素晴らしきこのヘルサレムズ・ロットにて   作:無花果Ⅱ

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ゲシュタルト

「何とか間に合いましたね...」

 

 レオ君がそんな事を呟く。今オレとレオ君が居る場所は列車の中。ここ、HLでは列車やバスといった乗り物に乗る時にも「何があってもこちらは一切関知しません」といった同意書なる物が必要なのだ(列車の場合は切符だが)。

 

「えぶっ...ぜぇ...はぁ...うん.........」

 

 行き絶え絶えになりながらもレオ君に返事をする。流石に朝早い時間の列車となると座る場所が無い。取り敢えず出入り口の前に立ち、息を整える。

 

「ふぅ...」

「ヨハンさんって、体力無さすぎですよね...」

 

 レオ君が心に突き刺さるような一言を言う。

 

「あぁ...文明の利器に飲まれすぎた影響かな?」

「いや、そういうレベル超えてると思いますけど」

 

 だって動きたくなかったんだもの。仕方ないじゃないか。

 そんな風に現実逃避していると、レオ君が突然、出入り口の窓に張り付くように外を見る。

 

「すげ......」

「どうした?」

「あ、いや...なんか凄い綺麗な光を出す人がいて...」

 

 綺麗な...光?出す???.........あっ

 

「...レオ君、オレは君がどんな性癖を持っていても、友達だから...」

 

 ポンッ、とレオ君の肩に手を置く。するとレオ君は「ち、違いますよ!!」と大反論してきた。良いんだ...分かってる...。

 

「絶対わかってないですよね!?眼ですよ眼!!性癖じゃなくて眼![この眼]で見えるヤツですよ!!」

「あ、うん。そうだね分かる分かる」

「絶対分ってないなこの人!!」

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 ここはライブラアジト。今日は親睦会のパーティが行われている。そのため、酒にジュース、ツマミに肉、様々な飲食物がそろっていた。

 

「うわ、豪華だねぇ...」

「目移りしちゃいますね」

 

 レオ君の表情が若干嬉しそうに見えた。...極貧生活のだとこういうのは貴重なのだろう。

 

「タッパー持った?」

「持って無いですけど...え、持って来たんですか?」

 

 当たり前じゃないか...。そう思いながらレオ君にタッパーウェアを渡そうとすると、不意に声を掛けられた。

 

「タッパーウェア持ってくるなんて用意いいわねー」

「あ、K・Kさん。要ります?」

 

 話しかけた来たのはK・Kさん。右目に眼帯を付けた女性で火器の扱いはピカイチのナイスバディのビューティウーマン(本人談)らしい。

 

「大丈夫よん。ちゃんと持参してあるから」

「用意いいですね~」

 

 うん、レオ君が微妙な顔をしているがこの際気にしない。...そういえば、K・Kさんに相談しておきたいことがあったんだ。

 

「あの...K・Kさん。ちょっと相談なんですけど...いいですか?」

「何々?恋の相談?いいわね~そういうの!」

「大きな声で言わないでくださいよ!?」

 

 ズバリそうなんですけれども......。

 

「ヨハンさん、先に行ってますよ?」

「ああ、うん。分かった、先に行ってて。...それでですね、K・Kさん――」

 

 

 

 

 

 ヨハンさんと別れ、会場を見渡す。ライブラのメンバーはこんなにも居るのか...。いや、耳に入った会話から察するにもっと多いらしい。

 クラウスさんはスティーブンさんと話してるし...ザップさんは居ないし...ヨハンさんはK・Kさんと話している。時々「大きな声出さないでくださいよ!!」と言っているが、気にしないことにした。

 近くにあったジュースサーバーから適当なジュースをグラスに注ぎ、座る場所を探していると...。

 

「おお、レオ、どした?そんなところで突っ立って無いでコッチ来い!」

「パトリックさん...あ、はい...」

 

 ライブラのサポートメンバーの一人、パトリックさんに呼ばれる。僕を呼んだパトリックさんはそのまま、自分の座っているロングソファーの、空いている部分に座るよう促してくる。

 僕がパトリックさんの隣に座ると、ソニックが酒が入ったグラスを持ちながらソファー肘掛けにやってくる。

 

「ソレ度数高いぞ?」

 

 ソニックは「知ってる」と言いたげに頷き、グラスを煽った。

 

「いや、だからそうじゃないっすよ!K・Kさん!!」

「何言ってんのよ!これで万事OKよ!!彼女ちゃんも喜ぶでしょ!」

「だから大きな声で言うなって言ってんでしょーが!!!!」

 

 ヨハンさんとK・Kさんの大声がこっちにまで響いてくる。......彼女かぁ...。

 僕の頭の中に数日前の記憶がよみがえる。

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 エンジェルスケイル工場襲撃から5日ほど経った日。僕は病院のとある病室にいた。

 

「いらっしゃい、レオナルド。今日も来てくれたのね」

「あはは...迷惑かな?」

「全然。君とのお話は楽しいもの」

 

 そう言って彼女は笑いかけてくれる。...その笑顔は反則だ......。

 

「そ、そうかな?」

「うん。だって半年分の記憶が無いもの、世界がどんな風に動いたか知るだけでも面白いわ」

 

 彼女は、先のエンジェルスケイルを制作するための核として、無理やり魔導書を使わされていたんだ。様々な機械を体に着けられ、茫然自失、意識のないまま魔導書を使わされていた。

 

「それに、やっと起きられたのにどこにも行けないし...」

「あと一週間は様子見って言ってたから...それまでの辛抱だよ」

 

 彼女に親兄弟は居ない。そうスティーブンさんから聞いたのは彼女を救出して直ぐだった。死んでしまったのか、失踪しているだけなのか、それは分からない。けど、彼女はなんとなく察しているようだ。

 

「一週間後が楽しみね!色々案内してくれるんでしょう?」

「全部とは行かないけどね。僕が知らない場所もあるし」

「逆に、この街を全部案内できる人を知りたいわね」

 

 それは僕も知りたい。恐らく、HLができた頃から居る異界人も人類も、この街の全貌は知らないだろう。...たぶん。

 

「あ、そうだ。例えばどんな所に行きたい?」

「どんな所......。異界の料理が食べられる所...かしら?」

「何で疑問形...?てか異界の料理って...ヤバイの多いよ?」

 

 客に料理を食わせるどころか、客が料理になること何てざらにある。

 

「だって気になるじゃない?別世界の料理なんて」

「僕も最初はそう思った。けど実際に見て理想を粉々に砕かれた......」

 

 思わず頭を抱えて蹲ってしまう。油断すると食われる料理に、油断してると椅子に食われる店に、油断していると......あれ?食われてばっかじゃん...。

 

「大丈夫?」

「あ、うん、ありがとう、大丈夫だよ」

 

 頭を上げ、彼女に笑って見せる。

 

「いきなり苦しそうに唸るんだもの、心配したわ」

 

 彼女の手が僕の頬に触れる。冷たそうな程白い肌なのに、その手はミシェーラと同じくらいに暖かかった。

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

「.....................」

 

 えー、こちら先ほどまでK・Kさん(人生の先輩)からアドヴァイスを貰っていたヨハンです。

 ただいまレオ君を監視しているのですが......。

 

「パトリックさん......これ...」

「俺に聞くなよ。行き成りこんなんになっちまったんだ」

 

 あー、レオ君。今、開眼しながら天を仰いでおります。異常です。あ、間違えた。以上です。

 

「...はっ!」

「あ、起きた。どうした?茫然自失で天を仰いでたけど」

「いや、えっと...ああ!あれです!さっきの地下鉄の事を思い出して!」

「光がどうのこうのっていう?今更だけど、どういうのだったの?声出すほど物?」

「えーと、物凄い真っ赤なオーラが羽根みたいに広がって」

 

 レオ君がその言葉を放った瞬間、ライブラメンバーが、ハイリが、可笑しな重圧を放った。

 

「その綺麗さに、ちょっと声...出...て...え?」

「なにこの...なに!?」

 

 オレの絶叫を皮切りにメンバー達が飲食物を即座に片付け、酔い覚ましを飲み、スティーブンさんが分厚いバインダー状の本を一冊持ってきた。

 クラウスさんがレオ君に対面する形でソファに座り、鋭くとがった眼でレオ君を見つめた。

 

「レオナルドくん。今...なんと?赤く輝く羽根のような光と言ったかね?」

「え...あ...はい」

 

 肯定の言葉のすぐ後、スティーブンさんが本をばらばらと捲り、真紅のしおりを取り出す。

 

「正確には、こんな色?」

「あ、そうです。間違いない、そんな感じ」

 

 レオ君の言葉にメンバーたちがざわつき始める。「まじかよ」といった声が聞こえてくる。一体何なんだ?

 困惑するオレとレオ君。するとソファの後ろに立っていたザップさんが声を出す。

 

「教えてやろうしょうもな「緋き羽根纏いし高貴なる存在」ぼふぁっ!?」

 

 突然現れたハイリがザップさんの顔を押しのけながら意味深な言葉を言った。

 

「それは...?」

 

 オレの質問にハイリではなく、スティーブンさんが答える。

 

「有名な古文書の言葉さ。研究の結果、実在するのは間違いのに、ありとあらゆる光学機器に[観測]されないままの[現象]だったんだ」

「小僧、お主の[眼]は其れさえも映し出した。判別方法が少なく、姿形は人間と変わらぬ高位の不死の存在を。小僧、お主が見たものは吸血鬼だ」

 

 吸血鬼。その言葉を聞いたとき、いつもの様に頭の奥の方がズキリと痛んだ。

 

「何と...吸血鬼とはまた面妖な......」

 

 吸血鬼。誰もがよく知る怪物。人の血を吸い、変身能力を持ち、そして人知を超えた力を持つ高貴な怪物。この世(人界)に存在する多くの吸血鬼伝説は向こう側から滲み出してきたものかもしれない。

 にしても...ライブラはそういうのとも渡り合って来てるということか...。

 

「ふうんやっぱり長老級(エルダー)の住み家かあ。外のゴミクズどもとはわけが違うわよね」

「そう腐るな狙撃主。小僧のお蔭でこれより入手できる情報の質も量も跳ね上がる。それに今回は大きな被害が出る前に知れたのが大きい。対策なら幾らでもできる」

「そうねえ、後手後手に回ってアタフタするよりましかあ」

 

 吸血鬼って伝承聞く限りでもヤバすぎる存在だしね。事前に察知できただけでも儲けものかな。...にしても吸血鬼ねえ...

 

「エイブラムスさんはどうしてるかなあ.........久しぶりに連絡してみ...るか......あ、あの~...如何したんですか?」

 

 スティーブンさんとK・Kさんと...その他もろもろがオレをジッと見つめている。

 

「知ってるのかい?」

「え、ええ、まあ...知合いです、けれど?」

「おい、丸眼鏡。絶対呼ぶんじゃねえぞ、絶対呼ぶんじゃあねえぞ!」

 

 ザップさんが物凄い顔芸をしながら迫ってくる。えっちょ、怖い!

 

「...呼ばなくてもいらっしゃると思うよ。この状況にあの人抜きの方が考えられん」

 

 その言葉にクラウスさんを除くライブラメンバー全員が、言った本人でさえも沈痛な面持ちで俯いている。

 

「い、いったいどんな人か来るっていうんですか!?」

 

 レオ君の絶叫が静まりかえったパーティ会場に空しく響き渡ったのだった。

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 次の日、オレはパトリックさんから買った一つの小包を抱えながら、ライブラアジトへと急いでいた。

 

「いやはや、あんなに安く売ってくれるなんてね。個人商売だから出来ることだよな」

 

 それでも貯金の4分の1が吹っ飛んだんだけど...。しかし、ハイリからこれを進めてくるんなんてな。てっきり自分(魔導書)を極めてから、別の物を使えって言われるかと思ってたのに。

 さてと、そろそろ到着するし、その前に

 

「ペプスでも買っていこ――」

 

 ビュン!ビュビュン!!という音と共に顔と喉を何かが掠めて行った。

 

「............へ?」

 

 少し立ち尽くすものの、懐かしさを感じ小走りしながら、何かが飛んできた方向へと行く。

 そこには、横転して車体を燃え上がらせているトラックと、ぐしゃぐしゃになり緑の体液をまき散らした異界生物。そして頭部から血を流すザップさんと倒れているレオ君。あと...ひげを生やし、扱けた顔の男性。

 

「エイブラムスさん!!」

 

 名前を呼びながら駆け寄る。懐かしいなあ!何時以来だろう?

 

「おお!?ヨハァァン!この街に居たのか!少し痩せたか?」

「へへ...ちょっと痩せました。けど!ちゃんと食べてます!量が少ないだけで...」

 

 エイブラムスさんとの再会を喜んでいる中、ザップさんがこっちを見ながら呟いた。

 

「なんだこの親戚のおっさんとの会話...」

 

 

 

 

 

 ザップさんの手当てをし、レオ君を背負いながらアジトに到着する。

 エイブラムスさんはクラウスさんとの再会を喜んだり、レオ君の眼を知ると、を清々しいくらいの現金な発言をしたりした。

 そんな中、ハイリが俺に声を掛ける。

 

「ヨハン、少し話がある。廊下で話そう」

「分かった...」

 

 他の皆に気取られないようにゆっくりと廊下に出る。

 

「で、話ってなんだ?」

「来るべき...いや、すぐ其処まで迫っている血界の眷属との戦いについてだ」

「来るべき戦い...と言ってもオレ達は足止めとかだろ?こんな個人会議するものか?」

「甘く見すぎだな。あれらとの戦いは、その様な生易しいものではない。クラウスが、小僧が使えなくなる可能性もある」

「そう言っても......」

「難しく考えるな。我は何だ?答えてみよ」

「ハイリ」

「そうではない」

「じゃあ...封印の書?」

「そうだ。何も無しに封印の書と呼ばれているわけではない。だから万が一の為に教えておこう。我の力とリスクを...」

「力と...リスク...?」

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 ハイリとの話の後、オレを待っていたのは、レオ君の眼の暴走という特殊イベントだった。

 エイブラムスさんはこの手を逃す手は無い。とレオ君、ザップさん、クラウスさんにオレとハイリを連れて、異界に潜む血界の眷属を見つけ出そうとしていた。

 列車の中、エイブラムスさん達と少し離れた座席に座っていたオレは、ハイリの言葉について考えていた。

 

「...............」

 

 ハイリの力は良い、条件も別に大丈夫だ。でも...。

 

「リスクがなあ...」

 

 はあ、とため息を吐いて窓の外を見る。一面霧だらけだが、少し遠くに一本の大樹があった。線路はそこまで続いている。

 もうすぐ到着するであろうと思い、席を立ち扉の前に立つ。そして車内アナウンスが聞こえて来た。

 

『ユグドラシアド中央駅、ユグドラシアド中央駅~』

 

 しばらく待つと、列車が止まりトビラが開く。ここから列車に乗る者は皆無であり、降りる者もオレ達を除いて皆無であった。

 人っ子一人いない駅に降りる。時折強めな風が吹き、髪を乱して行く。

 

「えっと...下に行くんでしたっけ?」

「ああ、すぐ其処から行ける。...落ちるなよ?」

 

 エイブラムスさんは神妙な面持ちでオレに言った。...流石に階段を降りるくらい平気ですよ。

 

 

 

 

 前言撤回、下手しなくても落ちる。ただ板をくっ付けた様な階段、気休め程度のフェンス(ロープ)。恐らくここまでスリルを味わえる階段は無いだろうと思いながら、階段をゆっくりと下ってゆく。時々豪運の効果によって鉄骨が降ってきたりしたが、其処は流石のクラウスさん。軽々と脅威を跳ね除けて行った。

 しばらく階段を下り続けると、一番下...この駅の大樹の根の部分についた。やはり人が来るような場所では無いのか、広場のようなものはあるが誰居一人としていなかっ.........いや、一人だけいる。

 

「いやー、ここまで来ると絶景だねー!自分の家でみるとじゃ迫力が違うなー」

 

 やけにテンションが高い低身長の少女がそこにいた。というかアレって...。

 

「テッサさん?なんでこんなところに...」

「あの方はもしや!」

 

 エイブラムスさん、はテッサさんを見るなり全速力で駆け寄ってゆく。傍から見るとただの犯行現場だ、コレ。

 

「ん?あれ?ブラっちじゃん!どうしたの?」

「どうしたのは此方の台詞です!何故貴方がココにいるのです!?」

「ええ~、もう私戦えないしー。いいじゃ~ん!」

 

 テッサさんの言葉に頭を抱えるエイブラムスさん。

 

「テッサさんと知合いですか?」

「ヨハン!テスタロッサ殿と知り合いなら早く言ってくれ!」

「んな無茶な...」

 

 ザップさんが会話に割って入ってエイブラムスさんに質問する。

 

「エイブラムスさん、その餓鬼はなんすか?」

「ザップ!それ以上失礼なことを言うな!この方は人類最強の牙刈り!聖女にしてハンターなんだぞ!?」

「はぁ!?コイツが!?」

 

 オレの時とほぼ同じ反応をするザップさん。凄い人ってわかったのに口調直さないんですね..。.

 

「そんな驚くことないじゃんかー!むー......あっ、ブラっち達は何か用事があってきたんじゃないの?私は暇つぶしだけど」

「ああ、そうでした!......この際力を貸してもらうか............あの、行き成りで不躾なのですが...」

「私にできることなら力を貸すよー!」

 

 テッサさんは無い胸を張って得意げにエイブラムスさんに言う。その返答にエイブラムスさんは喜び、「では早速」とザップさんにビデオカメラを持たせ、自分とレオ君を撮影するよう言った。

 

「直ぐに始めるぞ。合図をしたらカメラを回せ」

 

 レオ君とエイブラムスさんがフェンスの近くに立ち、エイブラムスさんはザップさんに合図をする。

 カメラが回ると同時にエイブラムスさんがこれから行うことの説明をし始める。要約すると、今レオ君の眼が暴走状態で、際限なく見えるようになったから、異界を覗いて吸血鬼が何人いるか確認しよう。ってことらしい。

 レオ君がゴーグルを外し永遠の虚を見る。皆が固唾を飲んで見守る中、突如レオ君が短い悲鳴を上げてその場に膝を附いた。

 

「レオ君!?」

「レオ!?」

 

 エイブラムスさんとオレがレオ君に駆け寄る。レオ君は右目から大量に出血しており、大量の汗を掻いていた。

 

「どいて、二人とも」

 

 テッサさんがレオ君に近寄り、右目を開けさせる。

 

「......傷は大丈夫。今は痛いだろうけど、明日には元通りになるよ。......それで、何を見たの?落ち着いて聞かせて?」

 

 テッサさんの言葉にレオ君は幾度か深呼吸した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「下は、下は真っ赤に染まってます...!13どころじゃない、向こう側は奴らでいっぱいです!」

 

 レオ君の絶望さえ感じさせる言葉の直後、クラウスさんの携帯電話が音を鳴らす。クラウスさんはすぐさま電話に出て相手の言葉に耳を傾けた。

 電話から声が漏れる。それはギルベルトさんの声。落ち着いているが、緊張が伝わる声色だった。

 

『坊ちゃま緊急事態でございます。先程連邦捜査局より出動要請がありました。ストムクリードアベニュー駅にて交戦中、スターフェイズ氏とミスK・Kが現場に向かわれております。相手は恐らくエルダークラスのブラッドブリード。坊ちゃまでなければ制圧不可能な相手とされます。大至急お戻りください』

 

 クラウスさんが了解の言葉を述べ、通話を切った後、テッサさんとオレ、ハイリを除く全員が急いでプラットフォームまで戻る。

 

「何を突っ立っておる!早く行かんか!」

「あ、ああ!」

 

 ハイリの言葉で我に返り、皆に追いつくため駆け出そした。

 

「ヨハン」

 

 が、突然か投げかけられた声に足を止める。

 

「もう、逃げだすことは出来ないよ。君は逃げすぎた」

「貴方が何を知っているのかは分かりませんけど...オレは今まで逃げたことなんてありません」

 

 今度こそ駆け出す。急がないと、何が起こるかわからない!

 

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 列車に乗って直ぐにザップさんが前方へ駆け出す。何する気なのあの人...。

 すると段々と速度を上げていた筈の列車の速度が急激に上昇する。

 

「何やってだアイツ!?」

「だがこれでより早く到着できる。今の内に準備をしておけ」

 

 列車が高速で動き出してしばらく。クラウスさんが手にしている携帯端末から銃撃、叫び声、衝突音と様々な音が混じりあって聞こえてくる。向こうで2人が戦っているのだろう。

 だが、直ぐにその音も聞こえなくなる。代わりに聞こえてくるのは2人の声。それも叫び声だ。

 その叫び声を聞いた時、クラウスさんは携帯端末の液晶にヒビを入れる。

 

「レオナルド君。君の眼なら捉えられる筈だ。ブラッドブリードの姿を、その弱点を...!」

 

 レオ君が義眼を発動する。そして、何かを紙に書いた

 

「これが、これが見えました。ルーズリーフを見たときのと同じ。多分、奴らの名前です...!」

 

 クラウスさんがレオ君の紙を受け取ろうとした時、ハイリが割って入る。

 

「クラウス、[もう一体は]我等に任せよ」

「しかし...」

 

 クラウスさんは渋る。分かっているのだろうか?それとも単純に実力不足を危惧しての物だろうか?......だが

 

「クラウスさん、オレやります、やって見せます。だからお願いします。オレ達にも戦わせてください」

 

 逃げない、逃げることは出来ない。だから決意を言葉にする。

 

「ヨハン君、君を信じよう」

 

 クラウスさんは紙を渡してくれる。

 

「それは名だ。血界の眷属(ブラッドブリード)の真の名前だ」

 

 そこに書かれていた文字を、読む事ができた。読んでしまうことができた。もう、後戻りは出来ない。

 ホルダーから手に入れた銃を取り出す。

 

 

 手にした銃を固く握りしめ、名を記憶する。

 

 

「もうすぐだ、外すな、ヨハンよ」

 

 

 銃に弾を込める。

 

 

「十発で終わらせる」

 

 

 最後に弾に言葉を込めた。

 

 

 

 

 

 

 駅のプラットフォーム。そこには2人のブラッドブリードと一人の転化した人間。そしてライブラの2人がいた。

 

「対俺達用の人間兵器と聞いてたんだが...こりゃ拍子抜けだな」

「そうね、がっかりだわ。血を糧にする私達に血で対抗する...着眼点はいいけど...」

「それじゃ俺達は殺せねーよ?いや、殺せる奴なんていないか」

「.........それでいいのさ。千年かかろうが、千五百年かかろうが、人類は必ず君たちに追いつく。不死者を死なせるという矛盾を制する日が、きっと来る」

 

 その目は死んでいない。それどころか、ただの一変すらもその輝きを濁らせてはいなかった。

 

「これは大いなる時間稼ぎだ。だがその時間稼ぎの中に、今、長老級(エルダーズ)にすら届く牙があるとしたら」

 

 線路の先に光が見える。レールを走る車輪の音がする

 

「どうする?」

 

 列車が駅を通る。止まることなく、通り過ぎる。

 ブラッドブリードの2人はその列車に気を取られる。

 

「ブレングリード流血闘術、押して参る」

 

 転化した男がすぐさま反応し、腕を刃に変え、脳天を貫こうとする。

 だがそれよりも早く放たれた十字架の盾が男を押し潰し、バラバラにした。

 

「たった一人で来るとは馬鹿か?」

 

 男の吸血鬼が素早く動き、首を刈ろうとする。

 

「「一人じゃないぞ」」

 

 重なり合った声と共に放たれたのは銃弾。銀の弾でも血の弾でもない銃弾。だが、予想外の攻撃は男の注意をそらすのに十分だった。

 

「ブラド・ヘクティミヒ・ラウ・オライオン、お前を」

「「別け断つ!」」

 

 

 

 

 

 

 ブラドは驚愕の表情でオレを見る。

 

「何故その名を!?」

 

 その問いには無言を返す。...集中しろ。

 銃口をブラドに向け、言霊を紡ぎだす。

 

「「我は歌を口ずさむ」」

 

 銃弾を放つ。ブラドに命中すると同時に黒い字を創り行動を封じる。

 

「「汝、瞼を静かに閉じ その肉体は指先から崩れる 銃口がその手を奪う 言葉にて切り裂く 言の葉にて毒を喉に流し込み 銃声がその目を焼き尽くす 銃弾が両足をもぎ取る 弾丸が首と胴を切り離し」」

 

 二発目、三発目と打ち出される銃弾はブラドを的確にとらえ、全身を黒い(あざ)で覆った。

 そして、トドメの弾丸に最後の言葉を叩き込む。

 

「「我等が心臓を抜き取る!!」」

 

 最後の銃弾がブラドの心臓に届く。それと同時にブラドは手足の末端が黒い文字となって崩れ行く。

 ハイリが白紙の頁を開き、オレはブラドに向かって手をかざす。

 

「「永劫崩壊封縛印(エーヴィヒカイトゲシュタルト)!!」」

 

 ブラドだった文字の半分はハイリの白紙に刻まれ、もう半分はオレの体に吸収された。

 

「.........やったな」

「ああ...やったよ.........ゴフッ」

 

 そこでオレの意識は途絶えた。頭の中に響く、[一四番目]という言葉を聞きながら。

 

 

 

 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

「うん?」

 

 眼を開ける。初めに移ったのは白い天井。上体を起こし、周りを見る。

 

「病院の...個室か...」

 

 ふう、と安堵の息を吐きまた体を寝かす。ん?枕の横になにか...。

 

「やっと起きたか」

 

 枕の横にいたのはハイリだった。口調は変わらないが声色に安堵の色が伺えた。

 

「どれくらい寝てた?」

「三日だ。それはもう心地良さそうに寝ていたぞ」

「そっか」

 

 自分の左腕を見る。封印の時の感覚を思い出し、手を握って、開く。

 

「安心せよ、しっかりと封印した」

「それは良かった......。あのさ、寝ているときに変わったことあったか?」

 

 ハイリは「うむ」と肯定し携帯電話に視線を向ける。

 

「引っ切り無しに鳴っていたぞ」

「ふーん...」

 

 携帯電話を取り、中身を確認す...る......うわぁ...

 

「ベアトリーチェからのメールが100を超えている...初めて見たこんな数...」

 

 恐る恐る一番新しいメールを開く。そこに書かれていたのは

 

「.........ワッツ?」

 

 

           From:ベアトリーチェ

           To:ヨハン

     

           三日以内にそっちに行きます

           覚悟しておいてね?

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。
いかができたでしょうかBB戦。ご都合主義が光りましたね。
というわけで(どういうわけだ)設定に行きましょう。

永劫崩壊封縛印(エーヴィヒカイトゲシュタルト)
 元ネタなし。黒い字は言わずもがな黒文病です。
 肉体をヨハンに封印し魂を魔導書に封印するというセコムも安心の2段構え。私用した武器が銃であるのはちゃんと理由があります。
 クラウスさんのように接近する必要はないが、詠唱が長い、十発で封印完了、乱用できないという三重苦。やはりクラウスさんの封印は偉大。
 詠唱はニーアレプリカントにおけるワードを元にしました。きっと「銃が、歌を口ずさむ」とかになっているはず。
 当初は封印できるかできないか迷いましたが、封印の書ということでできるようにしました。


 中折れ式のリボルバー...ぶっちゃけヴァッシュ・ザ・スタンピードが普段使っていた拳銃がモデルです。

ブラド・ヘクティミヒ・ラウ・オライオン
 長老級のブラッドブリード。名前の元ネタはヴラド3世。分かりやすいね
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