「...............」
携帯を耳に当てながら、繋がるのを待つ。
もう一か月近くも話していない。彼女は怒っているだろうか?いや、確実に怒ってるだろう。
そう思いながらも数十秒待ち続けると、ブッという独特の音が聞こえる。
「あ...グ、グーテンターク」
渾身の挨拶はむなしく響き渡る。
『......電話する相手を間違えていませんか?』
「間違ってない...俺だ、ヨハンだよ」
『.........私に何も言わないで!たった一人でHLに姉さんを探しに行った薄情者なんて知りません!』
「いや、それはホント...ごめん、すいません......」
......少し長めの沈黙が訪れる。
その沈黙を破るため、口火を切ったのは彼女だった。
『.........怪我、してない?病気なったりは?カツアゲとかされてない?』
「大丈夫、五体満足だよ怪我も病気もしてない。カツアゲは...まぁ...回避してる」
『なら...すこしだけ許す。次からは小まめに連絡してね!心配なんだから!』
「わかったよ、絶対そうする。必ず連絡するよ」
『絶対だからね...』
「ああ、絶対だ。......っと、ゴメン。これから仕事仲間との約束を果たさなきゃあいけないんだ」
『何よ、それ...もう...!...............また連絡してね、ヨハン』
「ああ、またな」
名残惜しさを感じながらも通話を切る。それと同時に近づいてきたレオ君が話しかけて来た。
「短かったですね」
「そうか?...でもオレ、人の顔見ないで話すの苦手だし伝えることは面と向かって伝えるタイプなんだ」
「良いですね、そういうの」
「だろ?さてと、何処に行きたい?」
「えーと...じゃあ、寿司が食べたいです」
そんな話をしつつオレ達は町の喧騒の中に足を運んで行った。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■
次の日、朝早くからライブラのアジトへと足を運ぶと、ソファに死体の様に眠っているレオ君がいた。本当に死んでないよな?
「ギルベルトさん。レオ君は一体.........」
オレの問いに、顔に包帯を巻いた顔の怖い執事のギルベルト・F・アルトシュタインさんが答える。
「行くところが無くなってしまったそうです。本当に40秒で支度させられるとは思わなかったとかなんとか」
そういえば、町の異界人がどっかのアパートが区画クジに大当たりして、高級ホテルになったとか言ってたな...もしかしてそれなのか?
「この街で宿無しとは命取りだな。「活動資金」をもっとくれてやった方がいいんじゃないか?」
スティーブンさんがギルベルトさんに向かって言葉を投げかけた。
「妹さんの仕送りもあるみたいですしね...」
「受け取らないのです、基本額以上は。「特別扱いは嫌だ」と仰いまして」
律儀というかなんと言うか...生きるのに苦労しそうな性格だなぁ...。
今度また食事に連れて行こうかと思っていると、アジトの廊下からドカドカドカという乱暴な足音が聞こえ、直後扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのは顔面を血で濡らしたザップさんだった...って、その血の量!
「出血大量で死んじゃいますよ!?」
「俺のじゃねえよ」
オレの言葉に答えながら、づかづかとザップさんはレオ君の寝ているソファに近づいて...。
「おっと」
「ぐへっ」
レオ君の顔面に座ろうとしていたので、レオ君の襟首を引っ張り、退避させる。
「おい、退けんじゃねえよ」
「いま完全にレオ君の顔潰そうとしてたでしょ...」
オレが指摘するとザップさんは「ケッ」と言って顔を背けた。こ、コイツ...。
取り敢えずぐったりとしているレオ君をそっと床に寝せてあげた。
「なんだザップ、チンピラにでも絡まれたか?」
「そっすね。洒落にならない勢いで突っかかって来るから、頸動脈撫で斬りにしてやったんだけど...ありゃ死んでねえな」
「人間か?」
「手ごたえと断面の構造は」
「それで死なないってことは...薬物での肉体改造ですかね?」
「首切られても死なねえ人間作る薬なんて馬鹿げたモン、聞いたこともねえぞ」
ザップさんの言葉を聞いたスティーブンさんは、デスクから紙束を取り出しながら言った。
「それが、満更馬鹿げてもいないんだよ」
スティーブンさんから資料を受け取り、ザップさんと...あとハイリと共に確認する。
「「エンジェルスケイル?」」
「天使の鱗か、センスのない名前であるな」
「超高度術式合成[麻薬]ってね」
「資料を見る限りでは麻薬、というより肉体改造であるな」
粘膜経由か静脈注射によって体組織を再構成する...か。
「常人では精神崩壊する程の快楽を受け切れるよう、肉体改造をする...というわけか」
なるほどね、とハイリの説明で理解する。まあ人間が異形化するような薬だ。そのまま使うのは無理だろう。
「まあ。そんなもんだから知覚の鋭敏化だけでなく、筋力や回復力を爆発的にたかまってさ、一時的ながらも
「...ヤバイっすね、金の匂いがプンプンすらぁ」
「するね。実際グラム数万ゼーロで取引されてるって話だよ」
「でもそれって
「強固な二重門を超えてか?確率は低いね。あれ以上に強固な関門システムは存在しまい」
「だが」とスティーブンさんは言葉を区切る。
「ヘルサレムズ・ロットに限らず、世界は何でも起こる。だな」
「っすね」
「であるな」
「ですね」
と、途端にザップさんが机に置いた自分の右手を凝視する。釣られてオレも凝視すると、ぼんやりと人間の脚の輪郭が浮き出て、それは段々と濃くなって行き...。
「それがですね、これをご覧ください」
「あだだだだだ!?!?おりろバカ手が手があああああ!!!!」
ザップさんの右腕に全体重を乗せて踏みつけながら現れたのは黒スーツの美女、チェイン・皇さんだった。彼女は不可視の人狼という種族で姿を消して高速移動できるらしい。
「何だねそれは?」
スティーブンさんがチェインさんに質問する。チェインさんはその質問に、ザップさんの右手を踏みにじりながら答えた。えげつねぇ......。
「先ほど諜報部が入手した映像です。ホヤホヤです」
チェインさんはオレにディスクを手渡してきたので、ビデオデッキにディスクを入
れ、映像を再生する。
少しのノイズの後、流れたのは監視カメラの映像。そして映ったのは大量の死体と、右脇から心臓部にかけて大穴を開けた異形の姿。そしてその異形の目の前でへたり込んでいる男性の姿だった。異形は程なくして体を仰け反らせ、膝から崩れ落ちた。それと同時に黒服の男達が男性に走り寄る。
『...大統領...!!』
『大統領、ご無事で!?』
そこで映像は途切れる。...大統領?ってことは...。
「...外じゃねえか、これ」
いつの間にかチェインさんの踏みにじり攻撃から逃れたザップさんが言った。
「その通りよ、クソモンキー」
「クソモンキーとか一個一個入れんな丁寧か。しかしまた早速だな。爺どもの面目丸潰れだ」
「いや、これ穴開けた奴の方がすごいんじゃないですか?」
「その通りだ。早急に塞がぬと取り返しのつかぬことになるぞ」
ハイリの言葉にスティーブンさんは頷き、各々に支持を出して行く。
「チェインは取り敢えず暴力団関係者を」
「はい」
「ザップはその血を分析班に回し、プッシャー周りを洗ってくれ」
「うーす」
「ヨハンはこのリストに書いてある人物の元まで行き、情報収集」
「了解」
「それでいいかい?クラウス―――」
スティーブンさんが言葉を途中で切る。
同時に、部屋を軋ませるほどの威圧感がクラウスさんから放たれる。
「...見事だ...!!...ヤマカワさん...!!」
え、誰?
「投了です...!!」
(((((ゲーム...やっとる...!!)))))
しかも負けんのかよ...。
その後、懸命な情報収集を行うライブラだったが、エンジェルスケイルのルートはその手掛かりさえ掴めなかった。
そんな中、オレはズーマーxに乗ってある場所へ急いでいた。理由はハイリの言葉。ハイリはこの件に、またも魔導書が関係しているのでは?と言い出しのだ。
「で、本当にいるんだろうな!」
「我を疑うのか?」
「200年近くも生きてる人間がいるのかどうか、疑わしいんだよ!」
そういってハンドルを捻る。向かうはHLの中心地。
うん、前編なんだ。済まない。
あと最初の通話もなんだこれと思われているかもしれないが重要なんだ。すまない。
後半はエンジェルスケイル製造工場への襲撃。つまり戦闘になります