素晴らしきこのヘルサレムズ・ロットにて   作:無花果Ⅱ

4 / 5
STEP UP EVOLUTION 後編

 今や多くの人がヘルサレムズ・ロットと呼ぶこの街は、元々紐育(ニューヨーク)と呼ばれる場所だった。一晩で崩落・再構成され、異界と現世が交わる地球上で最も危険な都市に早変わりしてしまったのだ。

 そんな危険な都市の更に危険な場所。そこにオレは居る。

 

「まさか列車を使わず、ここまで近くに来られるなんてな...」

 

 今俺がいるココは、街の中心部「永遠の虚」の直ぐ近く。

 

「見よ。ユグドラシアド中央駅が一望できるぞ」

 

 そんな呑気なことを言っているハイリ。こいつは馬鹿なのだろうか?中央駅があんなに近くに見えるということは、この下は異界だ。落ちたらゾンビゲーム張りにムシャムシャされて人生ENDなのだ。

 

「さっさと会おうぜ。命綱無しの綱渡りしてる気分だ...」

「ふむ、我はもう少しこの景色を眺めておきたいが...仕方あるまい」

 

 お前は浮かべるから良いかも知れないけどさ...。

 先程の場所からもう少し歩いた先。目的の人物が住んでいるであろう家があった。

 

「.........オレ、豪邸みたいな場所かと思ってた」

 

 その家は煉瓦造りの小さな家。

 

「奴は目立つことを嫌うからな。そのせいだろう」

 

 こんなところに家立ててる時点で目立ってると思う...。

 そんなことを思いながら、オレはノックをする。

 すると中からドシャグシャパリーンガサガサという音が続いた。...汚部屋の確率が高い気がする。

 

「騒がしい奴だ...」

 

 ゴソゴソ...バンッという音を最後に静まり返り、ドアがゆっくりと開かれる。

 

「ふー。お待たせー!」

 

 ...現れたのは身長140強の女の子だった。

 

「時代はこういうのを求めているのだろうか...?」

「なにー?わたしに文句があるの?」

「あー、いやゴメン。ちょっとビックリしたんだ。...怒らせちゃったかな?」

「怒ってないよー。うーんと...立ち話もなんだし、入って入ってー!」

 

 少女に背中を押されながら家に入る。中は先ほどの音は何だったんだと思う程片付けられていた。背中を押され歩かされている状態の中、家を観察し続けていると、いつの間にかリビングにまで到着した。

 リビングには本棚が2つあり、魔導書と思わしき本があった。.........この子は一体?

 

「さあさあ、座ってー!」

 

 今度は座らされる。今更だがテンション高いな。

 

「でー?今日は何の用なの?ハイブル」

 

 ハイブル...?ああ、[ハイ]リゲン[ブル]ートか。

 

「相変わらずだな。テッサよ」

「今更だけど...ハイリ。この子は?」

 

 この少女が200年生きている人間なわけないだろうし...。いや、でも有りうるのか??

 

「ふむ、では紹介しよう。この者はテッサ。テスタロッサ・インヴェリテング・ヴィド・シェルファルネイ。200年生き、92冊の魔導書を書いた聖女だ」

 

 ふーん。クソ長い名前だなぁ...。.........え?

 

「聖女?92冊??」

「その通りだ。封印の書(スィーゲルグリモワール)を1冊、高レベルの魔導書を77冊、私用に作った魔導書14冊。異界人界どこを探してもこれだけ書いた者は居らぬだろう」

「こんな、見た目小学生の女の子が!?」

 

 魔導書とは制作が困難な魔法具の一つで、一冊書くために人生の全てを捧げる者まで居るほどのブツだ。

 それを92冊。そのほぼ全てが高ランク。しかも13冊しか存在しない封印の書まで作っている...ともなると少女の異常性が解る。

 

「失礼だなー!もー!」

 

 テッサ...さんは頬を膨らませながら怒っている。マズイ、オレ死ぬんじゃないだろうか?

 

「この阿呆は放っておけ...。今日は他でもない、記憶の魔導書(ゲデヒトニスグリモワール)の力を貸してほしいのだ」

記憶の魔導書(ゲデヒトニスグリモワール)?」

 

 名前を見る限り、記録に関するのは分かるが......。

 

「うん。記憶の魔導書(ゲデヒトニスグリモワール)は[現存する魔導書の全てを記憶する魔導書]なんだよ。どんな魔導書があるか、全部記録されているの。で、なんで?」

「我々が追っている事件に、新規の魔導書が関係している可能性が高い。なのでそれを調べてほしいのだ」

「んー...了解。じゃあ何時代(どれくらい)まで調べる?」

 

 テッサ...さん。が本棚から魔導書を取り出した。

 

「西暦2010~2013年までに制作されたものを調べてくれ」

「まっかせてー!」

 

 鼻歌を歌いながら大量の頁を捲るテッサ...さん。ハイリの話では伝説の聖人が生まれた頃から記録されているらしい。

 少しして、テッサ...さんは鼻歌を止め。同時に頁をゆっくりと捲始め、直ぐに止めた。

 

「あったあった。えーと...進化の魔導書(エヴォルツオングリモワール)悲観の魔導書(トラオアーグリモワール)の二冊だけだね」

「.........進化の魔導書の能力は?」

「[生物の体組織を再構成して爆発的な力を与える]力だって。すぐ進化するなら突然変異だと思うけど...」

 

 オレはハイリと顔を見合わせる。これは...。

 

「当たりだな。その魔導書が使われている」

「でも、麻薬なんだろ?本じゃないし...」

「馬鹿者。魔導書は何も魔法を行使するためにあるのではない。本来の使い方ではないが、滲み出た魔力を集めて加工すれば[薬]にもなるだろう」

「そうなのか...。初めて知った」

「わたしも初めて知った!」

 

 おいおい...92冊も書いたんでしょう?......それでも生の知識は現役魔導書には

勝てないということだろうか?

 

「礼を言うぞテッサよ」

「いーよいーよ。わたしとハイブルの仲でしょ?」

「すまぬな、必ず礼はする。行くぞヨハン」

「えっ...?あ、ああ。ありがとう...ございます?」

「どういたしまして!また遊びに来てねー」

 

 遊びに来たわけじゃあ無いんだけど...。家から出てバイクに跨った時に手を振る。

 テッサ...さんは姿が見えなくなるまで、手を大きく振り続けていた。

 

 

 

 

 バイクを走らせながらハイリに質問する。

 

「魔導書が関係してるってのは分かった。ここ(HL)でも特殊な薬らしいからな。だけど、魔導書が解っただけじゃあ製造場所までは分からないだろ?どうするんだ?」

「製造場所は心配いらん。ラインヘルツの三男坊が情報を必ず持ってくる」

「...どうしてそんなに自信を持って言えるんだ?」

「理由は言えぬ。だが、奴は必ず情報を手に入れるぞ」

 

 ハイリの自身に満ちた言葉を聞いていると、突然携帯が鳴りだす。ポケットから取り出し、名前を見るとスティーブンさんからだった。

 

「何か進展がありましたか?」

『ああ、進展どころか答えを貰ったよ。今からメールする場所に直行して、ザップと合流してくれ。じゃ、頼んだ』

 

 スティーブンさんは言うだけ言うと通話を一方的に切ってしまう。その直後メールが届いた。

 

「.........こんなところで作ってたのかよ!」

「急げ!早急に事を済ませ魔導書を回収するのだ!」

「分かってる!」

 

 バイクを加速させ、書かれている場所に向かって走るもう部隊は展開させてるらしい。早くしないと!

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

「ハァ、ハァ...レ、レオぐん...!ザッブざぁん!」

 

 息を切らしてフラフラになりながらザップさんとレオ君に駆け寄る。

 

「ヨハンさん!?どうしたんですか!?」

「おう、テメー、一体何キロ走ってきやがった」

 

 正息しながら2人の質問に答える。

 

「あの、あそこの角にバイク止めて全速力ではしってきて」

「100mも無えじゃねーか!!虚弱かよ!」

「それだけでフルマラソン走り切ったような満足顔してんの!?」

「そんな体力ではこの先、生きては行けぬぞ」

 

 二人と一冊にツッコまれてしまった。...レオ君、口調変わってる。

 

「そ、そんなことよりも作戦。作戦を聞かせてください」

 

 やる気はあります。だからその「居ねえほうがいいんじゃねえか?コイツ」みたいな顔やめてください。お願いします。

 

「...最初に犬女が照明を落とす。んで、番頭と武装したライブラメンバーが正面から突入して1階から上を制圧する。俺たちは突入時の隙を突いて裏口から侵入、工場にいる奴を片っ端からしょっ引いてヤク作ってる地下2階まで行き、現場を押さえる。分かったか?」

 

 カンペガン読みしながら説明してくれるザップさん。

 

「テンプレ、と言える作戦だな」

「確実な手段と言ってやれよ...。あ、相手は緊急時の脱出手段とか持ってるんじゃないですか?」

「レオと犬女が全部見つけた。今頃、別部隊が封鎖しちまってるだろうよ。他は無いな?俺が前衛やっから、お前はレオを護りながらこぼれた奴をぶっ飛ばせ」

「ヨハンさん、よろしくお願いします」

「了解。任せてくれ、レオ君」

 

 ザップさんは焔丸を作り、レオ君はゴーグルをかけ、インカムに耳を傾ける。オレはハイリを開き、連射性の高い魔法を選択する。

 

「あと、30秒...!」

「しくじんなよ、ヨハン...!」

「ザップさんこそ...討ち漏らさないでくださいよ...!」

「我々が援護するのだ。討ち漏らしはあり得ぬぞ?猿」

「猿言うなラクガキ本が」

 

 自然と拳に力が入る。もうすぐだ...!...ハイリはラクガキ本に反応して五月蠅かったので黙らせました。

 

「3...2...1...0!」

 

 0のカウント共に中から、停電か?等の困惑した声が聞こえる。次の瞬間、扉を強く開け放つ音と共に大量の足音と銃声が聞こえる。

 

「おっし、行くぞ!」

 

 ザップさんが扉を蹴破り内部へ突入する!スティーブンさん達に気を取られていた異界人を次々と切り倒していった。

 

「行くぞハイリ!聖血弾幕(ハイリゲンブルートクーゲル)!」

「ザップさん!右から来ます!」

 

 巡り巡る目の回るような戦いの中、各々が出来る限りの事をやり続ける。ザップさんは来る敵来る敵を切り倒し、レオ君は不意打ち等を察知してザップさんやオレに伝える。オレは魔法を使い分けながら援護と護衛をこなしていく。

 

「とっとと下行くぞ!」

「わかりました!」

「早くせぬと追いつかれるぞ!」

「んなこた解ってる!」

 

地下への扉を破壊し、飛び降りるように階段を下ってゆく。

 

「へばんじゃねえ!」

「だ、だいじょば、大丈夫ですッ!!」

「ホントに大丈夫なんですか!?」

「亀未満め!愚鈍が過ぎるぞ!」

 

 失礼な。亀よりは早い...と思う。根性だけで走ると、地下1階の扉の前まで来た。ザップさんは躊躇なく扉を破壊し、突入する。レオ君の透視ぐらい使えよ!

 

「案の定熱烈大歓迎だぁッ!!」

「レオ!ゲロ吐かせてやれ!ヨハンはレオを護れ!」

 

 レオ君は神々の義眼を発動し、敵の視界を可能な限り視野混交(シャッフル)し続ける。

 滅茶苦茶な映像を見せられた工場員は滅茶苦茶な場所に銃弾をばら撒き続ける。

 

「確かにこれは危ない!ブルートグリモワール式血戦魔術 聖血壁(ハイリゲンブルートヴァント)!!」

 

 オレを中心に、レオ君を飲み込む血の薄膜の結界をはる。血の薄膜に触れた銃弾は天井、床等様々な方向にはじき返される。

 ザップさんは混乱している工場員に容赦なく切りかかる。

 

「にしても数が多いな!」

「援護しますか!?」

「要らねえよ!護ることだけ考えな!」

 

 自分に向かってくる銃弾を避け、弾きながら工場員に近づき、切り裂く。見てから回避余裕とかそういうレベルじゃない。自分にあたる直前で行動してる。化け物かよ...!

 しかし数が多い。このままレオ君に視野混交させ続けてたらレオ君がダウンするだろう。...仕方ない。

 

「レオ君、屈んでくれ!」

「ッ!はい!」

 

 レオ君が屈むのを確認してから、魔法を発動する。結界は解けてしまうが、こいつは強力だ!

 

「ブルートグリモワール式血戦魔術 聖血幻影(ハイリゲンブルートシュトラール)!!」

 

 一滴の血がオレの影に落ち、影の形を変えてゆく。影はオレそっくりのシルエットとなり、剣をもって残像を残しながら工場員達に突撃していった。

 聖血幻影に障害物は関係ない。どれだけ隠れようが100m以内に居るのならば一瞬で近づいて斬りさばいて行く。

 

「殲滅完了!」

 

 幻影とザップさんの活躍により全く時間をかけずに地下一階の制圧を完了してしまった。

 

「おい丸眼鏡。防御しとけって言っただろうが」

「ザップさんに任せきりだとレオ君がダウンしそうだったんで。ていうかこんなところで駄弁ってないで、早くいきますよ!」

 

 ザップさんにそう言って階段に向かって走るオレ。3秒ちょっとで2人に追い越されたのは内緒だ。

 

 

 

 

「やばい...世界一汚い滝がでそう...」

「マジ止めてくださいよ!?」

 

 オレの苦しみ一言にレオ君が大声で停止命令を出した。やめてそんな叫ばれると本当に出そう...。

 後ザップさんは蹴破る以外の扉の開け方を知らないんですか?

 開け放たれた扉の先には大量の用途不明の機械とカプセルに入った紫の発光する液体。部屋全体を静かな駆動音とゴポゴポという音が支配していた。

 

「...誰も居ねえ、機械動かしたままザル警備かよ」

「有り得ないっすよ。ここで作ってるのに...」

「あ、もうだ――」

 

 汚い滝(純水性)を流してしまうオレ。ザップさんとレオ君がギャーギャー騒いでいるが静かにしてほすぃ。

 三馬鹿(自分を含む)の行動に溜息をついていたハイリが突然大声を発する。

 

「構えよ!来るぞ!」

 

 その一言でザップさんは構え、レオ君は後ろに後退する。オレは口元を拭きながら立

ち上がり、ハイリの視線の先を見る。

 

「ん~バレてしまいましたか」

 

 現れたのは薄気味悪い笑顔を携えた黒スーツの男。傍らには蒼い表紙に銀の金具の本が浮いていた。あれって...。

 

「HLの霧に穴を開ける所業...大した神業だと思っていたが...やはり貴様の力か!

人の魔導書(フルークガストグリモワール)!!」

「ふん。その神業を我以外がすると思っていたのか?全く貴様とて封印の書の一冊というのに...嘆かわしい限りだな。...まあそんなことはどうでも良い。去れ。去らぬのならば...」

「ここで全員消すってか?なめんじゃねえぞラクガキ本二号が。テメーのページ一つ一つ破り捨ててヤギの餌にすんぞ」

 

 ザップさんが魔導書相手に啖呵を切る。効いて...るのかな??

 

「猿!小僧!引―――」

 

 ハイリの言の葉が放たれるよりも早く、

 

異邦道具(フレムデヴァッフェ) 三異(ドライ) 旅人の銃(フルークガストピストーレ)

 

 虚空から銃口が現れ、蒼い銃弾が放たれた。

 

「ハイリゲンブルート式血戦魔術 聖血壁(ハイリゲンブルートヴァント)!!」

 

 間一髪で銃弾を弾き返すものの、次の武器が放たれる。

 

「では、コレではどうでかすねぇ。異邦道具(フレムデヴァッフェ) 二異(ツヴァイ) 旅人の大鉈(フルークガストグロウスバイル)

 

 大振りで放たれる蒼い大鉈。マズイ!防御しきれない!

 

斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう) 刃身の四」

 

 突如、ザップさんが焔丸を消しながら俺より前に出て、迫り来る大鉈と対峙する。

 

紅蓮骨喰(ぐれんほねはみ)

 

 ザップさんはギザギザの刃がある血でできた大剣を作り出し、大鉈を上へ弾き飛ば

す。弾かれた大鉈は綺麗な切り傷を残し、消滅した。

 

「あらら、二つとも弾かれましたか。自信を無くしますねぇ」

 

 気味の悪い男が薄ら笑いを浮かべながらそんな事を言う。何故だか絶対そう心から思っていない気がする...。

 

「ザップさん突っ込んで行ってくださいよ。気味悪いんですよアイツ」

「バカか丸眼鏡お前が突っ込む方が安全だろ。俺が」

「あ、今の自己中発言にカチーンときたなぁ...」

「あ?やるか?お?」

「何余裕かまして喋ってんの!?」

 

 そう怒るなレオ君。悪いのはぜんぶコイツだ。あと、ハイリが引けって言ったけど、遠すぎやしませんか?

 なんてコントしていると、気味の悪い男がまた魔法を放ってくる。

 

異邦道具(フレムデヴァッフェ) 五異(ヒュンフ) 旅人の鋏(フルークガストシューレ)

 

 オレ達の左右から2つの刃が挟み込むように迫ってくる。

これは...チャンス!

 

「ブルートグリモワール式血戦魔術 聖血巨手(ハイリゲンブルートハント)!!」

 

 両腕から血の巨手を出現させ、刃をつかみ取る。少し押され気味だが...これなら!

 

「ザップさん!」

 

 オレの声よりも早くザップさんは行動していた。

 ザップさんは高く真上に飛び上がり、紅蓮骨喰の峰の凹んだ部分から衝撃波と煙を出しながら、男と魔導書に接近していく。いけるか!?

 

「防御手段を持っていないとは言ってませんけどねぇ...。異邦道具(フレムデヴァッフェ) 九異(ノイン) 旅人の盾(フルークガストシルト)

 

 2つの刃は消えるが、代わりに男の目の前に蒼い盾が現れる。クソ!弾かれた!!次の手は.........。ん?レオ君どうした?

 

「ヨハンさん...!!」

 

 レオ君の近くへ行き、話を聞く。

 

「――――――やれるか分からないよ?」

「やらなきゃヤるそうです...」

「何てパワハラ!」

 

 何をヤるのかはあえて聞かない。怖いから。

 

「分かった。じゃあレオ君は言われたとおりに探してくれ」

「分かりました。...ヨハンさん気を付けてください...!」

「任せときなって...よし!」

 

 意を決して男と魔導書に突撃する。だが、走って数秒で息が切れてくる。

 

「ざぷ、ざぷ、ザップざぁん!どどいてくださいィ!!」

 

 オレが叫ぶとザップさんは盾を蹴って後退する。後退している最中にみせた「お前、今の顔気持ち悪いな」みたいな表情が忘れられない。

 

「ハイリッ!!殴りぬける!!」

「今の状態では失敗するぞ!」

「今以外ないんだよ!!」

 

 ハイリを強制的に納得させ、頁を開いてもらう。

 

「ブルートグリモワール式血戦魔術 大魔法!!」

「来るか...だが、無意味だということを思い知らせてやろう」

 

 オレの言葉を聞き、旅人の魔導書(フルークガストグリモワール)が嘲笑うように言う。別に悔しくねーし!!

 

聖血巨神腕(ハイリゲンブルートリーゼアルム)!!!」

 

 血の巨腕が出現し、大きく振りかぶる。

 

「確かに威力は凄まじそうですがねぇ...。足りませんよ?」

 

 男が嘲笑う。コレを前にしてその言葉って...。心が折れそうになったが関係ない。だってコレで事足りるのだから。

 

殴ると思ったか?残念でした(アッパーだよクソッたれ)!!」

 

 血の巨腕で天井を殴りつける。巨大な衝撃はこの階の天井を破壊するだけに止まら

ず、地下一階、一階、二階と、どんどん大穴を開けてゆく。

 

「なにを.........」

 

 と、男と魔導書が突然の奇行に困惑し、次の瞬間ハッとした顔になるが、もう遅い。

 冷気と共にライブラの頼れる人間の声がする。

 

「エスメラルダ式血凍道」

 

 その人が落ちてくるのが長く感じた。肌を刺す冷気に歓喜した。

 天井の大穴から降ってきたのはスティーブンさん。男に向かって急降下している。

 

「グッ!?」

 

 男の左腕にスティーブンさんの蹴りが命中し、男は腕から血を噴出させた。

 

絶対零度の剣(エスパーダデルセロアブソルート)

 

 スティーブンさんの声と共に、男の噴出した血が瞬時に凍結し、手を腕を凍らせてゆ

く。だが

 

「切り落とせ!」

 

 旅人の魔導書の言葉に男が反応し、躊躇いもなく左腕を切り落とした。

 

「思い切りは良いけど...それじゃもう、戦えないんじゃないの?」

 

 スティーブンさんは男の切り落とされた左腕を一瞥し、言った。

 

「その様ですねぇ...。少しふら付いてきましたし...この場は御暇しましょう。いいですか?フルークガストさん」

「そうだな。今回は我々の作戦負けだ」

 

 そう言って溜息を吐く男と魔導書。このまま解散ムードを漂わせているが...。

 

「逃げられると思っているのかい?」

「逃げられますよ?」

 

 ハイリは何も言わない。能力は分かっているはずなのに伝えようとしない。

 

異邦道具(フレムデヴァッフェ) 十異(ツェーン) 旅人の扉(フルークガストテューア)

 

 男の背後の空間が裂ける。中身は別の場所へと繋がっているようだ。

 直後スティーブンさんとザップさんが構える。が

 

「よせ...奴にもうここ(HL)(人界)を繋ぐ力は無い...」

 

 ハイリの有無を言わさないオーラに2人は口を噤んでしまう。

 

「懸命な判断だ...」

 

 魔導書はそれだけ言うと裂け目の中へ消えて行く。

 

「また縁があれば会いましょう」

 

 男は絶対にそうなってほしくないと思う言葉を残し、裂け目に消えて行く。

 1人と一冊が通った後、裂け目は音もなく閉じてしまった。

 

「一体なぜ...?」

 

 男達が消えた後スティーブンさんはハイリに問いかける。

 

「奴はこの様な蛮行をしようとも封印の書...。奴がいなければ、高貴なる存在の打倒は遠ざかることになる...」

「打算...というわけですか...」

 

 スティーブンさんもザップさんも、話は分かるが納得できないといった表情をする。

 

「高貴なる存在?」

(いず)れ分かる」

 

 ハイリはそれだけ言うと口を噤んでしまう。重めの沈黙...それを破ったのはレオ君だった...。ん?その女の子誰?

 

「見つけました!この子が使い手です!」

 

 レオ君が魔導書を持った女の子を背負って...引きずってる!レオ君!引きずってる!ドレスの裾が汚れてる!

 

「よくやった。他の2人と違って有能だな」

 

 グサッ

 

「それに比べて...意外と使えないんだな君達」

 

 グサグサッ

 

「片方は本が無いと使い物にならないみたいだし」

 

 グサグサグサッ

 

「キビシーナー」

「おおう...」

 

 流石は絶対零度...心に突き刺さるお小言だ...。

 と、それは置いといて...

 

「ハイリ...」

「間違いない。この娘が進化の魔導書の使い手だ。恐らく、強制的に魔法を行使させられていたのだろう...」

 

 酷い話だ...。ハイリの話に気が沈んでいると、女の子が反応を見せる。

 

「ん......ここは?」

 

 レオ君が女の子を床に下ろし、話しかける。

 

「覚えてないの?」

 

 女の子はレオ君の言葉に頷く。

 

「どうしましょう...?」

「レオナルドはザップと一緒に、その子を病院に連れて行ってくれ。ヨハンは魔導書をもってアジトに戻ってハイリゲン殿と一緒に解析してくれ」

「うっす」

「了解」

 

 ...レオ君の声が聞こえない。振り返ってみると...。

 

「大丈夫?痛いところとかは...」

「無いよ。...ありがとう、心配してくれて」

「いや、いや普通の事だから!ねっ!」

 

 いやー...青春かなー?

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 後日、ライブラアジトではクラウスさん以外のいつものメンバーが集まっていた。

 

「いやー、エンジェルスケイル。まさか魔導書の魔力の廃液が190通りに分解されて、異界の動物の脳に分子単位で注入して、錠剤型に固められていた物とはなー。700人もしょっ引くのは大事だったぜ......」

 

 ザップさんが感慨深そうに言う。如何やら話題の魔導書はエンジェルスケイルに使うだけでなく、旅人の魔導書(フルークガストグリモワール)の魔力補給用でもあったそうだ。進化の魔導書(エヴォルツオングリモワール)のお蔭で旅人の魔導書(フルークガストグリモワール)は霧を超えることができた。だから今は大掛かりなワープは出来ないらしい。ハイリが旅人の魔導書(フルークガストグリモワール)は既に繋ぐ力が無い、と言ったのはこの理由からか。

 

「人間息抜きってホント大事ですもんね」

 

 おや、考えている間にザップさんとレオ君の会話が終わってしまったようだ。聞くなら今かな?

 

「レオ君。レオナルド君や...」

「な、なんすかヨハンさん」

「なにやら頻繁にお見舞いに行っているそうじゃないか...」

「いや、別に...」

「おいおい、この陰毛頭...発情期か?」

「まず最初にその言葉出てくるあたりマジでデリカシーの欠片もねーな」

「そんな事はどうでもいいんだ。で?どうなの?実際?一目ぼれ?」

「いや、あの...近いっす...」

 

 下世話な話で盛り上がる。レオ君が困っているがどうでもいい。

 

「早く言えよ~」

「もうホンット何なんだコレ!?」

 

 




ここまで来てるのなら...もうわかりますね?

テスタロッサ・インヴェリテング・ヴィド・シェルファルネイ
 小学生並の聖女。多くの魔導書を制作するもほぼ全てを手放してしまった。私用の魔導書の中には家事を自動的にやってくれるという物がある。これの存在で彼女がどれほど物臭か分かるでしょう。200年生きている理由は後日語られます。モデルは超次元ゲイムネプテューヌより、ネプテューヌ。

魔導書を持った男
 薄気味悪い笑みを携えた男。旅人の魔導書の使い手である。モデルはBLAZBLUEよりハザマ。

使い手の少女
 蒼い髪に白い肌の少女。ドレス...というよりワンピースの様な物を着ていた。モデルはパンドラの塔のセレス。

旅人の魔導書
 封印の書の一冊。能力については今は内緒。モデルは黒の書

聖血弾幕(ハイリゲンブルートクーゲル)
 元ネタは黒の弾。相違点は連射速度。こちらの方が早い。

聖血壁(ハイリゲンブルートヴァント)
 元ネタは黒の轟壁。相違点はほぼ全て。魔法だけでなく物理も跳ね返す。360展開可能。

聖血幻影(ハイリゲンブルートシュトラール)
 元ネタは黒の幻影。相違点は無し。

異邦道具(フレムデヴァッフェ)
 オリジナル。数十個あるらしい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。