コードギアス -覇道のセリエル-   作:夏期の種

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TURN13「平和の過ごし方」

 私の名はジュレミア・ゴットバルト。

 ブリタニア建国以前より連綿と続く由緒正しきゴットバルト辺境伯家の当主にして、エリート揃いの純潔派内でも一目置かれる優秀な軍人である。

 今は亡きクロヴィス殿下の信任も厚く、一時的な暫定処置にせよ、総督を失ったエリア11の統治をも任せられる器の持ち主。それが私と言う人間だった。

 しかし、それも遠い昔の話。

 何故こうなってしまったのかは分からないが、枢木を全力で見逃した罪と身に覚えの無いオレンジ疑惑の合わせ技により、これまで地道に積み上げてきた名声を全て失ってしまったのだから。

 

「私は……ここで朽ち果てるのか」

 

 そんな罪人が落ちた先は政庁の地下。私を飼い殺す為だけに新設された資料保管室と言う部署に隔離され ”何もするな” と言う命令に従い、無為な日々を粛々と送っている。

 これでも過去の功績を踏まえ、軍法会議を免除された温情措置なことは分かる。分かるが、あまりにも辛い。

 せめて汚名返上の機会を与えられるのなら希望も持てるのだろうが、一大決戦のナリタにすら出撃を許されなかった時点で、上にその気が無いことも示されてしまった。

 

「……暗に示された退役の道を視野に入れるべきか?」

 

 私の人生はいつもこうだ。

 警備を任されながら、敬愛するマリアンヌ様は守れなかった。

 代理執政官の重責など、気付いた時には自ら台無しにしてしまった。

 その他諸々を含め、人生の節目で不測の事態に必ず巻き込まれる我が身が恨めしい。

 

「その前に一花咲かせる気はないかな?」

 

 無限に繰り返してきた後悔に浸る中、久しく聞いていない他人の声が響く。

 どんな物好きが来たのかと振り返ると、そこに居たのは天上人だった。

 

「これはセリエル殿下、謀反者に如何なるご用件でありましょうか」

「僕が主導する作戦には君が必要だ。力を貸して欲しい」

「……私はオレンジで御座いますよ?」

「逆だよ、オレンジだからこそ適任なのさ」

「?」

「詳細は引き受けてくれないと話せない。現段階で言えるとすれば、作戦の成功は過去の失態を補って余りある栄光を得られるということだけ」

「身に余る光栄です。この誰からも見捨てられた死人をお求めでしたら、喜んで殿下に全てを差し出しましょう。どうか、擦り切れるまで使い潰して下さいませ」

 

 即断した私を見た殿下は、さすがに驚きを隠せないご様子。

 

「……即決でいいのかい? 失敗は今度こそリカバリー不可能な破滅を招くんだよ?」

「このまま徐々に朽ち果てるのを待つくらいなら、細かろうと天国に繋がる蜘蛛の糸に縋りたく思います。それに私の夢は、昔から皇族に奉公することでした。悩む余地は御座いません」

「ふむ、それでこそ忠義随一と名高いジュエミア卿だ」

「光栄であります」

「僕は過去の経歴に傷一つ無い君が、何故あんな真似をしたのか不思議でならない。調書は読んだけど、あえてもう一度だけ問わせて欲しい。あの事件の動機は?」

 

 殿下は事件の現場に居合わせていない。

 これは当然問われる質問であると、最初から覚悟はしていた。

 

「……不思議なことに、私には事件当時の記憶が抜け落ちているのです。我を取り戻したのは全てが終わった後。サザーランドから引きずり出され、投獄された後でした」

「代理執政官の重責から来る、心神喪失状態では無いと?」

「結果を見ればそうかもしれませんが、自分では正常だったと思っております。そもそも皇帝陛下こそ神。ブリタニア至上主義を掲げるジュレミア・ゴットバルトが、仮に弱みを握られようとイレブンのテロに屈する謂れが御座いませぬ」

「だろうね。純潔派の長がゼロに加担するくらいなら、催眠術か何かで操られたオカルト路線の方が余程信憑性がある」

「し、信じて頂けると!?」

「僕の見立てだと、ジュレミア卿はシロ。そうでなければ、機密性の高い任務に招聘なんて出来ないよ」

「で、殿下ぁぁぁぁあぁっ!」

 

 殿下の懐の広さに、滂沱の涙が止まらなかった。

 全幅の信頼を置いていた副官のヴィレッタにすら見切られ、かつての仲間からも見捨てられた私を、この御方は潔白を信じた上で引き上げると仰られる。

 このご恩に報いる為なら、例え歴史に名を刻む悪行を命じられようと喜んで成そう。

 そう覚悟するだけの救いを得た私は、晴れ晴れとした気分で膝を着く。

 

「同意は得られた。なればこの瞬間より、僕がジュレミア卿の主となろう」

「イエス、ユア・マジェスティ!」

 

 捨てる神が居れば、拾う神も居る。

 袋小路に迷い込んだ私は、こうして再び太陽の下に舞い戻ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 第十三話「平和の過ごし方」

 

 

 

 

 

 ルルーシュは、チェス盤の自軍に兵士だけが並ぶ光景を見て頭を抱えていた。

 対面は全ての駒が揃った完全武装の陣。しかも白と真珠の騎士に至っては、こちらの兵士全てをぶつけても平然と返り討ちにしかねない強さの双璧。他の駒も概ね全てが黒を質で上回ると来れば、そりゃ稀代の打ち手でもゲームを投げたくなってくる。

 

「せめて紅蓮が使えれば……」

 

 ナリタで失われた女王は、騎士に対抗可能な唯一の駒だった。

 自陣にぽっかり空いた隙間は兵士では埋められず、かと言って並の腕しか持たない黒の王にも代わりは勤まらない。

 やはり急務は手駒の充実だ。一刻も早く騎士と戦車に相当する藤堂及び四聖剣を黒の騎士団に加入させなければ、ワンサイドゲームで全滅の未来が現実になってしまう。

 

「浮かない顔だな。また扇辺りに愚痴でも言われたか?」

「……それもある」

 

 相変わらずピザをコーラで流し込みながら現れた共犯者に辟易しつつ、ルルーシュは幸せが逃げるのを実感しながらため息を吐いた。

 黒の騎士団の前身を作ったのは、カレンの兄ことナオトだ。

 既に故人ではあるが未だに扇達の拠り所であり、結果を出し続けるゼロと比較してさえ上に置く人間も少なくない面倒な偶像である。

 別にルルーシュとしては信教を規制するつもりも無く、仕事さえ果たすなら誰が何を言おうと知ったことではない。むしろ、好きにすればいいとさえ思っている。

 問題なのは、ナリタで捕縛されたカレンがナオトの妹だと言うことだった。

 

「あの馬鹿ども、紅蓮が機密扱いで鹵獲されたと言うのに、生死も不明なカレンを助け出せとオウムの様に繰り返すばかり! それほど騒ぐのであれば、自分で収容先を見つけて来い! 末端どころか上級将校にすら秘匿されている情報を、俺が知り得るわけないだろ!」

「お前も大変だな」

「俺とて白兜や羽根付きと唯一互角に渡り合えるカレンの重要性は理解している。方々に手を回し、ギアスを使った工作も進めたさ! それでも情報を得られない女の行方を、俺に丸投げするのは大きな間違いだ!」

「……ピザでも食べるか? チーズに含まれるカルシウムはストレスに効くぞ?」

「いらん!」

 

 正直、黒の騎士団の中核に扇グループを据えたことは大きな過ちだった。

 ことなかれ主義で、常に蝙蝠の扇。

 口だけの役立たずを体現する玉城。

 影が薄く、何をやらせても平凡に一歩劣る吉田、杉山、南の空気トリオ。

 オペレーターとして優秀な井上と忠犬カレン以外、この有様である。

 幹部がこれでは、ルルーシュの頭痛の種はすくすくと育つばかり。

 上層部を刷新する為にも、藤堂一行の確保は最優先事項と言えよう。

 

「まぁ、この件に関しては犠牲の無い戦争なぞ有り得ないと一蹴済みだ。目下の問題は、海外へ逃亡を図る老害の始末。当初のプランでは連中を囮にコーネリアへ奇襲を仕掛ける筈だったが―――」

「指揮系統が違う羽根付きはともかく、確実に出てくる白兜を抑えられる人員が居ない」

「そうだ、下手をすれば奴一機に蹂躙されかねん」

「エース不足は、貧しい台所事情の表れだな」

 

 C.C.の他人事を聞いて、ルルーシュの脳裏に浮かんだのはライバルの顔だった。

 仮に自分とセリエルの立場が入れ替わった場合、向こうは絶対に裏切らない最強クラスの騎士兄妹が無条件で付いてくる。

 KMFが主力の現代において、質は量を上回る重要なファクターだ。

 一人で趨勢を決定することも当たり前なラウンズに限らず、優れたエースの力は戦場を支配する力を秘めているもの。

 旧態依然とした火力戦の時代ならともかく、騎士の時代に逆戻りした現在において卓越した個を持たない指揮官は選択の幅が狭い。これは疑いようの無い事実である。

 対してこちらはどうか。

 腹を割って話せるのは、非戦闘員の魔女だけ。

 他は状況次第で裏切り上等な風見鶏ばかり。

 嫌悪する男の言葉を借りたくはないが、やはり世の中は不平等の塊だ。

 

「しかし、それでも作戦は決行する。しなければならん」

「そりゃそうだ。ここで旧日本軍の頭たる片瀬を仕留めておかないと、忠義に厚い藤堂がお前の軍門に降るはずも無い。まして主の身柄がブリタニアに拘束されたとなれば、一命を賭してでも奪還するべく動いてしまう。そうなれば確実に死ぬからな」

「……日本人とは、本当に面倒くさい人種だよ」

 

 基本的にブリタニアのドライな価値観を持つルルーシュには、あえて負け戦に挑んで散ることを好しとする思考パターンが理解出来ない。

 兵士は駒。

 兵器は消耗品。

 人あっての組織ではなく、組織あっての人なのだ。

 無能を一人助ける為に、優秀な人材を失うなど愚の骨頂。

 感情論で収支の計算も出来ない人種は、戦場に来るなとさえ思う。

 

「が、幾ら嘆こうと与えられた手札で戦うしかあるまい。無いものねだりをせず、現実に即したプランを練り直すとするさ」

「コーネリアの首を先送りにするなとは言わないが、時の流れはブリタニアに利することを忘れるな。お前が自分で言っていた通り、地盤を固められた後では遅いぞ?」

「分かっている」

 

 清廉潔白を好み内部の腐敗と戦うコーネリアの働きにより、軍需品、情報の横流しを始めとする不正に手を染めるような人間は次々と断罪が進んでいる。

 お陰でレジスタンスから甘い汁を吸う公人の数は激減し、間接的にせよ反ブリタニアを掲げる勢力の力は徐々に削がれ続けて居ることは確かだ。

 所詮パルチザンやゲリラは、政情の不安定な世界でしか生きられないもの。

 平和で固められた地盤を築かれる前に諸悪の根源を排除しなくては、支援者はおろか帰る場所さえ失ってしまうのである。

 

「時にラクシャータが調整している、紅蓮壱式の進捗状況は?」

「私に頼るなと何度言えば分かる」

「この国の故事曰く ”働かざるもの食うべからず ”。共犯者なら俺と同程度には働け。地味に財布を圧迫するピザハットを今後も食べ続けたいのであれば、ここは譲れん」

「……秘書以上の仕事は絶対にしないぞ?」

「十分だ」

「ならば報告してやろう。博士曰く、私がこの部屋に来る少し前の時点で80%の仕上がり。残り20%はパイロットに合わせた調整らしく、乗りこなせる適格者が居ない現時点ではほぼ完成していると言っていた」

「分かった。引き続き各部署の進捗管理し、何かあれば俺に報告しろ」

「人使いの荒い男め」

 

 あの手この手を使い口説き落としたのが医療サイバネティクスの権威、ラクシャータ・チャウラー博士。KMF分野においても遺憾なく才能を発揮する彼女は、ハイエンド機の紅蓮を始めとして、ロールアウト間近な純日本製KMFの設計を一手に引き受ける才女である。

 ちなみに彼女が黒の騎士団のオファーを受けた実際の理由は、猛威を振るうランスロットの無双っぷりを目にしてしまったことが最大の要因だった。

 曰くランスロットの設計者はラクシャータが学生時代に鎬を削ったライバルらしく、作品の出来で劣ることは屈辱以外の何者でもない。

 ならばと母国インドで産み出した紅蓮を引っさげて、代理戦争の舞台であるエリア11に殴りこんで来る気性は女傑のそれだ。

 ちなみに紅蓮がラモラックとランスロットのタッグに敗北した件については無理ゲーと受け入れ済みで、特にゼロに対する遺恨は残っていないとのこと。

 へそを曲げられては一大事と嫌な汗を流したルルーシュにとって、これだけが嬉しい誤算だったことは言うまでも無いだろう。

 

「持て余したじゃじゃ馬を、どう活用するべきか……」

 

 紅蓮壱式は、名が示す通り紅蓮弐式の試作機である。

 本来はテスト用の予備機として持ち込まれた機体だったが、弐式を失ったことで予定変更。

 急遽実戦に投入するべく、弐式の予備パーツを組み込んで改良中なのだった。

 しかし、試作と侮る無かれ。基礎スペックについては弐式とほぼ同等。違いは建造時に未完成だった輻射波動を備えていない点だけだ。

 ルルーシュとしては熟成の進んでいない試作兵器をオミットした分、機体の信頼性が高い壱式の方が好ましいのだが、性能厨なラクシャータの考えは違う。

 独自技術である輻射波動を再び載せるべく、インドから部品を取り寄せて代替椀部を大絶賛製造中。いずれは弐式を超えた三式として再構築する気満々だ。

 

「デチューンは……確実にラクシャータがブチ切れる」

 

 目的がランスロットの首である以上、性能を落とすことは許されない。

 

「遠距離仕様も……無いな」

 

 固定砲台としての運用は、高機動近接型の持ち味を殺す悪手だろう。

 

「つまりカレンの乗れない紅蓮は粗大ゴミ。しかし、その紅蓮が無ければ攻勢もままならない……か。悪いジョークだよ」

 

 果たして卵が先か、鶏が先か。

 悩みに悩んだ末、誰もが持て余す紅蓮の投入を見送ることをルルーシュは決意する。

 今は矛盾の解消よりも、目の前の作戦に集中することこそ肝要。

 ガラスのロープを目隠しで渡るかの如き無理難題を達成すべく、さっさとC.C.が姿を消した室内で黒の王は資料に没頭するのだった。

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