。少々強引なところもありますが明るく活動的な印象を受ける女性でした。
そのフミナ先輩によれば部室の隅で座って数人と話しているのはラルさんと呼ばれている方のようです。世界でもトップクラスのファイターで縁あってこのバトル部のコーチを務めているとお聞きしました。そういえば何年か前にどこかのコンテスト会場でマスターの知り合いとしてお会いした事があった気がします。あまり良く憶えていませんが、あとでマスターに確認してみる事にしましょう。
さて、フミナ部長さんからいろいろお聞きしつつ、いろいろ部室の中を見学させて頂きました。残念ながら目当てのガンプラは飾られていないようですが、歴代部員達の残したガンプラたちには興味を惹かれましたし、最新型ではないとはいえバトルシステムが設置されていたのは驚きました。廃部寸前とはいえ設備はしっかりしているようです。フミナ先輩の人柄も良く、ラルさんのお話も楽しく聞かせていただきました。
その時点では私の心は入部に傾きかけていたのですが、フミナ先輩の話を聞いて再考せざるを得ませんでした。
彼女の話のよればバトル部は毎年ガンプラバトル選手権の中高生の部に参加しているようです。部活である以上実績が必要らしく当然といえば当然なのですが、フミナ先輩自身もかなりの入れ込みようです。
一緒に全国を目指そうと力説してくださいましたが、残念ながら大会の規定でオープンチームバトル部門への参加者は中高生部門にはエントリーできません。仲間と一緒に目指してきた以上、その言葉には頷けません。
メインともいえる大会に参加できない以上、入部は歓迎されないでしょう。中高生の部も三人一組のチーム戦ですが現在の部員は先輩一人だけ。熱心に勧誘していますがどうやらまだ入ってくれる人はいないようです。すでに仮入部期間も半分が過ぎ、端から見ていてもかなり追い詰められているような気がします。
私のバトルの実力はなかなかのものだと自負しておりますが下手にそれがバレると面倒な事になりそうです。少々心苦しいですがここは黙ってやり過ごすとしましょう。
そんなわけでバトルシステムの体験はほどほどにして展示を見たり、ラルさんたちとお話したして見学時間を過ごしました。ところがその楽しい時間に思わぬ邪魔が入りました。
昨日の部長さんと副部長さんがやってきてその場で勧誘を始めたのです。昨日のプラモ部での物言いもどうかと思いましたが流石にこれはやりすぎではないでしょうか。
フミナ部長も食って掛かりますが、どこ吹く風と受け流しています。何でも同じ模型部の流れを組むもの同士協力し合おうとかいけしゃあしゃあといっています。
「だいたい、せっかく苦労して作ったガンプラを壊すなんて。自分が手をかけたものはやっぱり大切に飾って愛でるべきじゃあないかね、フミナ君。」
挙句の果てにはそのような論争を吹っかけてきました。先ほどまでのいい雰囲気に包まれていた見学会が台無しです。なるほど先輩の忠告はこのことだったのでしょう。
まあ確かにそういう考えもありますが、私から言わせて貰えば棚に飾って埃を被らせておくよりも、この手で自由に動かしたほうが面白いに決まっています。ガンプラは動いてこそ真に格好いいのですから。
そんな事を思いながらそのやり取りを見ていたからでしょうか、知らずのうちに視線がきつくなっていたようです。その視線に気が付いたプラモ部部長さんが私に目を留めて言いました。
「おや、君は確か昨日うちの部活に見学に来ていた新入生だね。どうだい、プラモ部に入る気はないかい?」
あなたのせいでその気はほとんどなくなりましたとでも言いたくなりましたが、自重しました。短気は良くありません。変わりに口から出たのは別の言葉でした。
「今、まだ考え中です。ところでミヤガ先輩。今私達はそれを決めるための部活見学の最中なのですが、たいした用が無いのならば帰って頂けませんか。どんな思惑があるのかは知りませんが正直いって見学の邪魔にしかなっていません。」
多少言葉にトゲが入ってしまったのは仕方ないでしょう。とはいえ入学して間もない女の子のきつい発言に鼻白んだ部長さんは最後に嫌味たっぷりにバトル部について二、三話すと帰って行きました。その後ろで静かにしていた副部長さんもその背に続きます。私達やフミナ先輩には謝罪もなしです。
「ありがとう、ヒカワさん。おかげで助かったわ。」
代わりにフミナ先輩がそう言葉をかけてくれました。その気持ちはありがたく受け取りますが、その裏にあるもしかしたらバトル部に入ってくれるかもという期待には答えられません。あいまいに笑って流します。
そんな訳で再会した見学会でしたが、一度悪くなった空気を立て直す事は出来ず一人、また一人と帰っていきました。私も入部する気は無く、帰ってガンプラ製作にかからねばなりません。長居はせずに、フミナ先輩に丁寧にお礼を言って帰りました。
以上が昨日、一昨日の部活見学の顛末になります。とはいえ部活はどうしましょう。バトル部には入れませんし、プラモ部にも部長の不興を買ってしまった以上は諦めた方がいいでしょう。
一応母からはなにかしらの部活に入るように厳命されています。どうやら娘がガンプラに入れ込みすぎているように感じているらしく、他のことにも目を向けてほしいそうです。とはいえあまり部活に時間を取られてしまうと今度はガンプラの製作や大会の参加に支障が出てしまいますし、拓也さんや賢さんにも迷惑をかけてしまいます。
とりあえずは後二日でどこかよさそうな部活を探す事にしましょう。そう決めて私はまず母の薦めにあった茶道部へと向かいました。
ちょっとやりすぎたかも。