素晴らしきこのヘルサレムズ・ロットにて   作:無花果Ⅱ

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誘拐犯を追跡せよ!

堕落王フェムトの遊びにより、半神が現れ多くの犠牲者を出した事件から数日。HL(ここ)はいつも通りの喧騒に包まれている。

 この年に来てから早一か月近く。この異界人が跋扈する光景を見て「平和」と思えるのはオレがこの街に毒されているせいだろう。

 毒される。と言えば、オレの背負っているバッグの中にいる魔導書。コイツがいる日常もわずか二日程度で慣れてしまった。

 

「まだ出発せぬのか?」

「生存率確認中」

 

 この魔導書。クラウスさんが言うには...ってまずはクラウスさんから説明しないとダメか。

 クラウスさんことクラウス・フォン・ラインヘルツさんは、このHLの均衡を裏から支える秘密組織「ライブラ」のリーダーなのだ。名前にV(フォン)がついているということはドイツの貴族なのだろう。

 まあ、そのクラウスさんが言うには...。

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 強制自己紹介の後、連れてこられたのは秘密組織ライブラのアジト.........だった場所だ。今は天井もなく霧に塗れた空が一望できるビルの屋上(仮)となっている。

 

「半神にやられたか?」

「ええ、恥ずかしながら、してやられました」

 

 そんな会話をする本とクラウスさん。いやあの、早く説明してほしいのですけれども...。

 

「あの、ヨハンさん」

 

 談笑している2人に物申そうとすると、不意に後ろから声をかけられる。声の主は先ほどの糸目の少年。

 

「何かな?糸目少年君」

「糸目少年て...。レオですレオナルド・ウォッチ」

「じゃあ、レオ君。何か用?」

「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます。ヨハンさんの攻撃がなきゃ死んでました」

「例ならあの本に言ってくれ。オレは意外と何もできてないからな」

「そんなことないですよ!」

 

 レオ君が励ましてくれる。HLでは数少ない本当の意味でのいい人だ。

 レオ君と話していると、クラウスさんがこっちに近づいてくる。

 

「ヨハン君。聖血の魔導書殿について話をしておきたい。ソファに掛けてくれたまえ」

「あ、はい。分かりました」

 

 漸く説明が始まるのか。そう思っていると、レオ君達がソファの近くに集まってくる。そんなに興味があるのだろうか?

 

「まず最初に聞いておきたいのだが...ヨハン君、君はどこまで聖血の魔導書(ハイリゲンブルートグリモワール)殿の事を知っているのかね?」

「どこまで...と言っても名前と、あと魔法が使えることぐらいしか...」

「こやつは一か月程前までは真性の一般人だったのだ。知らぬのも仕方あるまい」

 

 本は仕方ないと言っているものの、口調から馬鹿にしてるようにしか聞こえない。

 

「そうですか...。では魔導書(グリモワール)について話そう。魔導書は一般的には魔法、魔術を行使する際に扱うアーティファクトなのだが...」

 

 クラウスさんの言葉を引き継ぎ本が喋る。

 

「我はその魔導書の中でも特別中の特別。封印の書(ズィーゲルグリモワール)と呼ばれる品なのだ。そして、その封印の書物の中でも究極の力を持つ至高の書物。それが我、聖血の魔導書ということだ」

「封印の書物の中でもってことは...他にも似たようなのがあるんですか?」

 

 似たような書物という言葉に反応し、憤慨している本を無視してクラウスさんに問いかける。こっちの方が話しやすい。

 クラウスさんは頷き、口を開く。

 

「今現在確認されている封印の書物は聖血の魔導書(ハイリゲンブルートグリモワール)殿を合わせて13冊。名前が分かっている物は更に少ない」

 

 そして、どれもこれも危険物だ、と...。嫌になるね。

 

「......無理を承知で言おう。ヨハン・ブランケンハイム君」

 

 クラウスさんの威圧感さえある畏まった表情に、体が強張る。

 

「我がライブラへ正式に加入してくれないだろうか?」

「え?」

「馬鹿者、こやつは既に「ちょっと黙ってろ!」

 

 勝手なことを言いそうだった本を抱え込み口(?)を塞ぐ。

 世界の均衡を守る秘密組織......ね。もしかしたら、セレフィアさんを見つけられるかもしれない。それに、こんな良さそうな人が頭を下げているんだ。断る理由がないね。

 

「そのお誘い。喜んで受けます」

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 と、まあこういうわけだ。其の後、レオ君の神々の義眼の事やその場にいたメンバーの紹介等でその場はお開きとなった。

 

「ルートは決まったか?」

 

 本......いや、ハイリが話しかけてくる。

 

「決まったよ。取り敢えず60%以上の所があったからそこから行こう」

 

 バイクに跨り、ナビにルートを打ち込んでおく。

 ああ、そういえオレのバイトについて話してなかったな。オレは郵便配達のバイトをやっている。こんな面白可笑しな町でも手紙の文化は根強く残っているらしく、暇な日が無いほどだ。でも、こういう前時代的な物が残っているというのは良いことだと思う。

 

「やはり、どれだけ文明が発達しても消えぬものはあるのだな」

「消えないのか、消せないのかは分からないけどな」

 

 ハンドルを回してバイクを始動させる。さあ、今日も長くなりそうだ。

 

 

 

 

「確かに長くなりそうだと言ったけどさぁ!!」

 

 今、オレの目の前にいる人物。数日前、半神を相手にした豪傑。ザップ・レンフロが血を流しながら倒れていた。何が起きたかなんて説明している暇は無い。簡単に言うならレオ君が攫われた、それだけだ。騒ぎを聞きつけて来たポリスーツ達と共にザップさんの手当てをする

 

「ザップさん!ザップさん!!クソッ!意識がない...レオ君のことも心配だし......其処のポリスーツさん!この人頼みます!」

 

 事後処理とザップさんをポリスーツに任せ、バイクでレオ君を攫って行った異界人を追いかけようとする。

 

「気をつけよ、魔導書の気配がしたぞ」

 

 先ほどまで黙りこくっていたハイリが聞きたくない一言を言った。

 

「マジか...よっ!!」

 

 急発進するバイクはウィリーをかまし、ふら付きながらも高速度を保つ。

 

「で?魔導書の種類は解るのか?」

「無論。あの気配は濃霧の魔導書(ネーベルグリモワール)。対象の物体を「元からそういうものだった」と誤認させる魔導書だ。魔導書のランクとしてはせいぜい中の上と言ったところか」

「ヤバそうな力なのに中の上なのか?」

「人の目がある場所でも隠ぺいが出来る、というだけだからな。しっかりと見れば見破ることなぞ容易だ。ただ...」

 

 途端に声を小さくするハイリ。その言葉の先はオレが...いや、少なくともライブラのメンバーなら絶対に聞きたくない一言だろう。

 

「所有者が元々高レベルの隠ぺい能力を持ち合わせていたのなら、見破ることはほぼ不可能かもしれぬ」

「もしそうなら心が根元から圧し折られるんだけど...。いや、お前魔導書の気配探れるなら、ソレ辿れば良いんじゃね?」

 

 希望が見えて来た。これなら追跡も容易だろう。クラウスさん達に連絡しておかねば。

 

「いや、先ほどから気配を探っておるのだが...。全く何も感じられん」

「このポンコツ!」

「ポンコツとは何だ!我は高貴なる封印の」

「もういい!お前を頼ったオレが馬鹿だった!」

 

 肝心なところで使い物にならねえ!考えろ考えろ...何かある筈だ...。

 

「なあ!神々の義眼ってのはかなりレアな代物なんだろ?マイナーじゃなく、メジャーな代物なんだろ?」

「無論だ。人界異界とわず数十冊の本に記述があるほどの物だからな」

 

 レオ君が義眼持ちというのを知っているのは、ライブラメンバーくらいか...。

 

「何でレオ君は攫われたんだ?あの洋服屋の人に」

「馬鹿者。先ほど我が言ったことを忘れたか?先ほどの者共は魔導書を所持し、その力を行使しているのだぞ」

 

 魔導書、隠ぺい、義眼...。そうか!

 

「レオ君は正体に気づいたのか!」

「ほぼ確実にそうだろう。そして、自分たちの隠ぺいを見破った義眼の小僧を」

「研究、または解体するために攫った!」

 

 だとしたら、どこでやるつもりだ?中心部に近い場所じゃなきゃ無理だろう。どこだ...?

 

「隠ぺいしなければならないほどのことを事をしており更に人を攫うのに手慣れた行動。ここまでくればお主にも分かるだろう」

 

 人攫い...。可能性があるのは臓器の不正取引だが、この可能性は少ない。この街でどれほど死人がいると思う?攫ってまでやるより拾い物したり、路地裏で解体しちまった方が早いし効率がいい。それに人間の臓器なんて価値が少ない。

 次に人身売買。これも無いだろう。何故なら人間一人二人買ったところでこの街じゃあ大した労働力にも戦闘力にもならないからだ。

 そうやって可能性を消していくと残るのは...

 

「食人かよ!!」

「我も同じ答えに辿り着いたところだ。クライスラー・ガラドナ合意で厳しく取り締まられている食人なら魔導書の力を使って人攫いをするほどの価値があるだろう」

 

 まずいまずいまずい!!だとしたら異界に行く気か!?

 クソッ俺一人でどうにかできる話じゃなくなってきたぞ早くクラウスさん達に連絡し

ないと!

 

「ええっと...番号は...!!あった!」

 

 電話帳に登録されていたのはスティーブン・A・スターフェイズ。ライブラのアジトにいた目元に傷のあるスーツを着込んだ男性でクラウスさんの副官みたいなものらしい。緊急連絡用に教えられた番号に電話を掛け耳元にあてる。数秒後、ブッという独特の音と共にスティーブンさんの声が聞こえて来た。

 

『どうした?』

「スティーブンさん!実はレオ君がさら、わ、れ?」

 

 オレが走っていたハイウェイよりも上の方から破壊音が聞こえた。振り返ってみると

 

「ダイナミック車線変更!?!?」

 

 一台の車両がハイウェイの壁を破壊しながら此方のハイウェイに落ちて来た。...って

あれに乗ってるのって

 

「『で、レオ君が攫われなんだって?』」

「何やってんですか!?秘密組織なんでしょ!?」

 

 通話をブチ切りながらスティーブンさんにツッコム。

 

「警察だって仕事するときは逆走もするだろ?」

「それとこれとは次元が違う!」

 

 スティーブンさんの言葉に突っ込み切れなくなっていると、右の後部座席に座っていたクラウスさんがオレに話しかけてくる。

 

「ヨハン君、仕事だ」

 

 やはりクラウスさんのカリスマはすごいと思う。この一言だけで気が引き締まる。

 

「了解!ついて行けばいいんですね!」

「心意気はいいが、コイツは早いぞ?」

 

 スティーブンさんが言う。が、オレのコイツも馬鹿みたいに早い!

 

「お構いなく!」

 

 直後、バイクと車。双方のエンジンが唸りを上げながら猛スピードで走る。他車両を追い越し続け、異界へのトンネルを抜けた先。誘拐犯達はいた。異形の車両の周りが燃えており、異界人がその場にいるところから見て爆発のショックで魔導書の効果が消えたのだろう。

 

「見つけた!!」

 クラウスさん達の乗っている車両はブレーキを掛けながら半回転する。

 そして車めがけて拳を振り下ろそうとする巨大な誘拐犯の一人。しかしその拳は振り下ろされることなく、スティーブンさんの蹴りで巨体は宙を舞う。

 

「行くぞハイリ!」

「言われなくとも」

 

 ハイリが頁をめくる。そこに書かれているのは拳。人を圧倒する巨人の拳。

 

「ブルートグリモワール式血戦魔術 聖血巨手(ハイリゲンブルートハント)!!」

 

 オレの右腕から伸びた血が、拳の形を作り出す。

 

「オラッ!」

 

 バイクを乗り捨て、作り出した拳でコンクリートを叩き、高く宙へ舞う。そして新たな魔法を行使するべく、ハイリに頁を捲らせた。

 

「ブチかませ!!」

 

 スティーブンさんの声。その直後、誘拐犯のほぼ真上まで来たクラウスさんとオレは同時に技を繰り出す。

 

「ブレングリード流血闘術」

「ハイリゲンブルート式血戦魔術」

 

 クラウスさんの血が巨大な十字架を形成し、オレの血は6本の腕を形成、合体させる。

 

「111式!!」

「大魔法!!」

 

 血の十字架は敵に向かって落とされ、血の巨腕は敵を叩き潰すため振り下ろされる。

 

十字型殲滅槍(クロイツヴェルニクトランツェ)!!」

聖血巨神腕(ハイリゲンブルートリーゼアルム)!!」

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

「結果、行方不明者19名発見。協定違反のウスラバカ共3名と一機、そして一冊捕獲。立派もんじゃないの?何よりも今日の今日まで知られていなかった幻術が白日の下となった。これが大きい。万事解決、おめでとう!!」

 

 ここは先ほどの霧から離れた病院の中。ベッドには包帯が全身に巻かれ、ミイラ状態のレオ君がいた。

 

「偉いぞ、少年!!自力で脱出するその根性。僕は大いに評価したいね」

 

 クラウスさんが頷く。.........なぜスティーブンさんがレオ君をこんなにもべた褒めしているのかというと...忘れていたそうだ。クラウスさんとオレが破壊した車両に、レオ君がいたのを。つまりこれは、勢いで誤魔化しているということになる。

 

「すまないレオ君...退院したら好きな物奢るから...」

 

 レオ君の耳元で喋り、約束を取りつけておく。少し頷いたから聞こえてはいるんだろう。

 オレはレオ君から離れスティーブンさんに話しかける。

 

「スティーブンさん。魔導書の事なんですけど...」

「ああ、それならここにあるよ」

 

 スティーブンさんは鉄製のトランクを見せてくる。随分と厳重だと思うが、魔導書の価値を考えるとそんな物だろう。

 

「冷血漢。これは我等が責任をもって処分する。渡してはくれまいか?」

聖血の魔導書(ハイリゲンブルートグリモワール)殿の頼みとあらば断わる理由はありませんよ」

 

 スティーブンさんがトランクを渡してくれる。多分この人最初からこのつもりだったんじゃ...。

 

 

 

 

 受け取った魔導書を処分しながらハイリと話をする。

 

「そもそも、魔導書って誰が何のために作ったんだ?」

「誰がは分かるが、何故と問われると分からぬな。魔導書を作り出す物の願いは人それぞれだ。我の様に目的を持って作られた魔導書もあれば、漠然とした願いの下に作られた魔導書もある」

「そっか......お前は、誰が作ったんだ?」

「.........言えぬ」

 

 一言、そういうと黙りこくってしまうハイリ。言えないのではなく、言いたくないのだろう。それ以上突っ込む気にはなれなかった。

 そして、燃え行く魔導書を見つめながら、HLの一日は去って行った。




やあ 読んでくれてありがとう(´・ω・`)
そしてようこそ、[素晴らしきこのヘルサレムズロットにて]2話あとがきへ。
このコーヒーはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
じゃあ、説明を書こうか。

封印の書(ズィーゲルグリモワール)
 元ネタはニーアレプリカントの封印の書。

聖血巨手(ハイリゲンブルートハント)
 元ネタは黒の手。元ネタとの相違点は無し。

聖血巨神椀(ハイリゲンブルートリーゼアルム)
 元ネタは黒の手のトドメ版。元ネタとの違いは大きさ。こっちの方が若干大きい。
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