ガンダムビルドファイターズ アナザートライ 作:慢性睡眠不足
さて、いよいよバトル開始です。バトルフィールドは枯れ谷、起伏に富んだ地形が作り出す障害や死角を上手く利用して戦う事が重要となるでしょう。
相手チームの構成は部長さんがAEUイナクト、副部長さんがホビーハイザック、そしてコウサカ先輩が先日グランプリを取った改造ガンプラ、ライトニングガンダムとなっています。流石にプラモ部だけあって製作技術は高く、ガンプラも高性能です。
一方のチームトライファイターズ(仮)はフミナ部長が操るパワードジムの改造ガンプラ、パワードジムカーディガン、セカイ先輩が使用するビルドバーニングガンダム、そして私のウイングガンダム(EW)となります。
このウイング(EW)は普段私が愛用するTV版ウイングガンダムをリファインしたものです。武装や変形機構は大体同じですが、より多彩なカラーリングとシャープな形状が特徴となっています。
実はこのガンプラ、部室の棚に飾られたのは昨日です。それ以前はダンボール箱の中にしまわれていました。私が使用するガンプラを探し飾られていないものまで全てひっくり返し、その中で選び出したいくつかの候補の中の一体です。
高すぎず低すぎない完成度と使い慣れているウイング系のガンプラである事の二点が決め手で、使いやすいようにいくつか手を加えた後にこっそりと棚の奥のほうに目立たないように追加しておいたものです。
アルトロンやメリクリウスなど他にも以前使った事のあるガンプラはいくつかありましたが、廃部がかかっている以上いいかげんなことをするつもりはありません。無理矢理な勝負を挑んできたのは向こうなのですからこれぐらいの細工は多めに見てもらいましょう。
それに今回のバトルにあたり私には一つの思惑がありました。
フミナ部長とセカイ先輩にも話したのですが、いくら認めさせたからといっても私が間に合わせの人員でしかない事は明白です。その私がここで大活躍をしてチームを勝利に導いてしまうと、試合後に因縁をつけられてしまうかもしれません。私はあくまでもこのチームのマイナスの補充であってプラスになりすぎてはいけない助っ人なのです。
そこで部室のガンプラを使ったりして相手にハンデを与えた上で、フミナ先輩達が中心となってバトルに勝ちます。相手に有利な条件を与えた中で負かしてしまえば、何を言われても負け犬の遠吠えにしかなりません。
別に私は相手を甘く見ているわけではありません。しかし先月の見学会で見た製作技術のレベルやフミナ先輩からの情報で相手の戦力については大体見当は付けています。
ファイター蔑視発言を繰り返しているカマキリ部長が世界レベルまで強いとは思いませんし、以前はファイターとして小学生の部で全国を取っているユウマ先輩も、ここ数年はビルダーとしての活動に専念しているらしいのです。理由は不明ですが幼馴染のフミナ先輩が直接ファイターの引退宣言を聞いたようなので確かな情報でしょう。はっきり言ってブランク持ちに負けるつもりはありません。
ですが唯一謎なのが眼鏡をかけた副部長さんです。使用するガンプラは遠目からでもそれなりに高いレベルに見えましたが、ファイターとしての実力は未知数です。軽快しておきましょう。
一方、チーム〈トライファイターズ(仮)〉は安定した強さを持つフミナ先輩を筆頭に、ガンプラバトルは素人同然なものの、格闘技経験のおかげか間合いの取り方と対人での駆け引き、そして状況判断力に優れ、近接戦限定ならばビルドバーニングガンダムの高い性能と合わせて戦力として数えられるセカイ先輩が仲間です。
実は今回のフィールドはこっそりとこちらが決めさせていただきました。死角を生かして相手に接近しやすく、点在する開けて安定した足場により、まだ操作に慣れておらず空中機動が苦手なセカイ先輩でもその力を十分に発揮できる選択です。
一見相手が有利に見えて、実はこちらが利を得ている状況。油断さえしなければ勝利を得るのは難しくありません。
さてバトル開始後、高台に陣取るプラモ部チームと岩谷のそこに潜み相手の出方を伺うバトル部チームの構造でしたが、何を思ったのか副部長さんのホビーハイザックが突出してきました。囮あるいは罠でしょうか。しかし軽快しつつ放たれたフミナ先輩による攻撃はあっさりと命中し、撃破となります。
一体何がしたかったのでしょう。ともあれこれで2対3でこちらがリードです。
しかし相手もさるもの。フミナ先輩が攻撃の際に晒した僅かな隙を見逃さず、狙撃によってフミナ先輩のジム・ハーディガンのキャノン砲を破壊しました。それを受けて岩陰に身をしっかりと隠しつつ二人に話しかけます。
「今のはコウサカ先輩ですか。ファイターを引退して大分経つとは聞きましたが、思ったよりもいい腕をしていますね。」
同時に私は心の中で彼に対する戦力評価を情報に修正します。ともあれこちらの位置はバレました。このままだとこの場に足止めされつつ一方的に狙撃に晒されるでしょう。今度はこちらから打って出る必要があります。
「私が囮になってひきつけるわ。その間にセカイ君とアヤちゃんは距離を詰めて奇襲を。」
「いえ、ここは私が行きます。格闘主体のセカイ先輩では的になるだけですし、フミナ先輩には戦果を上げてもらわねばなりません。私が狙撃と注意を引き付けますので、セカイ先輩は死角を生かして見つからないようにコウサカ先輩のところへ。フミナ部長は私を援護しつつ前進して、プラモ部部長の突撃に備えてください。」
しぶるフミナ部長を説き伏せ、作戦を実行します。急上昇を駆けて枯れ谷の上に飛び出すと、さっそく攻撃がきました。次々と襲い来るビームをかわし、あるいはシールドで受け流しつつ相手の戦力を分析します。
「狙いは正確で、機の読み方も上手い。ですが思い切りに欠けるため、攻撃が素直で読みやすい。」
この程度ならばまだ距離を詰めても大丈夫でしょう。そう判断すると前進します。前に出るにつれ、攻撃は激しくなりますが、それらを上手くいなしつつも翻弄されているように見せかけて相手の注意を引き付けます。じりじりと距離を詰めながらもしばらくはそのような攻防を繰り広げていました。
「とはいえ、もう勘の良い方ならばこちらの思惑に気がつく頃合ですか。」
相手も警戒を強めているでしょうし、フミナ部長はともかくセカイ先輩が見つかるのは良くありません。ここは思い切って行動するべきでしょう。そう決めるとフミナ部長に通信を送ります。
「フミナ部長。相手に突撃をかけるのでプラモ部部長が出てきたら迎撃をお願いします。」
「ちょっと待って。いくらなんでも。」
「大丈夫、問題はありません。」
フミナ部長の心配を一蹴し、背部スラスターを全開にして一気に距離を詰めます。頻度と精度をます相手の攻撃は最小限の動きでいなして速度を維持。そして射程に入るや否やビームをかわしざまに右手のバスターライフルを構え、相手の位置に叩き込みました。
牽制の一撃なので狙いは甘かったはずですが、あっさりと回避したコウサカ先輩はともかく余波に巻き込まれて体勢を崩す部長さんの評価は下落します。これならフミナ部長に任せきりにしても大丈夫でしょう。そう判断した私はプラモ部部長を無視してコウサカ先輩に攻撃を集中します。当てる事よりもとにかく相手の攻撃を潰す事を優先し、抑えます。こちらの思惑は察せられているでしょうが、コウサカ先輩一人ではどうにもならないでしょう。
部長さんが突撃してきましたが、こちらはフミナ部長に任せます。一対一ならばほぼ確実に勝てるはずです。その頃には慎重に接近していたセカイ先輩もコウサカ先輩の下へと辿り着きました。
近接戦闘が始まり、私の出番もひとまずは終了といったところです。後はコウサカ先輩をセカイ先輩が抑えつつ、フミナ部長が部長さんを落とせば勝負ありです。二人の様子を眺めつつ、私は消費した粒子の回復に専念します。
ところが追い詰められた部長さんは思わぬ一手に出ました。フィールド内に新たな機体を投入すると損傷したAEUイナクトと合体、MAアグリッサとなってフミナ部長に襲い掛かったのです。ルール違反を詰るフミナ部長ですが、カマキリ部長はこれは選手権ではなく、バトル部の存続を賭けた身内試合だと言って取り合おうとしません。
そのあまりの物言いに私はカチンと来ました。大会ルールに則って3対3のチーム戦を要求した挙句に、不利になると一方的にその言を翻すとは。許せません。
フミナ部長もフィールドに捕まってピンチですし、ここは手を出させてもらいましょう。
なぜかバトルを中断したセカイ先輩とコウサカ先輩から一時目を離した私は、一気にアグリッサの元へと向かいました。相手もその優れた火力で迎撃しますが、大雑把なだけの砲撃など何の脅威にもなりません。
ぬるい砲撃をかいくぐった私は至近距離からバスターライフルを撃ち、フィールドを発生させている足を数本もぎ取ります。機体前面の発射口を開いて反撃しようとするアグリッサに左腕のカートリッジホルダーをはずして投げつけ、マシンキャノンを斉射しつつ後退。バスターライフルカートリッジ三発分の誘爆によって炎に包まれるアグリッサは発射口が大破し、フィールドも消失しました。
その一瞬を逃さずに私はバード形態へと変形させたウイング(EW)を下にもぐりこませると、フミナ部長のジム・ハーディガンをさらって一気にその場を離脱しましす。
慌てて追いかけようとするカマキリ部長さんに襲い掛かったのはセカイ先輩のビルドバーニングガンダム。なぜかコウサカ先輩のライトニングガンダムがそれを援護しています。部長さんのルール違反に反旗を翻したのでしょうか。とりあえず距離を取り、フミナ部長へと話しかけます。
「大丈夫でしょうか、フミナ部長、」
「ええ、大丈夫。まだやれる。」
機体は損傷していますがその力強い返事と即席の割にはいいコンビネーションの二人の様子からこれ以上の私の出る幕はないと判断しました。ならばと私は背面の翼を分離させるとシールドと組み合わせ、大剣へと変化させます。そこに残ったカートリッジをセットするとフミナ部長のジムハーディガンへと投げ渡しました。
「では、決めてきてください。」
「ありがとう。まかせて。」
その言葉を残し、残ったスラスターを全開にフミナ部長は突撃します。私はただそれを見送るだけです。そしてコウサカ先輩のライトニングガンダムがアグリッサを撃ち抜き、セカイ先輩のビルドバーニングガンダムが高出力粒子攻撃で爆発四散させます。
間一髪脱出したカマキリ部長さんでしたが、鬼気迫るフミナ部長からは逃げられません。ビーム刃を放出した大剣により、一刀両断にされました。
バトル部チームの勝利です。
その後、バトル部の存続が生徒会長によって認められたり、プラモ部部長にロマンスが発生したり、コウサカ先輩が移籍してチームが結成したりと八方無事に治まりました。私も約束どおりじっくりとガンプラを見せてもらったので満足です。
一時的な入部のつもりでしたが、結局私は入部届けを取り下げず、一週間に一回はバトル部に顔を出すようになりました。フミナ先輩とチーム戦術について話し合ったり、コウサカ先輩の作品を見せてもらったり、セカイ先輩から次元覇王流なるものを教えてもらったり、ラルコーチに模擬戦を挑んだりとなかなか充実した部活動です。
そんな日々を送りつつ、私は大会当日を迎えるのです。
メリクリウスとかアルトロンとかでも書いてみたかったかも。